岡田副総理が民放テレビ番組で政府が消費税率の5%引き上げを目指す2015年前後には高齢化の進展を踏まえてさらなる引き上げの議論を行う必要があるという考えを示しましたという。《“2015年前後消費税再議論を”》(NHK NEWS WEB/2011年2月5日 15時54分)
岡田副総理「今のまま高齢化が進めば、5%の消費税率引き上げでは足りなくなる。そもそも5%増税しても国債発行はかなり残るので、どうするか議論しなければならない。
例えば、社会保障をもう少しコンパクトにして増税を少なくするのか、それとも今の社会保障制度を維持して増税するのか、あるいはもっと充実した制度にしてさらに税を増やすのか。そういう議論は、消費税率の5%引き上げが実現する、2015年前後くらいから、再度行わなければならない」・・・・・
「今のまま高齢化が進めば、5%の消費税率引き上げでは足りなくなる」と言っているが、菅直人が2010年6月8日にその能力がないにも関わらず首相の座に就いて「社会保障と税の一体改革」を唱え、野田佳彦なる男が同じくその能力がないにも関わらず首相を引き継いで閣議決定した「社会保障・税一体改革素案」は「2015年前後」までのたった3年程度先の高齢化率を推定し、それを見越した2015年10月消費税増税合計10%の計算ではなかったことになる。
国立社会保障・人口問題研究所は2010年人口1億2806万人が50年後には人口8674万人に減少と推定し、1月30日(2012年)に公表している。
公表前の作業途中に尋ねさえすれば、3年程度先の高齢化率はたちまち弾き出してくれたはずだ。
財源(=消費税)に関して様々な要因を考慮した満足な計算をしないまま、計算するだけの能力を欠いていたからだろう、社会保障制度改革を纏め上げた。
また、「そもそも5%増税しても国債発行はかなり残る」と言っているが、このことも前以て予定調和とした2015年10月5%増税の決定ではなかったのか。
全く以って何をトンチキなと言いたい。
「社会保障をもう少しコンパクトにして増税を少なくするのか、それとも今の社会保障制度を維持して増税するのか、あるいはもっと充実した制度にしてさらに税を増やすのか」の発言は、野田内閣が1月6日(2012年)に閣議決定した「社会保障・税一体改革素案」が2015年10月に消費税を10%にするのとほぼ同時に命を終える運命にあることを意味することになる。
命を賞味期限と言い替えてもいい。賞味期限が3年も持たない「社会保障と税の一体改革」とは果たして政策と言えるのだろうか。
そもそもからして「社会保障と税の一体改革」に「持続可能な」という形容詞を冠して作業を進めた努力と時間の総量に関わる意味を失わせる。
これ程のムダがあるだろうか。
記事は野田首相の消費税増税の可能性に言及した2月4日(2012年)の発言も伝えている。
野田首相「年金制度の抜本改革をやっていくなかで、消費税をあてていくならば、増えていく可能性はある」
これは昨日のブログに取り上げた慶應義塾大学のシンポジウムで、男子学生の質問に答えた発言であろう。参考までに再度引用してみる。
男子学生「消費税10%で本当に足りるのかなあって言うのが、逆に疑問に思っていまして、例えば社会保障、先程からおっしゃられてるようにドンドン伸びていって、高齢化社会も進んでいるという中で何で10%で足りるってことをおっしゃれるのか――」
野田首相「年金制度の抜本改革をやっていく中で、そこは消費税を当てていく。増えていくことは、それは勿論、可能性はあるんでしょう」
3年やそこらでの再度の消費税増税の可能性への言及は即、社会保障制度の持続可能性を否定する言葉となるばかりか、国民の税金を次々と注ぎ込んでいかなければ維持できない制度の持続可能性とは倒錯そのものでしかない。
菅前首相も「社会保障と税の一体改革」に関して「持続可能性」を謳っていたが、野田首相の発言を取り上げてみる。
●第15回ILOアジア太平洋地域会議演説(2011年12月4日)
野田首相「また、アジア太平洋地域の多くの国々でも、あと10年もすれば、日本と同じような超高齢化社会が到来します。その先駆けとなる我が国は、少子高齢化のもとでも持続可能な社会保障制度を確立させ、この地域全体のモデルとしていきたいと考えています」
他の国に先駆けて持続可能な社会保障制度を確立させ、それをモデルとしてアジア太平洋地域の国々を引っ張っていくと国際公約している。
これは傲慢な自惚れだったのか、自身を何様に見せたい誇大妄想だったのか。
●野田首相年頭記者会見(2012年1月4日)
野田首相「全世代対応型の社会保障にしていかないと、日本の社会保障の持続可能性を担保することは私は困難だと思っています。この問題は、私はどの政権でももはや先送りのできないテーマになっていると思います」
持続可能性をメインのテーマとしている。
●野田首相記者会見(2012年1月13日)
野田首相「社会保障については、どなたも将来に不安を抱いている。その不安を取り除くために、社会保障を持続可能なものにする。維持するだけではなくて強化するものも含めて、まさに未来に永続して続ける社会保障の機能を確保するために、それを支えるための安定財源が必要です。安定財源ということは、国民にご負担をお願いをすることであります。耳当たりの良い、耳障りの良いことを言って国民の歓心を買うという政治ではなくて、辛いかも知れないけれども、訴える側も辛いんです。それは、選挙が厳しくなるかもしれない。誰もが思う。負担をする側も辛い。だけど、辛いテーマもしっかりお訴えをしてご理解をいただけるという政治を日本で作れるかどうかが、私は正念場だというふうに思います」
