竹田恒泰の発言要旨
9月28日(2014年)の「たかじんのそこまで言って委員会」は「第2次安倍改造内閣 新閣僚たちのミッション難易度大判定SP!」と題した内容を放送していた。
要するにばパネラーが各閣僚ごとに任務上存在する主要政策の難易度と、難易度に応じてその政策の遂行能力をミシュランガイドのように星の数(最大3個)で評価しようという趣向の番組構成となっている。
最初は小渕優子計算大臣の原発再稼働問題を取り上げている。どれ程の難易度の政策であり、どれ程の政策遂行能力を見せることができるか、質していた。
ここでは委員長代理の資格で辛坊と並んで司会席に並んで立っていた櫻井よしこと竹田恒泰の議論を取り上げる。竹田恒泰が原発反対派だとは無学ゆえ知らなかった。櫻井よしこの原発容認はご都合主義で成り立っている。
最初に司会の辛坊治郎と櫻井よしことの挨拶としての遣り取りを、原発問題と関係ないが、取り上げてみる。
辛坊「先週はどうでした」
櫻井よしこ「何と言っても今はですね、朝日新聞で盛り上がっているのですね。盛り上がっているというのは、やっぱり日本人は基本的に誠実ないい国民だったなあということが、やっぱり慰安婦とかですね、吉田所長の捏造、朝日の捏造記事を知るにつけ、確認できたかなあと――」
辛坊「じゃあ、毎週やりますか」
一同、愉快そうに大笑いする。
民族にしても、あるいは個々の人間にしても、一つの性格で成り立っているわけではない。その一つが常に肯定的な性格で固定されているわけでもない。
また常に「基本的」な性格を維持するわけではない。基本的に優しい子が置かれた状況次第で凶暴な性格を露わにすることもある。人間は民族や国籍に関係なしに人間としてのありとあらゆる性格を内面に秘めている。そのいずれかが強く現れたり、柔らかく現れたりする。何事もなければ、基本的な性格を維持できるが、人間関係の過程で相手の性格や置かれた状況に応じて基本の性格を守ることのできない場面が多々生じる。
にも関わらず日本人を「基本的に誠実ないい国民」だと民族単位で規定するのは、どこかで日本民族優越意識に絡め取られているからで、そのことが合理的判断能力を曇らせているのだろう。
1923年(大正12年)9月1日の関東大震災時には2千人余の朝鮮人が日本人によって虐殺された。現在の在日韓国人に対するヘイトスピーチは世の中全体が殺伐とした閉塞状況に陥ることになったなら、言葉の攻撃が身体的・物理的攻撃の形を取らない保証はない。
では、櫻井よしこの原発再稼働に関する議論に如何にご都合主義を見て取ることができるか、それぞれの発言の要旨から判断して貰うことにするが、その前に最初に発言した高田万由子のその発言の合理性を見てみる。
パネルに「遅かれ早かれ再稼働は必至」と書いていた。辛坊がその理由を聞いた。
高田万由子「そうですね、多分、こう、勿論、反対議論の方っていうのはいらっしゃるんですけど、元々動いていたものですよね。で、被災地っていう地震があって、事故があったから、こういうふうに見直されたんで、元を質せば、こんなことに、あそこで津波に、あんな事故が起こるなんてこと想定するまでもなく、動かしていたわけですよね。
多分、だから、元に戻るのではないかと」
辛坊「そんなには難しくはないと」
高田万由子「そんなに難しくはないと――」
これが東大出の発言である。まるで東電福島第1原発自体が再稼働して元の状態に戻るかのような発言となっている。
竹田恒泰と櫻井よしこの発言要旨はそれぞれの発言に従って、交互に取り上げる。間に辛坊の発言を入れることにする。
周知のことだが、原子力規制委員会が9月10日、九州電力川内原発の再稼働を承認していることを最初に断っておく。
「再稼働は簡単。再稼働しない方が大変」
櫻井よしこの発言要旨
「福島第1原発に津波が来るまで全部機能していた。40年も前に建設された日本で一番古い原発にも関わらず、マグニチュード9の1000年に一度と言われる大地震に耐えた。ただ津波に対する対策ができていなかったから、電源喪失が起きた。
日本の原発は地震に非常に強くできている。その上原子力規制委員会が世界一厳しい基準を作ったから、再稼働は大丈夫」
竹田恒泰の発言要旨
「安全が確認されたと言うが、原子力規制委員会はこの原発は安全ですと一言も言っていない。原発が安全基準に適合しているか否かを判断しただけ。『安全かどうかは言ってません』と委員長は言っている。
