北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

名護市が借地料収入低下と再利用困難を理由に米軍用地返還延期を要請、防衛省は難色

2013-09-06 23:21:58 | 国際・政治

◆基地返還後の利用計画や財投計画不在

 米軍基地返還を求めてきた沖縄県ですが、米軍敷地返還の日米合意に対し名護市の稲嶺市長が難色を示してきました。

Img_3539 名護市の海兵隊キャンプハンセンの一部返還は以前より決定しており、何時返還されるのかというその具体的時期が模索されてきましたが、昨日、この具体的時期が日米合意により決定しました。しかし、この返還について、意外なところから反対の声が上がりました、地元の名護市です。

Nimg_2125 名護市としては、返還されたとしても傾斜地等で再利用できない土地が少なからずあり、加えて急に返還された場合、米軍用地の借地料収入が消滅してしまうため、延期を申し入れてきた、というかたちです。元々、こうした議論はあったのですが、これに合わせ、既に過去三回、返還の延期が行われてきました。

Img_0155a 他方、米軍用地は米軍用地としての運用が終了すると同時に日本側へ返還するとの日米地位協定における明示があり、少なくとも米軍用地としてのしようは米軍の使用終了とともに返還されるわけですので、例えば防衛省用地としてでも移管されない限り、現場の勝手な運用で維持する、ということはできません。

Iimg_1166 そしてこのほか、傾斜地など再利用に限界がある地域でも借地料の対象となっているため、仮に返還された場合、傾斜地であることからそのままでは再利用不可能で大変な財投が必要となりますし、返還されても利用できない、という事は困惑する要素ではあるでしょう。

Img_7046  防衛省としては難色を示しています。ある意味当然で、返還要請があるため返還しようとすると反対である、というのも少々不可思議ですが、同時に用地返還を土地の利用価値に応じて返還時期や借地料支払継続を行うことは、逆に問題を複雑化させ、利用価値を構築するよりも現状維持の補助金を望ん声の方が大きくなってしまい、これは難しい。

Gimg_9744 もちろん、返還されることはもとより決定していたのだから、何故返還後の再利用計画の検討を先送りとしてきたのか、という疑問はありますし、そもそも傾斜地という利用価値の無いところでも税金から借地料を払っていたのか、という憤りにようなかたちではある疑問は残るところではありますが。

Img_1802 他方、米軍用地は地元にとっては重要な現金収入源であり、重工業基盤が、特に港湾設備に限界があることから発展できなかった沖縄県にとり、その大きな意味は理解できるところです。しかし、返還要請を一つの民意として醸成し、日本政府もこうした長期的展望の下、返還計画についての日米交渉を続けてきました。

Simg_8666 実のところ、例えば返還後の利用計画を明示している普天間基地を例に挙げますと、宜野湾市は再利用計画にリゾートホテル化やショッピングモール建築、公園整備などを提示し、嘉数高台公園にも明示してあるのですが、リゾートというには海から距離が大きく、ショッピングモールも公園なども近傍にあり、実現性はどうなのか、と疑問には残るところ。

Cimg_9091 そして現実として、嘉手納基地近傍で既に返還された読谷補助飛行場跡地は、2006年の返還前こそ工業団地やリゾートホテル群に巨大ショッピングモールの建設という壮大な計画が提示されていたのですが、出資者が現れず、滑走路跡地をそのまま直線道路とした公園として再整備し、それも除草費用などを捻出できないため、ハブの繁殖地となり、立ち入ることが危険な地域となった事例があります。

Iimg_2562 もっとも、米軍用地跡地利用として定番化しているショッピングモール化やリゾートホテル化計画ですが、そもそも米軍基地が縮小されると同時に中国軍の沖縄周辺での活動がさらに活性化した場合、これは韓国への観光客が朝鮮半島情勢の影響を大きく受けたように沖縄県への観光客誘致にも影響が及ぶことも忘れてはならないでしょう。

Nimg_0554 さて、今回の名護市の米軍用地返還延期要請は、沖縄県の基地反対という建前と基地経済依存という本音が難しい部分で折り重なっている厳しい現実といえるでしょう。産業構築一つとっても、港湾整備や造成工事など、環境負荷が大きなものはありますので、安易に進められるものではありませんが、討議は必要です。

Gimg_8737 特にこの借地料ですが、今年6月13日の日米共同委員会合意において嘉手納基地以南米軍施設全面返還の方針が明示されましたので、嘉手納基地以南の米軍用地地主は今後、返還後、持っているだけで課税対象ともなるわけですので、その再活性化計画を考えてゆかねばなりません。

Img_8706 嘉手納以南返還は、今回の名護市の返還よりはかなり先とはなるのですが、用地の再活用、そのための諸経費算出、財投への出資者の算段、借地料に依存しない経済基盤の構築を考えてゆかねばなりません。しかし、これも前述の建前と本音の関係もあり、論議が進められなかった経緯もあるでしょう。

Img_6592 建前と本音は使い分けるべきではありますが、行動が真逆となっては対応できません。もちろん、前述のように米軍の抑止力を維持するという要素と中国からの軍事圧力増大に両立する回答は、日本は日本人が守る、という体制の構築の必要性に他ならないのですが、併せて跡地利用について、理念と主張だけではなく、現実的な算段も必要である、今回の事例はこれを端的に示しているといえるかもしれないでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (15)
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