◆WHO緊急会合間もなく開始、邦人輸送の観点から
防衛省は、新型インフルエンザの流行禍が発生した場合、部隊内での防疫により防衛応力を維持するとともに、海外での新型インフルエンザ発生の場合には在外邦人の輸送を実施するとの対策計画を立てている。
NHKが本日1900時のニュースにて報じたところによると、メキシコ保険証はメキシコ市を中心に豚インフルエンザが広がっており、この二週間で感染を疑われる症状の患者が1000名余りに上っている。これまでに68名の死者が出ており、メキシコ政府は市民に対し、感染を防ぐためなるべく自宅に待機するよう呼び掛けている。既に小学校から大学まで、休校の措置がとられているが、アメリカ疾病予防センター(CDC)によればアメリカでも隣接するカルフォルニア州などで8名の感染が確認されているが、病状は回復しているとのこと。
CDCによれば、豚インフルエンザはH1N1型で、ウィルス遺伝子が一致したと発表されている。なお、豚インフルエンザは本来、人に感染する性質のものではないが、豚に頻繁に接触する場合には感染することもあるとのこと。一方で、感染者の中には普段の生活で豚との接触の無いケースでも感染の事例があるということで、人と人との艦船の疑いが出ているとのこと。世界保健機関(WHO)は、流行禍(パンデミック)に進展する可能性があり、警戒を強めている。WHOは、今回の事案に対して警戒態勢を高めるか日本時間の2300時に緊急会合を開くとのことだ。
在外邦人の救出には、自衛艦及び航空機が用いられるが、輸送艦や掃海母艦、補給艦などの自衛艦では進出に時間を要し、陸上自衛隊のヘリコプターでは航続距離が不足するため、基本的には航空自衛隊の輸送機、政府専用機などが出動することとなろう。今回、メキシコでの新型インフルエンザが、流行禍に拡大した場合、航空自衛隊がアメリカとメキシコに派遣される可能性もあるが、仮に拡大した場合、アメリカ、メキシコには、在外邦人が多すぎるため、小牧のC-130H輸送機16機、千歳の政府専用機B-7472機、仮に全部派遣したとしても一度に1000名程度を輸送するのが限界であろう。
入間基地と美保基地にC-1輸送機が配備されているが、もともと沖縄返還前の設計の輸送機であり、残念ながら入間基地から沖縄の那覇基地に飛行する際にも搭載量を減らし、燃料を多く搭載した機体でなければ飛行できないほど、航続距離は限られている。もちろん、入間から那覇まで飛行することを考えれば隣国までの飛行は可能で美保基地を拠点として韓国へ、那覇基地を拠点として上海へ飛行するのであれば、なんとか対応できるだろうが、搭乗できる人員は、手荷物を減らした状態でも60名程度。また、太平洋を渡ることは、フェリーであっても、かなり難しいといえる。
航空自衛隊の輸送機がこれだけ少ないのは、国会において輸送機は兵員を輸送できるものであり、余り数が多いと外国に対する武力攻撃に使われるのではないか、という疑いを周辺国に与える、との論旨の指摘が野党から出されており、周辺国に脅威を与える、として最低限の数しか保有できなかった、という事情が背景にある。ただし、こういうものは対外政策により周辺国への脅威は決まるものであり、装備の数からだけでは決まるものではないのだが、実際、航空自衛隊の輸送機が少ない背景には、こうしたものがあることは動かぬ事実である。
空中給油輸送機KC-767が本格的な部隊運用ができる状態となり、現在開発中で中々初飛行に至らない次期輸送機C-Xが、C-2輸送機として配備されたならば、特にC-XはC-1よりもかなり航続距離、搭載量などが増加しており、対応できる任務の幅も広がると考えられるのだが、一億以上の国民が暮らしを営む日本を拠点に、盛んに経済活動や就学、旅行などの目的で世界中を行き来しており、在外邦人に万一のことがあった場合への備え、在外邦人救出を行うことを考えると余りにも輸送機が不足しているのではないか。
少なからず、日本の防衛力を、隣国と兵器の数だけで比較する事例が見受けられるが、基本的に日本は離島を含めると面積は極めて広大であり、国民の数も多い。そして経済活動は盛んであり、その活動範囲は世界中に及んでいる。緊急時において海外の邦人は、他国の善意や良心という例外を除けば保護を受けられるのは日本からだけである。救出の手段一つをとっても、輸送機の不足はもう少し真剣に考えてよいのではないか、と考える次第。また、他国の良心、善意に頼るにしても、経済的にまだ余裕のある日本が、他国の善意という援助を貪るというのは、考えさせられるものがある。
輸送機が新型になるので、輸送能力が増加する、空中給油輸送機を転用するので輸送機そのののが増強される、という次元ではなく、飛行隊の数を含め、輸送能力というものは、考えられていいのではないか。今回は、新型インフルエンザ、しかし、衛生環境と社会基盤の整った国での、という状況を目の前にしているが、そうでない状況はいつ生じるか分からない。他にも国際紛争に巻き込まれた邦人の救出にも輸送機は活躍が期待できると共に、国力の限界に達している国、他国の良心と善意に期待するよりも他にない国へ手を差し伸べることも可能となる。輸送機飛行隊の増勢、この機会に検討すべき命題かもしれない。
HARUNA
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