昨日2012年2月22日の衆院予算委員会。
自民党鴨下議員は「マクロ経済スライド」がきちんと機能すれが、現行制度の改善で給付が少なくなる面があるが、持続可能であるという趣旨に添って追及する。
鴨下議員「少子高齢化社会に今みなさんがやっている制度設計は効くんですか」
岡田副総理「最低保障年金と所得比例年金があるが、所得比例の部分は保険料を払っていただくんですが、頂いた保険料で年金を払っていくのだが、一対一対応にはなり得ない。そこは調整していかなければならない」
いただいた保険料で年金を払っても、頂いた保険料と「一対一の対応」以下になる。いわば頂いた保険料以下の年金額に目減りすると言っている。
これは“持続可能性性違反”ではないだろうか。「社会保障と税の一体改革」については散々に「持続可能性性」を言ってきたのである。
いや、「持続可能性」を根拠に民主党は自らの社会保障制度改革案を正当化し、消費税増税を正当化してきた。
この点、“正当化違反”とも言える。
野田首相自身も散々に言っている。
野田首相「持続可能な社会保障制度を再構築する」
野田首相「もちろん、一体改革は、単に財源と給付のつじつまを合わせるために行うものではありません。『社会保障を持続可能で安心できるものにしてほしい』という国民の切なる願いを叶(かな)えるためのものです」
「国民の切なる願い」と受け止めておきながら、「叶える」という約束をウソにすることになる。
野田首相「持続可能な社会保障制度を実現するには、給付に見合った負担が必要です」
まさに消費税増税の正当性を持続可能な社会保障制度実現に置いている。
まだまだ例を挙げることができるが、いくら例を挙げても、言っている持続可能性が保証できないということなら、挙げても意味はない。
また、「一対一対応にはなり得ない」といったことはどのくらいの減額か具体的に言うべきを、「そこは調整していかなければならない」というだけで具体的姿は曖昧にしている。だから、どのような贈答品も必ず返して決して受け取らない姿勢を崩さないところに現れている一般生活慣習に関しては原理主義者だが、政治に関してはご都合主義者だと看做す所以である。
鴨下議員「何を言っているのかよく分からない。
(中略)
少子高齢化にみなさんの制度は現行制度と比べてどれだけ優位性があるんですか?」
岡田副総理「先ず(2065年に10%+)7.1%という最低保障年金の一番強くした場合であって、試算として計画したが、それを採用すると決めているわけではありません。
最低保障年金を非常に小さくすれば、現行案でも3%を上げざるを得ないということですから、それと同程度ですが、それ以下で済むケースもあるということでございます。現行案で一元化することのメリット、最低保障年金を充実することのメリット。そういうメリットがあるということで抜本改革についてのご提言をしているわけで、少子高齢化の限界を超えるという、そういうプラスがあるかというと、私は必ずしもそういうことにはならないというふうに思っています」
民主党の年金制度抜本改革は様々なメリットがあるが、「少子高齢化の限界を超える」メリットは必ずしも保証できないと言っている。
このことも「持続可能性」の否定であり、「持続可能性」を根拠にして消費税増税を正当化してきたことに対する“持続可能性違反”に当たる。
国立社会保障・人口問題研究所が日本の人口は2060年には約4000万人少ない8674万人になると予測しているのである。少子高齢化の進行による現役世代の相対的減少を考えた場合、岡田副総理が言っているデメリットは抜本改革のメリットを差し引いて、マイナスに向かうことにならないだろうか。
生産年齢(15~64歳)人口は2060年には4418万人。老年(65歳以上)人口は2060年には3464万人と予測。まさに肩車社会の出現である。
鴨下議員「現行制度もみなさんが考える制度も、少子高齢化について同じ圧力を受けるわけですね。
その解決策として新しい民主党案というのか、意義があるっていうふうに私は思いませんね」
同日午後の衆院予算委で同じ自民党の田村憲久議員が民主党が最低保障年金制度を採用した場合、どのくらいの消費税増税が必要か試算した『最低保障年金の支給範囲』)2065年度の姿』のフリップを出して、「最低保障年金は1人7万円」と言っていたことが7万円がカッコ付きで記載、その下に5.8(単位万円)となっていることを問い質した。
小宮山厚労相「新しい年金制度でも一定のマクロ経済スライドに近いものを掛けていかなければなりません。5万8千円というのはですね、2065年度の時点でそうなるということです。
この場合はみなし運用利回りでマクロ経済スライドに近いものを掛けた試算でございますので、そうなるとピークのときの2065年にはこれが5万8千円になるということでございます」
「マクロ経済スライド」とは、「年金の被保険者(加入者)の減少や平均寿命の延び、更に社会の経済状況を考慮して年金の給付金額を変動させる制度のこと」(Wikipedia)だそうで、「みなし運用利回り」は「マクロ経済スライドに近いもの」だと言っている。
