◆危機管理は大丈夫?自民党の指摘で事実認める
先日、南西諸島を通過した10隻の中国海軍艦艇についてですが、その後の動向には注意を払っていたものの、防衛省HP,統幕HP,海上自衛隊HPには発表はありませんでした。
中国海軍は南西諸島を通過し太平洋に出たのち、どの方面へ向かったのか、その情報が産経新聞や毎日新聞に掲載されたのはそれから暫く後でした。以下、産経新聞と毎日新聞より引用です。沖縄通過の中国艦艇、その後に沖ノ鳥島近海へ ・・・2010.4.20 01:30:沖ノ鳥島 今月10日に沖縄近海を通過した中国海軍の艦艇がその後、日本最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)近海に入り、同島を基点とする日本の排他的経済水域(EEZ)内で島を1周するように航行していたことが19日、わかった。複数の日米軍事関係筋が明らかにした。沖ノ鳥島は島ではなく、EEZの基点とならない「岩」だと主張している中国側による日本への示威行動とみられ、日本政府は中国艦艇の航行記録を慎重に調べている。中国艦艇は、東海艦隊(司令部・浙江省寧波)のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦2隻、フリゲート艦3隻、キロ級潜水艦2隻、補給艦1隻など計10隻で編成。10日に沖縄本島の南西約140キロの公海を東シナ海から太平洋に向けて通過した後、11日に沖縄南方海域で洋上補給を行うと、13日ごろに沖ノ鳥島周辺海域に到達した。防衛省関係者によると、現在も太平洋上で演習を継続しているという
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100420/plc1004200131001-n1.htm
産経新聞だけで判断するには、情報源として少し不安が生じます。果たしてどこから入手した情報なのか、という事を考えますと、もう少し情報が欲しいところでした。本来、この種の情報は防衛省か統幕がHPにおいてPDF文書として情報を公開するのですが、それがありませんでした。しかしながら、産経新聞以外にもこの種の情報を得ていたようで、続報は続きます。こちらは毎日新聞から引用です。中国軍艦:沖ノ鳥島西方海域で活動中 公海南下した艦隊・・・今月10日に沖縄本島と宮古島の間の公海を南下した中国海軍の艦隊が、その後、日本最南端・沖ノ鳥島(東京都小笠原村)付近を航行していたことが分かった。防衛省によると20日現在も同島西方海域で活動中という。 防衛省によると、中国艦隊は今月7~9日、東シナ海中部海域で訓練を実施。沖縄本島・宮古島間をキロ級潜水艦を含む10隻の艦隊で通過した後、13日ごろに沖ノ鳥島付近に到達した。09年6月にも中国の駆逐艦など5隻が沖ノ鳥島の北東260キロ付近の海域に進出しており、防衛省は一連の動きが中国側による日本への示威行動の可能性もあるとみて警戒を強めている。【樋岡徹也】http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100420k0000e010056000c.html
しかしながら、この種の情報を補完する情報源、北澤防衛大臣への記者会見ではことなった反応が返ってきました。防衛省HPでは防衛大臣の記者会見について、主だった内容が定期的に掲載され、一つの重要な一次資料となります。それでは引用してみましょう、徳之島移転案の質疑応答もありますが、今回こちらは割愛します。大臣会見概要 平成22年4月20日(08時55分~09時01分)・・・Q:10日に中国海軍の艦艇が沖縄近海を航行する事案がありましたけれども、「沖ノ鳥島の周りの排他的経済水域を1周した」という報道がありますが、事実についてお願いします。A:それはまだ確認しておりません。そういう事実があったかどうかということは報告を受けておりません。http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2010/04/20.html 以上です。これは二つの疑問を生じさせます。まず、情報が海幕から防衛大臣へ上がっていなかったのか、ということ。または、防衛大臣が記者へ意図的に回答を留保したのか、ということ、この二つです。前者の可能性ですが、仮に前者の説が正しいのならば本日21日に改めて会見、もしくは発表が為されていたはずです。何故ならば、情報が大臣に挙がっていないという事があったならば、こちらの方が問題となる訳で、危機管理意識が相当欠如していなければ本日訂正されているはずだからです。すると、消去法で、上記前者以外の裏側があることとなります。
