北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と我が国防衛力の課題② 軽視される陸上防衛の根幹、機動打撃力への警鐘

2013-09-16 23:19:38 | 防衛・安全保障

◆普通科重視は単なる予算縮減の方便か

 新防衛大綱に関する特集ですが、今回は陸上防衛力が軽視され過ぎているのではないか、という部分を考えてみましょう。

Dimg_3564 防衛大綱において陸上自衛隊が軽視されているのではないか、と考える根拠には、前回の防衛計画の大綱改訂の際に、戦車と火砲という根管陸上防衛装備を削減する際に、柔軟性を有する普通科部隊へ大きく転換する、としていた決定が、全く予算措置により担保されなかったことにあります。

Img_4816 機械化歩兵部隊、特に欧州諸国では戦車に換わる新しい主力として装甲戦闘車を中心とした機械化歩兵部隊の地位が向上しています。大口径機関砲と連動する高度な火器管制装置、重装甲に防護され高い機動力を有する装甲戦闘車を大量に保有しているのならば戦車はある程度代替できます、もちろん費用は戦車とあまり変わりありませんが、普通科重視を掲げるならば、こちらの充実を進めねばなりませんでした。

Dimg_1303 新しい防衛計画の大綱が島嶼部防衛を重要視しすぎる場合、主たる防衛力は海上戦闘と航空戦闘となり、陸上自衛隊が軽視されることとなりかねませんが、専守防衛を国是とする我が国は第一撃を行うことが出来ないため、政治的に着上陸を許さざるを得ない蓋然性が高く、余り陸上防衛を軽視する場合、かえって取り返しがつかなくなる可能性は捨てきれません。

Simg_4568 さて、前回の防衛計画の大綱改訂での普通科重視施策、普通科部隊へ重点を置くとはいえ、戦車と火砲を削った部分の代替は容易なものではありません、それだけに戦車の防御力と攻撃力に機動力の相乗効果は大きく、近代から現代までの陸上戦闘は、相手が戦車を有する場合、如何にしてその戦車を無力化するかに重点が置かれていたほどなのですから。

Aimg_2735 対戦車装備が充実した現代でも、監視装置は携行が難しい高度なものを車載し、遠距離から瞬発交戦力を発揮できますし、不整地を物凄い速度で踏破するのも戦車ならではの能力であり、特に近距離戦闘部隊との直協を行えば、非常に有用なものとなります。難点は空輸が難しい点ですが、これも、防御戦闘に際しては一旦展開し掩砲所に入れてしまえば、逆に相手が対戦車装備を搬入せねばならなくなる。

Dimg_4415 近年、特に欧州では冷戦型の大規模機甲部隊直接侵攻の脅威より欧州周辺地域の安定化を防衛ドクトリンの基本ンび置いたことによる国際平和維持活動への比重増大に伴い、戦車部隊を排し、装甲戦闘車部隊への代替を進めてきました。戦車を置き換える歩兵とは、機械化戦闘部隊に他ならない、というものだったわけです。

Gimg_2585 もちろん、戦車を置き換えられるような装甲戦闘車は非常に高価です。我が国は熱線暗視装置と35mm機関砲に対戦車ミサイルを装備する89式装甲戦闘車を開発しましたが、欧州に広く普及したスウェーデン製CV-90は40mm機関砲を搭載しC型は行進間射撃が可能、ドイツ製プーマ重装甲戦闘車は30mm機関砲と増加装甲で43tの重装甲を有するに至りました。

Mimg_2056 オーストリアスペイン共同開発のアスコッド歩兵戦闘車はイギリスが戦車をオッ変えるべく42tの重装甲SV型が開発され、欧州では徐々に戦車を大幅に廃止するか全廃する国が出てきていますが、情報伝送装置と高度な火器管制装置を搭載する装甲戦闘車は、その調達費用も高い。

Himg_0049 戦車に随伴し、戦車を支援する装甲戦闘車と異なり、自らが主力として戦闘を展開する装甲戦闘車の調達費用を見ると、邦貨換算でCV-90Bで7億円、アスコッドSVで9億円、プーマで11億円と、90式戦車の最終調達価格8億円と比較し、非常に高価なものとなりました。

Img_3759 戦車と協同する装甲車ならば、戦車の火力と監視能力を補完することが任務ですので、過剰な監視能力と大きすぎる装甲防御力は必要ありません。しかし、装甲戦闘車だけであれば話は別で、高性能化と価格高騰の道を進むため、変な話ですが、戦車一個小隊と装甲車二個小隊で編成される混成中隊と装甲戦闘車三個小隊を基幹とする一個機械化歩兵中隊では、装備に必要な費用は、実質、変わらない。

