北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

東日本大震災災害派遣任務終了 史上空前1066万の動員

2011-12-26 23:20:36 | 防災・災害派遣

◆次の大震災に備え、賞賛に留まらず検証措置を

 一川防衛大臣は本日26日、東日本大震災に伴う自衛隊災害派遣について、そのすべての任務が完了し終了したことを発表しました。

Img_9861 奇しくも25万の犠牲者を出したインド洋大津波から七年目の本日ですが、東日本大震災では2万近い方が犠牲となられました。一方で空前の被害を前に空前の災害派遣が行われ、東日本大震災災害派遣任務における自衛官の災害派遣規模は延べ1066万名と、文字通り史上最大の規模の派遣となりました。派遣人員規模は自衛隊が突出しています。

Img_6908 消防吏員と警察官、自衛官は概ね同規模なのですが、消防の緊急消防援助隊が述べ10万4093名ですのでもちろん地元消防を含めるべきなのですが数字としては消防の100倍、警察の広域緊急援助隊も最大派遣規模で4900名、延べ人員では消防よりも少ないという実情でした。

Img_7587 最盛期には全自衛官の半数にあたる10万4000名の派遣が行われ、アフリカ沖での海賊対処任務やハイチ大震災復興人道支援任務といった海外での任務に加え、南西諸島の防衛警備を固め、加えて周辺国の航空機への対領空侵犯措置任務、領域警戒とほかの地域での災害へ備えつつの災害派遣であったことは特筆されるべきでしょう。

Img_1641 当初は10万規模の災害派遣が半年程度維持される、という話もあり、加えて首都直下型地震への災害派遣が5万名規模を想定し派遣計画を作成したのだけれども、それを政府が動員計画や必要な展開能力の裏付けもなくして派遣規模を突如10万とした点等に疑問が寄せられたのも事実です。このことから、単純に自衛隊は頑張った、自衛隊は凄い、と賞賛に終わるだけではなく、次の災害においてより円滑な派遣と救難体制を構築する方法は模索されるべきではないでしょうか。

Img_9383 本来ならば、今回の災害派遣を契機に、米軍や豪州軍の支援無くして実現しなかった機動に果たして現在の自衛隊が有しているヘリコプターや輸送艦、輸送機といった緊急展開能力を支える装備は充分であるのか、予備の装備事前備蓄や即応予備自衛官制度は現在のままで次の震災を待たねばならないのかは議論されていなければなりません。

Img_7088 しかし、有識者会議が招集されるでもなく、来年度予算では増員が求められていた陸上自衛官の規模についてはそのままで、発表された予算についても概算要求の時点ですでに必要な部隊の機動力を支えられるものではなくなっており、これで大丈夫なのか、と真剣に、しかし解決策に繋がらない空虚な孤独感に苛まされてしまいます。それならば、一つ改訂したばかりではあるのですが防衛計画の大綱における自衛隊に求める能力を洗い直し、次の震災に備える体制は立てられないものなのか。

Img_5984 災害時に、しかし機動力が工面できなくとも、自衛官は現在の定数、装備、法律面を超えることはできません。文字通りこれは政治の決定すべき命題であり、これは文民統制として武力の運用と規模の画定を文民が決定し命令するという大前提で進められた以上、政治に責任があるのですが、果たせる政治家を養成し選別し支持する事を怠った問題も忘れてはならないでしょう。

Img_1550 財政難は現実問題として、これも忘れてはならないのですが、財政の根本は税収であり、税収を支えるのは経済活動としての生産と社会的相互行為にあり、背景の流通と投資にあります。次の災害への防災がままならなければ、一種の棄民政策に繋がり、これは直接経済活動の停滞と国外流出に繋がります。敢えてこの道を選ぶ政府であれば政権から滑り落ちてもらわねばなりません。

Img_7374 少なくとも情報収集の面で限界があり首相自ら情報過疎に追い込まれ、隔靴掻痒の感から自ら対策本部を開けヘリコプターによる被災地視察を行った点は、偵察機や観測機の充実という施策で応えられるべき即座の課題でしたが放置されたままです。無論、首相官邸地下の危機管理室ではなく官邸上層階に対策本部を置いたため、自ら情報から遠ざかっていた印象もあるのですが。

Img_0534 こうしたなかで、政府による無理を通した動員による全体の救難救助計画への影響への事業評価、こうしたうえで、想定される最大規模の災害へ備える動員体制があってしかるべきではないでしょうか、なによりも動員能力と緊急展開能力の整備は自衛隊最大の任務である防衛出動においても発揮されるべき能力ですからね。

Img_6275 加えて、原子力災害派遣という想定外の重大任務へも派遣の可能性が生じた以上、大規模な災原子力災害への対処能力を整備するべきです。東海大に原発と百里基地、大飯原発に高浜原発と舞鶴基地、島根原発と美保基地、浜岡原発と静浜基地はそれぞれ30km圏内の関係にあり、玄海原発から30km圏内に佐世保市が入ります。必然として核汚染への対処能力は、防衛計画の大綱を改め堅固なものが必要です。

Img_0296 このように史上最大の災害派遣には多くの問題が存在したのですが、現時点だけでは自衛隊の活動と活躍を称賛する声こそあれ、問題点の洗い出しと規模や編成の強化を示唆する声は僅かです。次の災害は地球が生きている限り地殻はマントルとともに動き大震災は必ず生じます。それまでに、防衛計画の大綱を洗い直し、国民が経済活動にまい進できる体制を政府が構築出来るよう方法を官民一致で考えてゆくことが必要なのではないでしょうか。

北大路機関:はるな

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コメント (4)
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