昨2月17日(2012年)野田首相が首相官邸HPに「社会保障と税の一体改革」の理解を訴えるビデオメッセージを載せた。それ程長くないから、全文引用してみる。
「社会保障と税の一体改革について」 (首相官邸HP/2012年2月17日)
国民の皆様、内閣総理大臣・野田佳彦です。
今回は「社会保障と税の一体改革」にかける私の思いを直接皆様にお伝えをしたいと思います。
昨年の東日本大震災の発災によりまして、我が国は3つのことをやり遂げなければいけません。1つは震災からの復旧復興。2つめは原発事故との戦い。そして、3つめが日本経済の再生です。これらの問題を解決するには、「魔法の杖」はございません。ひとつひとつ丁寧に乗り越えて行きたいと考えます。
この大震災が発災をする前から、実は日本は様々な課題を抱えておりました。その一番大きな課題が、これからお話しをさせていただきます、「社会保障と税の一体改革」でございます。
【三つの”待ったなし”】
この一体改革は、3つの点において「待ったなし」です。
社会保障の機能強化”待ったなし”
第一は、「社会保障の機能強化」という意味において、待ったなしの状況でございます。残念ながら出生率は少し歯止めがかかってまいりましたけれども、この国で子供を産み、そして子供を育てるという雰囲気がまだ十分に出来ておりません。この少子化に、早く歯止めをかけていかなければなりません。そのためにも、子ども・子育て世代に対する支援が必要でございます。
もう1つは、私は先だって、首都圏のとある郊外の団地をお訪ねしました。その団地の高齢化率は41%でありました。まさに、いま日本においては都市が老いてきている状況であります。医療・介護とまちづくりを一体として進める、「地域包括ケア」が急務でございます。このように若者からお年寄りまで安心出来る、「全世代対応型」の社会保障への転換、これが待ったなしであります。
持続可能な仕組み作り”待ったなし”
2つめは、「持続可能な仕組み作り」が、待ったなしであります。日本の社会保障の根幹は昭和36年に出来ました。国民皆年金、国民皆保険制度の創設でございます。その頃は、多くの働き盛りの若者が1人のお年寄りを支える、いわば「胴上げ」型の社会でした。今は1人のお年寄りを3人で支える、いわゆる「騎馬戦」型の社会になりました。これから約40年もすると、今度は1人が1人を支える「肩車」の時代になります。「肩車」の社会を、ぜひ皆さん、想像してください。下で支える一人が病気になったり、仕事がなくなったりすればどうなるでしょうか。それは、「およそ40年後」と申し上げました。今の若者たちが40年後には肩の上に乗る世代になるのです。そのことをぜひ十分に念頭に入れていただきたいと思います。
このように、人類が経験をしたことのない超高齢化が進んでいますので、医療や介護の負担増、今の制度を維持しているだけでも自然と増えていくためにかかるお金が約1兆円です。その1兆円というのは1万円札を平積みすると高さ1万メートルです。エベレストよりも高い高さになります。それぐらい、毎年の自然増で社会保障費が膨らんでいるという状況でございます。
こうした状況を考えると、働き盛りの保険料を中心に考える時代はもう無理です。将来の世代のポケットに手を突っ込んでお金を借りるというやり方も取るべきではありません。ということは、いまを生きる世代が広く薄く負担を分かち合う消費税を導入して、社会保障を支える安定財源にしなければいけない。これが待ったなしの状況であります。
日本の信用”待ったなし”
三つ目の待ったなしは、「日本の信用」が待ったなしという状況でございます。欧州債務危機は、「対岸の火事」ではございません。火の粉がいつ日本に及ぶか分かりません。そのことには強い危機感を持っていなければならないと思います。社会保障を維持するために、あるいは強化するためにその財源をしっかりと確保すること、「日本という国は財政規律を守る国なのだ」ということを内外に行動で示すべきだと私は考えています。
【政治がやるべき事・行政がやるべき事】
