安倍晋三が9月29日午後2時から衆議院本会議で所信表明演説を行った。
記事が他の野党代表と共に小沢一郎生活の党代表の評価を伝えていた。
小沢代表「安倍総理大臣の演説は言葉は踊っているが、地方の活性化を図るために、具体的に中央や地方の行政の制度をどのように変えるのかや、女性の活躍を進めるために、雇用環境をどう変えていくのかなどが全く見えない。言葉の羅列に終わっており、これでは何も進まない」(NHK NEWS WEB)
小沢代表の評価が当たっているかどうか見てみる。
演説内容は【安倍首相所信表明演説全文】(MSN産経/2014.9.29 15:30)に拠った。リンクはその(1)のみ。
冒頭、9月27日昼の御嶽山の噴火に触れて、被災死者に哀悼の意を表し、被災者に御見舞を述べている。次いで「平成26年8月豪雨」を受けた広島の大規模な土砂災害を初めとした全国各地の同様の災害で生じた死者に冥福の祈りを捧げているが、広島の土砂災害では同じ地域で死者が出ている過去の土砂災害やその地域の土質等を情報として把握していなければならなかったはずだから、当然死者が出ることを予想しなければならなかったにも関わらず、ゴルフをしていたのだから、哀悼の意やお見舞いの言葉、冥福を述べる資格はない。
要するに言葉を踊らせたに過ぎない。
次いで「福島の復興の加速化」を誓っている。
「福島は、今、実りの秋を迎えています。先日訪れた広野町では、復興を成し遂げた水田に、黄金色の稲穂が輝いていました」
「災者の皆さんの『心』の復興にも、大きく力を入れてまいります。仮設住宅への保健師の巡回訪問、子供たちが安心して遊べる居場所づくりなど、被災者の方々の心に寄り添いながら、きめ細かく、丁寧な取り組みを進めます。
7月に宮城の東松島で出会った安部俊郎さんは、地域の人たちとともに、地域に根付いた農業を進めています。農地の集積、多角化、6次産業化。それによって、農業者の所得を増やし、地域のにぎわいを創出する。私たちが目指す『攻めの農業』の姿が、ここにあります。震災で壊滅的な被害を受けた大地から、最先端の農業が花開こうとしています。」
“実り”が一方にあるのに対してもう一方で復興から取り残された被災者が多く存在する。《復興の状況と最近の取組み》(復興庁/2014年3月版)から見てみる。
被災3県の避難者は2014年3月時点で未だ27万人も存在する。安倍晋三は「実りの秋」と言い、「地域に根付いた農業」に触れているが、「津波被災農地に於いて営農再開が可能となった面積の割合」は平成26年7月時点で63%、来年の平成27年5~6月時点で70%の見込み・予定となっていて、100%の見込み・予定は平成28年度末にズレ込む。
しかも特に福島の農水産品に対する風評被害は未だ強く残っていて、国内ばかりか、海外に於いても40個所にも及ぶ国・地域が現在でも放射性物質の検査証明書の義務づけを行い、12カ国・地域が農水産品の一部輸入停止措置を実施していると「MSN産経」(2014.3.2 12:57)記事が伝えていた。
放射能検査をして問題無いとした産品を国内市場・輸出市場に出していながら、政府は決定的な打開策を見い出すことができないでいる。安倍晋三は後の方で、「総理就任以来、49カ国を訪問し、延べ200回以上の首脳会談を行いました」と言い、それを以て「地球儀を俯瞰する外交」と例の如くに自慢しているが、安全・安心を納得させることができないのだから、何のための49カ国訪問、延べ200回以上の首脳会談なのか分からない。
結局のところ、一部の成功を全体的な成功であるかのように言葉を踊らせたに過ぎない。
次は「地方創生」についての言及である。日本の地方をこうまでも衰退させたのは自民党政治である。自民党の有力政治家が利益誘導で散々に地元に立派な橋や立派な道路、立派な施設を建て、それを日本の政治の文化・伝統としてきた。その成果が地方の衰退であった。
自民党政治の何が悪かったのか、検証も反省もせずに「地方創世」を言う。
「東洋文化の研究家であるアレックス・カーさんは、徳島の祖谷に広がる日本の原風景をこう表現しました。鳴門の渦潮など、風光明媚な徳島県では、今年の前半、外国人宿泊者が、前の年から4割増えています。」
「昨年度、沖縄を訪れた外国人観光客は過去最高となりました。『アジアの懸け橋』たる沖縄の振興に全力で取り組み、この勢いをさらに発展させてまいります」
地方の衰退という日本の全体的な現実からしたら、部分的な成果を全体的な成果と見せかけて言葉を踊らせているに過ぎないはずだ。
沖縄訪問の外国人観光客が過去最高となったことを誇っているが、来春の高校生の求人倍率は1.28倍 沖縄0.49倍、青森0.61倍、鹿児島0.63倍。
今年6月の有効求人倍率は全国平均1.10倍。およそ22年ぶりの高い水準ということだが、 沖縄県0.68倍。7月の有効求人倍率は1.10倍 最も低いのが沖縄県で0.71倍。
26年度の地域別最賃の引上げは全国平均16円で、最低賃金額の全国加重平均は780円ではあるが、沖縄は全国平均引き上げ額16円を下回る引き上げ額13円で、全国加重平均の780円を13円下回る677円、長崎や熊本等と肩を並べて全国最低額となっている。
最低賃金は他の賃金と相互反映の関係にあるから、最低賃金が全国最低ということは全体的な生活規模もかなり制約されていることになる。2012年の沖縄の平均年収は全国平均473万円に対して134万も低い339万円となっている。
徳島の祖谷みたいに風光明媚な景色に恵まれている土地ならいいが、一方に恵まれていないその他多くの過疎地が存在する。だからこその限界集落の増加であって、部分的成功で以って、決定的にその他多くの成功していない地域を覆い隠すレトリックに過ぎない。
