◆日本に或る他の基地と比べた場合
普天間、百聞は一見に云々という言葉は成程本当なのだな、という実感です。普天間は危険なので、と移転を要望する声が強いのですが危険なのか実際を見てみました。
普天間飛行場は世界で最も危険な飛行場、これは視察した当時のラムズフェルド国防長官の発言が発端なのですが、報道される内容からはどうしても非常に市街地に近く、頻繁に事故が発生し、という印象が植えつけられているのです、しかし、テレビなどのマスメディアで報道されている内容、これは本当なのでしょうか。
写真は住宅街に浮かぶ滑走路に輸送機が着陸しようとしている様子。流石は普天間飛行場、聞きしに勝る住宅街との近さ、これこそ世界一危険な飛行場そのものだ、・・・、と思われるかもしれません。しかし、これ、岐阜基地の写真だったりします。右奥の高層ビル付近が岐阜駅、着陸しようとしているのは自衛隊のC-1輸送機。
こちらは小牧基地。C-130H輸送機が離陸しようとしているところなのですけれども、背景には住宅街が見えています。過去には自衛隊機や民間旅客機の墜落事故があり、1994年の中華航空機墜落事故では200名以上の犠牲者が出ています。しかし立地としては、小牧基地は町役場である豊山町役場と飛行場の距離が500m、普天間基地と似たような環境にあるのです。
浜松基地。こちらは政令指定都市浜松市にあり、中心部からはやや離れていますけれども1kmのところに東名高速道路が走り、浜松西ICがあるほか、新幹線と在来線の拠点であるJR浜松駅まで距離にして5km、私鉄線も基地近傍を走り、基地の写真の背景は住宅街を構成しています。
こちらは入間基地。西武線が基地の敷地内を走るという、交通上の好立地にありますが、それは必然的に基地と住宅街が近いことも意味します。写真の背景は官舎ではなく通常のマンション、その近く、近くといっても望遠レンズの圧縮効果も多少はあるのでしょうが、C-1輸送機との距離はかなり近いといってよいでしょう。
八尾駐屯地。もともと大阪第一空港で朝鮮戦争の際に米軍が伊丹基地を拡張したため伊丹が国際空港となっていますが、第一空港はこちらでした。中部方面航空隊のヘリコプター部隊が駐屯しているのですけれども、俯瞰ではなくとも住宅街が迫っているのがご覧いただけるでしょうか。
少々列挙した基地から遠いですが、霞目駐屯地。東北方面航空隊が駐屯していますが、こちらも政令指定都市仙台市にあるヘリコプター部隊の駐屯地で、東日本大震災においては災害派遣部隊の一大拠点となった駐屯地なのですが、こちらも市街地に隣接している航空部隊駐屯地にほかなりません。
明野駐屯地。三重県の航空学校が置かれている駐屯地。田園風景の中にある駐屯地で、市街地からはかなり距離がある駐屯地なのですけれども、それにしても写真のとおり、隣接しているものはあるわけです。普天間とは比べ物になりませんが離れている駐屯地でもこうした実情。
もちろん、住宅街から距離が大きい基地もあります。写真の小松基地などは田園地帯に浮かぶ基地、着陸経路にも田園地帯かゴルフ場とあって、そこまで騒音などの危険性はありません。F-15部品脱落事故では危険性が指摘されていますが、それでも基地との関係を見てみますと距離はあるといえます。
そして京都府は舞鶴航空基地。周りに受託買いは皆無です、埋立地の飛行場ですからね、周りは海。どうしても、住宅街から距離を置こうとする普天間基地の代替地は、この舞鶴航空基地と同じように埋め立ての飛行場が計画されていますが、結局これが唯一、という選択肢になるのではないでしょうか。
写真の岩国基地などは、海上に新し滑走路を建築して、騒音と市街地を遠ざけました。もともと市街地と距離は考えられていましたが、海上に出していますのでさらに騒音は軽減されることになるでしょう。内陸のある普天間はそのまま海側に滑走路を建設することは不可能ですが、だからこそ名護市への移転、と現時点で日米合意があることは妥当性はあるとおもうのですが。
こうした記事を書きましたのも、私はてっきり普天間は誘導路のすぐそばまで住宅が迫っているのではないか、とか滑走路の安全帯にも人が住み着いている、そんな状況を考えていたのです。しかし、この目で見たところ、確かに離れている、とは言えないのですが、こうした基地は日本国内に数多くある、という印象を超えるものではありませんでした。
このように、日本という狭いこくどでゃ基地と市街地は近接せざるを得ない場合が多いという事例はお分かりいただけたでしょう。しかし、危険性、といえば距離以外にも論点は幾つかあることは知っています。米軍基地であるから世界中から狙われる、という視点。そして事故が多発することから周辺への安全性が確保できないのではないか、という視点が主なところでしょう。
米軍基地があると世界中から狙われる、という視点。こうなりますと、ならば普天間基地と航空自衛隊の那覇基地の一部を置き換えれば、反対派が指摘する内容は解決されます。航空自衛隊は世界中はもちろん周辺国と戦争はしていませんので、狙われる、という論理そのものが成り立たなくなるのですがどうでしょうか。
ただ、これも不思議な論理で、沖縄の米軍基地が狙われたのは日本人の過激派を除けば第二次世界大戦において日本軍が米軍を攻撃した際のみです。テロの標的を除けば、世界でも米軍基地が軍事目標として標的となったのはヴェトナム戦争におけるダナン航空基地のような前線飛行場で、米軍基地が標的となった話、浅学にして聞きません。本来基地があるからこそ抑止力が発揮され、地域が標的となりにくい、こう考えるべきでしょう。
また、事故の多発ですが、確かに発生はしています。しかし普天間基地の場合、所属航空機の事故は基本的に演習場や洋上といった基地から非常に離れた場所で、基地とその周辺での事故は海兵航空群が普天間に展開した1969年以降では1980年10月2日にOV-10観測機がタッチアンドゴーを行っている最中に滑走路上で墜落した事例、2004年8月13日に沖縄国際大学構内にCH-53D輸送ヘリコプターが墜落した、この二件だけです。
これを那覇空港と比較してみますと、那覇空港とその近隣では自衛隊機の墜落事故こそありませんが、1970年7月27日にアメリカのDC-8貨物機が滑走路手前の海上に墜落、2007年8月20日には中華航空のボーイング737-800が炎上し、乗客乗員は全員無事に避難しましたが機体は全損、普天間基地と比較した場合、大型機の事故である分、こちらの方が危険とさえも言えてしまうわけです。
普天間基地の移設そのものは民意でもあるようですから、反対するつもりは毛頭ありません。しかし、市街地に近すぎる、という表現は、正しくは日本のほかの基地と同じくらい近い、と追記するべきでしょう。事故が多い、という表現も、基地周辺では過去42年間に二回も事故が起きている、と表現すべきです。危険、ということのみが報道されていますが、実際には、というところにも目を向けて考えなければならないように考えるのですが、どうでしょうか。
北大路機関:はるな
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