人間は不完全だから、人間が造った物は不完全。原発も不完全で、原発を安全と言ったらウソつきになる。事故が起きないように様々に配慮しているが、事故が起きるかもしれないことを前提としなければ、かつての安全神話になる」
櫻井よしこの発言要旨
「竹田さんの言うとおりに田中委員長は安全だとはいえませんと言っている。この原発は我々が設計した安全基準に合致しているということを言っている。
この日本原子力規制委員会がつくった安全基準は世界一厳しい。だから、合致しているということは、人間は神様でないから、安全だとは言えないけども、一番厳しい安全基準に合致しているということになる。
但し想像もできないようなことが起きたとき、深層防護という考え方がある。思いもよらないことが起きたときにどうしますかというところまで、今造ろうとしている」
竹田恒泰の発言要旨
「震災前も多重防護というのがあって、何が起きても大丈夫と言っていた。(しかし事故が起きた)
世界で一番厳しい基準に合ったというだけのことで、この原発は安全ですと誰も言っていない。落ちない飛行機がないとのと同じく、完全はない。だから、安全ですよと言って再稼働させたら住民に対するウソつきとなる。正しくリスクを説明して、共有した上で、このリスクを受け入れるかどうか尋ねなければならない。
ただ一つ考えなければならないのは、活断層がないと思って原発を建てるが、後になって意外と近くに活断層があったということが出てくることもあり、もし活断層の上に原子炉があった場合、活断層が割れると、原子炉が真っ二つになる可能性があると言われている。
このことを考えると、人間が全ての活断層を発見できて、初めて100%安全と言うことができる。それができなければ、かなりのリスクが残る。それを受け入れることができるかどうか議論するなら、健全だと思う」
櫻井よしこの発言要旨
「竹田さんのおっしゃることは正しい。今までの活断層の議論というのは40万年前まで遡って、そこが動いたら大変だというもので、40万年前まで遡るのは人類の歴史から見てどうなのかということも考えていかなければならない。
だが、活断層が激しく動いた場合はどうなるのかということまで想定して、私たちが考えることができないような地盤強化の構造の原子力発電が考えられている。このことも知って貰いたい」
竹田恒泰の発言要旨
「そこにある活断層を正確に把握する知識を人類はまだ持っていない」
辛坊「活断層に関しては全く不毛な議論。あるちゃんとした地震学者にきいたら、『ちょっと聞きますけど、活断層以外のところは割れないんですか』と聞いたら、『いや、どこでも割れますよ』(一同大笑い)
そんな、活断層に何の意味があるんだよって。そもそもこんな議論、意味ないなっていう話」
竹田恒泰の発言要旨
「一番恐ろしいことは地割れが起きたときに直径50センチの配管が破断する。これはかなり深刻な事故になる可能性がある。地震や津波に対して対策ができていても、地割れが起きた場合、パイプがつながっている保証はないわけで、絶対安全とは言えない。だから、危険があるとうことを受け入れていかなければならない。
再稼働というと、安全ですという言葉が先行してしまう」
櫻井よしこの発言要旨
「頭の体操のために考えて欲しいが、地震列島に住んでいるとか、本州の真ん中にフォッサマグナが通っているとか言うが、それを恐れていたら、新幹線のトンネルとか、海底トンネルとか、恐ろしくてそんなところへは行っていられない。きちんとした技術的なことをして造ってあるんだと認識しなければならない」
辛坊「リスクとベネフィットの比較衡量が必要。最大どのくらいの危険があるか。それに関してどのくらいの利益があるか、結局そういう話ではないか」
最後に右翼の稲田朋美政調会長が纏める。
稲田朋美「桜井先生と竹田さんの論争、と言うか、答弁を聞いていると、言っていることは同じなんですね。でも、結論が全く違うということは小渕大臣のミッションって、物凄く難しいという問題じゃないかと思います」
辛坊「うまく纏めましたね。これはやっぱり身内の大臣であると、これは簡単ですとは言えませんね」
次のコーナーに移る。