Img_0229 ただし、高すぎる欧州の装甲戦闘車、これが問題視されなかったのは、欧州では予算縮減のために戦車を装甲戦闘車に置き換えたのではなく、装甲戦闘車の任務が増大したために受け入れられたからにすぎなかったわけなのですが、我が国が戦車と火砲の任務を歩兵つまり普通科に置き換える際、此処まで予算的なものが考えられたでしょうか。

Gimg_6712 例えば、陸上自衛隊が戦車を1200両から900両を経て、400両にまで戦車定数を削減した際、89式装甲戦闘車の改良型を800両増強し、各普通科連隊に装甲化された第五中隊を置いていれば、戦車が連隊戦闘団編成に際し、一個中隊から一個小隊に縮小されたとしても機動打撃力は維持できたでしょうが、そんなことは行われていません。

Aimg_159_2 他方、陸上自衛隊の多彩な対戦車誘導弾装備体系の背景には、戦車が充分ないために、普通科部隊が戦車の支援を受けられずに戦闘を展開しなければならない、という危惧の反映ではないのか、という印象も感じないでもありません。普通科部隊と機甲科部隊の確執の根底の部分です。

Bimg_0787 対戦車部隊は、例えば装甲戦闘車を装備する戦車師団の第11普通科連隊は、対戦車中隊を有していません。89式装甲戦闘車に79式対舟艇対戦車誘導弾が搭載されているのですが、加えて73式装甲車を装備する普通科中隊は対戦車小隊が見当たらない。

Fimg_7915 もちろん、携帯式対戦車火器は必要ですが、第7師団が機甲師団である限り、既存の対戦車誘導弾の後継に当たる中距離多目的誘導弾、高性能ながら2両で10式戦車の調達費に匹敵するが装備されることは、運用の特性上、無いでしょう。これは、十分な戦車があれば、逆に削れる装備がある、という意味なのかもしれません。

Gimg_1175 さてこのほか、普通科の重視は、例えばヘリコプターの増勢による空中機動能力の強化という手段でも達成できるのかもしれませんが、ヘリコプターの調達数は年々縮小し、対戦車ヘリコプターは調達が事実上中断し、純減が危惧される状況、ヘリコプターの延命改修を行わなければならない状況となっています。

Aimg_2662 特科火砲の縮減についても、コンパクト化を進めると共にたとえば航空打撃力を強化すれば、勿論砲兵火力ほど柔軟性と持続性はありませんが瞬発的な打撃力と突撃破砕射撃に換わる航空阻止任務に対応できるものではあるのですが、対戦車ヘリコプター部隊が自然縮小しているのは御承知の通り。

Img_09_84 任務は増やすが予算措置は行わない、何とも非常に無責任極まりないもので、怒りを覚えるのですが、結局のところ、普通科の重視という施策は、装備をのそのままにして普通科部隊に肉弾を以て脅威に叩きつけるという、旧陸軍の末期を髣髴とさせる状況に予算的に追い込んでいたにほかなりません。即ち、普通科重視とは予算縮減の方便に他ならないのではないのか、ということ。

Fimg_6652 憲法上の専守防衛を堅持する限り、陸上防衛はその必要性の大きさに変わりがありません、何故ならば現行憲法の下では着上陸前に脅威を根本的に無力化することが難しいためです。洋上で敵上陸部隊を撃破し、敵策源地で後続の揚陸船団が出港する前に無力化する、これが出来なければ着上陸ありきの防衛力が必要という事は理解できるでしょう。

Img_63_81 もちろん、憲法を改正してイラク戦争に際し米軍が行使したような先制的自衛権の行使へシフトする覚悟が政治と国民の合意としてあるのならば、そこまでは極論であるものの、つまり着上陸が想定される状況で戦端を開く覚悟がないのならば、陸上防衛力の低水準は、国民が直接戦火に見舞われることで背負う事となり、当方の私見としてこれには耐えられません。

Img_0435 南西諸島防衛を考える場合、確かに海上航空の防衛力が重視される必要はあるのでしょう、地対艦誘導弾と空中機動部隊以外、陸上自衛隊の任務は、少ないのかもしれません。しかし、我が国への脅威はこれだけなのでしょうか、逆に防御の薄い状態を醸成することが脅威を招かないのでしょうか、将来にわたって、という意味で。

Dimg_5297 こうして考えますと、やはり戦車と火砲の軽視、機動打撃力と全般支援火力の軽視にはリスクが大きすぎるような印象があります。装甲戦闘車の大量配備への決断に踏み切らないのならば、戦車と火砲に装甲車の均衡を考えた装備体系を、防衛大綱の基幹部隊や基幹装備として考えるべきではないでしょうか。こう考える次第です。

北大路機関:はるな

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