安倍首相は海洋安全保障強化を図るため、日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4カ所をヒシ型に結ぶ「安全保障ダイヤモンド構想」を提唱中だそうだ。「ダイヤモンド」という命名は形を表現するだけではなく、輝き、壮大であることの意味を含んでいるに違いない。
勿論、中国包囲網を狙っての輝くダイアモンドというわけなのだろう。
まさか大風呂敷で、ダイアモンドと名づけたわけではあるまい。
日本と米国とオーストラリアとインドの4個のダイアモンドのうちの1個であるインドの、今年5月26日に就任したばかりのモディ新首相が8月30日(2014年)に来日。9月1日の日印首脳会談で両国の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)設置の検討で合意。
この合意は海洋進出を進める中国を牽制し、南シナ海やインド洋などの海上交通路(シーレーン)を守る狙いがあり、「安全保障ダイヤモンド構想」実現に向けた大きな一歩だとマスコミが伝えていた。
安倍晋三は9月13日(2014年)北朝鮮による拉致被害者家族連絡会、全国協議会、議員連盟、知事の会、地方議会全国協議会主催の「もう我慢できない。今年こそ結果を!国民大集会」に出席、その挨拶の中で、「私も総理就任以来、49か国を訪問し、200回に亘る首脳会談を行いましたが」と述べているが、世界第2位の経済大国中国を除いた49カ国訪問だから、中国包囲網構築も目的の一つとしていた各国訪問と首脳会談でもあったはずだ。
日印首脳会談当日、共同声明が発表された。名付けて「日インド特別戦略的グローバル・パートナーシップのための東京宣言」
宣言の冒頭、次のように謳っている。〈1.安倍晋三日本国総理大臣とナレンドラ・モディ・インド首相は,2014 年9 月1 日に東京において会談し,両国民の発展及び繁栄の継続のため,並びに,アジア及び世界の平和,安定及び繁栄の促進のために,日インド戦略的グローバル・パートナーシップの可能性を最大限に発揮することを誓った。両首脳は,両国の関係を特別な戦略的グローバル・パートナーシップに引き上げつつ,今般の会談を日インド関係の新時代の幕開けと称した。〉――
「日インド戦略的グローバル・パートナーシップ」は日印両国間の発展や繁栄のみを目的とするのではなく、アジア及び世界をステージとした平和と安定と繁栄の促進をも視野に入れたパートナーシップの可能性の最大限の発揮を目的とし、この関係を「特別な」と形容詞を入れた「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」へと引き上げていこうではないかと言うのだから、壮大極まる関係構築志向を意図していて、「今般の会談を日インド関係の新時代の幕開けと称」するのも無理はない。
日印の盤石な関係構築こそが、中国包囲網を盤石とする第一歩というわけである。
対して中国はバングラデシュやスリランカなどインド周辺国への支援を通じてインドを包囲する「真珠の首飾り」と呼ばれている外交戦略を進めていると時事ドットコムが伝えていた。
記事は安倍晋三の9月6日から9月8日までバングラデシュとスリランカの訪問を、中国の対印包囲網である「真珠の首飾り戦略」にクサビを打ち込む意図からのものだと解説している。
と言うことは、安倍晋三の両国訪問はインドにとっても利することになる。
こう見てくると、安倍晋三は49か国訪問、200回の首脳会談その他の努力も併せて、インドを対中包囲網の強力な仲間に組み入れたように見える。
但し次の記事を見ると、安倍晋三の対中国包囲網が些か怪しくなる。
《インドが上海協力機構に加盟申請 中央アジアの資源狙い》(MSN産経/2014.9.13 23:42)
インドが9月13日までに中国とロシア、中央アジア諸国で構成する上海協力機構(SCO)に加盟申請したと伝えている。9月11、12両日にタジキスタンで開かれたSCO首脳会議にオブザーバー参加していたスワラジ外相が9月12日に表明したとPTI通信(インドの通信社)が伝えたとしている。
記事。〈巨大な人口を抱えるインドはエネルギー確保が課題で、加盟により中央アジアの豊富な石油・天然ガス資源の開発に加わる機会を増やしたい考え。一方、中露はインドを取り込むことで、米欧主導の国際秩序への対抗を図りたい思惑だ。〉――
スワラジ・インド外相「多くの国が暴力や紛争に直面している。こうした出来事は地政学に深く関連しており、共同で対処せねばならない」――
資源の開発参加の機会を求めているだけではなく、中国やロシアと暴力や紛争の共同対処の関係も構築しようとしている。いわば中国とも仲間となることによって、中国の対印圧力を緩和・吸収することを通して安全保障の面でインドを守る意図を持たせた加盟申請であろう。
もし加盟が認められたなら、例え以前のように中国と国境紛争が起きて軍事衝突しても、上海協力機構加盟国同士の紛争として放置できないことになって、上海協力機構自体がその調停に乗り出さなければならなくなり、解決に向けた内輪の努力は分裂を回避しなければならない分、あるいは世界がどう機能していくか注目する分、積極的とならざるを得ない。
いわばインドは中国と是々非々の関係を築こうとしている。
アメリカと日本は普遍的価値観上は中国と対立関係にあるが、経済的には深い関係にある。安全保障面ではアメリカの場合は米軍が中国軍と交流を持ち、不測の軍事的衝突を回避する緩衝材としている。
だとすると、安倍晋三提唱の米国とオーストラリアとインドを結んで安全保障の協力関係の構築を狙う「安全保障ダイヤモンド構想」やインドとの「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づき両国関係の強化をベースとした対中包囲網の狙いは中国に向けて絶対的な力学を持つわけではなく、ときには弱められ、あるいは無力となる相対的な力学を受けることになる。
この相対的な力学はそれぞれの国が中国と何らかの関係を築いている以上、避けることのできない当然の働きとしてある。
だが、安倍晋三の中国をすっぽりと抜かした、これまでの49か国訪問、200回の首脳会談には外交関係に於けるこの相対的な力学を視野に入れた動きには見えない。
今年11月の北京で開催のでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に合わせて日中首脳会談実現を模索しているが、「安全保障ダイヤモンド構想」を提唱した後の、あるいはインドのとの間で「特別な戦略的グローバル・パートナーシップ」の関係に持って行こうと取り決めた後の、さらには中国と関係の深い各国を回って、それらの国と中国との関係にクサビを打ち込むべく謀った後の模索という形を取ることからも、外交関係に於ける相対的な力学を視野に入れた動きには見えない。
相対的な力学を避けることができない以上、対中包囲網の外交よりも、その力学を十二分に考慮した、中国との関係をも要視する外交が必要だということであるはずだ。
どう見ても、安倍外交よりもインド外交の方が遥かに利口に見える。