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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

平成23年度防衛予算概算要求枠4兆3450億円、前年度比5010億円の縮減

2010-08-09 23:01:39 | 国際・政治

◆任務増加・脅威増加/予算縮減・規模縮小

 23年度概算要求は4兆3450億円、22年度概算要求は4兆8460億円でしたので実に5010億円の縮減です。

Img_5735  8/5日付 ニュース トップ 『23年度防衛費 概算要求枠 4兆3450億円 特別枠で重点配分』・・・ 政府は7月27日の臨時閣議で23年度予算の概算要求基準を閣議決定した。一般会計の歳出の大枠を約71兆円とし、元気な日本を復活させるための施策に予算の重点配分を行う1兆円超の「特別枠」を設定したほか、各省庁の22年度当初予算額の1割削減を求め、積極的な予算の見直しを行った省庁に有利となる仕組みを導入した。

Img_9813 各省庁には概算要求枠と特別枠に対する要望基礎枠が設定され、防衛省は概算要求枠が4兆3450億円、要望基礎枠4751億円が示された。22年度当初予算額と概算要求枠との差額を要望基礎枠としたもので、概算要求枠の額を下回る要求をした場合、要望基礎枠の額に加えて、概算要求枠と実際の要求額の差額の3倍まで追加要求できることにしている。 また、SACO最終報告に基づく沖縄関連の経費や在日米軍再編関連の経費については、予算編成過程で検討し、歳出の大枠の範囲内で必要な措置を講ずるとしている

Img_7266  “コンクリートから人へ”を掲げて公共事業を削減した鳩山内閣が成立してから、まだ一年とたっていないのは少々驚きですが、コンクリートを無くした結果失業者が残り、失業を免れた人でも護岸工事のコンクリートが足りず水害に見舞われ、財産や生命を失いました。そして“いのちを大事にする予算”により防衛費を含め災害対策準備予算も縮減した結果、日本周辺は中国海軍が跋扈し、ロシア軍は冷戦後最大の演習を極東地域で実施、口蹄疫の災害対処は予算不足で初動に失敗しました。

Img_0533  AH-1S対戦車ヘリコプター、UH-1J多用途ヘリコプター、OH-6D観測ヘリコプター、FH-70榴弾砲、はつゆき型護衛艦、E-2C早期警戒機、F-4EJ改戦闘機といった基幹装備の耐用年数が迫っている中で後継選定が暗礁に乗り上げており、調達を開始したものの予算の艦形状多量生産することが出来ず、充分に口径装備を揃える事が出来ない装備も数多く挙げられる中で、更に予算が縮減され、訓練予算に響きつつある状況です。

Img_5875  周辺情勢が安泰ならば、思い切った防衛費の削減も選択肢に入るのですが、ロシア軍は緊縮財政下での国防費充実と近代化を発表し、三年間で六割の国防費増額を計画しています。中国の国防費は前年比一割前後の数字で推移していますので七年間で倍増する計算、中ロ関係は急速に冷え込み、米中関係も南シナ海、東シナ海、黄海で海軍同士がにらみ合う冷戦構造が再現されつつあります。

Img_7322  日本周辺の情勢は安泰では無い実例は、中国海軍による沖縄周辺海域や小笠原周辺海域の日本側排他的経済水域内での海軍演習、ロシア軍機による日本領空周辺空域での長距離飛行訓練の増加、北朝鮮による韓国艦襲撃事案、日本海側と黄海側で実施され継続が計画されている米韓合同軍事演習、これだけ緊迫化した状況が提示されている中で防衛費を縮減するというのは、どういう神経で出来るのか、という印象があります。

Img_4615  自衛隊の任務は、と問われれば増大傾向にあります。国際貢献任務への国連をはじめ世界からの要望は年々増加しているのですが、国連から輸送ヘリコプターの派遣を要請されたスーダン派遣では危険性や運用基盤の問題はもとより100億円という派遣予算の高さから断念せざるを得ず、しかし、海賊対処任務への補給艦東アフリカ沖派遣計画など、任務は最近でも増えており、ここに弾道ミサイル防衛やゲリラコマンドー対処等、今世紀に入ってより増大した任務が従来任務に乗りかかっており、遠からず巡航ミサイル防衛が新任務として加わります。

