北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸海空三自衛隊合同離島防衛訓練 12月に九州・南西諸島で実施

2010-08-19 23:47:09 | 防衛・安全保障

◆硫黄島三自衛隊合同演習以来の規模

 北大路機関コメント欄でお教えいただいたのですが、読売新聞に今年12月に行われる三自衛隊合同の離島防衛訓練の実施が報じられていました。1998年の硫黄島三自衛隊合同演習以来の統合演習という規模のものです。

Img_6092  近年、中国軍が急速に近代化を行うとともに特に日本周辺海域での軍事演習が目立つようになってきています。この為、陸海空自衛隊に米軍を加えた合同演習が行われる事となったのですが、離島奪還訓練は陸上自衛隊においてかなり研究され、海上自衛隊も沖縄周辺海域での対水上対潜訓練をかなり積み、航空自衛隊も対艦攻撃の訓練を実施してきています。しかし、合同演習となると頭上を除き中々実施できず、記憶によれば1998年以来のものではないかと思います。

Img_9374  1998年11月16日入間基地を発進した五機のC-1輸送機がE-2C早期警戒機の警戒支援を受けつつ硫黄島に展開、井戸が浜海岸へ0630時に150名の空挺隊員を降下させました。続いて島の反対側、擂鉢山の麓に広がる二ツ浜海岸へ0800時、輸送艦おじか、がイージス艦こんごう、を始めとした護衛艦部隊の支援下で接岸し、輸送艦三隻が次々と着上陸を開始、普通科部隊と高射特科部隊が揚陸。

Img_0961  60式無反動砲、64式対戦車誘導弾、82式指揮通信車、81式地対空短距離誘導弾をそれぞれ展開させました。海上自衛隊硫黄島航空基地周辺に展開した81式短SAMは0930、展開を完了し終わるころに突如仮設敵のF-4EJから航空攻撃を受け、これに対し対空戦闘訓練を実施しました。

Img_4828  この演習には第1空挺団より150名、第1師団第34普通科連隊、第12師団第12高射特科大隊より81式地対空短距離誘導弾1セット、60式無反動砲2門、64式対戦車誘導弾1基、82式指揮通信車1両を中心に28両と人員150名が参加。航空自衛隊からはF-4EJ改4機、C-1輸送機5機、E-2C早期警戒機2機が参加しました。

Img_6163  海上自衛隊からは護衛艦くらま、こんごう、やまぎり、うみぎり、しまゆき、の五隻、輸送艦おじか、さつま、みうら、の三隻が参加。横須賀から硫黄島までP-3C哨戒機、SH-60J哨戒ヘリコプター10機とともに対潜哨戒訓練を併せて実施しています。参加部隊は海上自衛隊1800名、陸上自衛隊300名、航空自衛隊150名。

Img_9487  北方機動演習(現協同転地演習)と比べ参加部隊は少ないですが、実際に本土から1200km離れた硫黄島へ展開して訓練する、という意味ではかなり大規模な、そして意義のある訓練でした。しかし、残念ながら硫黄島三自衛隊合同演習は、この後定期的に行われる演習とはなりませんでした。

Img_7067 自衛隊が離島奪還訓練、南西諸島想定し12月・・・ 防衛省が今年12月、新たに策定した沖縄・南西諸島の防衛警備計画に基づき、陸海空自衛隊による初の本格的な離島奪回訓練を、大分・日(ひ)出生(じゅう)台(だい)演習場などで実施することが、18日、明らかになった。 東シナ海における中国海軍の勢力拡大をけん制するのが狙いとみられる。

Img_6744_1 訓練は日米共同統合演習の一環として行われ、米海軍第7艦隊が支援する。 訓練は、青色(味方)軍と赤色(敵)軍に分かれ、大分県内の陸上自衛隊日出生台演習場の一部を離島に見立てて行われる。 まず、赤色軍が自衛隊の配備されていない離島に上陸、占拠し、島内に対空ミサイルなどを備え付けるとともに、周辺海域に海軍艦艇を集結させているという状況から始まる。

