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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:将来艦艇日米共同開発③・・・ひゅうが型/カリフォルニア級の将来展望

2014-01-08 22:09:35 | 国際・政治

◆日米全通飛行甲板型駆逐艦構想が実現したならば
 アメリカ海軍に航空駆逐艦として護衛艦ひゅうが型を提示する、前回はその現実性について分析し、十分可能である部分を強調しました。
Img_9072 それでは仮に米海軍が護衛艦ひゅうが型をカリフォルニア級航空駆逐艦として導入した場合の想定を提示してみましょう。19000tの航空駆逐艦は、米海軍が導入する場合、20mmCIWSを同程度の重量である57mm単装砲とする可能性がありますし、RAM簡易防空ミサイルの搭載可能性、16セルのVLSが32セルに増大する可能性や飛行甲板への影響を考慮したブラストディフレクターの設置、車両の自走乗艦を想定したタラップ大型化等、行われる可能性がありますが、艦載機を置き換える事で様々な任務に対応しますが、具体例を提示し、これまでの二回にわたる掲載の補完としてみようと思います。
Img_2549 アメリカ大統領は軍事的緊急事態に際し、現場海域に近い航空母艦はどの艦か、と問うことで事態への対応の端緒とする、これは長く言われてきた話です。しかし、アメリカ海軍は最低で15隻の航空母艦が無ければ世界に対する任務への即応体制が維持できない、と1990年に言われていたものの次第にその勢力が縮小され、2000年代初頭には米海軍の航空母艦は11隻に、その後の国防政策の見直しにより航空母艦はニミッツ級10隻のみとなりました。ニミッツ級は原子力空母であるため航続距離が事実上無限大ですが、その反面に炉心交換改修等で数年間のドック入渠を要することがあり、任務対応艦船は多くはありません。
Kimg_9503 緊急事態に対し大統領が近傍の航空母艦の位置を問うた際、最寄りの航空母艦は数千km離れた海域に展開しているのみ、こうした状況は十分考えられるのですが、全通飛行甲板型駆逐艦が大量配備された暁には、統合参謀長に問われた海軍作戦部長は航空母艦の位置と共に、近傍の駆逐艦、特に全通飛行甲板型駆逐艦の位置を補足し説明、航空母艦の空母航空団が現場へ展開するには72時間を要しますが、現場海域から24時間圏内に駆逐隊が遊弋しており一隻が全通飛行甲板型駆逐艦であるので即座に航空部隊を投入できます、こう強調することが出来るでしょう。
Bimg_4766 30隻のカリフォルニア級航空駆逐艦、と提示しましたが、一見全通飛行甲板型駆逐艦を30隻も導入するよう米海軍に提示することは非現実的ではないか、と問われるかもしれませんが、8400tのスプルーアンス級駆逐艦を31隻、9400tのタイコンデロガ級イージス巡洋艦を27隻整備し、近く90隻のアーレイバーク級イージス駆逐艦を海軍が整備するアメリカ海軍、そこまで無理をしているとは言えません。そして、米海軍のニミッツ級原子力空母は10隻体制を構築し、イージス巡洋艦は旧式化と合理化により除籍されますが90隻のイージス艦アーレイバーク級ミサイル駆逐艦が海軍の主力を構成してゆきます。
Img_7104a 単純計算で、カリフォルニア級航空駆逐艦カリフォルニア級航空駆逐艦1隻に対しアーレイバーク級ミサイル駆逐艦3隻を配置する駆逐隊を30個整備できることとなり、ニミッツ級原子力空母を中心とした空母戦闘群を編成する際、駆逐隊は空母10隻に30個駆逐隊配置されるのですから、都合3個駆逐隊を配置できることに単純計算でなるわけです。このほか、沿岸への火力投射艦としてズムウォルト級駆逐艦が若干数、更に沿海域戦闘艦へインディペンデンス級とフリーダム級が加わりますので、尤も本項では沿海域戦闘艦に代えて、全部代えずとも一部に代えて全通飛行甲板型駆逐艦を提示しているわけですが、実現すればメリハリが利く編制になることは間違いありません。