この事案については自民党の佐藤議員が民主党の長島防衛政務官への外交防衛委員会での質疑によりようやく情報として認められました。これについては産経新聞が報じています。中国艦艇 現在も沖ノ鳥島近海に 防衛政務官:2010.4.20 12:46 防衛省の長島昭久政務官は20日午前の参院外交防衛委員会で、10日に沖縄近海を通過した中国艦艇のその後の動向について「沖ノ鳥島(東京都小笠原村)の西方海域で引き続き活動している」と述べ、艦艇が同島の近海にいることを明らかにした。その上で、「自衛隊の艦艇や航空機が必要な警戒監視体制を継続している」と述べた。一方、中国艦艇が同島を1周するように航行していた問題には「防衛省として事実は確認していない」と述べるにとどめた。佐藤正久氏(自民)への答弁。http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100420/plc1004201247018-n1.htm この記事を読む限り、報道されたような沖ノ鳥島を一周していたのかについては回答を曖昧なものとしている一方で、中国海軍艦艇が沖縄南方海域の南西諸島排他的経済水域を通過し太平洋に展開したのちに、小笠原諸島方面へ前進し沖ノ鳥島周辺を遊弋していたことは長島政務官が認め、結果的に北澤防衛大臣へ情報が上がっていなかったか情報を公表しなかったことを認める形となりました。
統幕HPについてですが、本日、報道発表として以下のような発表が掲載されていました。中国艦艇搭載ヘリによる護衛艦「あさゆき」への近接飛行事案について 平成22年4月21日防衛省 :件名について、下記のとおりお知らせします。 1 日時平成22年4月21日(水)15時37分頃から40分頃 2 概要 本日4月21日(水)15時37分頃から40分頃の間、沖縄本島の南方約500キロにおいて中国艦艇部隊を警戒監視中の護衛艦「あさゆき」に対して、中国艦載ヘリが水平約90メートル、垂直約50メートルの距離に接近し2周ほど周回した。 http://<wbr></wbr>www.mod<wbr></wbr>.go.jp/<wbr></wbr>j/press<wbr></wbr>/news/2<wbr></wbr>010/04/<wbr></wbr>21d.htm<wbr></wbr>l 4月13日に掲載した記事では、護衛艦すずなみ至近距離まで、中国海軍の艦載ヘリコプターが異常接近した情報を掲載しましたが、今回も警戒中の護衛艦あさゆき、に対してヘリコプターを異常接近させています。どの艦の艦載機であるかは、上記のとおり発表されていないのですけれども、少なくとも本日の時点まで中国海軍の艦艇が日本近海に遊弋している状況にある事が発表されているわけです。もうひとつは、すずなみ、ちょうかい、とともにやはり別の護衛艦も展開し警戒監視任務にあたっていた、という事も言える訳なのですけれどもね。
今回の事案は、中国海軍が3月に続き今月にも艦艇を展開させている、ということで、これまで以上に中国海軍の行動が活発化しており、今まで以上の頻度で中国海軍艦艇が日本周辺に出現した事が、今後、中国海軍がその増強する勢力をどの方面へ向けてゆくのか、という事にも興味は集まるのですけれども、それ以上に防衛大臣記者会見において何故事実とは異なる、もしくは事実を隠ぺいするような回答を出したのか、という事、野党である自民党議員に指摘されるまで政府が情報を発表しなかったのは何故か、という点の方が考えるべき点は大きいかもしれません。冷戦時代において、日本海に出現していたソ連海軍艦艇に関して、防衛省はその位置や索敵手段を暴露しないという目的から、発見した情報を必ずしもすべてを開示してはいませんでした。しかしながら、今回の中国艦艇の行動については、南西諸島を横切った時点で情報を発表していたのですし、その後の動向を開示しないという必然性は高くはありません。実のところ、情報伝達や情報開示への理解と言う面の方が、中国海軍の動向以上に問題を内包しているのではないか、そう考えてしまう訳です。
HARUNA
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