1月29日(2012年)、介護福祉士の国家試験が行われて、経済連携協定(EPA)に基づいて来日した外国人が初めて試験に臨んだと、《介護福祉士 来日外国人が初受験》(NHK NEWS WEB/2012年1月29日 16時44分)が伝えていた。
この4年間でEPAに基づいて介護福祉士を目指して来日したインドネシア人とフィリピン人の合計780人余りのうち試験に臨んだのは国家試験受験資格取得条件の3年間の現場研修終了者95人だそうだ。
試験は介護の専門的な知識や技術などに関する筆記試験と技術能力を試す実技試験。
問題は来日から4年以内に国家資格を取得しなければ帰国という条件である。3年間は受験資格取得のために現場研修に従事しなければならないから、試験の機会は1回しかない厳しい条件を負わされている。
その上、日本人受験者でも介護福祉士の合格率は50%程度の難関だと書いている。先行実施のEPA対象看護師試験のこれまでの平均合格率2.6%の原因が日本語の読み書きが大きな壁となっていたことから、厚労省は漢字表記の専門用語にフリガナを振ったり、英語併記を行って問題の読みに手助けを行い、さらに不合格の場合でも成績が一定水準を超えていた場合、特例的にさらに1年間の滞在延長を許可し、1回限りの再チャレンジを認める閣議決定(2011年3月11日)を行なっている。
来日の当初資格がどうなっているのか、インターネット記事を調べていたら、外国人看護師・介護士候補生の受入(多文化共生ポータルサイト)なるページで次の記述に出会った。
〈制度の概要と現状
日・インドネシアEPAでは、当初2年間で看護師候補生400名、介護福祉士候補生600名を上限として受け入れることとされ、第一陣として208 名を受け入れました。
看護師候補生は、インドネシアで看護師の資格を取得してから(2008年当時インドネシアに介護士の資格はなかった)2年以上の経験があり、来日後、日本の病院等で研修を受けながら3年以内(最高で3回受験できる)に国家試験に合格し、日本の資格を取ることを目指します。資格を取得すれば在留期間の上限は3年であるが更新回数の上限はないため、事実上、永住することが可能です。
一方、介護士候補生は、看護学校卒業生あるいは一般の高等教育機関の卒業生(2009 年から介護士の資格がインドネシアにも出来た)ですが、2008 年の来日組の場合は、介護士候補生もすべて看護学校の卒業生でした。日本の国家資格取得までに介護士の猶予は4年以内ですが、介護士の国家試験には実務経験が3 年必要であることから、看護師と異なり受験の機会は、事実上1回のみに限定されました。
国家試験の合格率の低さ(1%~4%)を受け、平成23年3月、政府は平成20年度と平成21年度に受け入れた看護師候補者と介護士候補者について、一定条件を満たせば滞在期間を一年間延長することを閣議決定しました。
また、フィリピンからの看護師・介護福祉士候補生の受入れは、インドネシアからの受入れとほぼ同じ枠組みとなっていますが、フィリピンの介護士候補生は二つのコースに別れています。インドネシアの介護士候補生に通ずるのが「就労コース」で、これは4年制大学卒業生、フィリピンの介護資格認定者そしてフィリピンの看護学校卒業生が候補生です。
これに加えて、フィリピンの一般の4年制大学を卒業した者が日本の介護士養成校に入学して、国家取得を目指す「就学コース」というのがあります。就学コースの場合の在留期間は、養成校の卒業までとなっていますが、養成校のカリキュラムは通常2年程度とされています。また、資格取得後の条件は他と同様です。フィリピンからは、2009年に第一陣として「就労コース」に283名を受け入れました。〉・・・・・
以上を簡略化して纏めてみる。
インドネシア看護師候補生
●現地で看護師の資格を取得してから2年以上の現地での実務経験
●来日後、日本の病院等で研修。
●滞在3年間・国家試験機会3回
●国家試験合格者の在留期間上限3年。但し更新回数の上限なく、事実上、永住可能。
●2011年3月以降、国家試験不合格でも一定の成績を修めた者は1年間の滞在期間延長(合計
4年間)
インドネシア介護士候補生
●現地に於ける看護学校卒業生、一般の高等教育機関卒業生。
●日本で受験資格要件として3年間の現場研修。
●滞在4年間・国家試験機会1回。
●2011年3月以降、国家試験不合格でも一定の試験成績を修めた者は1年間の滞在期間延長
(合計5年間)
フィリッピン看護師候補生
●インドネシア看護師候補生と同条件
フィリッピン介護士候補生
「就労コース」
●現地の4年制大学卒業生、フィリピンの介護資格認定者、フィリピンの看護学校卒業生
●2011年3月以降、国家試験不合格でも一定の試験成績を修めた者は1年間の滞在期間延長
「就学コース」
●現地の4年制大学卒業後、日本の介護士養成校入学
