◆上級曹長制度を新設
アイスランド南部エイヤフィヤトラヨークトル氷河での火山活動、欧州中部・北部全域に火山灰による航空航路閉鎖の影響がでているようで、火山爆発指数(VEI)は現時点で3以上とのこと、4を越えると今度は農業、畜産業へ影響が懸念されます。話は変わって、本日は時事的話題。過去の最先任上級曹長制度導入は、このための準備だったのでしょうか。
自衛隊幹部 新人事制度導入へ :4月17日 4時36分 ・・・防衛省は、自衛隊幹部の若返りを図る必要があるとして、中学校や高校卒業の自衛官の幹部への昇級を制限するとした新たな人事制度の導入を目指すことになりました。 およそ25万人いる自衛官のうち、「3尉」以上の階級に当たる幹部は4万人余りいますが、終身雇用制度をとっていることから、幹部の平均年齢は、アメリカ軍と比べて7歳高い41歳と、高齢化が課題となっています。
防衛省は、幹部の高齢化がさらに進めば部隊の運用に支障が出かねず、若返りを図る必要があるとして、新たな人事制度の導入を目指すことになりました。それによりますと、現在、おおむね40歳代で幹部に昇級している中学校や高校を卒業した自衛官について、幹部への昇級を制限し、幹部の補佐や小規模の部隊の指揮などに当たる「上級曹長」という階級を新たに設けて処遇することにしています。
これにより、幹部に昇級できるのは、原則として防衛大学校や幹部学校、それに一般の大学を卒業した自衛官に限られることになります。防衛省は、こうした人事制度を来年度から導入するため、夏の概算要求に組織改編に必要な予算額を盛り込んだうえで、来年の通常国会に法律の改正案を提出したいとしています。http://<wbr></wbr>www3.nh<wbr></wbr>k.or.jp<wbr></wbr>/news/h<wbr></wbr>tml/201<wbr></wbr>00417/k<wbr></wbr>1001390<wbr></wbr>4091000<wbr></wbr>.html
幹部学校ではなく、幹部候補学校とNHKは勘違いしているようですが、幹部学校は陸上自衛隊ではCGSなどの教育を行う機関、幹部候補学校は久留米で候補生の教育を行う機関です。自衛隊に曹長という制度ができたのは第二混成団が善通寺に新編された頃の話です。曹長制度ができた頃は一曹の数が多くなりすぎたことで、もう一つの階級を加えた、という経緯がありました。
今回は、原則として中卒、高卒の自衛官を幹部に昇進できないようにする、という前提を加えた上で、上級曹長という階級を新設する、という部分が曹長制度を導入した頃とは異なっています。幹部自衛官へ部内選抜で昇級させる制度について、これを改めるという提案はどうなのでしょうか。
目的は幹部の高齢化、ということが挙げられているのですけれども、戦闘職種であっても経験は相応に能力に反映されるわけなのですし、必ずしも体力が第一、という任務だけが自衛隊の任務ではありません。例えば本部管理中隊や管理業務における幹部自衛官の職務は体力よりも経験が重要になってきます、そこまで年齢というものは大きく反映されるものなのでしょうか。
もう一つ、幹部自衛官への道は開かれている、というものは旧日本軍以来の伝統です。特に将校が諸外国ではいわゆる貴族階級に独占されていたという国が多数を占めていた時代においても、二等兵から将校への道が、非常に狭き門でありながら開かれていたわけでして、これが士気に及ぼした影響というものは証言や回顧録などを読むかぎりあったようです。
幹部に昇進しなくとも、例えば米軍の精度のようにプロフェッショナルとしての曹という位置づけが完全に定着していれば問題はないのでしょうが、いきなり導入される上級曹長という制度はそれに当たるのか、議論は充分なされたのか、そして旧軍以来の昇進制度を改めて、という方式では少し不安が残ります。
曹士から幹部へ、という現行の制度にも部内を含め難色は皆無ではないのですけれども、たとえば幹部としての資質などの問題や適性の問題を省みずに進んでしまった場合、こうしたことによる弊害は、もちろん、この種の問題は、どういった組織にとってもあり得ることなのですけれども、自衛隊でも例外ではない、という話は聞きます。しかしだからといって道を閉ざす、という制度上の転換に置き換えてしまうのも考えが浅いのではないでしょうか。
例えば、一等准尉、二等准尉、三等准尉、上級曹長にも最上級曹長制度などを階級に反映させて、制度が定着したのちに、幹部への昇級制度というものを再考する、というかたちでもいいのではないでしょうか。議論を不十分に進める、もしくは制度交渉を充分でないまま進めるというのは将来にリスクを残します。
今回、目的の一つに人件費の削減、というものが少しでもあるのならば、考え直すべきでしょう。米軍では司令部付最上級曹長や上級准尉の給与では中佐クラスの給与を支給されているわけで、大きな経験のある兵士というものはそれだけに軍事機構にあっては不可欠な人材、というように考えられているわけです。
もっとも米軍では体力検定などから予備役に落とされる兵士もいるわけなのですから、必ずしも自衛隊と併せて考えることはできないのですが、経験と能力に応じて、国は国防の責務にあたる方へは応じなければならないのであって、幹部への昇級制度を新しい制度でもって絶つのならば、准幹部制度については慎重に考えるべきでしょう。
一方で、諸外国の制度を参考にするというのは、短絡的であるし反対です。人事制度や階級制度はその国の軍事機構の変遷や歴史によって培われた部分が大きいのですから、都合のいい制度をそのまま持ってくると失敗します。もっとも都合のいい制度だけを持ってくる、という事での失敗は必ずしも軍事機構などの制度だけではないのですけれどもね。
曹長から初級幹部へ、部内選抜で昇進したとしても、もちろん、困難はいろいろあります。職域によってこれは事なるのですけれども、艦艇勤務であれば初級幹部よりも先任海曹という立場の方が環境が良い場合もあるでしょうし、幹部となれば転勤が定期的にあります。しかし、そうした困難を乗り越えて、という方は大切にした方がいいのではないか、とも考えます。
もうひとつは、飛行学生制度などの面での昇級制度をどう扱うか、ということです。定義の上では幹部に昇進できないことになるのですが、防大、一般大学出身の搭乗員と、高校からの飛行学生出身の搭乗員とのあいだでの区別、というものがでてくるのか、ということについても少し疑問が湧いてきます。そしてもう一つ、曹と幹部では定年が違ってくるのですが、自衛官経験の長い隊員は管理業務などで欠くことのできない人材、それをあたかも正社員と契約社員のように昇進制度に壁を設け、派遣切りのごとく若い定年で退官させる、ということには無理があるようにも思います。予備役制度が脆弱で、しかも管理業務では軍属にあたる登用方式を採らない自衛隊の制度では、やはり現行制度の維持が重要で、他方、幹部にならないままで准幹部として昇級する制度を構築しないまま、昇進制度を閉ざす、ということには大きな疑問を感じます。日本型としてこれまで培ったものがあるのですから、無理にかえる必要はないのではないでしょうか。
HARUNA
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