安倍内閣は北朝鮮の拉致解決の本気度をどう見ているのだろうか

2014-09-28 11:30:39 | Weblog


 金正恩が父親金正日の独裁権力を、それを構成していた側近たち共々引き継いで自らの独裁権力を成り立たせている以上、例え側近たちの権力闘争からそのメンバーの入れ替えが多少はあったとしても、基本のところで独裁権力を実質的に支えているのは側近たちであり、名目上は独裁権力の正統性を親子三代に亘る継承に置いている関係から、その継承を正義として正統づけるためには特に直近の権力移譲者である金正日の権威と正義を些かでも傷つけることがあってはならない制約を金正恩は常に受けている。

 当然、日本人拉致の首謀者が金正日である以上、その解決は金正恩の権威と正義に直結する金正日のそれらを絶対的に死守する線で行われることになって、もし拉致被害者の中に拉致が金正日の指示や命令であることを知り得る立場にいたなら、帰国も表に出すことも許されないことになる。

 と言うことは、2002年9月に金正日が日本人13人の拉致を認め、その後5人が帰国を果たしたということは拉致が金正日の指示や命令であることを知り得ていなかった5人と見做さなければならない。

 事実、5人の口から拉致が金正日の指示・命令であると直接的に知り得た情報として出ていない。

 残る8人(日本政府は現在、拉致被害者を12人と認定している)は死亡したとされたが、死亡の証明に様々な矛盾が存在するばかりか、各方面からの証言から8人のうち何人かは生存している可能性が指摘されている。

 もし事実生存していながら帰国を許されないのは、5人とは反対に金正日の指示や命令であることを知り得る立場にいた8人と見なければならない。

 帰国させれば喉から手が出る程に欲している経済援助をそれなりに手に入れることができるにも関わらず、そうしないのは帰国させることによって拉致被害者の口から拉致が金正日の指示や命令であることが露見した場合、金正日の権威と正義が損なわれて、そのことが金正恩の権威と正義ばかりか、父子権力継承の正統性そのものが否定されかねない事態に発展しないとも限らない。いくら喉から手が出る程に欲していたとしても、経済援助の蜜を取るか、父子権力継承の正統性否定の危険を取るか迫られたなら、前者を無視する以外に道はないはずである。

 正しい見方かどうか分からないが、北朝鮮側が拉致問題は解決済みという態度を取って、残された拉致被害者が帰国を果たせないのは北朝鮮側にそうしなければならない何らかの重大な理由があると見なければならない。

 ところが北朝鮮は今年5月26日から3日間、スウェーデンのストックホルムで日朝政府間協議開催に応じた。3日間の協議終了後、マスコミは 「拉致再調査、合意至らず」と報じたが、5月29日、安倍晋三が首相官邸で記者団に発言している。

 安倍晋三「日朝協議の結果、北朝鮮側は拉致被害者および拉致の疑いが排除されない行方不明の方々を含め、すべての日本人の包括的、 全面調査を行うことを日本側に約束した。その約束に従って『特別調査委員会』が設置され、日本人拉致被害者の調査がスタートすることにな る」(NHK NEWS WEB

 最初の疑問は「包括的全面調査」が完全解決に直結するのかどうかということである。今まで帰国させることができなかった理由が拉致が金正日の指示や命令であることを知り得えていたからだとしたら、完全解決は金正日の権威と正義を損なう危険を伴う。その危険が実際に発生した場合、金正恩自身の権威と正義に直接的に跳ね返って同じように損なわない保証はない。金正恩自身、そのような危険を冒すだろうか。

 どのように進展していくか見守っていたら、北朝鮮を訪問し、北朝鮮でプロレス大会を開催、要人とも会談したアントニオ猪木が9月2日夜帰国、羽田空港で記者会見した。

 アントニオ猪木「私の勘ではありますけど、向こう(北朝鮮)は落としどころを殆ど準備できている。あとは日本の受け入れ態勢がどうなっているか。宴会では下ネタを交えながら、きわどい再調査の名簿の話もした」(スポーツ報知

 「私の勘ではありますけど」と断っているが、「落としどころを殆ど準備できている」と言っている以上、そのような印象を受けたからだろう。だが、完全解決は北朝鮮側が果たさなければならない、単独で担うべき責任であって、落としどころを探って決める解決とは、日朝双方が話し合って双方共に異論のない妥協点を見い出す、日朝双方が担うことになる責任となって、断るまでもなく、完全解決とは似ても似つかない非なるものとなる。

 ここに北朝鮮側の拉致解決の本気度を見る気がした。

 但しあくまでもアントニオ猪木の「勘」に過ぎないとするなら、このことは無視しなければならない。

 だが、次第に雲行きが怪しくなってきた。

 北朝鮮は最初の調査報告を今年の夏の終わりから秋の初めとしてきたが、菅官房長官は9月19日の記者会見で、再調査は全体で1年程度を目標としており、現在はまだ初期段階にあって、現時点でこの段階を超えた説明を行うことはできないと連絡が来たことを明らかにした。