●在留期間は養成校卒業まで(カリキュラムは通常2年程度)
●2011年3月以降、国家試験不合格でも一定の試験成績を修めた者は1年間の滞在期間延長
以上見てみるとインドネシア、フィリッピンに関わらず、現地でそれなりの知識と資格を得ている。このことに加えて、外国という未知の世界で自己能力を試すチャレンジ精神と向上心を備えていると見ることができる。
2009年から2011年度までに日本が受け入れたインドネシア人とフィリッピン人の看護師候補生は209名、介護福祉士候補生は「就労コース」と「就学コース」を合わせて360名(厚労省HP)。
当初2年間で看護師候補生400名、介護福祉士候補生600名、合わせて1000名を上限としながら、3年間で569名の受入れにとどまっているのは試験が難しくて夢を果たせずに虚しく帰国する者が多いことから希望者が減っているという事情がある。
上記「NHK NEWS WEB」が伝えているように看護師候補生合計209名の国家試験平均合格率は2.6%。対して日本人看護師の2011年国家試験合格率全国平均91.8%。
英語併記や難解字句にフリガナを振り、なおかつ一定の成績を修めた者は滞在期間を特例的に1年間延長したとしても、そのことによって看護師候補生の場合は滞在期間合計4年、国家試験機会計5回、介護福祉士候補生の場合は3年~5年、国家試験機会2回に増えたとしても、日本人看護師の2011年国家試験合格率全国平均91.8%が逆証明するように合格率の飛躍的な伸びは期待できないように思える。
このことから日本人と比較してインドネシア人やフィリッピン人の能力や人間性が劣ると見ることは決してできない。能力や人間性は試験で100%計ることはできないからだ。
もし計ることができたなら、いい加減な手術をする医者やカネ儲けのために不必要な過剰診療に走る医者、患者を粗末に扱う看護師はこの世に存在しないだろう。
また、政治家に関して言うと、東大出や京大出、早稲田出や慶應出が優れた政治能力や優れた人格を保証するものではないことを我々が多く見てきていることも試験が何を保証するのか不透明にしている一つの事実がある。
一方、外国人看護師候補生や介護士候補生の来日条件を見てみると、現地でそれなりの知識と資格を得ている。このことが必ずしも能力や人間性を計るモノサシとはならなくても、また来日が例え収入目的であっても、外国という未知の世界で自己能力を試すチャレンジ精神と向上心を備えていると見ることができる。
このような精神をこそを大切にすべきではないだろうか。能力や人間性は看護や介護の現場がテストすべきである。同僚や患者が試験官となることによって、自ずと能力や人間性の程度が現れ、取捨選択の選別を受けることになる。
だとしても、資格の目安とする国家試験は合格しなければならない。
以上の要件をすべて満たすには滞在期間を撤廃することではないだろうか。例え国家試験を合格しなくても、看護師候補生の場合は看護助手としての人材となり得るし、介護福祉士候補生の場合は介護現場では国家資格がなくてもパートやアルバイトが働いているのだから、同じ人材としての勤務は可能のはずである。
そして何年経っても夢を捨てない者は滞在期間を気にすることなく、働きながら何年かけても国家試験にチャレンジすればいい。
そして犯罪を犯さずに真面目に働き、日本の社会で社会人としての務めを果たしている者が希望した場合、日本国籍取得の資格を与えてもいいはずである。
政府は研究者や医師、経営者ら高度の専門知識や高度の技術を持つ外国人を様々な特典を用いて“高度人材”として受入れる制度を設ける方針でいる。私自身は社会の活力は這い上がりから生まれる、一般労働者を受け入れるべきで反対だと、2011年12月29日当ブログ記事――《政府「高度人材」外国人受入れポイント制度は職業差別及び憲法違反に当たらないだろうか - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いたが、もしインドネシアやフィリッピンから経済連携協定(EPA)に基づいて受け入れている看護師候補生や介護福祉士候補生がゆくゆくは政府が考えている、あるいは政府が好みの“高度人材”に当てはまらなくても、国立社会保障・人口問題研究所が50年後2060年の日本の人口は2010年1億2806万人から8600万人に減少、労働力の中心となる15歳~64歳生産年齢人口が半数近く減少の4418万人になると予測している少子高齢・人口減少とこのことに伴う経済の縮小を僅かながらでも補う労働人材とならない保証はない。
彼らが日本で結婚した場合、例え同国人との結婚であっても、50年後の彼らの子どもが日本で政府が考えている、あるいは政府が好みの“高度人材”に成長しないとも限らない可能性にしても否定できないはずだ。
将来を見通す大きな目を持って滞在期間なしに彼らを受け入れてはどうだろうか。