Img_9043  任務増加、脅威増加、対称的に予算縮減、人員削減、装備縮減。日本周辺情勢の特殊性に鑑みて、冷戦時代に計画された装備体制を90年代半ばまで維持してきたことから、何とか今日の状況に対応しているとは言えるのですが、そろそろ限界が近付いており、最小限の装備品に高い稼働率を与えていた防衛産業は破綻の一歩手前、揃えた装備品の後継は定まらず、辛うじて高性能の装備を揃えることで対応しています。

Img_3615  しかし、破綻点に達すれば、その後の崩壊は早いです。一度生産基盤や運用基盤が失われれば、後年再生しようとした場合、また一から取り組まなければなりません。今子供手当や高速道路無料化、航行無償か、農家個別所得補償制度を行うので、防衛に回せる予算が無い、といっても、防衛という必要性を例えば中国の民主化、日ロ間領土問題解決、朝鮮半島平和統一といった成果を日本外交が導き出せない限り、防衛体制は維持する必要があって、今は単させてしまえば、それは確実に後年の負担となります。

Img_7335  頼りにしたいのは同盟関係なのですけれども、しかし、一年間でここまで同盟の信頼関係は破綻点に近づける事が出来るのか、というほどに民主党政権は成立して以来、普天間問題で日米間の信頼関係は原点回帰、つまり日米間の信頼関係が出来上がる前の状態にまで近づいています。日本の防衛力が不充分である事は、結果的に米軍の一大後方拠点である日本の不安定化を意味して、台湾海峡や朝鮮半島での不安定化にも繋がる訳です。

Img_6730_1  こういう状況下で出来ることは全て行うべきで、潜水艦の増勢が検討されている、という声が聞こえるのですが、既存装備の近代化改修や延命措置を行い、少ない予算下での防衛力の在り方を考えるべきとは思うのですが、その指針となるべき中期防衛力整備計画や防衛計画の大綱が政府による制定が遅れていて、出てこない状況なので、装備定数、これも本来は整備するべき達成目標なのですが、上限扱いとなっていて保有数の柔軟化もできません。

Img_6287  そもそも政治主導を一応未だに掲げている民主党政権なのですから、防衛計画の大綱は政治主導で閣議決定された防衛力の必要水準に関する指針なのですし、戦車と火砲を耐用年数24年として維持する上で必要な毎年25、水上戦闘艦2隻、戦闘機11機の枠は、財務省がなんと言おうと、政治主導で定めた数字はなんとしても政府が通すべきでしょう。

Img_5338  防衛費縮減が一過性のものであれば問題はありません。再来年度に最低でも今年度程度の、つまり4兆9000億円程度確保できる見通しがあれば、一年程度ならば、何とか考えられなくもないのですが、景気対策を全く行わない現在の政府では景気が上向く可能性も少なく、このため税収も伸び悩むのでしょうから緊縮財政は政権が根本的に転換しない限りは来年度以降も続くのです。

Img_6988  現在の周辺情勢の厳しさは菅直人総理自身が知っているはずです。というのも、防衛白書の発表を内容を改めるために先延ばしした、と発表しましたが、書き加える内容は韓国艦沈没事案を書き加えるため、と発表しているからです。日本周辺では水上戦闘艦が潜水艦にいきなり奇襲され魚雷で撃沈されるような状況があり、これを書いていない事は重大なので白書の発表を少し伸ばした、というにもかかわらず、しかし重大な状況を認識しつつも予算は削減する、というのです。

Img_4683  加えて今年日本へ最初の台風が接近しています。災害派遣への即応体制を維持するためにも、装備と訓練は重要です。日本には台風以外に、南関東、首都圏、東海、東南海、南海、大規模地震が地殻の弾性限界までじりじりとエネルギーを蓄積しています。危機管理が出来ない政府では、政府としての意味は無い、と野党時代に民主党は自民党を批判していたのですから、もう少し危機管理と準備を怠らない体制を構築するよう目は向かないものか、と思うのですが、破綻点を迎える前に転換することは出来るのでしょうか、防衛は国の根幹です。経済や福祉は勿論、憲法さえも国家が消えてしまえば霧散します、防衛への認識はもう一度考えてみてください。

HARUNA

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コメント (26)
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