◆北朝鮮長距離弾道ミサイル試験から一年
明日は駒門駐屯地祭なのですが、昨年の駒門駐屯地祭は、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験が迫っていたことで中止になったことを思い出しました。
あの日は舞鶴にいたのですが、北朝鮮のミサイル実験が迫っており、北朝鮮国内から発射されたミサイルは日本列島を飛び越えて太平洋上に着団するよう試験を実施していたのですけれども、北朝鮮の弾道ミサイルは多段式、切り離したブースターが日本国内に落下する可能性がありました。
この関係で、駒門駐屯地を始めとして全国で多くの駐屯地創設記念行事が、各部隊のミサイル落下の危険性に伴う待機体制への移行ということで中止となった訳で、その後に執り行われました記念行事でも、こうした脅威の存在から眼を放してはならず、国民の負託にこたえるべし、という訓示には説得力がありました。
今日、高いミサイル防衛体制が確立したことでパニックは起きていませんが、もともと、日本を狙うノドンミサイルを1990年代に実用化し、第一線に配備した北朝鮮は、沖縄の在日米軍やグアム、ハワイといった米軍の根拠地、そして最終的には米本土を直接攻撃できる体制を構築するべく実施されたのが、昨年の弾道ミサイル試験でした。
ミサイル実験を行った北朝鮮は核爆発装置を既に開発しています。忘れている方も多いでしょうが、北朝鮮はすでに複数回の核実験を実施しており、核兵器国ではありませんが、事実上の核保有国となっています。そうした国が長距離弾道ミサイルを配備しつつある、と言う状況にある訳です。
もちろん、弾道ミサイルに搭載できる弾頭は大きさが限られていて、果たして北朝鮮の技術力では弾道ミサイルに核兵器を小型化・軽量化して搭載することができるのか、これについてだけは、未知数な部分があるのですけれども、可能性は零ではない、ということが議論を複雑化させています。
一方で、1998年以降、日本では洋上のイージス艦と陸上のペトリオットミサイルPAC3を配置し、弾道ミサイルを感知できる新型のFPS4レーダーを地上に設置し、準備を進めてきました。この結果、現在では日本の弾道ミサイル対処能力は世界有数の水準に維持されています。
これまでは、核兵器による恫喝に対しては、核兵器での抑止体制を構築するか、相互確証破壊体制を構築するしか対処方法はないと考えられていましたから、この弾道ミサイル防衛の体制を構築することで核兵器を含む弾道ミサイルによる恫喝に備える体制を構築したという意味は大きいでしょう。
しかしながら、この種の弾道ミサイル迎撃体制を維持することはかなりの労力を要しますし、現段階でも北朝鮮が発射実験を行うという表明を受けての警戒態勢を構築することで感知できた、という水準ですから、奇襲的に弾道ミサイルによる波状攻撃を受けた祭には有効に対処できるわけではありません。
そして落達速度の大きい中距離・長距離弾道弾に対する対処能力はその整備の端緒に就いたばかりだ、ともいえます。今後、防衛省は空中センサーの整備や高出力レーザーの配備も含めた次世代の弾道ミサイル迎撃体制を構築するべく努力しているのですけれども、このためには国民の努力と理解を政治に反映させる努力が必要でしょう。
弾道ミサイル危機から一年を経て、思い出されることも少なくなっており、ともすれば軍事安全保障上の問題はアメリカとの普天間問題、そして中国との関係に軸をおいた南西諸島への圧力、というものにだけ目がいき勝ちなのですけれども、本の一年前には、ミサイルが日本に着弾するのではないか、という危惧があった事を忘れるべきではありません。
日本を標的とすることができる使途不明の核兵器による圧力、そして弾道ミサイルによる日本への脅威という問題は、今なお健在であり、問題は鎮静化しているだけであって、終息したわけでは全く無い、ということも覚えておくべきでしょう。核放棄への六カ国協議は暗礁に乗り上げ、打開の見通しは立ったという報道はありません。
予防外交では抑止しきれない状況というものは、このように考えられる訳でして、一年間でここまで緩和した緊張状態は、言い換えれば次の一年間でどのように変動するかも未知数、ということにもなります。こうした際に、国として最後の選択肢というものは、どういうものまで考えられるのか、という議論は、世間から政治の政策決定者の方まで、もう少し広範に為されてもいいのでは、と一年前の写真を整理しつつ思いました次第です。
HARUNA
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