韓国市民団体の元慰安婦聴き取り調査の映像公開と公開に対する菅官房長官の不快感から考えたこと

2014-09-20 09:49:59 | Weblog


 このブログ記事は2014年9月6日当ブログ記事――《安倍政権の「河野談話」作成過程と同じ構造を取った従軍慰安婦強制性否定とその検証に見るインチキの数々 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》とテーマの点でほぼ重なる。

 にも関わらず、同じようなテーマで再び記事にするのは韓国の市民団体「太平洋戦争犠牲者遺族会」が9月15日、日本政府が行った元慰安婦の聴き取り調査の映像の一部を公開したのに対して菅官房長官が示した不快感に正当性を見い出すことができなかったからであり、上記記事の不足を補う意味もあるからである。

 公開した映像は約17分の長さで、日本政府の担当者らが通訳を介して元慰安婦の証言を書き取る様子などが映っていると、「NHK NEWS WEB」が伝えている。

 但し、この聞き取り調査の映像自体、日韓で非公開の約束をしたものである。『慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯』と題した「河野談話作成過程検証報告書」には次のように記述されている。

 〈4 元慰安婦からの聞き取り調査の経緯

     ・・・・・・・

(6)最終的に,遺族会事務所での聞き取り調査は1993年7月26日に始まり,当初は翌27日までの2日間の予定であったが,最終的には30日まで実施され,計16名について聞き取りが行われた。

 日本側からは,内閣外政審議室と外務省から計5名が従事し,冒頭で聞き取りの内容は非公開である旨述べて聞き取りを行った。元慰安婦の中には淡々と話す人もいれば,記憶がかなり混乱している人もおり,様々なケースがあったが,日本側は元慰安婦が話すことを誠実に聞くという姿勢に終始した。また,韓国政府側からは,聞き取り調査の各日の冒頭部分のみ,韓国外務部の部員が状況視察に訪れた。〉――

 「太平洋戦争犠牲者遺族会」の聞き取り映像公開はこの非公開の約束を破るものだが、日本側が非公開としたこと自体に胡散臭さを感じる。

 この遺族会が非公開の約束を承知していて、それを破ったことについて、〈「最近、日本側が河野談話を傷つけようとしている」ためだと主張し、日本政府の姿勢によっては、さらに映像を公開するとしてい〉ると、上記記事は伝えている。

 韓国外務省報道官(9月16日の記者会見)「民間団体が公開したことであり、外務省が話す事柄ではない。(但し)これまで公開せず、今、公開することになった背景を考える必要がある」(同NHK NEWS WEB」

 この「背景」とは、最近の安倍内閣の「河野談話」否定の動き、朝日新聞の「吉田証言」に基づいた過去の記事に対する攻撃のことを指し、公開はそのような背景への反論という意味づけもあるはずだ。

 公開したことについての菅官房長官の不快感の表明。《「慰安婦聞き取り映像公開「理解に苦しむ」 菅官房長官が不快感》MSN産経/2014.9.16 18:17)

 菅官房長官(9月16日記者会見)「一部だけを公開したことは理解に苦しむとともに大変遺憾だ。聞き取り調査は非公開を前提に行われ、内容の公開は慎重であるべきだと考えている」

 記事解説。〈慰安婦の聞き取り調査報告書については、産経新聞が入手した資料によりずさんな内容だったことが明らかになっているが、政府は「非開示」としている。〉――

 産経新聞は日本の軍や官憲による従軍慰安婦の強制連行説を頭から否定している。その色眼鏡で慰安婦の聞き取り調査報告書を検証した場合、朝日新聞が、虚偽の事実に基づいて成り立たせた「吉田証言」を真正な事実として報道していたのと同じ過ちを犯さない保証はない。

 もし実際に慰安婦の聞き取り調査報告書が杜撰な内容であるなら、政府は公表した上で杜撰な内容であることの証明を以って強制連行説否定の補強証拠とすればいいはずだが、そういった動きを一切見せずに、「河野談話作成過程検証報告書」でも、〈慰安婦問題の歴史的事実そのものを把握するための調査・検討は行っていない。〉として裏付け調査を回避している。

 結果、安部政権が政府が発見した資料の中には軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述が見当たらなかったことを唯一の根拠として成り立たせている強制連行否定説をいつまでも有効たらしめることになっている。

 だからだろう、安部政権は政府機関や従軍慰安婦の歴史に関わっている民間人の聞き取りに対する従軍慰安婦の証言を決して表には出さない。出したら、裏付け調査をしなければならなくって行った場合、万が一事実が証明される可能性を恐れて、出すことができないに違いない。

 ここにも胡散臭さを見て取らないわけにはいかない。

 そもそもからして、「河野談話」作成に関わった当時の日本政府関係者は従軍慰安婦の聞き取り証言に対する裏付け調査を一切行っていない。『慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯』には次のように書いてある。

 〈4 元慰安婦からの聞き取り調査の経緯

     ・・・・・・・

 〈(7)聞き取り調査の位置づけについては,事実究明よりも,それまでの経緯も踏まえた一過程として当事者から日本政府が聞き取りを行うことで,日本政府の真相究明に関する真摯な姿勢を示すこと,元慰安婦に寄り添い,その気持ちを深く理解することにその意図があったこともあり,同結果について,事後の裏付け調査や他の証言との比較は行われなかった。聞き取り調査とその直後に発出される河野談話との関係については,聞き取り調査が行われる前から追加調査結果もほぼまとまっており,聞き取り調査終了前に既に談話の原案が作成されていた。〉――