「この待ったなしの一体改革を推進する前に、まず政治がやるべきことがあるだろう」あるいは「霞が関がやるべきことがあるだろう」-これが国民の皆様の思いだと思います。その強い思いを私たちはしっかり受け止めてまいります。この国会中に議員定数の削減、国家公務員の人件費の約8%の削減、さらにはこれまで特殊法人と言ってきましたけれども、今は「独立行政法人」と言うようになりました。この独立行政法人を約4割減らすこと、そして、かつて元財務大臣が「一般会計は『母屋』です、特別会計は『離れ』です」と表現をしました。「母屋」ではおかゆをすすりながら切り詰めても、「離れ」ではすき焼きを食べて贅沢放題をしていると言われた特別会計の改革も着手をいたします。「離れ」をなくして「母屋」に集中して、国民の皆様のチェックが効くようにする改革も断行をする決意でございます。
【日本経済の再生】
こうした政治改革、行政改革はもちろんやらなければなりませんが、あわせて一体改革と同時並行に日本経済の再生もやり遂げなければなりません。日本銀行としっかりと連携をしながら、円高、デフレの克服に全力で努めてまいります。
【各世代の皆様にお願い】
これらの包括的な改革をするためには、何としても、国民の皆様のご理解が不可欠であります。社会保障は、世代を超えて日本人同士が支え合う仕組みであります。この原則は「負担なくして給付なし」です。誰かが負担をしなければ給付はありません。そのことは是非ご理解をいただきたいと思います。今までは、将来の世代にツケを回すやり方をしてまいりました。でも、「今さえよければいい」という無責任なことは、もうやめるべきだと私は思います。
そこで、すべての世代の皆様にお願いをしたいと思います。
団塊の世代の皆様へ
まずは、「団塊の世代」の皆様。皆様におかれましては、これまで日本経済を支え日本社会を支えていただきました。いま皆様はちょうど年金受給世代にさしかかってまいりました。あと10年もすれば皆様が75歳になります。常に日本の世論をリードし、「流行」を作ってきた皆様に改めてお願いをしたいと思います。これから皆様の、皆様の社会保障を支える世代のことも慮って、是非この一体改革についてのご理解、その世論づくりの先頭に立っていただきたいとお願いをしたいと思います。
現役世代、若者の皆様へ
そして次に、「現役世代」と「若者」の皆様にお願いをしたいと思います。自分達は多くのお年寄りを支えなければいけない、「ツイてない世代だな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、今日の豊かな社会を作ってきたのは、私達の先輩世代、皆さんの親御さんの世代でございます。そのご努力の積み重ねによって、今の日本はあります。その「支え合う」構図のバトンをしっかりと受け継いでいただきたいと思います。もちろん「支える側」に対しても、社会保障の受益を実感できるような改革を私達は成し遂げていく決意であります。
子育て中の皆様、仕事との両立を願う皆様へ
そして、いま子育てにご奮闘頂いている「お父さん、お母さん」。そして、「子育てとキャリアを両立させたいと強く願っている多くの女性」の皆様にお願いをさせていただきたいというふうに思います。これまでの日本は、残念ながら、子ども、そして子育て世代に対する社会保障という観念が希薄だったと思います。是非、子ども、子育て新システムを作るために、私達も全力を尽くしてまいります。子どもを安心して産める。働こうと思った時に子どもを預ける場所がないということのないような、そういう社会を作るために、皆さんとともに、この改革を成し遂げていきたいと思います。
国民の皆様の、あらゆる世代の皆様のご理解とご支援が不可欠でございます。私達は不退転の決意で、この「社会保障と税の一体改革」をやり遂げる決意です。皆様の後押しを、最後に改めてお願いを申し上げたいと思います。よろしくお願いをいたします。
言っていることはこれまで言ってきたことの単なる繰返しに過ぎない。裏返して言うと、旧態依然、言っていることに進歩がないことになる。わざわざ時間とカネをかけて、ビデオにして公表にまで持っていく魂胆に釣り合う価値は見い出し難い。
この一事を以てしても野田首相の時間やカネ等のムダに対する感覚の程度を窺うことができる。
国家事業から比べたなら、ごく小さなムダかもしれないが、こういった小さなムダを排除する感覚や姿勢がなければ、大きなムダに立ち向かう徹底したチャレンジ精神は生まれてこないのではないだろうか。
