◆春日井駐屯地祭[2009.03.08]
春日井駐屯地祭2009詳報、第四回。前回までに記念式典と観閲行進、そして訓練展示オートバイドリルの模様を紹介した。本日は、訓練展示模擬戦について、紹介したい。
駐屯地祭は、指揮官が部隊へ訓示し来賓が祝辞を述べる式典と、指揮官の観閲を受けることで部隊の装備が完全な稼働状態にあることを示し、部隊が保有する装備を主権者である国民に示す観閲行進、そして、部隊がどのような任務に備え、訓練を行っているかを展示する訓練展示、という流れで行われる。
状況開始。訓練展示模擬戦がいよいよ開始された。式典会場となっているグラウンドに入ってきたのは、後方支援連隊に所属する73式大型トラック。師団が第一線で活動を続けるために、後方支援はなによりも重要な任務である。後方の物資集積地から弾薬や食糧などの物資や補給品が届き、整備支援を受けることで、第一線の任務が成り立つのである。
グラウンドに響き渡る銃声!、建物の方角から突如小銃の乾いた銃声が連続して響き渡る。トラックは急停車。どうやら、補給車両のトラックが銃撃された!、という想定で訓練展示は行われるらしい。停車したトラックから、隊員が64式小銃を手に飛び出してきた。銃撃はまだ続いており、車両を盾に退避する。
第一線の戦闘を継続する上で、後方支援の重要性は先に述べたが、同時に後方の補給拠点から、第一戦までの補給路は、敵の遊撃隊により攻撃を加えられることも多い。補給部隊は戦闘部隊と比べてどうしても火力が劣り、敵は軽装備の遊撃隊であっても、打撃を与えることが可能だ。充分な護衛をつけると、今度は第一線の戦闘部隊を引き抜いて補給路の警戒に充てる必要が出てくる。
今回の仮設敵は、やはり小銃や機関銃などの軽火器を以て、我が補給線を狙ってくる遊撃隊のようだ。建物の屋上から、遊撃隊は盛んに発砲し、トラックは釘付けの状態である。最初の銃撃で、トラックはエンジンか駆動系を破壊されたようで、走行不能。無線を通じて救援要請が出されている、という想定。
64式小銃を手に、トラックに後ろに運転していた隊員。最初に加えられた銃撃で、隊員の一人が足に負傷を折った、という想定。すぐに応急処置を施しているが、出血が止まらず救急車の出動も要請された。ヘルメットと戦闘防弾チョッキは着用しているものの、戦闘では負傷者はつきものである。
救援要請を受け取った第10偵察隊の軽装甲機動車が、まず、攻撃を続けている仮設敵を排除するべく駆け付けた。小柄な四輪駆動車に装甲を施した軽装甲機動車は、軽快な運動性と高い路上速度を誇り、すぐさま駆けつけることができる。車上では、取り付けられたMINIMI分隊機銃が仮設敵を睨んでいる。
また、82式指揮通信車も続いて到着し、搭載している二丁の機関銃で応戦する。82式指揮通信車は、今回、62式7.62㍉機銃に代えて5.56㍉機銃MINIMIを搭載して参加した。後部には強力な12.7㍉機銃も搭載されている。指揮官が乗車し無線通信により指揮を行う車両であるが、同時に機銃を搭載した装甲車でもある。
トラックは、走行不能の状態に陥っているとのことで、第10後方支援連隊へ、78式戦車回収車の出動要請が出された。78式戦車回収車とは、74式戦車など破損した戦車を後方へ回収し、修理、第一線に復帰させるための装備だ。12.7㍉機銃で前方を警戒しつつ、到着までに、詳しい状況を無線で確認する。
仮設敵は、交通の要衝、高台から見下ろすような位置に展開している。まず、状況は、補給路の稼働を維持し、交通を回復させることを必要としており、その為に第一に作業や任務を妨害する仮設敵の排除、そして第二に車両の移動と負傷者の救出が求められているという状況だ。
騎兵隊の如く厳つい第10偵察隊の87式偵察警戒車が到着。エリコン25㍉機関砲が搭載された砲塔が、仮設敵に向けられている。87式偵察警戒車という、火器管制装置により命中精度の高い火力を搭載した装甲車両の到着で、一気に形勢は逆転する。25㍉機関砲は、射程が長く、歩兵には最大の脅威だ。
87式偵察警戒車の到着により、形勢は逆転。87式は、機関砲と同軸の連装銃を8倍単眼式照準器により正確に射撃することが可能で、砲塔は毎秒60度旋回が可能だ。APDS-T弾を使用すれば、2000㍍先の30度に傾けられた25㍉装甲を貫徹でき、軽装甲車に対しても有効な装備である。
78式戦車回収車が続いて到着した。78式戦車回収車は重量38.9㌧、720馬力のディーゼルエンジンを搭載し、最高速度は53km/h、走ってくると中々の迫力である。トラックの回収は通常、レッカー車が行うのだが、本日は行事だし、戦車回収車には装甲が施されているとのことで登場だ。