 慰安婦からの聞き取り調査の意図は日本政府の真相究明に関する真摯な姿勢を示すためであり、元慰安婦に寄り添い,その気持ちを深く理解するためであった。

 但し聞き取り調査が行われる前から追加調査結果がほぼ纏まっていた関係から、聞き取り調査終了前に既に談話の原案が作成されていた。

 要するに聞き取り調査に対する裏付け調査の時間を最初から設けていなかった。このような態度を以って、聞き取り調査は日本政府の真相究明に関する真摯な姿勢を示すため、元慰安婦に寄り添い,その気持ちを深く理解するためとしていた。

 不誠実極まりなく、胡散臭い限りである。

 裏付け調査を行わずに韓国政府とすり合わせや妥協や取引を用いて作成して、「河野談話」で〈慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。〉と、従軍慰安婦の日本の軍や官憲による強制連行を認めた。

 いわば従軍慰安婦の証言のみに基いて強制連行を成り立たせて、証言に対する裏付け調査を行わなかった事実が強制連行説否定派に隙を与えることになった。

 「河野談話」作成当時の日本政府にしても、第1次と第2次安倍内閣にしても、元慰安婦たちの証言だけを公開したら、証言が一人歩きして、強制連行が事実とされることを恐れていたのだろうか。

 証言を非公開にして、裏付け調査もせずに証言の疑わしさのみを強調し、併せて「河野談話」の不備を突つけば、軍・官憲による強制連行を曖昧な事実であることから、あるいは半信半疑の事実であることから、より確かな事実へと近づけることができるということなのだろうか。

 だとしたら、最たる胡散臭さとなる。

 勿論、敗戦から50年近くも時間が経過していて、裏付け調査は困難を極めるだろう。記憶の薄れや、現在も同じはずだが、売春を商売としていても、周囲には恥ずかしい仕事として隠さざるを得なかった状況からして、一般女子がもし強制的に連れられていき、望まぬ形で売春を強制された場合、敗戦によって日本軍が消滅して解放されて故郷に戻ったとしても、ひた隠に隠すだろうから、周囲は知らない事実ということになって、誰もその事実を証言してくれない恐れがある。

 もし困難を極めるとしたら、韓国の従軍慰安婦だけではなく、インドネシアやフィリピンや台湾、中国、その他の日本軍が侵略していた外国全ての従軍慰安に対して可能な限り多くの証言を集めれば、強制的に狩り出された従軍慰安婦の証言から、自ずと類似の行動パターンが割り出すことができるるはずで、その一つの証言が裏付け調査によって事実と証明することができれば、各証言を全体的に事実とすることができる。

 インドネシアでは家の前で子どもたちが遊んでいるところへ7、8人の日本軍の兵士を乗せた軍の幌付きのトラックがやってきて、女の子どもたちを抱きかかえて無理やり乗せて、多分一定程度満杯状態になるまでだろう、各所を回り掻き集めていった証言がある。

 さらに同じインドネシアで占領日本軍の司令部に当たる日本軍政監部が地元の行政機関を通して、文書ではなく、口頭で日本への留学の機会を与えると若い男女生徒を募集、留学話に集まった女生徒をインドネシアの各地の慰安所に送り込んで、無理やり売春させたという何人かの証言がある。

 前者は強制連行であるのは言を俟たないが、後者は一方で日本軍と癒着して利益を得るために積極的に娘を留学に差し向ける親がいたものの、その一方で留学話に警戒を示した親も存在していて、そういった親に対しては日本軍の威光を笠に着た強制力を用いて留学候補者を集め、前者後者別なく偽りの目的で騙して強制売春に陥れる経緯を取った以上、親が積極的であろうと消極的であろうと、また日本軍が身体的強制力を用いなかったとしても、日本軍がインドネシア人の上に君臨する絶対的存在として行った従軍慰安婦狩りであるのだから、その強制性を認めないわけにはいかない。

 いずれにしても日本軍はインドネシアに於いて主なところで前者・後者の従軍慰安婦狩りの行動パターンを用いていた。それぞれ類似の行動パターンに属する何人かの証言から裏付け調査を行って、一つでも事実と検証できれば、政府が発見した資料の中に軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述が見当たらなかったとしても、従軍慰安婦の強制連行を証拠づけることはできる。

 菅官房長官は不快感を示す前にこういった方法を利用して、従軍慰安婦の徴用が日本軍・官憲による強制連行か否かの歴史認識に決着を着けるべきだろう。

 韓国の市民団体「太平洋戦争犠牲者遺族会」が元慰安婦聴き取り調査の映像を公開したことに対して菅官房長官が示した不快感から、以上のことを書いたが、安倍晋三や菅官房長官の強制連行説否定派が決着をつけない方が自分たちの否定説の正当性を主張しやすいと考えているとしたら、陰険極まりないことになる。

 そう疑われないためにも、決着を着けるべきだろう。

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