インターネットで調べたところ、「みなし運用利回り」とは加入者拠出の年金保険料の積立金を株や国債で運用したように看做して、利子がついたように帳簿に記録する利回りのことだそうで、実際に利子がつかないが、ついたように帳簿に記録、みなし運用利回り込みの過去の保険料拠出総額に基づいて年金受給開始時点で平均余命を勘案しながら、年々の年金受給額を決めていく方式だそうだ。
利子がつかないにもかかわらず利子がついたように看做す、利子不足分を消費税で賄うということなのだろうか。
この小宮山発言に対して田村議員は、最低7万円の年金を保障すると言っていながら、実質的価値が6万円弱になるのは詐欺としか言いようがないと批判。
小宮山厚労相「それはですね、今制度設計をしていますので、どのような率で割り戻して現在価値を表示するか、それは色々と仕組み方、様々な方法がございますので、それを今検討しているところでございます」
田村議員「どっちにしても割り戻さないと持たないということを先程岡田大臣がおっしゃられましたから、マクロ経済スライドとは言わないけれども、何らかの減額率を掛けなければ年金はやはり均衡しないんだとさっきおっしゃっていられましたので、5万8千円かどうか分らないけれども、しかし減るのは確かだと。
減る金額を少なくしようと思うと、消費税を上げなければならない。こういうレトリックにはまっていくというわけでございまして、まあまあ、大変なウソをついて来られたんだなあということが改めて分かりました」
岡田副総理「委員、こういうところの議論は、テレビ入ってますし、ウソだとか詐欺だとかそういう言い方はなるべく控えられた方が私はいいんだろうと思うんですね。国民もやっぱり深い、真摯な議論を求めているというふうに思います。
例えば委員が先程おっしゃいました所得代替率50%、これは確かにみなさんが前提としておられている数字でございます。さっき鴨下議員も言われたように、これは守りたいけども、しかしそれだって絶対持続できるかどうかというのは状況によって分からないわけで、これは鴨下委員も言われたとおりでありますから、一方的に我々はなかなか意見が言えない、答える立場ですから、是非、深い、国民の立場に立った議論をお願いします」
何を言っているのだろう。相手がウソだ、詐欺だと言ったなら、ウソではないこと、詐欺ではないことを立証し、相手を納得させる反論を試みさえすればいいことで、テレビが入っている云々は関係ないことであろう。
国民が求めているのは政府の言っていることが事実かどうかの一点であるはずである。事実かどうかの判定は嘘でないこと、詐欺でないことの証明に尽きる。
だが、言っていることは事実です、詐欺でもウソでもありませの証明を果たすことができないでいる。
田村議員「真面目に議論してください。我々は所得代替率を守ると言ってるんです。守らなくなった時には、守れませんでしたと頭を下げて、解散しなければならないんだと思います。
でも、7万円と言っていて、元から出てきた試算が5万8千円じゃあ、これを騙したっていう話しじゃあ・・・・(思いとどまる)。いや、7万円にしたかったけど、できなかったと。それは少子化が進んだという話になればね、そのときにはですね、すみません、7万円と言いましたけど、5万8千円になりましたって言うなら分かりますよ。
しかし今の現状で7万円と言っていて、それが7万円じゃあなくなっちゃうんですから、これは全く以って齟齬が生じている。
(後略)」――
質問時間切れだが、小宮山厚労相が手を上げていたため、委員長が答弁を求めるかと聞く。田村議員が「じゃあ」と言って、答弁を求める。
小宮山厚労相(顔を赤らめた抗議の強い口調で)「これはですね、この試算を公表する時に申し上げましたように調査会の幹部が頭の整理、ブレーンストーミングをするためにやったもので、こういう形で制度設計をやると決めたわけではございませんので、先程おっしゃった問題点を協議しようという点は私どももしたいと思いますが、これからの制度は5万8千円と決めたわけではございません」
いくら「頭の整理、ブレーンストーミング」のための試算であったとしても、民主党が考える「最低保障年金」制度の2065年度実施計画に基づいて試算し、出てきた設計図であって、「最低保障年金」制度に基づいた試算である以上、その試算の制約を幾ばくかは受けるはずだ。
だからこそ、先程の場面で、「5万8千円というのはですね、2065年度の時点でそうなるということです」と議論の俎上に載せることができた。
何ら制約を受けないということになったなら、「最低保障年金」制度を何のために試算の基礎としたのか、「最低保障年金」制度そのものの意味を失うし、何よりも議論の対象とすることができなくなる。
「こういう形で制度設計をやると決めたわけではございません」と言いつつ議論するのはカネと時間のムダであろう。
また、「先程おっしゃった問題点を協議しようという点は私どももしたいと思います」と言っていることも、あくまでも民主党が政権与党である以上、民主党が出した「最低保障年金」制度の適否が中心となるはずで、その中心なくして協議は成り立たない。
小宮山厚労相の答弁は、一体何を言っているんだろうと思う程のゴマカシ・詭弁に満ちた答弁となっている。
菅前首相も言っていたことだが、現在野田首相を筆頭に言っている民主党の社会保障制度「持続可能性」の実体とはこの程度だということである。