櫻井よしこは福島第1原発が「マグニチュード9の1000年に一度と言われる大地震に耐えた」と言っているが、2011年3月11日の東日本大震災の震源地は宮城県牡鹿半島の東南東沖130キロメートル、仙台市の東方沖70キロメートルの太平洋の海底であって、地震の規模はマグニチュード 9.0であるが、最大震度は宮城県栗原市で観測された震度7ではあっても、福島第1原発のある大熊町は震度6強の揺れであって、最大震度7に襲われたわけではない。
もし福島第1原発に震度7の揺れが襲ったなら、被害はもっと拡大したはずで、東海地震や東南海地震、南海トラフ地震等を考えた場合、震度7やそれ以上の揺れが他の原発を襲わない保証はない。
本人は気づいていなかったとしても、ご都合主義なことを言ったことになる。
東京電力の《福島原子力事故調査報告書》(東京電力株式会社/平成24 年6月20 日)によると、地震の影響について次のような記述がある。
〈①変電機器の損傷原因
福島第一原子力発電所においては、地震時に電気設備が損傷し、外部電源停止の原因となった。このことから、損傷を受けた1,2号機超高圧開閉所の空気遮断器・断路器
について損傷原因の分析を行った。
今回の地震は地表面地震動が非常に大きく、民間指針JEAG 5003「変電所等における電気設備の耐震設計指針」を超過したことが主な原因であり、275kV空気遮断器については、耐震強化のために設置したステーが緩むことにより、遮断部の変位が増大してがいし破損に至ったと推定され、275kV断路器については、接続される空気遮断器倒壊時の荷重がリードを介して加わることによりがいし破損に至ったと推定された。
なお、本解析結果は「福島第一原子力発電所内外の電気設備の被害状況等に係る記録に関する報告を踏まえた対応について(指示)に対する追加報告について」(平成24年
1月19日)で原子力安全・保安院に提出している。
②送電鉄塔の倒壊原因
地震により、夜の森線No.27鉄塔が倒壊し5~6号機への外部電源が停止した。このことから、夜の森線No.27鉄塔の倒壊原因について分析を行った。
現地を確認したところ、鉄塔脚部は土砂や倒木に埋もれているが、鉄塔上部は土砂の上に倒れており、電線も土砂や倒木の上に存在する事などから、鉄塔隣接地の盛土が崩壊したことにより鉄塔が倒壊したと判断した
また、崩壊した盛土については解析の結果、崩壊した箇所の地盤強度が特に低かったとはいえないこと、崩壊箇所の法面が1:3という緩勾配で施工されていたことに加え、最大加速度発生時にも盛土は崩壊していないことから、盛土は供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動(レベル2地震動)に対する耐震性を有していたと考えられた。
結果的に盛土が崩壊していることから、崩壊原因は、沢を埋めた盛土中に地下水位が存在する状況の中で、史上稀にみる強くて長い地震動の繰り返し応力が作用したことに
より、地下水位内の地盤の強度が低下したことによるものと推定した。〉
〈①5号機目視確認結果】
5号機原子炉建屋に設置されている設備について、目視により確認したところ、損傷は認められなかった。
また、タービン建屋内に設置されている設備を目視により確認したところ、非常用ディーゼル発電機や電源盤など重要な機器については地震による損傷は認められないが、高圧タービンと低圧タービンの中間にある湿分分離器のドレン配管のサポートがずれており、そのドレン配管に接続されている小口径配管1箇所で破損が認められた。これは破損形態から地震による損傷と判断される。〉
〈地震当日、3号機は、大熊線3Lの受電設備が工事中で使用できなかったため、2号機と常用高圧電源盤(M/C)を相互に接続し受電する構成としており、福島第一原子力発電所で受電中の外部電源は大熊線3Lを除く5回線となっていた。
今回の地震により、福島第一原子力発電所の外部電源(大熊線1~4L。(3Lは工事中)。夜の森線1L,2L)は、地震発生とほぼ同時期に、全回線が受電停止した。このため、各号機の非常用ディーゼル発電機が自動起動(工事中のものを除く)し、非常用所内電源は確保された。
その後、津波の建屋への浸入等により6号機の非常用ディーゼル発電機(6B)を除き、各号機の非常用ディーゼル発電機が自動停止し、1~5号機で全交流電源喪失に至った。〉
〈非常用ディーゼル発電機(非常用D/G)の燃料に使用される軽油タンク、冷却水の水源の一つである復水貯蔵タンクについては、地震の影響と思われる基礎周りの地面の沈降が認められるが、タンクに漏えいなどの損傷は認められない〉――
