世の中にはわたしのような貧乏暇なしの者には想像もつかないものがたくさんある。翻訳していていちばん驚かされることのひとつに、富豪たちの生活の華やかさがある。
現在、翻訳中の本に、こんな表現があった。
ご覧いただきたい。
The Freeport was established in 1888 as an old-fashioned bonded warehouse, like others around the world, where traders could store goods, untaxed, before moving them to their destinations, where they would be taxed. In the globalised economy of the early twenty-first century this giant, ultra-secure lock-up of 150,000 square metres of space, and mile after mile of anonymous corridors lined with units, became a highly attractive location for the rich to store their art collections tax free. There was no obligation to tell anyone what exactly they had. If they transferred ownership of the works to an off shore trust, they could then buy and sell them through the Freeport without the knowledge of any tax authorities. If an artwork went to another collector or dealer with a locker at the Freeport, it only needed to be trolleyed down the corridor. Another benefit came from the swiftly expanding market for loans – collectors could use the art they kept in the Freeport as collateral to borrow money almost anywhere in the world.*
ジュネーヴ・フリーポートは一九八八年、旧式の保税倉庫として設立された。世界中に見られるほかの倉庫と同じで、物品を持ち込む貿易業者は目的地に運んで課税されるまでここに非課税で貯蔵できる仕組みになっている。二十一世紀のグローバル化経済において、収納設備を備えた名前のない通路が見渡す限り広がる完全密閉されたこの十五万平キロメートルの巨大倉庫は、富豪たちが美術品を非課税で保管する最適の場所だった。自分が実際何をもっているか誰にも報告する必要はないのだ。美術品数点所有権を在外投資信託(注)に移したければ、税務当局にまるで通じていなくても、フリーポートを通じて自由に売買できる。もし美術品一点がほかの収集家や売人に移れば、フリーポート内で移動させればいいだけのことだ。急激に拡大する貸付市場からもうひとつ恩恵がもたらされた。フリーポートに保管した絵を担保にして、世界のほぼどの場所から融資を受けることができたのだ(注)。
off shore trustは、在外投資信託(オフショアファンド)は、タックスヘブンに籍を置いて本国の規制や課税の回避をねらう投資信託のこと。
and mile after mile of anonymous corridors lined with unitsやit only needed to be trolleyed down the corridorは状況を考えれば、上くらいの訳し方でいいと思う。「英語はそう書いてあるけど、日本語ではこう言うよね」という意識も大事で、すっと一読で読んでもらえる工夫をしたい。そのためにはやはり①英文を大量に読むことが大事であるし、②実際に訳してみる、その上で③誰か信頼できる人に時々自分の訳を見てもらう、④尊敬する訳者の訳文を常時チェックしてみることが必要だと思う。
時間がいくらあっても足りない。
現在、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の1枚と言われる『サルバトール・ムンディ』をめぐる本を訳しているが、それにあたって以下のダ・ヴィンチ本がすごく参考になる。ぜひこの年末年始にお読みいただきたい。
レオナルド・ダ・ヴィンチ 上下
ウォルター・アイザックソン 土方奈美
定価:本体2,200円+税
発売日:2019年03月29日
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163909998
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910000
もちろん本書にも『サルバトール・ムンディ』は出てくる。
ほぼ1年前に刊行した『若い読者のためのアメリカ史』(すばる舎)にありがたいコメントがたくさん!
みなさん、ありがとうございます!
めいろま
@May_Roma
12月24日
日本は意外とアメリカの歴史をきちんと知っている人がいない。学ぶとアメリカがいかに特殊な国かということがよく分かる→ジェームズ・ウエスト・デイビッドソン の 若い読者のためのアメリカ史 【イェール大学出版局 リトル・ヒストリー】
素晴らしい本なので沢山の方に読んで頂きたい!訳も凄く良くて読みやすいです!!!
https://twitter.com/May_Roma/status/1209797095118561280
防毒面
@bodokumen
12月25日
若い読者のためのアメリカ史全部読んだ。ディスカバリーチャンネルの歴史モノをそのまま書籍化したような感じで、つまりは読みやすかったです。歴史と言っても自分たちと同じ庶民一人一人がその時代にいてそれぞれの人生があるという視点からの説明が多く、その時代時代にリアリティを感じた。
何と訳者様からコメントが!アメリカ史に興味があったため読んだのですが、読みやすくて面白かったため、あっという間に読み終わりました!素晴らしい和訳をありがとうございます。5000回感謝!
https://twitter.com/bodokumen/status/1210211921384726529