◆米軍再編計画の見直しに繋がるか?
共同通信などが伝えたところによると、ワシントンで6日、アメリカのゲーツ国防長官が、2010年度国防費再検討政策の概要を発表し、その中でF-22の追加発注を見送る方針を明らかにした。
F-22は、F-15戦闘機の後継として開発された高性能戦闘機であるが、米空軍納入の場合でも、1機1億4000万ドルを要し、高性能である以上に、そのコストが問題視されていた。追加発注が行われないことにより、生産数が修正計画で187機とされていたF-22は生産を終了することとなる。イラクとアフガニスタンにおいてテロとの戦いを続けるアメリカは、現在、大幅な国防装備体系の見直しを進めており、今回の国防費再検討政策の概要もこの一環という位置づけとなる。
この他にも次世代駆逐艦である12000㌧のズムウォルト級やイージス艦の後継となる次世代艦隊防空システムなど海軍に関わる計画、空軍の次世代爆撃機計画、陸軍の次世代戦闘計画(FCS)に基づく各種装甲車両体系なども見直しの対象となっている。弾道ミサイル防衛の分野でも、THAADミサイルの開発やイージス艦へのミサイル防衛任務の付与、及び増進を提示しつつも、空中レーザー迎撃システムAL-1について、追加試作を中止することを表明した。また、大統領専用ヘリコプターの更新計画も中止となる見込みだ。
ゲーツ国防長官は、テレビのインタビューに対して、F-22の生産終了は、当初予定されていたことであり、より高性能で新型のF-35を大量に配備するための手段として、F-22の採算終了を行う旨を説明している。また、AL-1など弾道ミサイル防衛についても、これまでの弾道ミサイル防衛は、いわゆる“ならず者国家”からの攻撃を想定したものであったのに対し、今後はより広範な脅威に対応することができるミサイル防衛体制を構築することを目指す、とのべている。
その一方で、MQ-9のような、無人偵察機など一部の予算は増額される傾向にあり、F-22が生産終了と同時にF-35は調達予定を拡大、30機の導入などを盛り込んでいる。これは、逼迫した財政の現況に鑑みて、最も必要な装備品の調達を優先することで、アフガニスタンでの任務や、イラクからの撤退など、最低限の任務の達成を図るという姿勢が見て取れる。
しかしながら、次世代戦闘機として期待され国司あ共同開発が行われているF-35は、開発が難航しており、他にもE-3早期警戒管制機の後継となるE-10、そして米軍部隊のグローバルな規模での速やかな進出を目指した沿海域戦闘艦計画などがコスト高騰により見直しの対象となっている上に、今回の見直し政策が加わる為、長期的にははたしてどの程度妥当な提案であるかは未知数である。
これについては、2010年に発表される“四年ごとの国防計画見直し”QDR2010にどのように反映されるかが注目される。付け加えれば、現在進められている米軍の世界規模での再編計画、米軍再編についても、軽量で長距離の戦略展開を可能とした次世代陸戦装備体系、いわゆるFCS計画や、必要な地域に必要な火力をアメリカ本土から投射する次世代爆撃機計画、そして少数のミサイル巡洋艦や駆逐艦により今以上に充実した艦隊防空や火力投射を実現するポストイージスシステムやズムウォルト級計画が事実上見直しの対象となったことで、基地の整理縮小を行った場合、アメリカは地域へのポテンシャルを維持できなくなる可能性が生じてくる。
恐らく、最も目を引くのはF-22の生産終了に伴い、航空自衛隊の次期戦闘機選定に大きな影響が出るだろう、という点だが、同時に、米軍装備体系が、これまでの前方展開を見直し、一部の戦略拠点に集約するほかは、部隊の機動性を高めて紛争地域に米本土から直接派遣する、という方式でプレゼンスを維持するという米軍再編計画の前提となる装備計画が見直されることとなる点も見逃してはならない。
日本は、戦略拠点が世界規模で縮小されるなか、横田、横須賀、嘉手納という三つもの戦略拠点を供しており、岩国、厚木、佐世保という拠点も供しており、欧州では複数の基地がドイツとイギリスの戦略拠点に統合される再編計画が進められているのとは対照的である。米軍再編計画が見直されるならば、日本はグアム移転費用の負担などで再交渉の機会が生まれることを意味し、見直されないならば、アメリカの世界規模での軍事戦略がQDR2010で見直されない限り、数多くの戦略拠点を有する日本は演習域の提供や駐留経費一部負担などで新しい負担を強いられることも意味する。
ゲーツ国防長官は、今回の政策をオバマ大統領に報告し、議会に提出する。国防予算は議会が決定するため連邦議会の判断により若干の修正が加えられることも予想されるが、クリントン政権とブッシュ政権下において計画されてきた世界戦略を実現するための装備群、その多くが見直し対象となっていることは、注目する必要があるだろう。
HARUNA
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