「未来に永続して続ける社会保障の機能を確保する」とその持続可能性を遥か未来にまで広げている。まさか「未来」とは「2015年前後」までを賞味期限としていたわけではあるまい。
だが、増税議論を「2015年前後くらいから、再度行わなければならない」ということなら、野田首相自身は否定していても、「耳当たりの良い、耳障りの良いことを言って国民の歓心を買うという政治」を物の見事に演じてきたことになる。
●第180回国会野田首相施政方針演説(2012年1月24日)
野田首相「一体改革は、単に財源と給付のつじつまを合わせるために行うものではありません。『社会保障を持続可能で安心できるものにしてほしい』という国民の切なる願いを叶(かな)えるためのものです」
だが、国民の切なる持続可能性への願いを早くも裏切る姿勢を曝した。
●2012年ダボス会議サイドイベント「ジャパン・ナイト」 野田総理ビデオメッセージ(2012年〈平成24〉1月26日)
野田首相「私は、日本で持続可能な社会保障制度を構築し、財政規律を維持するための大きな改革を必ずや実現します」
再び国際公約。菅前首相と言い、野田首相と言い、その能力に反して国際公約が大好きときている。
持続可能性の当て外れは「社会保障と税の一体改革」だとしてきたその一体性をも損なうことになる。
だから岡田副総理は「社会保障をもう少しコンパクトにして増税を少なくするのか、それとも今の社会保障制度を維持して増税するのか、あるいはもっと充実した制度にしてさらに税を増やすのか」と社会保障制度そのものをいじる可能性に言及することになった。
一体性とは相互関連の関係で結ばれることになるから、当然の帰結である。これ以上の国民の負担は無理ということになった場合、制度そのものの変更を迫られることになる。
菅前首相や野田首相が唱えてきた社会保障制度の改革に関してこれまで散々に唱えてきた「持続可能」も「一体改革」も真っ赤なウソだったということである。
この真っ赤なウソは昨2月5日フジテレビ放送「新報道2001」での社会保障に関わる報道も証明している。
民主党が2009年総選挙のマニフェストに掲げた消費税を財源とし、一人頭月額7万円以上の年金受給を可能とする「最低保障年金」導入の場合、2075年度で最大25兆円あまりの追加財源が必要、2015年消費税10%にさらに7.1%分の増税の上乗せ、17.1%となるという試算を昨年3月に行った。
現在、それを公表するかどうかで揉めている。
この試算の根拠をテレビは取り上げていた。
「試算の経済前提」
物価上昇率 1%
名目賃金 2.5%
名目運用利回り4.1%
賃金上昇率の実態は試算の2.5%を超えた年はグラフから読み取ると大まかになるが、1991年前後と1994年頃、1997年頃の3回しかない。
また、年金積立金の全体の運用利回りは4.1%を超えたのは3年のみで、2010年度は0.26%だと解説が言っている。
鈴木亘学習院大学教授「運用利回りを4.1%で、今後100年間運用するとか、賃金上昇率を、現在マイナスですが、2.5%今後100年間成長するとか、バラ色のシナリオで計算するというのは、実は7.1%でも、ちょっと甘いんじゃないかと――」
計算根拠が甘い数字となっているから、7.1%では追いつかないのではないのかと言っている。
大体が消費税財源、月額7万円「最低保障年金」制度はマニフェストに掲げた以上、衆院4年間の実現を公約としているはずである。それを現時点から63年後には17.1%以上の消費税が必要となるなどと言っていること自体が、「持続可能」も「一体改革」も真っ赤なウソだったことの何よりの証明に他ならない。
実質的な運用利回りが2010年度で0.26%でありながら、名目運用利回りを4.1%として試算すること自体がいくら将来の成長を見込んだとしても、実態をウソとする誤魔化しとなる。
このことは後で触れる。
中島邦夫ニッセイ基礎研究所主任研究員「例えが女性や高齢者の就業が進むという成長目標が達成されたら、これくらいの労働参加が進んで、これくらいの経済成長が得られるだろうという目標型の見通しになってきています」
この発言を番組は解説している。
解説「試算の前提は政策がうまくいった場合の経済状況だという」
要するに現況の実態から見通した試算ではなく、あくまで成長予測を踏まえた試算だということなのだろうが、現在の円高水準、EUの経済混乱を考慮したなら、目に見える経済回復は数年のスパンでは期待不可能であるし、例え数年以内に順調に景気回復を果たしたとしても、2075年度までの63年間に景気の波が襲わない保証はなく、また人口の減少が国内経済の縮小を招くことを考えると、辛めに試算しないことには「持続可能性」も「一体性」もたちまち脆さを曝け出すことになり、言っていることと実際との間にウソが生じることになり、名目運用利回り4.1%は大分怪しくなる。
番組は2月1日(2012年)の衆院予算委の野田発言を伝えている。
野田首相「頭の体操のときに使われた試算であって、新しい人口推計であるとか、そういうものを含めて、きちっと試算をお示ししながら、議論をしていきたいと思いますが――」
昨年3月の試算はきちっとした試算ではない、頭の体操のための試算だと言っている。厚労省の職員を煩わし、給与範囲内の仕事であっても、時間を使わせた分、他の仕事が出来たはずだから、ムダを働いたことになる。
こう見てくると、民主党が言っている「ムダの削減」も、八ッ場ダムの建設再開と言い、真っ赤なウソとなる可能性は排除できない。 |