Img_4990 任務別に搭載する航空機を考えます。標準体制では、海上自衛隊の運用のように哨戒ヘリコプターを3~4機搭載し、機種はSH-60かMH-60というところでしょうか、更に無人ヘリコプターMH-8を2~3機標準体制として搭載、他に必要な航空機があれば搭載し、不要であれば整備区画に押し込みます。ただ、MH-60はどういう用途にも使えますので、降ろす必要性というのは少ないでしょうけれども。搭載可能な航空機は海兵隊のF-35B戦闘機やAV-8攻撃機、MV-22可動翼機にAH-1Z攻撃ヘリコプター、UH-1Y多用途ヘリコプター、CH-53E重輸送ヘリコプター、海軍のMH-53D掃海ヘリコプター、SH-60哨戒ヘリコプター、MH-60多用途ヘリコプター、陸軍ヘリコプターの大半に、MQ-8やイーグルアイといった無人機など。
Img_6763_1 空母戦闘群の一員として。大規模有事に際しては、航空母艦の直衛任務としてSH-60哨戒ヘリコプターを14機搭載し、対潜哨戒中枢艦に当たる任務、空母戦闘群の先導艦として海兵隊の海兵航空群よりF-35Bを12機搭載し航空打撃の一翼を担う、という空母任務群の一部を担う方式がまず考えられます。極端な運用ですが、航空母艦の傍らに展開している状況下では、僚艦防空能力を有しているため、イージス艦の防空網をかいくぐった航空機から空母を防護できますし、対艦弾道弾攻撃を受けた際にはイージス艦が防空に当たり、その基幹の防空の空白を置き換える事も出来るでしょう。ソナーと情報処理能力に加え艦載機の対潜哨戒能力が大きいので、潜水艦の接近は絶対許しません。
Img_7174a 戦力投射任務において。例えば大規模有事に際して航空母艦が敵より対艦弾道弾により攻撃された場合、策源地攻撃によるその無力化が必要となります。航空母艦は潜水艦や洋上哨戒機により位置が露呈すると攻撃の対象となりますので、F-35B戦闘機を8機、SH-60哨戒ヘリコプターを4機、イーグルアイ無人機を6機搭載し、敵哨戒機や潜水艦を撃破しつつ沿岸部へ進出、無人機による航空偵察を強行し、データリンクによりトマホークミサイルによる内陸部攻撃、必要ならばF-35Bによる策源地攻撃を行うことが考えられるでしょう。
Himg_1186 対水上戦闘は、艦対艦ミサイルを搭載していませんので、用途は限られます。米海軍は航空母艦の打撃力に依存する部分が大きく、航空母艦を除いては、例えば海兵隊のAV-8攻撃機も能力としてはハープーン対艦ミサイルの搭載が可能ですが運用は行っていません、F-35Bについても制空戦闘には対応するべくAMRAAM空対空ミサイルの搭載は行われるでしょうが、米海軍が海兵隊に対艦戦闘までもを求める状況は考えにくいものがあります。ただ、打つ手無しかと問われれば正反対で、敵艦隊の位置を航空機運用能力の高さにより把握し、敵哨戒機を艦載機により排除し敵艦隊を盲目状態へ追いやり、イージス艦のハープーンミサイル等による打撃を以て排除する、こうした運用が出来ます。
Img_1359 特殊作戦支援任務等では航空機の運用能力が非常に高いことから無人機の管制と共に特殊作戦ヘリコプターを展開させることが出来ますし、沿岸部へは大型ですので余り隠密裏に接近する事は出来ませんが、その種の任務は比較的小型でステルス性が高い沿海域戦闘艦に任せ、沿海域戦闘艦の支援任務に当たるという方式ならば、運用の幅は非常に大きくなります。航空機の運用能力の高さは、沿海域戦闘艦へ航空物資輸送などを行い長期作戦を支援する方策にも応用できますので、やはり多用途性が大きい。
Img_4033 揚陸任務支援ではどうでしょうか。揚陸作戦に先んじては、強襲揚陸艦やドック型揚陸艦の上陸に先んじて管理揚陸へ転換する際に絶対に機雷掃海が必要となります。米海軍では現在MH-53掃海ヘリコプターを装備し航空機から掃海器具を牽引する方法で航空掃海を実施し、将来的にはMH-60から機雷探知ソナーを展開させ海中の機雷を発見したのちに27mm特殊機関砲を用いて水深150m程度までの機雷を狙撃し撃破する方策を採用しています。機雷は攻撃側にとり非常に厄介で防御側には費用対効果が最大の装備です。もちろん、揚陸前の掃海では航空攻撃や潜水艦攻撃に曝される可能性が高いため、掃海母艦として支援任務に当たる際にも個艦防護能力の高さは非常に需要な要素となるのではないでしょうか。