小さなムダを許さない気持が大きなムダを尚更に許すことができない怒りの気持を生むはずだ。
逆に小さなムダに無感覚な人間は大きなムダに関しては必要に迫られて役目上立ち向かうことはしても、基本的にはムダに対する感覚を欠いているために徹底した覚悟を貫き通すことが困難に違いない。
このことは消費税の増税は早々に決めて、「独立行政法人を約4割」減らします、「特別会計の改革も着手をいたします」、「改革も断行をする決意でございます」と自らの身を切る重要事項は後回しの話だとしているところに現れている。
本来なら議員定数削減や国家公務員人件費の削減、独立行政法人数削減、特別会計改革を先に持ってきて、それらを実現させてから、政府として「政治がやるべきこと」、これだけの務めを果たしました、みなさんに痛みを与えることになりますが、社会保障制度の持続性ある維持のためにその財源として消費税増税をお願いすることになるが、それを以て国民としての務めとしていただきたいという順序を取るべきだったろう。
だが、実際には逆の順序となっていることから、改革に向けた覚悟と決意の程度が知れる。
その程度の覚悟と決意であったなら、「1つは震災からの復旧復興。2つめは原発事故との戦い」に関するハコモノとしての外側はカネと時間をかけることによって達成可能となるだろうが、中味の高齢過疎化を排した地域活性、中央と地方の格差を排した一体的な発展、バランスの良い人口配分、あるいはバランスのよい人口構成を伴った社会の進展を常態とした、真の意味での活力ある3つ目の「日本経済の再生」確立は道遠くなる。
野田首相は自らが改革を目指している新しい社会保障制度を、「子ども・子育て世代に対する支援」となるものだと言い、「医療・介護とまちづくりを一体として進める、『地域包括ケア』」となる社会制度改革だと言い、「若者からお年寄りまで安心出来る、『全世代対応型』の社会保障への転換」となると言い、「社会保障の機能強化」だと言い、「『全世代対応型』の社会保障への転換」だと言い、「持続可能な仕組み作り」だと言い、すべてが「待ったなし」であり、今の日本があるのは親から子・孫へと繰返し循環していく世代から世代を「『支え合う』構図のバトン」があったからで、「社会保障の受益を実感できる」そのような「バトン」が受け継ぎ可能とする社会保障制度改革だと言っている。
言っている理念は立派である。ケチのつけようがないくらい立派な言葉遣いとなっている。 「いまを生きる世代が広く薄く負担を分かち合う消費税を導入して、社会保障を支える安定財源にしなければいけない」と言っていることも理解できる。
だが、野田政権が構築した社会保障制度改革と消費税増税が言っている理念を実現可能だと広く国民に認めさせる具体的な証明、各世代間を循環的・持続的に「『支え合う』構図のバトン」となると国民の誰にも納得させる具体的な証明がどこにもない。
政治家の政策が失敗なしの絶対性を宿命としているなら、いわば絶対的成功を常に予定調和としているなら、理念を並べ立てるだけ、いいこと尽くめを吹聴するだけで、どのような証明も必要としないが、実際にはその逆で、消費税は増税させられた、社会保障制度は満足に機能しない、財政規律も思ったとおりには守れない、当然「日本経済の再生」もままならないことになり、国民にしたら何重にも泣きっ面にハチを見舞われることになる。
要するに単にうまい話を聞いているだけといった印象しか受けない。野田首相の側から言うと、単にうまい話を尤もらしげにに話しているに過ぎない印象しか浮かばない。
これにこれだけ投資したなら、二年もしたら二倍にも三倍にもなって返ってくるといったうまい投資話に擬(なぞら)えることができる。投資話には確実に利益が上がるという具体的な論拠を示さなければならない。
野田首相のうまいだらけの「社会保障と税の一体改革」話には、その論拠の提示が一切ない。
ここに野田首相の認識能力不足からきている大いなる勘違いがある。
これでは国民は納得しようがない。納得したいと思っても、納得できないだろう。
最初に書いたようにビデオメッセージはムダ遣いで終わる公算大としか言いようがない。今後の世論調査の内閣支持率がこのことを証明してくれるはずだ。