外国人観光客の絶対的多数が東京や京都、北海道の札幌等々、有名観光地に殺到しているはずだ。
工夫が足りないという問題ではない。工夫して少しは集めることができても、絶対多数は人間の習性として伝統的に人が集まるところに向かう。
だからこそ、東京一極集中が成り立つ。
このことを考えると、以下の言葉も部分的成功は期待できても、全体的成功への波及は悲観的とならざるを得ない。
「鳥取・大山の水の恵みを生かした地ビールは、全国にリピーターを広げ、売り上げを伸ばしています」
「隠岐の海に浮かぶ島根県海士町では、この言葉がロゴマークになっています。都会のような便利さはない。しかし、海士町の未来のために大事なものは、全てここにある、というメッセージです。 この島にしかない」ものを生かすことで、大きな成功を収めています。
大きな都市をまねるのではなく、その個性を最大限に生かしていく。発想の転換が必要です。それぞれの町が、『本物はここにしかない』という気概を持てば、景色は一変するに違いありません。
島のサザエカレーを、年間2万食も売れる商品へと変えたのは、島にやってきた若者です。若者たちのアイデアが、次々とヒット商品につながり、人口2400人ほどの島には、10年間で400人を超える若者たちがIターンでやってきています」――
若者をIターンで受け入れる素地が全くない、限界集落、あるいはそれに近い地域はいくらでもあるはずだ。
「今が旬のサンマは、ベトナムではトマト煮が大人気。北海道の根室から輸出されています。
地元の漁協や商工会議所の皆さんによる一体となった売り込みが、『根室のサンマ』を世界ブランドへと発展させました。『北海道の根室』から『日本の根室』へ。さらには『世界の根室』へと。地方も、オープンな世界に目を向けるべき時代です」
金字塔を打ち立てた根室の成功として語り継がれることになるだろう。だが、2011年の水産物輸入量269万トン、輸入金額1兆4547億円に対して同水産物輸出量42万トン、輸出金額1741億円の、あまりにも酷過ぎる輸入超過となっている。
この偏り過ぎた輸出入関係を是正する政策を語るべきだろう。語らずに一部の成功物語を語り、さも全体的な成功物語であるかのように見せかけている。
正味、言葉を踊らせているだけということになる。
「就任後、主要国で最初に、日本を訪問してくださった、インドのモディ首相から、わが国が掲げる『積極的平和主義』について、強い支持を得ることができました。
わが国は、米国をはじめ、自由や民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と手を携えながら、世界の平和と安定にこれまで以上に貢献してまいります。
その上で、いかなる事態にあっても、国民の命と平和な暮らしは守り抜く。その決意の下、切れ目のない安全保障法制の整備に向けた準備を進めてまいります」――
「国民の命と平和な暮らしは守り抜く」は外敵や自然災害から守るという安全保障面からのみを言うのではなく、日常的に安心して暮らすことができる生活環境の提供としての生活の安全保障も入る。だが、非正規社員の増加、子どもの貧困の拡大、教育格差の広がり、未婚人口の増加、景気回復に反する実質賃金の低下等々、満足な命と満足な暮しに恵まれない多くの国民が存在し、増加傾向にある。
当然、「国民の命と平和な暮らしは守り抜く」という言葉は国民の現実を裏切っていることになる。政権を担っていた当時の民主党政治を「裏付けのない『言葉』だけの政治」と批判しているが、自身も犯している「『言葉』だけの政治」であって、要するに言葉を踊らせているに過ぎない。
「先週ニューヨークで、ヒラリー・クリントン前国務長官と再会を果たしました。
『前進あるのみ!』
『女性が輝く社会』を目指す、安倍内閣の挑戦に、昨年、ヒラリーさんが、力強いエールを送ってくれました。
日本から、世界を変えていく。今月、日本で初めての、女性をテーマとした国際会議を開催し、世界から、活躍している女性の皆さんにお集まりいただきました。日本社会が本当に変わるのか。今や、世界が注目しています」――
高学歴女性就業率はOECD加盟中日本31位。2013年の国際男女格差は日本は105位。2011年の女性管理職の割合は11.1%。先進国最低水準であるにも関わらず、「女性が輝く社会」を「日本から、世界を変えていく」と大ミエを切っている。
足元の日本を変えなければならないのに、変えもしないうちに、そのノウハウはないのだから、世界を変えることはできない。できるのはカネを出すことぐらいだろう。
冷静に足元を見るだけの客観的認識能力さえ持ち合わせていないのだから、単に言葉を踊らせて大風呂敷を広げたことと何ら変わらない。
「有効求人倍率は、22年ぶりの高水準となり、就業地別では、35の都府県で、仕事の数が求職者の数を上回っています。
この春、多くの企業で、賃金がアップしました。連合の調査で、平均2%を超える賃上げは過去15年間で最高です。中小企業・小規模事業者でも、1万社余りの調査において、65%で賃上げが実施されています。
頑張れば、報われる。日本は、その自信を取り戻そうとしています」
既に触れたように有効求人倍率は地域によって格差があり、実質賃金は下がり続けている。格差の拡大を受けて頑張っても報われない国民が多く存在する。そのことに言及せずに、一部の良い状況だけを見て、「頑張れば、報われる。日本は、その自信を取り戻そうとしています」と言う。
最初から最後まで部分的成功をさも全体的成功であるかのように大風呂敷を広げた発言で成り立たせている。
客観的認識能力を書き、言葉を踊らせることしかできない一国のリーダーにまともな政治を求めることはできない。