Img_85_51 紛争地での自国民救出任務を行う場合は、アメリカ海兵隊は即応部隊として海兵大隊を基幹とする海兵遠征群をローテーションで即応体制においていますが、この海兵大隊を構成する海兵中隊の一つがヘリコプターによる空中強襲任務を担います。中隊は旧式化したCH-46に代えて進出速度と行動半径の大きいMV-22により空中機動を展開しますので、甲板係留を含め8機程度、定数は航空支援群のMV-22は12機ですが、後部VLSを使用しない状況では飛行甲板後部にも係留できますので、12機全部を格納庫と飛行甲板へ収容可能です。艦内容積は多目的空間を確保していますので、救出した自国民の収容区画にも余裕があります。
Simg_2013 緊急人道援助任務を実施する際には、最規模災害への緊急展開ですが、ひゅうが型護衛艦は艦内にMH-53掃海ヘリコプターの搭載を念頭に置いていますので、輸送力が非常に大きい海兵隊のCH-53E重輸送ヘリコプターを搭載可能、甲板係留ならば陸軍のCH-47D輸送ヘリコプターの搭載が可能です。最大限搭載するならば、CH-53Dは艦内格納庫に4機、甲板係留で更に6~8機搭載できるでしょう、人員ならば同時に600名程度を輸送できる機数です。物資の吊下輸送が可能ですので、救援部隊派遣と共に人道支援物資輸送、艦内の医療設備を応用した病院船任務など対応できる任務の幅は広いでしょう。
Gimg_6837 低烈度紛争介入に際しては、米陸軍は師団編制に歩兵旅団かストライカー旅団数個に対し師団航空旅団を置いており、航空旅団は航空連隊に戦闘ヘリコプター大隊と多用途ヘリコプター強襲大隊2個、大型ヘリコプター大隊と航空管制集団等を有しています。紛争介入に際しては経空脅威の可能性がありますのでVLSを使用するべく後部飛行甲板に航空機を係留する事は出来ません。その容積では陸軍の師団に配備されている師団航空旅団から、大隊規模の部隊を展開させるには不十分ですので、戦闘ヘリコプター大隊の分遣隊、強襲大隊の分遣隊が航空支隊を編成、AH-64D戦闘ヘリコプター3機とUH-60汎用ヘリコプター9機を乗艦させる方策が考えられます。また、機内格納庫には沿海域戦闘艦と同等のストライカー装甲車を一個中隊程度収容可能です。駆逐艦ですので、個艦防御に心配はありません。
G12img_4954 以上の通り、多用途性が高い艦艇です。実のところ、様々な艦艇愛初分野で暗礁に乗りかけているように望見されます。アメリカ海軍は沿岸への打撃力を重視し画期的なステルス構造と155mm砲による火力投射能力を備えたズムウォルト級駆逐艦が開発費と建造費の異常なまでもの高騰により当初30隻の取得計画が3隻に削減され、派生艦の大量建造計画も中止になっています。そして沿海域戦闘艦の大量建造計画も技術的な冒険を急ぎ過ぎ、建造費高騰と稼働率低下という問題に直面しています。その要求水準が特に大規模有事が起きる蓋然性と優先順位の面で、少々現状と異なる背景に基づき開発されてはいないでしょうか。
Himg_4551_1 必要な装備と開発されている装備が確実には合致せず隔靴掻痒、修正を試みる事で仕様変更が重なり開発が遅延し難航する、この悪循環から脱するためには、既存技術で建造され、運用形態こそが革新的である装備体系、海上自衛隊が1973年から温め続けてきたヘリコプター搭載護衛艦という装備体系が一つの理想形ではないか、と感じ停止した次第です。余計なお世話と一蹴されるかもしれませんが、ひゅうが型護衛艦はアメリカ海軍が陥っている艦艇開発の隘路から抜け出す切っ掛けを提供できるように思う次第です。ですから、アメリカ海軍は護衛艦ひゅうが型をカリフォルニア級航空駆逐艦として30隻程度、導入するべきでしょう。
北大路機関:はるな

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