 北朝鮮は自らが明かした残る8人を死亡した等の理由をつけて帰国させないのは拉致が金正日の指示や命令であることを知り得る立場にいたからではないかと疑うことができる以上、監禁や自宅軟禁、あるいは監視等の方法で拉致被害者自体の所在を把握していないことはない。例え誰一人金正日の指示や命令であることを知り得ていなかったとしても、だとすると、帰国させない理由が不可解となるが、自由の身であることを認めて野放しの状態に置いた場合、拉致されたことを誰かに喋りかねない危険や脱北を決行しかねない危険を抱えることになる。

 以上の理由から拉致被害者の所在を把握しているはずだし、菅官房長官も上記9月19日同記者会見で「拉致された方について北朝鮮トップは全て掌握していると思う。誠意を持って対応してほしい」(MSN産経)と発言している。

 にも関わらず、最初に約束した調査報告書の提出時期を先延ばしにして、1年程度を目標とするとした。拉致解決の本気度を疑わないわけにはいかない。

 確実に言えることは、北朝鮮側の拉致再調査開始に合わせて日本政府が制裁を一部解除したことによって受ける北朝鮮側の恩恵を正式な報告書提出まで1年程度そのまま受け取ることができることになるということである。

 ところが、菅官房長官が調査は初期段階だと北朝鮮が伝えてきたとした記者会見発表には北朝鮮の拉致解決の本気度をまさに占うことのできる別の事情が存在していたことを知らせる記事がある。

 《北朝鮮、初回報告は特定失踪者 拉致は「調査中」、日本拒否》47NEWS/2014/09/21 02:00 【共同通信】)

 記事を纏めると、日朝関係筋が9月20日に明らかにした事実として、9月中旬、北朝鮮は再調査に関して拉致の疑いが拭えない特定失踪者と、残留日本人、日本人配偶者の安否情報に限って初回報告に盛り込む考えを日本側に示し、日本政府認定の拉致被害者12人については「調査中」として具体的な情報の提示がなかった。

 対して日本側は12人に関する新たな情報が含まれない限り、報告を受け入れることはできないとして拒否した。

 この日本側の拒否を受けて、北朝鮮側は再調査は全体で1年程度を目標としていて、現在はまだ初期段階だと体裁を繕ったということなのだろう。

 拉致被害者の所在を把握しているはずなのに、日本政府認定の拉致被害者12人の調査結果を「調査中」として初回報告に含まなかった。

 北朝鮮の拉致解決の本気度を示す姿勢を見ないわけにはいかない。

 記事は末尾で次のように解説している。〈日本政府は、北朝鮮が経済的な見返りを得るため、情報を小出しにする駆け引きの姿勢を強めたと分析。拉致被害者12人の調査を最重視する構えだ。〉――

 果して北朝鮮は〈経済的な見返りを得るため、情報を小出しにする駆け引き〉を行っているのだろうか。アメリカの承認という条件をクリアしなければならないが、12人の全面解決、全員帰国を一挙に果たしさえすれば、少なくない、相当な「経済的な見返り」がアメリカが反対したとしても、少なくとも約束されることになって、将来的ないつの日か実行に移されることになる。

 例え経済的な見返りが先延ばしにされたとしても、日本独自のその他の制裁の解除を拉致解決の見返りとすることで報いることになるだろう。例えば万景峰号の入港禁止措置の解除等が考えられるが、北朝鮮に少なくない利益をもたらすはずだ。

 だが、今までと同じように拉致解決を先延ばしにしている。日本でこれで拉致は全面解決だと期待する機運が盛り上がっているにも関わらず、こうまでも先延ばしにする合理的な理由は拉致被害者が金正日の指示や命令で拉致が引き起こされたと知り得ているためとする以外に考えることができない。

 そのために拉致解決の本気度を示すことができないのだとすると辻褄が合う。

 尤も知り得ていない拉致被害者が何人か存在したなら、全員帰国を避ける交渉を行い、巧妙に妥協点を見い出して何人かは帰国を果たすことができるかもしれない。それがアントニオ猪木が言った「落としどころ」ということなのかもしれない。

 このことは北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使の9月27日の対記者団発言が証明してくれる。日本との政府間協議に出席するために協議開催地の中国・瀋陽に到着したときの発言である。

 宋大使「日本で我々の考えと合わない報道がたくさん出ている。協議で日本側の立場を確認したい」(MSN産経

 日本政府は拉致被害者12人の調査と全員帰国を最重視している。そのことは北朝鮮側に伝えているはずである。

 日本政府が拉致の真相まで求めたとしても、北朝鮮は拉致実行犯が誰であるかはいくらでも誤魔化すことができて、全員帰国を以て拉致の全面解決とすることができる。当然、「日本で我々の考えと合わない報道がたくさん出」ることにはならない。

 出るとしたら、日本側が全面解決としている思惑と北朝鮮側が全面解決としている思惑に大きな違いがあるから、北朝鮮側から見た場合、北朝鮮側と考えが合わない報道となっているということであろう。

 例え帰国させることができない事情が何であれ、北朝鮮側の姿勢からは拉致解決の本気度を見い出すことはできない。安倍晋三以下、どう見ているのだろうか。安倍晋三は「対話と圧力の姿勢を維持しつつ、調査の進捗を見極めていきたい」(NHK NEWS WEB)とばかり言ってはいられない。

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