Img_9128  すぐさま防衛出動が発令され、防衛省は、対地、対艦攻撃能力の高い空自F2戦闘機と海自P3C哨戒機を出動させる。赤色軍の対空兵器を弱体化させるとともに、陸自空挺(くうてい)団員など約250人が乗り込んだ8機の空自C130輸送機が、空自F15戦闘機の護衛を受けながら離島に接近する。空挺団員らは次々にパラシュートで降下し、海空自の援護射撃を受けながら赤色軍を制圧、島を奪い返すというシナリオだ。 訓練は同演習場のほか、沖縄・南西諸島周辺の訓練海域も使って行われる。

Img_0864  これまで防衛省は、周辺国への政治的な配慮などから、離島を想定した大規模な訓練を控えてきた。だが今年3、4月の2度にわたって、中国海軍の艦隊が同諸島の周辺海域で大がかりな訓練や挑発行動を繰り返すなど、ここ数年、中国海空軍の活動は活発化しており、日本にとって相当な脅威となってきていた。

Img_0282  防衛省幹部は「中国に対し、日本は南西諸島を守りきる意思と能力があることを示す。それが抑止力となる」と訓練の目的を説明する。同省は訓練の一部を公開する予定という。(2010年8月19日03時05分  読売新聞>引用は以上です。http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100819-OYT1T00023.htm

Img_6869  実施されるのは大分県の日出生台演習場を離島と見立てた訓練であって、九州への着上陸を想定したものでは無いようですが、陸海空自衛隊に加えて米軍も参加したかなり規模の大きな演習、という事になります。実動演習でここまで陸海空が一体となり統合運用を行う演習は1998年の硫黄島三自衛隊合同演習以来ではないでしょうか。

Img_2802  こうした演習を行う事は、実際に演習が想定するような状況が生じた時に備える、という目的に加えて、日本はこうした状況を想定して対処する準備を行っているのだから、怪我人がでないように日本の島々に対して演習を実戦で確認させるというようなことは行わないように!、と政治的にメッセージを送る事になります。しかし、こうした演習は実地で行ってほしかったです。

Img_6283  演習を離島に見立てた内陸部の日出生台で行うという事なのですが、これは必然的に輸送艦を用いての本格的な上陸訓練は行われず、ヘリコプターによる機動を第一に考えての訓練となるのでしょうが、しかしヘリコプターで空輸できる能力には限度があり、輸送艦から輸送された、という想定で西部方面隊管区の部隊が陸路展開する、ということになるのでしょうか。何れにせよ、有事の際には今回の演習参加部隊を輸送できる程度の輸送能力を整備する必要は出てくるでしょう。

Img_9020  記事を見る限り、米軍も参加しての本格的な演習である事は理解できるのですが、しかし離島防衛を想定するのならば、何故南西諸島の島々での実地演習を検討しなかったのか、という事が気になります。実際にヘリコプターを派遣してみなければ洋上飛行の難しさは分からないでしょうし、AH-1S対戦車ヘリコプターの能力の限界とAH-64D戦闘ヘリコプターの必要性は分からないでしょう。

Img_4186  また、実際に一定数の規模の部隊を海上輸送してみなければ、現在の、おおすみ型輸送艦3隻と、地方隊の輸送艦/輸送艇による輸送能力でどの程度対応できるのか、ということも分からない事です。稼働数が足りず演習できない、というのならば、演習計画以上に非常時というものは突如としてやってきますので輸送艦定数そのものの再考を促す必要も出てきます。

Img_6905  日出生台では無く南西諸島か小笠原諸島で行うべき、という当方の提案、実際に南西諸島周辺で行う事には一部市民団体からの反発もあるかもしれませんが、しかし、自衛隊が演習の為に揚陸演習を行わなければ、沖縄近海で示威行動を繰り返す国が上陸して演習では無く実戦を始める可能性があるためにやっている演習であって、このあたりの説得は政治の責務でしょう。

Img_2471  しかし、こうした演習を通じて、現在ある装備とともに、輸送艦や空中機動能力、後方支援、長距離打撃能力を再点検し、次に伝えてゆく、という事は不可欠でしょう。硫黄島三自衛隊合同演習から十二年を経ての演習ですが、可能ならばなんとか毎年、せめて隔年実施するように調整し、島嶼部防衛能力を高めるよう、願いたいです。

HARUNA

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