地震の揺れによって全回線が受電停止したものの、非常用ディーゼル発電機が自動起動して、非常用所内電源は確保されたが、津波によって6号機以外の非常用ディーゼル発電機が自動停止し、1~5号機で全交流電源喪失に至った。
一見津波さえ来なければ、全電源喪失に至らなかったように見えるが、震度6ではなく、震度7でも同じだと断言できるだろうか。地震の影響による破損や地面の沈降等、諸々の事象をも考え併せた場合、危機管理上、震度の違いによって影響も違ってくることを考えなければならない。
櫻井よしこは「深層防護」を言い、「私たちが考えることができないような地盤強化の構造の原子力発電」の構想を言っているが、コストの問題を抜かすご都合主義を見せている。
また、地盤強化と言っても、敷地内の建物のない場所の工事は可能かもしれないが、既設の原子力発電所の原子炉の下の地盤まで強化できるのだろうか。それを可能としたとしても、相当なコストがかかるはずだ。
結果として、他の発電コストとそれ程変わらないということが起きる可能性がある。
竹田恒泰は活断層の原発への悪影響を強調している。「活断層がないと思って原発を建てるが、後になって意外と近くに活断層があったということが出てくることもあり」と言っていることは、福島第一原発の耐震性を考慮する際に東京電力が地震を起こすことがないと認定していたにも関わらず東日本大震災後の4月11日夕方に発生した震度6弱の地震(マグニチュード7.0)によって長さ約10キロに渡って動いた福島第1、第2原発の南40~50キロの福島県いわき市にある「湯ノ岳断層」を指す。
それが断層であれば、地震によって動く可能性があることを示している。言ってみれば、非活断層の活断層化である。原子力発電所の下に活断層ではなくても、何万年と遡って過去に動いたことがないと判断した断層がもしあれば、地震によって活断層化しない保証はなく、例え断層がなくても、近くの断層が地震によって活断層化して、揺れを大きくする危険性も考慮しなければならないことになる。
櫻井は活断層の議論に関して「40万年前まで遡るのは人類の歴史から見てどうなのか」と言っているが、原子力規制委員会は2013年1月29日、原子力発電所への地震や津波に関する専門家会合を開いて、活断層の活動時期の範囲を「40万年前以降」に拡大する方針を撤回して、「12万~13万年前以降」とする従来指針を継続、地層が分かりにくいなど判断がつきにくい場合に限り40万年前まで遡って検討することに決めている。
但し何10万年前と決めようとも、不活性と見ていた単なる断層が大きな地震によって活断層化するなら、何万年前という基準は意味を成さないことになる。
櫻井よしこは海底トンネルや新幹線のトンネルの、みんなが考えている危険性(ゼロ)と比較して原発の安全性を逆説的に言及しているが、倒れないとされた阪神高速の橋脚が阪神大震災では倒壊している。
竹田恒泰が言っていた飛行機の墜落と同じである。但し確率はゼロに近いかもしれないが。決してゼロと言うことはできない。たった1度ということもあり得る。
以上、櫻井よしこのご都合主義な原発容認論を見てきたが、辛坊のジャーナリストでありながら、都合の良いことだけを言っていることを取り上げてみる。
辛坊は地震学者が活断層でなくても、どこでも地面が割れるという話をしていたことを以って活断層の議論を不毛だとしているが、地震の揺れによって地面に亀裂が入るのと、活断層が長さ10キロとか、あるいはそれ以上大きく動いて、地面に亀裂を生じさせるのとでは意味が全く違う。
当然、建物が動かなかった断層と動いた断層を跨いだ形で建っていた場合、前者と後者の影響は大きく違うことになる。
辛坊はまた、「リスクとベネフィットの比較衡量が必要」と言っているが、それを知らしめるためには、竹田が「正しくリスクを説明して、共有した上で、このリスクを受け入れるかどうか尋ねなければならない」と言っているように、安全、安全と言うだけのことはやめて、リスクとベネフィット(利益)についての最大限の説明責任を果たさなければならない。
果して原子力規制員会にしても、櫻井よしこにしても、辛坊にしても、安全基準を満たしていることは言っても、リスクについて説明責任を尽くしていると言うことができるだろうか。
いい尽くしていないとしたら、ご都合主義に堕していることになる。