安倍晋三が9月13日、東京開催の「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」でスピーチを行った。英語名は「World Assembly for Women in Tokyo」だそうで、略称「WAW! Tokyo 2014」だそうだ。私と同じ英語オンチの人のためにも辞書を調べたところ、「 Assembly」は「会議、議会」の意味で「World Assembly」は世界会議ということになる。
日本では横文字と英会話力の関係は比例していない。このいびつな関係が安倍晋三のスピーからも窺うことができた。
「女性の活躍」とか、「女性の社会参加」といったマスコミ報道となると決まってのように参考に供せられる「管理職女性比率の国際比較」は2012年調査で韓国の11.0とほぼ並んで日本11.1、第1位フィリピン47.6、第2位アメリカの43.6の4分の1程度、先進国中最下位となっている。
マレーシアが先進国と言えるのかどうか分からないが、その21.5の半分以下である。
また、「NHK NEWS WEB」が9月12日(2014年)の報道で、安倍晋三のこの会議でのスピーチに関連させて日本が男女の格差の点で順位を下げたことを伝えている。
世界の政治や経済界のリーダーが集まる「ダボス会議」の主催で知られるスイスの研究機関「世界経済フォーラム」の2013年調査だそうだ。
調査対象136カ国中日本は名誉の105位。3年連続の順位低下。
日本に対する評価。
教育・健康面で男女間格差は殆どなし。
経済や政治の分野に於ける賃金、管理職への登用の機会、閣僚起用の機会の点で男女間格差が大きい。
記事は今年2014年のOECD=経済協力開発機構の「雇用に関する報告書」も伝えている。
男性の正規雇用割合が多いのに対して逆に女性の非正規雇用割合が多い男女間格差を指摘、女性の雇用条件を改善すべきだと提言しているという。
この程度の日本の女性の活躍しか、あるいは女性の社会参加しか許されていない日本では男性中心が現状であることを前提にして安倍晋三のスピーを聞かなければならない。スピーチ全文は「WAW!Tokyo 2014 ハイレベル・ラウンドテーブル」 安倍晋三首相スピーチ」を見て頂くとして、日本の現状を超えて世界に大風呂敷を広げているに過ぎないと窺うことのできる文言のみを拾い上げてみる。
安倍晋三「女性が輝く社会を作る。ちょうど1年前、国連総会の場で、私はそうお約束をいたしました。この「WAW!」は、そのお約束を実現するための第一歩です。
日本は約束を守り、行動する国です。女性が置かれている状況は国によって様々だと思います。しかし、今日、ここに集う皆さんは、女性にとって、未来をもっと明るくしたいという共通の思いを抱いておられるはずです。この場を、知恵を共有し、解決策を見出すスタートとしていきたいと思います。
――中略――
世界を見渡すと、女性に生まれたというだけで、自立する機会を奪われ、医療ケアや教育など基本的なサービスを受けられない、という悲しい状況が未だに見られます。また、紛争下では、女性の名誉と尊厳が深く傷つけられた歴史があります。
深刻な反省のもとに、21世紀こそ女性に対する人権の侵害のない世界にしていく。この決意を皆さんと共有したいと思います」
安倍晋三は「日本は約束を守り、行動する国」だと宣言した。では、どのように約束を守り、行動しようとしているのか、スピーチから見ていかなければならない。
「21世紀こそ女性に対する人権の侵害のない世界にしていく」という言葉から見て取ることのできる約束と行動は男性主導意識満々の“女性が輝く社会”以外の何ものでもないはずだ。
女性と平等に肩を並べた男女共導による「女性に対する人権の侵害のない世界」を目指すとするなら、「世界にしていく」という言葉は使わずに、「世界を共に築いていく」といった言葉を使ったはずだ。
「~にしていく」という言葉は自身(=男性)を主体に位置づけた言葉だからだ。
安倍晋三「パキスタンの農村に、10歳から12歳の女子の就学率が1割にも満たない地域がありました。我が国の支援で、女子学校などの整備を行い、女子学生が学校に通いやすい環境づくりを進めています」
安倍晋三「今年の1月、私はコートジボワールで女性向けの職業訓練施設を訪問しました。日本から贈られたミシンで、裁縫を学び、華やかな色の洋服やカバンを作っていました。誇らしげに完成した作品を見せてくれたキラキラした瞳と笑顔が今でも忘れることができません。
