◆番匠総監指揮下、ワシントンヤキマ演習場展開
防衛省によれば、本日9月4日から24日まで、米本土ワシントン州ヤキマ演習場において派米実動演習“雷神2013”が開始されたとのことです。
派米実動演習は、1998年より陸上自衛隊が保有する長射程火砲や行進間射撃などを我が国国内での最大射程を活かした演習について、その演習上の制約より実施できなかった装備を米本土の演習場で実施するという目的で開始され、四国に匹敵する面積のワシントン州ヤキマ演習場において実施されてきました。
日本国内にも多くの演習場がありますが、最大の演習場は北海道の矢臼別演習場で、しかし、ここでも火砲は最大14kmまでの射撃しか行うことが出来ず、かつて行われていた北富士演習場から東富士演習場までの長射程射撃も現代では安全上から実施不能、30km以上の射程を有する現用火砲は最大射程射撃ができません。
これは意外と深刻で、過去に陸上自衛隊がまだM-1榴弾砲などを使用していた時代、東富士演習場にて米陸軍のM-198榴弾砲と共同訓練を行ったところ、陸上自衛隊の火砲は大戦中の旧式ながら百発百中、米陸軍の最新M-198榴弾砲は全く当たらない、ということがありました。
単純に自衛隊を持ち上げたいだけの記者や識者ならば自衛隊は優秀、と一言で片づけるのでしょうが、日本側の師団長が訝しんで米砲兵大隊長に尋ねると、東富士演習場の最大射程は3kmでM-198の実弾射撃では、こんな短距離射撃を想定した設計になっていない、自衛隊は長距離射撃訓練を行わないのか、ちゃんとした演習地は無いのか、と逆に尋ねられた、とのこと。
これでは、六畳間でフルマラソンの練習をするようなもの、と陸上自衛隊内部でも長年懸念されていたものであり、確かに琵琶湖の小鮎の如く連隊や大隊の規模も演習場の大きさに合わせ小型化している印象も否めず、結果、最大限の効果を発揮するには、海外の演習場を用いるしかない、との結論に達しました。
ヤキマ派遣の演習は、その当初こそ、特に日本国内の演習場では跳弾の危険性があるため実施できなかった90式戦車の行進間射撃の訓練、そして長射程の多連装ロケットシステムMLRSの実弾射撃訓練が大きな目玉として実施され、とくに北部方面隊の戦車が優先されてきました。
しかし、国内の演習場においても運用可能な00式演習弾の開発により、富士総合火力演習での90式戦車行進間射撃展示のように、国内でも演習が可能という条件がそろう反面、本土師団や旅団についての能力向上の必要性が、脅威の西方シフトと共に高まり、第8師団や第6師団など、派米訓練へ参加するようになった流れになった、というものです。
蛇足ながら、初めてアメリカの地を踏んだ74式戦車、第6戦車大隊の精鋭74式戦車を観たアメリカ軍将校が一言、日本陸軍はT-62戦車使ってたのか、と。90式戦車が日本の評論家にレオパルド2と似ていると揶揄されることは過去にあったようですが、74式戦車はそんなに宿敵T-62戦車と似ていますかね。
日米共同訓練の重要性は相互理解というものがあり、T-62の一件は別としましても、日米は同盟国、日本有事の際に日米は協同するわけなのですから、同盟国日本はどういう装備を以て任務に向かっているのか、という事を理解してもらうことは重要なのだ、といえるところでしょうか。
今回の雷神2013演習には、陸上自衛隊西部方面隊の番匠総監が担任官として参加し、訓練実施部隊として福岡の第4師団より、第16普通科連隊を中心に、第4特科連隊、第4戦車大隊、西部方面隊第3対戦車ヘリコプター隊などの諸職種連合部隊として500名が派遣されています。
派遣装備は、89式小銃、120mm重迫撃砲、155mm榴弾砲FH-70、74式戦車、戦闘ヘリコプターAH-64D,対戦車ヘリコプターAH-1S,多用途ヘリコプターUH-1J,無人偵察機システムFFRS等が派遣され、諸職種協同要領を実演習により演練し、総合戦闘力発揮のための連携と相互運用性の向上を図る、とのこと。
今回の訓練は日米共同訓練ということで、日米間での相互連携と協同運用の能力を向上する観点から米陸軍部隊の参加が決定しており、米陸軍からはワシントン州ルイスマッコード基地に駐屯する第3-2ストライカー旅団戦闘団第5歩兵大隊基幹の300名との協同訓練を実施します。
昨年、饗庭野演習場において第10師団と日米共同訓練を行ったストライカー装甲車や、AH-64E戦闘ヘリコプターが参加します。昨年の演習では第25軽歩兵師団、ハワイ駐屯の第2ストライカー旅団戦闘団第1-14歩兵大隊が参加し、部隊は異なるようですが、米軍と自衛隊の多くの部隊が協力を行う事の方が意義深いという事でしょう。
特にストライカー装甲車とともに米軍はAH-64E戦闘ヘリコプターを参加させるとの発表ですので、ストライカー装甲車には陸上自衛隊の装甲車が第2師団などで研究を進めている戦闘ヘリコプターとの情報連携能力が標準装備されており、この能力を西部方面総監とともに有用性と発展性などを考える上でこちらも重要と言えるものです。
特に、情報優位が戦域優位に直結する将来戦闘を考える場合には、電子通信環境も重要であり、陸上自衛隊の方向性と新旧折衷の装備体系と運用体系の中で、どこまでが通用し、どこからが不足するのか、これらは日本国内での演習場ではなかなか実現できません。
他方、第4師団には光ファイヴァー誘導方式により既存の対戦車誘導弾と比較し、射程が大きい96式多目的誘導弾が第4対舟艇対戦車隊へ装備されていますので、特に情報伝送と情報優位獲得こそが、その長射程を活かしての戦域精密火力優勢獲得に繋がる装備なのですし、今回の訓練へ参加を考えてほしかった。
また、到底自衛隊の輸送能力と予備部隊の配置では実現はかなわないのですが、可能ならば師団等協同転地演習、とはいかずとも、連隊戦闘団規模の2000名と方面隊支援部隊を含めた2500名規模の部隊を米本土に派遣し、米陸軍の対抗部隊派遣を要請し、本格的な連隊戦闘団の実動訓練の必要性は無いのか、と考えるところ。
さて、第4師団は対馬壱岐地区という島嶼部防衛を担う師団であり、併せて番匠総監率いる西部方面隊は沖縄県を中心とした南西諸島の防衛警備を担う、自衛隊で最も軍事的圧力を受け、緊張する地域を防衛警備管区とする方面隊であり、この方面隊が保有する装備の能力を最大限活かすことが可能な態勢を整える意義は大きく、その成果を期待したいところです。
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