――野田社会保障政策財源は消費税増税で財源不足を追っかけるものとなっている――
今回は前日の《野田首相ビデオメッセージ「社会保障と税の一体改革について」は認識能力不足の大いなる勘違い》の《PARTⅡ》
野田首相はビデオメッセージで毎年の社会保障給付費自然増の金額を次のように譬えている。
野田首相「人類が経験をしたことのない超高齢化が進んでいますので、医療や介護の負担増、今の制度を維持しているだけでも自然と増えていくためにかかるお金が約1兆円です。その1兆円というのは1万円札を平積みすると高さ1万メートルです。エベレストよりも高い高さになります。それぐらい、毎年の自然増で社会保障費が膨らんでいるという状況でございます」
前日のブログでは、〈言っていることはこれまで言ってきたことの単なる繰返しに過ぎない。裏返して言うと、言っていることに進歩がないことになる。わざわざ時間とカネをかけて、ビデオにして公表にまで持っていく魂胆に釣り合う価値は見い出し難い。〉と書いたが、この社会保障給付費自然増の「エベレスト」の喩えも2月11日に千葉県船橋市で開かれた母校・県立船橋高校同窓会挨拶で使った繰返しである。
《1兆円は100トン…首相、わかりやすく?説明》(YOMIURI ONLINE/2012年2月13日15時41分)
野田首相「1万円札を平積みにしていくと1兆円の高さは1万メートルになり、エベレストより高い。1万円札は重さ1グラムだが、1兆円集めたら100トンになり、とても持てない」
違いはビデオメッセージでは1兆円を「100トン」だと重量で譬えていなかった点のみである。
記事は、〈首相は野党などから「説明不足」と批判されているだけに、首相なりにわかりやすい説明を心がけたようだ。〉と書いているが、1兆円が平積みするとエベレストより高くなるとか、重さが100トンとなるとかいった問題ではなく、問題ではない以上、どうでもいいことで、なぜ毎年恒常的に1兆円ずつ増加していくのか、その原因・根拠こそが問題としなければならないはずだ。
このことを問題とせずに1兆円自体の高さや重さを言っても意味はない。1兆円には様々な問題を含んでいる。
だが、野田首相が問題とすべきことを問題とせずに意味もない喩えを持ち出したということは1兆円自然増という現状をそのまま追認する意識に立っていることを証明している。
1兆円自然増現状追認は年々の社会保障給付経費そのものの現状追認と相互対応していることを物語っている。後者の現状追認によって前者の追認は成り立つ
現状追認姿勢の上に社会保障政策を成り立たせようとしているということである。
2009年度(平成21年度)の社会保障給付費を《社会保障給付費 過去最高に》(「NHK NEWS WEB」/2011年10月28日 17時5分)から見てみる。
年金 ――51兆7246億円
医療 ――30兆8447億円
福祉その他――17兆2814億円
合計 99兆8507億円(過去最高)――前年度+5兆7659億円(+6.1%)
伸び率は平成8年度以降で最高だそうだ。
国民1人当たりの給付額――前年度4万6300円増の78万3100円。
高齢者への支払いは68兆6422億円。前年度5%増。社会保障給付費全体の69%
前年度+5兆7659億円(+6.1%)は前年のリーマンショックの影響で雇用情勢が悪化、失業給付など雇用関連の給付費が前年度の2倍以上の2兆5243億円に達したことが押し上げ要因だそうだ。
年金は当然の支払いだとしても、「医療」、「福祉その他」関連の給付に関しては高齢、景気・雇用状況、健康管理等の問題を当然としてはならない多くの問題を含んでいるはずだ。
例えば健康管理に関しては肥満人口は増減はあるものの全体として増加傾向を辿って、2009年の日本人の肥満割合は欧米程ではないにしても男性30.5%、女性20.8%となっている。平均25%とすると、3千万人以上が肥満で、肥満予備軍も加えると、相当な人数になるはずだ。
また2011年の日本の糖尿病人口は1,067万4,320人に上り、世界第6位にランクインしていると、「国際糖尿病連合」の統計として伝えている。
これも予備軍を加えたなら、相当な人数になるはずだ。
全体的な増加傾向は厚労省などが打つ対策が一定の抑制はできていたとしても、増加に歯止めをかけて減少に持っていくことができていないことの証明でしかない。
このことも関連した社会保障給付費の年々の増加ということであろう。
尤も社会保障給付費抑制策の1つとして生活保護受給者の無料となっている医療費から初診料1割負担の議論が行われているが、ここではそういった追加負担やその他の直接的カットを言っているのではなく、あくまでも年金を除いた社会保障給付対象となっている国民自身に可能な限り給付対象回避へ持っていく自助努力、あるいは給付対象となることを遅らせる自助努力の健康管理を求める政策を言っている。
いずれにしても年を追っても改まることのない健康管理の不備一つ取り上げただけでも、このことに対応して自然増を含めた「医療」、「福祉その他」関連の社会保障給付費総額に影響を与えていく。「福祉その他」関連に含まれる生活保護人口を左右することになるし、介護人口をも左右することになる。
高齢者に関して言うと、健康な高齢と病気がちな高齢とがあり、それを分ける原因の多くが健康管理に負っていて、年金以外の社会保障給付費の給付対象が病気がちな高齢ということであるはずだ。
こういったことは野田首相はビデオメセージで一切触れていないから、母校船橋高校同窓会挨拶でも触れなかったに違いない。
触れなかったということは自然増を含めた社会保障給付費総額についても様々な問題が含まれていて、各問題ごとに有効な解決策を見い出そうという姿勢ではなく、その解決策を消費税増税のみとしているということであり、このことからも野田首相が自然増を含めた社会保障給付費総額に対して現状追認意識に立っていることを証明できる。
要するに給付対象の本体に対して有効な手を尽くさずに現状のままに放置し、消費税増税を万能の解決策とする意図でいる。少なくともそういった姿勢を取っている。
この姿勢は安住財務相も野田内閣閣僚としてということからなのか、共有している《消費増税で対話集会 財務相「5%は第一歩」》(MSN産経/2012.2.18 13:04)
昨2月18日(2012年)午前の滋賀県長浜市での「社会保障と税の一体改革」に国民の理解を求めるための全国対話集会での発言。
安住財務相「5%の増税は第一歩。5%では国の借金を返すところまで行き切れず、借金が増えるペースを減らすだけだ」
消費税増税は5%では不足で、「借金が増えるペース」に合わせて段階的に増税していくということは消費税増税全面依存の社会保障制度対策の姿勢となっているということであろう。
要するに野田社会保障政策財源は国の社会保障制度への国民依存を可能な限り減ずる政策を取ることでも生み出そうとするものではなく、消費税増税に全面依存して、消費税増税で財源不足を追っかけるものだということである。
こういった構造の社会保障制度改革である点も、野田首相の認識能力不足の大いなる勘違いと言えるはずだ。
役に立つかどうか分らないが、参考までに、2010年11月21日記事――《社会保障費圧縮のための全国民対象の健康歴導入を - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》》