米海兵隊にとって沖縄とグアム、岩国等の地理的優位性は同格なのか

2012-02-07 11:47:45 | Weblog

 2006年に日米政府が「再編実施のための日米のロードマップ」で「約8000名の第3海兵機動展開部隊の要員と、その家族約9000名は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する」と合意した計画の見直しに着手、グアム8000人の内、3300名をハワイ、フィリピン、オーストラリア等の米軍拠点にローテーション方式で分散配置する検討に入ったとするニュースが流れたと思ったら、米政府はハワイ、フィリピン、オーストラリア等の米軍拠点に移転させる3300名の内、司令部要員1300名を米軍岩国基地への移転を日本政府に打診してきたと、今朝の各社のニュースが伝えていた。

 この海兵隊員8000名グアム移転は普天間飛行場の辺野古地域移設、その他の再編案と「統一的なパッケージ」と取り決められていたが、既に日米両政府は普天間移転の「パッケージ」を外すことで合意した(沖縄タイムズ)という。

 野田政権がいくら普天間の固定化はないと否定しても、固定化の懸念が生じることになる。このことを避ける唯一の方法は普天間基地の兵力をすべて「県外・国外」への移転を図ることであろう。

 計画見直しの海兵隊移転を簡略化してみる。

 沖縄の海兵隊――1万名程度維持(当初計画どおり)
 国外移転  ――8000名。

  国外内訳 4700名――グアム移転(当初8000人移転予定)
       2000名――ハワイ、フィリピン、(オーストラリア)等一時的駐留
       1300名――(司令部要員)米軍岩国基地への移転

 日本政府は沖縄に米海兵隊を維持する根拠として中国や北朝鮮に対する沖縄の地理的優位性を挙げてきた。地理的優位性が米海兵隊の機動性と即応性をより担保するということである。

 だが、2006年に沖縄に1万名程度残すと言っても、ほぼ近い数字の8000名グアム移転を取り決めた時点で沖縄の地理的優位性は差し引かれて、グアムとほぼ同格となったはずだ。

 米政府が沖縄の地理的優位性を捨ててまでグアムに移転させることはあるまい。地理的優位性を損なうことはないとの計算のもと、8000名の移転に同意したはずだ。機動性と即応性はさして変わらないと見た。

 だが、民主党政権となっても、地理的優位性を米海兵隊の沖縄駐留の根拠とした。

 防衛省が2010年2月に公表した「在日米軍・海兵隊の意義及び役割」で、「在沖米海兵隊の意義・役割」の根拠として、「地理的特徴を有する沖縄に、高い機動力と即応性を有し、様々な緊急事態への一次的な対処を担当する海兵隊をはじめとする米軍が駐留していることは、我が国及びアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与」すると謳っている。

 沖縄が「地理的特徴を有する」とは地理的優位性の言い替えであろう。

 当然、民主党政権の防衛大臣や外務大臣はこの上記認識に従うことになる。いや、内閣自体が従うことになる。

 北澤防衛相は2011年5月に沖縄に訪問、仲井真沖縄県知事にこの防衛省作成のパンフレット「在日米軍・海兵隊の意義及び役割」を手渡している。

 手渡すと同時に、書いてある内容をほぼなぞる形で口頭でも伝えたはずだが、書いてあるとおりに沖縄には米海兵隊が必要ですよという意思表示であったはずだ。

 そして玄葉外相、昨年(2011年)10月19日に沖縄県名護市役所を訪れ、稲嶺進市長と約30分間会談。

 玄葉外相「日本の安全保障環境が厳しさを増す中、沖縄の地理的優位性は重要だ。(辺野古に移設する)日米合意の進展が私たちの基本的立場で、全力で沖縄の負担軽減にも取り組む」

 稲嶺市長「素直にようこそとは言えない心情だ。日米合意の見直しをぜひ米国に進言してほしい」(以上毎日jp

 この場面は民主党政権の終始一貫した「沖縄の地理的優位性」表現の一端でしかない。

 外相経験の前原民主党政調会の場合は沖縄の米海兵隊の必要性への言及として、2011年9月25日次のようにテレビで発言している。

 前原外相(日米同盟は)「日本の安全保障だけではなく、この地域(アジア・太平洋地域)全体のための公共財なんだ」

 いわば沖縄の地理的優位性はアジア・太平洋地域全体の公共財としての一つの重要な要素だということであろう。

 そしてここに来て米政府はハワイ、フィリピン、オーストラリア等の米軍拠点に移転させる3300名の内、司令部要員1300名を米軍岩国基地へ移転させたいと日本政府に打診してきた。

 司令部は実働的戦闘部隊ではない。だが、海兵隊戦闘部隊の機動性・即応性は司令部の兵力展開に関わる指揮・命令に大きく負う。菅内閣に於いては司令塔である菅首相の指導力・指揮命令能力が大きく破綻していたために実働部隊である内閣が満足に機動性・即応性を発揮できず、福島原発事故対応に関しても震災対応に関しても遅れや混乱、矛盾を生じせしめた。

 いわば米政府は司令部の岩国基地分散が海兵隊の展開にさしたる障害はないと見ていることになる。

 と同時に海兵隊戦闘部隊の機動性・即応性が司令部の兵力展開に関わる指揮・命令に大きく負う以上、沖縄に集中させていた機動性・即応性のグアム分散、ハワイ、フィリピン、オーストラリア分散の上になお一層の分散と考えることができる。

 この分散は沖縄の地理的優位性の相当部分の抹消を意味しているはずだ。沖縄の地理的優位性をグアムと同格としたばかりか、岩国とも同格としたことになる。

 別の言葉で表現すると、沖縄が担ってきた地理的優位性はグアムとハワイ、フィリピン、オーストラリア、そして岩国、さらに沖縄を加えた全体で負担可能であるとしたことになる。

 決して沖縄は地理的優位性の点で絶対的に欠かすことのできない安全保障上の存在ではなかった。

 沖縄に残す1万名程度の海兵隊員を岩国移動の司令部1300名と同時に岩国か、岩国でなければ、九州や中国地方の他の米軍基地、あるいは自衛隊基地へ移動させても、米海兵隊の展開能力を現在以上に向上させる司令部の指揮・命令能力の確保、さらに展開を補助する艦船・航空機の運用能力の向上という条件付きではあるが、沖縄で確保していた地理的優位性の代替措置とすることは可能なはずだ。

 普天間の固定化を避けるためにも決して不可能としてはならない。菅仮免は「沖縄の基地負担は日本全体で考えるべき問題だ」と言いながら、それを裏切って沖縄の地理的優位性を固定観念としてきた。

 そろそろ固定観念から解き放たれてもいい時期に来ている。

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