ケニアでは、スラムのお母さんたちが作るフェルトのぬいぐるみが大ヒット商品になっているそうです。若くしてシングルマザーになる例も多い。日本の女性、菊本照子さんは、職業訓練工房を立ち上げ、ぬいぐるみ作りを教え始めました。今はお母さんたちが自ら材料を購入し、帳簿付けまで行っているということです。デザインにも斬新なアイデアが生まれているそうです。
世界の女性が技術を習得し、そしてそれを生かして家計を助け経済的に自立するお手伝いをする。我が国は、女性の皆さんの挑戦を引き続き世界のあちこちで応援していきたいと思います」――
発展途上国への支援は確かに必要であり、先進国はその義務と責任を負っている。先進国は貧しい国からの一種の搾取で富を成り立たせてきているからだ。安い人件費を利用して安価な製品を作り、それを世界で売り捌いて、安い人件費と製造にかけたカネに倍する利益を上げる構造を取っている。
だが、女性の自立と社会参加――女性の社会の活躍という点で日本は範を垂れなければならない。範を垂れることができないまま、金銭的支援をして女性の自立や社会参加を言うのは自分たちができないことをカネだけ出すことで、さも日本では女性の自立も女性の社会参加も問題ないと見せかける詐術を併行させていることになる。
実際、安倍晋三の何々をしていく、あれもしました、これもしたといった約束と行動満載のスピーチからは日本の男女間格差も、世界と比較した男女間格差も何ら存在しないかのようだ。
範を垂れることができて初めて、女性の自立や女性の社会的活躍に関して海外に移行できる文化や形態を持つことになって、単にカネを出すということで終わらずに、出したカネに幾重ものプラスアルファの説得力を持たせることができるし、目的に実効性を備えさせることも可能となる。
だが、現実の日本は女性の自立にしても、社会参加にしても、とてもとても範を垂れることはできない貧弱な状況にある。
にも関わらず、安倍晋三はこのことを無視して世界に向けて女性の自立と社会参加を説く。海外の女性の自立と社会参加のためにカネを出した、これをしたと広言している。
世界に範を垂れることができるように先ずは日本で女性の自立と社会参加を確立すべきを確立しないままに世界に向けて女性の自立と社会参加を言うのは、まさに日本を超えて世界に大風呂敷を広げたに等しい。
日本で確立できていない以上、カネを出すことが海外の女性の収入の増加には役立っても、単にそれだけのことで終わって、安価な労働力としての価値は維持できるものの、女性の自立や社会参加にまで発展しない金権外交ということになる。
このことは生活はそれ相応に成り立たせることができていることに反した日本の女性の自立と社会参加の現況が証明している。
かつて日本は海外に会社や工場を設立するとき、トップや上層部をいつまでも日本人で占め続けた。いわば日本人は現地人を労働力としての価値しか認めなかった。
このことに反して欧米の企業はトップや幹部にまで現地人を就けた。労働力に限定する価値を超えた採用方法を採った。このことが現地の人間にとって会社経営のノウハウを学ぶことに非常に役立ったはずだ。結果、国の発展につながっていく。
いわば欧米各国は本国経営の企業で採用しているのが外国人であっても、能力が優秀であるなら幹部やトップに採用する経営形態・経営文化を確立していたから、海外設立の会社や工場にも現地人をトップや幹部に採用する経営形態・経営文化を移行させることができた。
繰返しになるが、日本が女性の自立と社会参加を確立しないままに海外にカネだけ出しても、女性の自立と社会参加に関わる移行できる文化も形態も持たないから、カネを出すだけで終わるだろうということである。
まさに大風呂敷を広げただけの安倍晋三のスピーチだった。
この記事の冒頭、〈日本では横文字と英会話力の関係は比例していない。このいびつな関係が安倍晋三のスピーからも窺うことができた。〉と書いたのは、国内に於ける女性の自立や社会参加の貧弱な状況を正直に反映させていない、女性の自立と社会参加にさも力があるかのように見せかけた国外向けの情報発信が、横文字と英会話力の関係でのいびつさをそのまま反映させているように思えたからである。
安倍晋三はスピーチの最後を「Thank you very much」と英語で締めくくったが、スピーチの中身の空疎さと比較すると、何となく象徴的である。