◆演習で無敵の105mm戦車砲搭載装甲車
連載記事連載記事で身動きがとりにくくなり、備忘録的に不定期で色々と考えてゆこうか、と。
機動戦闘車、開発時期から類推して既に完成し試験が進んでいるだろうから、その試作車が来月の中央観閲式において装備品展示に出されるのではないか、という期待や予想がある中、今回は機動戦闘車が本土戦車大隊で過剰評価されるのではないか、という危惧について備忘録的に紹介しましょう。
昨年九州へ北海道より第7師団の90式戦車が展開した際、同じ陸上自衛隊員ですが、74式戦車を専ら運用してきた九州の機甲科隊員が、機動力の高さと火器管制装置に暗視装置の性能に文字通り惚れ込み、これはなんとか近代化してほしい、という要望が出されました。今年度末に北部方面隊直轄第1戦車群が解体されますので、その余剰車を、という声も出されたようです。
さて、機動戦闘車ですが、行進間射撃が可能であるかは、車幅の制約もあり、側方向への射撃や特にスラローム射撃に問題はあると思いますが、10式戦車の技術に依拠し開発されている部分も多く、確実に暗視装置と火器管制装置の性能で74式戦車を圧倒するでしょう。特に自動装填装置により連続射撃が持続して可能ですし、データリンク能力などは世代が根本的に異なる概念というもの。
機動戦闘車は天で支える装輪式構造で履帯のように面で支えないため重量が分散しにくく重さに上限があり、そしてC-2輸送機へ搭載できるよう26t以下に収めることが求められているので防御力が戦車と比較し特に戦車砲弾のような運動エネルギー弾に対し致命的に低いことが予想されますが、74式戦車も防御力は低くなっています。
74式戦車の装甲は、対戦車ミサイル全盛期の第二世代戦車が、結局装甲強化でミサイルに対抗すれば動けないほどの重戦車になってしまうため攻走守という戦車三要素の中で防御を断念し、他の二点に注力した設計であるため、正面装甲は傾斜装甲を含めても大口径機関砲に耐えるか否かという程度ですので、機動戦闘車の中口径機関砲への防御力程度と比較すればそれほど変わらないのです。
反面、戦車は演習場で運用された場合、結局どの部位に命中しても撃破判定が出されるため、本来ならばその個所にその角度から命中しても行動不能とはならないのではないか、撃破には至らないだろう、という点は無視されます。しかしだからこそ、火器管制装置と主砲にデータリンク能力のみ突出している機動戦闘車は本土戦車大隊で過剰評価されるのではないか、という危惧があるということ。
演習場では、火器管制装置に優れていて遠距離から、座標情報の共有で攻撃を仕掛け、暗視装置を最大限活用する機動戦闘車は74式戦車を圧倒できるでしょう。しかし、これが実戦であれば、不整地突破能力の面で差が出ますし、機動戦闘車を一本換えて10式戦車と比較した場合、移動目標へのスラローム射撃能力と防御力で圧倒されてしまうのではないか、という印象が無いでもない。
これは、74式戦車よりは機動戦闘車の方がよいのだが、10式戦車の方がいいに決まっている一方で10式戦車が充当されないのならば機動戦闘車で我慢するしかない、という視点となるのですが、併せて、防衛出動を想定した対戦車戦闘能力ではなく、演習場での使い勝手の方が隊員に有用性を判断される、数字では代えられない印象として刻まれてしまう、ということ。
これを示すように、戦車ですが、一時期非常な過小評価に曝されたことがりました、87式対戦車誘導弾などの普及時期、同時期にレーザーを用いた模擬交戦評価装置が導入され、文字通り光速で進むレーザーにより戦車が遠距離で普通科の対戦車小隊に続々と撃破されてしまい、攻撃前進を行うと非常に危険であるばかりか、演習場制約から躍進行動を一回程度しか行えず、戦車は役立たず、という印象が付いてしまったのです。
しかし、機甲部隊指揮官は、レーザーが障害で直進しにくい薄野や森林地帯を選んで前進し、発煙装置との併用で戦車の監視能力の高さを最大限活かす戦域を選び、対処法を学びました。地形防御と障害の有効利用で対応した、つまり結局は乗員と指揮官の熟練度がものを言った、というところでしょうか。
事実、対戦車誘導弾は、機種により差異はあるのですが実際問題として戦車砲弾ほど速くなくレーザーのように照射即撃破には至りません。ミサイルは最低射程距離があるほか、安定翼が障害物に引っ掛かった場合、イラク戦争の市街戦におけるTOWミサイルのように意外と無力というもの。
こうしたように、機動戦闘車も演習場で無敵の威力を発揮するため、大きない性能を持つと勘違いされるかもしれませんが、これは世代を切り替えれば61式戦車よりも89式装甲戦闘車のほうが強そうに見えるようなもの、もちろん世代が違うのである程度当たっているのですが、それではその事実を以て戦車よりも装甲戦闘車が有力なのではなく、単に世代が違うだけ。
それならば、機動戦闘車は不要なのか、と問われれば、全くそういう考えはありません、高初速砲弾を投射する直接照準火力を備えた機動戦闘車は、対戦車ミサイルに無い部分を補う装備で、いうなれば、全廃された60式自走無反動砲のように対戦車ミサイルの欠缺を補うことが出来る事は確か。
戦車は有力ですが運ぶことも大変で、それならば戦車が欲しいが無い部隊への暫定的な代替装備として、特に普通科中隊の対戦車小隊へ、中距離多目的誘導弾の補完として2両程度を装備する、本部管理中隊へ機動砲小隊を置いて火力支援に用いる、偵察隊用の機関砲を搭載する近接戦闘車の補完用など、用途は広いでしょう。しかし、戦車の代替となるというような過剰評価は、起こらないようにしたいものです。
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