救急車も到着。73式中型トラックの後部に改造を施した1㌧半救急車は、担架であれば四床、軽傷者であれば8名を同時に運ぶことができる。こういう状況下では、ある程度戦闘が収束しなければ、装甲の無い救急車は展開出来ない。救急車を狙い撃ちにするのは、ジュネーヴ条約違反であるが、例えば砲撃の破片のように、意図しない被害を与える状況も考えれば、装甲キャビンをもつ救急車も自衛隊には必要なのではないか、と思ったりもする。
仮設敵の動きがまた、活発になってきた。掃討にあたっていた偵察隊に続いて戦車回収車が到着、救急車も到着。大所帯となったわが方。部隊が増えれば、警戒も増すのだが、掃討任務以外の任務に携わる隊員も増える。そのさ中の一瞬の隙を狙って、再び仮設敵が姿を現し、わが方へ銃撃を加えてきた。
しかし、78式戦車改修車は、重レッカー車と違い、機銃も搭載されており、装甲も厚い。訓練展示ということもあり、気合を入れて山盛りの空包とともに12.7㍉機銃が焔を噴く。12.7㍉機銃弾は、命中すれば体が千切れる程の威力をもっている。これにより、仮設敵は、再び後退していった。
乗員が戦車回収車から飛び降りて降車展開する。クレーンでそのまま吊ってしまうことができそうなものだが、実際には降車して作業を行う必要がある。確かに実戦では、弾が飛び交う中、非常に危険ではあるが、イラク戦争では、ファルージャで米軍も降車して戦車回収作業を行っていた。
降車すると、すぐに自衛用の64式小銃を手渡される。回収作業は無防備になる瞬間、狙撃される危険性もある。ところで、今後の自衛隊任務、特にゲリラコマンド対処や国際平和維持活動の増加を考えると、重レッカー車にも、防弾キャビンや機銃の搭載は必要になってくるのかな、と感じた次第。なによりも、無防備が一番標的にされるのだ。
回収作業が行われると同時に、救急車からも担架が降ろされてきた。応急処置では間に合わなかったという想定である。救急車は後方支援連隊衛生隊のほか、連隊や大隊本部の本部管理中隊にも衛生班が置かれており配備されている。救急車の任務は応急処置と後方医療施設への搬送などである。
二年前の春日井駐屯地祭では、衛生隊の隊員は64式小銃を携行していたが、今回は89式小銃を携行している。64式小銃よりもやや軽くなっており、短く取り扱いやすい。後方支援の隊員には、もう少し小さなカービンなどが制式化されれば、本来の任務により専念できるのかな、と感じた瞬間だ。
12.7㍉重機関銃が仮設敵を制圧するべく射撃を続ける。今回は、例年の偵察隊が中心となる訓練展示と比べて、後方支援連隊の部隊が表に出た訓練展示。このため、戦車回収車に搭載されている重機関銃の空包も多めに用意されており、状況中は重機関銃独特の力強い射撃を続けていた。
担架に乗せられて救急車へ。担架に乗っているということは重傷者、という想定だったようだ。戦闘が起これば負傷者が発生することは許容するべき犠牲だが、負傷者の三分の二は比較的早い時期に回復し、任務に復帰できるというデータがある。このため、早い段階で傷の悪化を防ぐことが重要となる。
救急車に収容される想定負傷者。師団後方支援連隊の衛生隊には、野外手術システムが配備されており、病院用天幕と併せて野戦病院を後方に開設している。救急車では、応急処置と救命処置を施しつつ、いかに早く野戦病院か、通常の病院に搬送するか、衛生隊の任務は、命の灯と時間との戦いだ。
78式戦車回収車による回収作業は、終了したようで、行動不能となった73式大型トラックのけん引準備が整った。乗員も回収車の車内に戻り、無線連絡を行う位置についている。こうしたなかでも、重機関銃が、最後の抵抗を行おうとする仮設敵の意思を挫くべく発砲を続けていた。
牽引開始。78式戦車回収車が73式大型トラックを牽引して進んでゆく。後方支援任務といえば、後方=安全、という構図を思い浮かべる方もいるかもしれないが、必ずしもそうではなく、後方=重要=安全を確保、という構図が正しい。油断することはできない、ということを展示した訓練展示である。
続いて87式偵察警戒車も、警戒しつつ後に続いてゆく。25㍉機関砲は、車長がハッチから肉眼での監視を行いつつ油断なく射撃できるよう警戒を続けていた。こうして87式偵察警戒車とともに、訓練展示模擬戦に参加した軽装甲機動車や82式指揮通信車も揃って会場を後にしてゆく。
このあと、道路補修を行うために施設大隊の車両が次々と駆け付けていた、ここで状況終了。架橋展示も行われるのかと思ったが、今回は時間の関係上、車両が行進するだけであった。もしかしたらば、来年は、施設大隊が主役の訓練展示が行われるのかもしれない。春日井駐屯地祭は、創意工夫に富んだ訓練展示で知られる駐屯地だから期待は高まる。
HARUNA
[本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる]