◆これがホントの不可能犯罪!?
東海道山陽道からブルートレインが無くなった、これでは東海道本線でブルートレインを使った時刻表トリックを推理小説として展開することは難しい。文字通り不可能犯罪だ。
列車、時刻表トリックとなると、松本清張の“点と線”まで遡ることができるが、これをジャンルにまで引き上げたのは、西村京太郎の、“寝台特急殺人事件”を筆頭とする一連の作品群であろう。短時間で読める割には、事件の舞台となる列車や土地の様々な情報が敷き詰められており、犯人が素人のはずなのに爆薬に精通していたり暗殺術の達人の如く様々な技巧を凝らして犯行を行う不自然な点を除けば、移動中の車窓に飽きた時の最良の書に数えてもいいだろう。しかし、事件の舞台となる列車そのものが無くなっていたりすると、やや残念ではある。
4月12日の月曜ゴールデンとして「寝台特急殺人事件」がリメイクされ、放映された。渡瀬恒彦演じる十津川警部が、月島で見つかった女性の溺死体、停車しない時間帯の寝台特急で目撃された被害者と時刻表の盲点を突いた犯行に挑む作品だ。原作の小説は、富士号と、はやぶさ号が舞台となるもので、シリーズ最初の作品であるのだが、トリックを原作通りに行おうにも、肝心の列車の多くが廃止されている。恐らく制作スタッフも閉口しただろう、駆け引きの舞台となる寝台特急の食堂車もロビーカーも編成から省かれてしまっているし、そもそも本数が少ない。
2008年にリメイクされた、「東海山陽道殺人ルート」では、肝心のトリックを支える寝台特急が廃止ということで、富士・はやぶさ号と、サンライズ瀬戸・出雲の移動トリックに犯人は時刻表の盲点、列車の停まらない時間帯を利用して、なんとヘリコプターで長距離移動する、というトリックを用いて唖然とした。冗談で、もう今の夜行列車の本数を考えると、大阪から静岡まで高跳びするとしたら、岩国から厚木まで艦載機でも使うしかないよな、と言ってみたら、当たらずとも遠からずでがっかりさせられた覚えがある。今回も、運転停車と、原作では考えられない荒っぽいトリックを使っている。
トラベルミステリーの要は、もちろん全てが全て、そういうわけではないが、時刻表トリックにある。そこで、ヘリコプターやら、時刻表を無視して移動できる手段を使ってしまうと、話の根幹を壊してしまうように思う。時刻表トリックが日本で小説として成り立つ背景には、緻密で正確な日本の鉄道ダイヤがある。逆に、恒常的に遅れ、運休もある国の鉄道を背景にしては、書きにくいものが多いのである訳で、脚本家は、原作者以上に知恵を絞って、新幹線やフェリー、旅客機など、時刻表を活用できる手段を使って、劇中の警部と一緒に考えるようなかたちのドラマ化を望みたいものだ。
さてさて、夜行列車、というものを全て挙げると、大阪駅から新潟青森方面に向かう列車、東京駅と山陰や四国を結ぶ列車、上野駅と北陸に東北、北海道を結ぶ列車が残っており、これらのダイヤ網と新幹線はリンクしている。また、臨時列車化されたが、夜行快速も一応残っており、団体列車も含め、夜行は全て消える日は?と問われれば、当分は時間がありそうである。名作の推理小説を映像化する際には、脚本家と原作者の協力した、現実味あるリメイクを期待したいと思う次第。
HARUNA
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