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統合幕僚監部、平成21年度対領空侵犯措置任務回数の概要を発表

2010-04-26 23:44:09 | 防衛・安全保障

◆2009年度は299回のスクランブル発進

 平成21年度の対領空侵犯措置の概要が統幕から発表されました。発表は15日でやや遅れたのですが詳細などの所感について本日掲載します。

Img_90491  対領空侵犯措置とは、日本の領空に接近する飛行計画を提示していない国籍不明機が、領空から一定の距離をおいて設定されている防空識別圏内に進入した際に、そのまま進めば我が国領空に侵入する可能性が出てくるため、これを防ぐために要撃機を発進させ、対処する任務です。したがって、対領空侵犯措置の回数がそのまま領空侵犯に発展したわけではありません。ちなみに領空侵犯まで発展した事例は1966年以来34回、最近の領空侵犯事案は平成20年2月9日の伊豆諸島へのロシア軍爆撃機による領空侵犯が挙げられます。

Img_3120  平成21年度の対領空侵犯措置として緊急発進を実施した回数は299回、20年度の237回よりも増加していますが19年度の307回よりは若干減少しています。東西冷戦がもっとも加熱していた1980年代、毎年の緊急発進回数は900回前後で推移していたのですが東西冷戦の終結とソ連邦の解体移行、90年代には入り300回台となり、減少傾向が続きます。16年度は141回で50年代の水準となり17年度229回、18年度239回、19年度307回、20年度237回、そして21年度299回、という推移となります。

Img_6603  緊急発進の回数で注目すべきは那覇基地の南西航空混成団による緊急発進の度合いが上昇したことでしょうか。航空自衛隊は北部航空方面隊、中部航空方面隊、西部航空方面隊と南西航空混成団が対領空侵犯措置にあたるべく待機しているのですが、北空は千歳基地と三沢基地、中空は百里基地と小松基地、西空は築城基地と新田原基地、基本二つの基地に航空団がひとつづつ置かれていて、新田原基地をのぞき航空団には二個飛行隊が配置されているのですが、南西航空混成団は那覇基地に一個飛行隊が展開しているのみとなっています。

Img_6631  21年度は、北空の緊急発進回数が111回とトップなのですが、続いて南混の101回が続きます。那覇基地の一個飛行隊が101回対処していることになるわけですね。続いて中空の55回、西空の32回、と続くわけです。過去基本的に緊急発進回数では北空がトップなのですが、概ね中空と南混が同回数、続いて西空、という数の水位でした。ちなみに20年度は、北空121回、中空46回、南混42回、西空32回、となっていました。この数字をみると、那覇基地にもの凄い負担がのしかかっていることが見て取れれます。こうした状況が続くのならば、南西諸島の防空体制や基地配置は見直す必要があるのかもしれない、そういう印象です。しかし、細部をみると意外な事実に気付かされます。

Img_8895  緊急発進の対処国について、トップはロシア軍で197回、20年度の193回とほぼ同数でした。続いて中国軍機の38回、こちらは21年度の31回よりやや増加しました。急増したのは台湾機で、25回。これは17年度の2回、18年度の8回、19年度の3回、20年度の7回と比べますと非常に増大しており、こちらが那覇基地の緊急発進回数増大の背景にあるようなのですが、発表によれば新しい民間機航空航路が設定されたための増大であり、我が国周辺情勢との直接の関連は薄かったようですね。もうひとつ、過去数年間日本の防空識別圏に入ることがなかった北朝鮮機に対する緊急発進が8回となっており、数年間0であったのが8回、というのは大きな増大といえるかもしれません。

Img_0025  要撃対象の飛行経路は、ロシア機が沿海州を発進し、太平洋側から東京に向かって南下、中には伊豆諸島付近の公空をすすみ、南西諸島沖縄本島南方で旋回、先島諸島の周囲を一周して帰投する飛行経路や、同じく沿海州の基地を発進し北海道周辺を飛行、中には日本海側を能登半島にむけ飛行し、竹島以西の日本海側へ抜ける経路、ほかには対馬海峡を越えて飛行する事例もあったとのことです。特筆するべきは10月16日にTu142哨戒機が実施した対馬海峡への進出で、これは7年ぶりの事例とのことです。そして1月28日にはTu95爆撃機が与那国島と台湾島の中間空域を飛行、この空域へのロシア機の進出はは今回が初めてと発表されました。

Img_2748  中国、台湾機による対領空侵犯措置の増大は、民間機によるものが増大分の多くを占めているようで、その飛行経路は先島諸島北方の東シナ海上空を中国大陸の海岸線に沿って飛行していたものの割合が多かったとのことです。しかし21年度終わり頃に東シナ海上空の防空識別圏内に中国空軍のY8早期警戒機が侵入、Y8が防空識別圏内に侵入し緊急発進したのは初めての事案とのことですが、その後もY8への緊急発進は実施されているとのことです。北朝鮮軍機への緊急発進は、年度初め頃に八回連続で生起しており、日本海中部まで進出しましたものの、それ以上日本本土への接近は無かったとのことです。

Img_9349  回数としてはゆるやかな増加傾向にあり、台湾からの航空機や北朝鮮機にたいする緊急発進の事案増加、那覇基地への負担、ということも列挙したのですけれども、慎重にその動向を分析しますと、増加した台湾機による増加は民間旅客機の新航路設定によるもの。北朝鮮機による久々の防空識別圏内侵入は年度初旬に集中しており継続しての事案ではないとのこと、那覇基地への集中は前述の民間機によるものが多数あり、周辺情勢の影響は21年度の数字をみる限りは一定以上大きいわけではないということもできるでしょう。しかし、南西諸島は中国大陸と台湾を結ぶ空域に非常に近い位置にあるのだ、ということは認識させられる数字が出ていますね。この種の数字は単年ごとにみるよりは、中長期的にその動静を分析しなければ結論は出せませんので、今後の状況も冷静に情報を見守ってゆきたいと思います。

HARUNA

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