今日のGetUpEnglishは、4月22日付『桐生タイムス』に掲載された「永遠の英語学習者の仕事録」第25回の記事を紹介したい。
宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫)の一部を英語にしてみた。
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『桐生タイムス』の連載「永遠の英語学習者の仕事録」も3年目に入った。
今月からはちょっと趣向を変えて、日英翻訳、絵本の翻訳ほか、英語学習全般についてもお話ししてみたい。
今月からしばらく日本語の小説やエッセイを英語にして紹介する。取り上げる作品は、「世界にぜひ紹介したい、最終的には英訳の刊行を望みたいもの」にしたい。また基本的に「翻訳がないもの」を上杉訳で紹介する。
今月と来月は宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫)の一部を英語にしつつ、この人気小説の魅力を伝えてみたい。
残念ながら、「桐生タイムス」の連載も会員登録の上、定期購読手続きをしないと記事が読めなくなってしまった。なので、許可を得て、一部を紹介したい。なお、以下のサイトで「桐生タイムス」の「永遠の英語学習者の仕事録」の掲載号(120円)をお買い上げいただければ、この記事は読める。
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小気味よい一定のリズムを刻み、ハサミが朝倉(あさくら)晴人(はると)の髪の毛を丁寧に切り揃(そろ)えていく。
背後に立つ美容師が慣れた手つきで指先に髪を挟むと、晴人の心臓はドクンと脈打つ。全身が真夏の太陽のように熱くなり、手がじんわりと汗ばむのを感じる。晴人はカットケープの下で掌(てのひら)をジーンズにこすって汗を拭うと、気付かれないよう鏡越しに彼女を見つめた。
第1章で朝倉晴人と有明美咲の出会いがこんなふうに描かれる。晴人が美咲の勤める美容室で美咲に髪をカットしてもらっているのだ。これはもう若者たちの感覚を伝える若者文学なので、英語もそれにふさわしい表現、文体にしたい。次のように訳してみた。
The scissors kept a pleasing, steady rhythm as they carefully trimmed Haruto Asakura's hair.
The hairstylist standing behind him deftly pinched sections of his hair between her practiced fingertips, causing Haruto's heart to thump in his chest. As his entire body grew as hot as the midsummer sun, his hands started to feel damp with sweat. Under the cutting cape, Haruto wiped his palms against his jeans, all the while stealing a glance at the hairstylist through the mirror to ensure that she hadn't noticed.
この英訳は、宇山佳佑『桜のような僕の恋人』をNetflixで映画化する計画があるが、製作者にこの作品のすばらしさを知ってもらうために、それを伝えられる重要部分の英語を用意してほしい、という依頼を受けて、1か月で仕上げたのだ。かなりの分量で、5000語近くになった。言うまでもなく大変な仕事であったし、日本人のわたしにできるのかという不安は大いにあったが、優秀なネイティブスピーカーの助けを得て、どうにかやり遂げることができた。
昨年2022年3月24日、まさに桜の季節に、中島健人さんと松本穂香さんの若々しいふたりの主演でこのベストセラー小説がNetflixで全世界独占配信されたのを見届けて安心したのを思い出す。同時に、この瑞々しい小説を全部訳してみたいと思った。
桜の季節は終わったが、来月も『桜のような僕の恋人』の英訳についてお話ししたい。