北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

金正日死去 朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者、朝鮮労働党総書記の急逝

2011-12-19 22:59:05 | 国際・政治

■3.11に続く極東の激震

 最初に国家指導者を失った隣国朝鮮民主主義人民共和国国民の皆様に心からのお見舞いを申し上げます。3.11東日本大震災とともに極東地域での激変として2011年は長く記憶されることでしょう。

Img_3465  金正日総書記は農業政策の面での失敗と瀬戸際外交と表現される隣国への恫喝と要求を組み合わせた独特の外交政策を展開させ、同時に国際公序から逸脱した核開発や邦人拉致、工作員浸透に偽造貨幣などの諜報戦を行った国家の指導者、という側面があり、弾道ミサイル防衛など我が国の外交安全保障政策へも影響を及ぼした隣国の指導者でした。

Img_6592  一方で、東西冷戦が醸成した朝鮮半島の東西分裂、そして冷戦構造の終結に伴う国際政治情勢の激変、それに続く中国の近代化やアメリカの環太平洋政策と世界戦略の連関関係を念頭に今日の朝鮮半島を俯瞰した場合、米ソ緩衝地帯は米中緩衝地帯という新しい位置づけにあり、結果論として地域大国と超大国の緩衝地帯を維持した、という意味では評価されるべきかもしれません。

Img_6906  また、ラリーボンドの侵攻作戦レッドフェニックス、森詠の日本朝鮮戦争と数え上げれば多くの軍事スリラー等において好戦的な人物という印象があった人物ではありますが、結果的に100万の人民軍を南下させることはなく、乏しい国力から攻勢的な抑止力を展開した、故人となった今では非常にしたたかな人物と評価を改めたいと思います。

Img_6160_2  さて、一方で意外だったのは、北朝鮮はその指導者の死去を三日後という比較的短期間で発表に踏み切った、ということでしょう。特別列車の車内にて心筋梗塞により急逝、その三日後ではありますが、米韓中の情報機関はその情報を入手していたのか、三日前の急逝は事実であるや否や等などすべてを事実と受け取ることは諫めたい一方で、公表されたということは驚きではないでしょうか。

Img_4542  こうしたなかで、もっとも関心事となるのは後継者への権力移譲です。金正恩氏が後継者と指名されていますが、氏は1983年生まれの27歳、国家の指導者としてはまだ若いという印象は拭えません。朝鮮労働党幹部や人民軍上級指揮官との共同統治体制という選択肢も考えることはできるのですが、この場合権力固めと移行の機会は非常に困難と不確定要素を含むことになります。

Img_6139  実は北朝鮮の政軍関係についてあまり詳しくないため、地域研究者でこの地域の政軍関係の研究を行っている後輩に連絡を取っている最中ではあるのですが、確かであるのは金正日氏であっても人民軍を完全に統制できているかは疑問視される事例が過去の人民軍の行動においていくつかあります。人民軍統制の問題は農業政策や外交政策など明示され解決が可能な問題に起因するものであれば後継者の政治手腕如何というところですが純粋な権力闘争といった解決しえない命題が含まれれば対応は難しい局面が出かねません。

Img_4537  果たして新しい指導者は人民軍を統制できるのか。後継者選定の政治的正統性を問うた場合、例えばさらに正統性ある権力集中へ選挙を行い、というようなこととなれば、これはわが国はじめ自由主義国、民主主義国家が非民主主義国家や途上国に対し陥りやすい事案ですが、安易に行えば政治機構や政治システムまでもを一挙に破たんさせかねないものであり、現時点に至っては難しいといえるでしょう。

Img_2422  この懸念から暴発の可能性はないのか、という判断もあり、米韓両軍は非常警戒体制にはいっています。日本でも一川防衛大臣は本日お昼の会見で警戒体制に万全を期する、と発言しており、相応の体制は必要とみられ、体制が落ち着くまでの数年間は警戒を要します。他方で新しい国家指導者により、米朝関係の懸案や日朝関係など、そのつもりがあれば白紙とまではいかずとも新しい関係の構築は可能で、可能性としてわが国も北朝鮮も含めた周辺地域の安全保障関係も好転させることが実現する要素は残っています。なにはともあれ、故人の冥福を祈り明日を実現させる努力を望みたいですね。

北大路機関:はるな

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