◆WZ-2000と類似、東シナ海は電子情報収集最前線
本日午前、国籍不明の無人航空機が東シナ海の我が国防空識別圏内へ侵入、航空自衛隊が緊急発進しました。
無人機であった場合、この空域での活動が恒常化すれば、我が国対領空侵犯措置任務が飽和状態となる可能性があるほか、無人機情報の収集で我が国は優位に立てる事でしょう。無人機であると判断されたのは、緊急発進を行った航空自衛隊戦闘機が目視確認した際に、操縦席などが確認できず、これをもって無人機であると判断されています。
航空自衛隊の発表した国籍不明機の写真では、V字型尾翼と胴体上部のエンジン配置、不鮮明ですが後退翼形状を採用した航空機で、中国軍が開発し2007年頃より中央軍事委員会直轄無人機隊で運用を開始していたWZ-2000/無偵2000型無人偵察機と共通しており、同機は珠海航空展での公表データを見る限り、重量1.7t、行動半径800km、上昇限度18000m、一応我が国周辺までその行動圏内に含んでいます。
防衛省の発表では国籍不明の無人機は中国大陸方面から飛来し、国連海洋法条約に基づく我が国排他的経済水域との日中境界線を突破、尖閣諸島北方100km空域まで飛行したのち、本土へ引き返しました。今回の緊急発進において、領空侵犯事案は発生しませんでしたが、仮に領空侵犯事案が発生した際、進路変更要求や強制着陸などを行う際の警告通信などの受信能力を持たない無人機にたいしては、有人偵察機に対して実施するような手法は用いられません。
既存の国籍不明機への対処が不可能である今回の無人機侵入事案ですが、WZ-2000無人機の滞空時間は3時間程度とされますので、長時間の領空侵犯事案が将来発生する可能性はありません。しかし、現在中国では10時間の長時間飛行を可能とする無人偵察機翔龍を開発中です。性能としてはRQ-4,米空軍が運用中で航空自衛隊も中期防衛力整備計画で導入を計画しているRQ-4の飛行時間48時間には及びませんが、将来的に更に滞空時間の大きな無人機が開発された際、我が国領空上空を長時間滞空し続けることも可能となるのでしょう。
特に、滞空型無人機が我が国周辺空域を常時遊弋するようになった場合、航空自衛隊の緊急発進能力が、飽和状態となってしまう可能性があります。航空自衛隊の要撃機は270機、1990年代の350機と比較し、実に四個飛行隊に匹敵する80機が縮小されています。周辺空域での無人機飛行が恒常化した場合、例えば1973年の第四次中東戦争直前のように、訓練か武力攻撃事態の兆候なのか、が判別できなくなるわけです。航空自衛隊は次期戦闘機として高価なF-35戦闘機を採用しており、仮に戦闘機定数を元に戻す場合にも、安易に更に80機のF-35を上乗せすることはできませんので、こちらも無人機を、例えば取得費用がF-35の五分の一というMQ-9無人機を導入するなど、考えねばならないのでしょうか。
対して、無人機の沖縄周辺への飛行が恒常化した場合には、沖縄周辺空域が電子航空戦の最前線と成る可能性があります。言い換えれば、無人機に対する電子戦訓練支援機など、電子戦能力を有する航空機、航空自衛隊のEC-1等がこれに当たりますが、これにより電子妨害を行い、例えば無人機を我が方の統制下に置き、強制着陸を行うことが対処法として考えられるところで、特にWZ-2000の自律飛行能力の高さ、電子妨害を受け通信機能と航法装置の能力が喪失した場合の対処能力が低ければ、航空自衛隊の対領空侵犯措置任務においての退去の応じない場合の対処、強制着陸を行うことが可能かもしれません。
ただし、現時点での急務は情報収集です。特に無人機は飛行空域が防空識別圏に入っていても、領空侵犯事案が発生しているわけではありませんので、強制着陸を行うような方法を行うべきではありません、そういうのも、これを実施する場合、手の内をさらすことに他なりませんので、懸念される領空侵犯事案の恒常化、それまでには海上自衛隊のEP-3や航空自衛隊のYS-11Eのような電子情報収集機を以て、電子航空戦を有事の際に有利に進めるべく我が国周辺空域で行動する無人機に関する電子情報収集を行うことが重要でしょう。
率直な印象としては、無人機はステルス性を有する航空機でない限り、特に航空自衛隊のように国土全域を警戒管制網で網羅し、その管轄権の及ぶ範囲内全域へ戦闘機を緊急発進し、対領空侵犯措置任務を展開可能な防空網を構築している空域へ展開させる意味はありません、アフガニスタンやイラクでRQ-4無人偵察機が最大限能力を発揮できているのは、武装勢力が警戒管制網と防空体制を構築していないところに起因するもので、無人偵察機が簡単に捕捉され、必要ならば排除可能な空域への侵入は示威行動以外何物でもないわけですから。
そして、電子情報収集能力を保有する自衛隊と、なによりもこの種の無人機動向に最大の関心を払う米軍基地近傍を行動するわけですので、当然その付近を飛行すれば、電子情報を収集されることは避けられません。日本の無人機開発も、硫黄島を拠点として実施しているのは電子情報収集機の接近が難しいりっちとして遠隔地で行っているのです。今回の国籍不明機、仮に示威行動が主眼であったとすれば、示威行動が破綻した際の切り札となる電子情報を自ら暴露させる行為ですので、我が国としては逆に、という印象は無いでもないところ、というべきでしょうか。
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