北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と我が国防衛力の課題⑥ 戦車定数300両縮小改編は機動防衛力整備の好機

2014-01-15 23:57:17 | 防衛・安全保障

◆各方面隊へ即応集団を新編し戦車・航空を集中 

 新防衛大綱が公表されてから最初の本特集掲載ですが、今回は戦車300両体制について考えてみましょう。瀬戸内海にて輸送艦おおすみ、と遊漁船の衝突事案が発生しましたが、こちらは情報が不十分であるため、こちらは改めて。

Mimg_2335 戦車定数が400両から300両に縮小される、という方針が明示され、本州の戦車部隊は全て機動戦闘車により置き換えられる、という方針が示されました。個人的には戦車の必要数は500両程度必要、と考えていまして、その場合でも相当数の装甲戦闘車により機動打撃力を維持する必要がある、という立場であるのですが、他方で、戦車部隊の運用を整理し、戦車を全て機動運用部隊に配置するという陸上自衛隊創設以来の改編を行えば、300両の戦車は陸上自衛隊へ機動運用部隊を創設し即応体制を構築するためにまたとない機会となるのかもしれません。
Gimg_6436 機械化大隊、という部隊編制を以前、此処の記事において紹介しました。滝ヶ原駐屯地の部隊訓練評価支援隊に所属する部隊で、戦車中隊と装甲化普通科中隊二個を基幹とする編成で、訓練における仮設敵任務に当たる部隊です。以前、北大路機関では普通科連隊を機械化大隊を基幹とする編成に移行したならば、三単位編成として理想的な機動戦闘の展開が可能となる、との利点を提示した上で、機動打撃力について戦車を削減したことによる空隙に過去の防衛大綱が提示した普通科部隊の充溢を行うことで対処するには装甲戦闘車の数滴充溢を行うほかなく、装甲戦闘車で三個中隊所要を配備するよりは安価な装甲車を中心とし、不足する火力を戦車で補うほうが安価に機械化部隊を整備可能だ、と提示しました。
Himg_0049 戦車300両体制の上での戦車の運用ですが、この機械化大隊編制を中心として戦車部隊を編成し、これを方面隊の直轄運用を基本とすれば、その機械化大隊を全て機動運用することで自衛隊は大規模災害や陸上国境を有しないための小規模侵攻への対処を担う基盤的防衛力を維持しつつ、機動運用部隊を維持することが出来ます。陸上自衛隊の戦略予備部隊として機甲師団一個は維持される方針で、これは戦車の集中運用という観点から、我が国防衛の選択肢をっ高部隊運用基盤の維持を通じて将来的な大規模侵攻脅威に独力対処できない水準まで後退させない意味より重要ですが、機甲師団は戦車連隊を縮小編制とすれば、三個戦車連隊基幹であっても150両で維持することは不可能ではありません。
Gimg_4001 戦車150両が機甲師団所要を除き維持される戦車数となりますが、この数量の場合、陸上自衛隊の北部、東北、東部、中部、西部各方面隊へ30両、戦車中隊定数は四個戦車小隊12両に中隊本部所要2両を含めた14両、大隊本部に2両を配置するとして30両の定数はフル装備の二個戦車中隊を基幹として配置することが出来ますので、二個戦車中隊を最大限機能発揮するべく、一個戦車中隊に仁尾普通科中隊を装甲戦闘車により充足し、一個戦車中隊の打撃力を装甲戦闘車により乗車戦闘を基本とした二個中隊が支援する機械化大隊を各方面隊の戦車大隊の編成から二個機械化大隊とすることができます。機械化大隊を、上富良野、大和、駒門、今津、玖珠、以上の演習場環境に優れた駐屯地に集約すれば、全国への展開能力を維持できるでしょう。
Dimg_6697 装甲車ではなく装甲戦闘車なのか、という疑問符を先に掲載した機械化大隊の編成を掲載した際の文言、装甲戦闘車だけで充足するよりも戦車を導入したほうが安価に整備できる、という視点を記憶されている方は思われるかもしれませんが、その際の主旨は全陸上自衛隊として戦車が縮小傾向に或るための反論としての機械化大隊編制の提示でしたので、実際に戦車が縮小された以上、装甲戦闘車を増強するほか選択肢が無くなりました。そこで、機械化大隊を戦車と装甲戦闘車で編成する、という方策を提示したわけです。
Img_0799 戦車二個中隊編制の部隊を方面隊直轄で運用したとしても、実際に対戦車戦闘が実施され戦車が必要となるような状況では戦車は消耗しますので、分散運用にでも供されれば瞬時に摩耗してしまうことは間違いありませんが、戦車中隊に装甲戦闘車を充当し機械化大隊とすれば、戦車は装甲戦闘車により歩兵攻撃や陣地防御に対し装甲戦闘車の支援を受けることが出来るため容易に部隊は摩耗しません。大隊単位で運用することになりますので、機動打撃力として体系だった運用も可能となります。具体的には二個機械化大隊所要の部隊を編成するのには二個戦車中隊基幹の戦車大隊と四個の装甲戦闘車を装備するものとなりますので、平時編成では戦車大隊と装甲普通科連隊とすることも出来るかもしれません。
Himg_1116 機械化大隊は単体では火力支援などに限界がありますので、自走榴弾砲一個中隊の4両と自走高射機関砲一個小隊の2両を支援に付け増強特科中隊とします。この火砲4門と高射機関砲2門、という編制はスウェーデン沿岸砲兵隊がかつて機動砲兵中隊として採用していた編成で、機械化大隊の想定する機動運用にかなり能力要求として火力指数等、必要な支援を行うことが出来るでしょう。二個機械化大隊所要の火力支援を行う場合、その倍数の火砲と高射機関砲を装備することとなりますので、自走榴弾砲は8門で一個大隊所要、自走高射機関砲は4両で一個小隊所要、というところになります。
Img_8097 先ず、戦車について、当初報道では北海道に集約という話題がありましたが、そうでは無いようで九州に配置されることも提示されました。当初報道では一部方面隊を廃止し陸上総隊を創設という話でしたが全方面隊は維持され一部を機能整理へ行うのみという話でした。一部報道では機動運用部隊を本格的に整備し旅団の一部と一部の師団を機動師団と機動旅団に改編するという報道でしたが機動師団と機動旅団は管区を持つ従来師団と旅団が装備のみ置き換える、というものでした。つまり戦車部隊の配置は確定したものではなく、まだまだ方策を転換できる程度にはすべて流動的、ということ。
Img_6052 北海道と九州に戦車を集中するのではなく上富良野、大和、駒門、今津、玖珠へ分散配備する提案の背景には、集中しすぎますと、配備された駐屯地より遠隔地での戦車部隊運用の必要性が生じた場合、自衛隊には輸送能力が充分無く、海上自衛隊の三隻ある輸送艦には各10両までしか車両甲板に搭載できず、貨物列車での輸送も狭軌が基本の我が国鉄道輸送体系では対応できません。戦車部隊を北海道と九州へ配置しつつ、全国に事前集積することが出来れば要員だけを展開させ、即座に対応することが出来るのですが、事前集積戦車が戦車定数を越えて整備する、ということは出来そうにありませんし、予備戦車として防衛大綱員数外戦車を調達することも出来そうにありません。それならば、全国に分散配備し、機動運用するしかなくなる、のではないでしょうか。
Iimg_4567 この場合、従来師団と従来旅団は、機動戦闘車大隊と普通科連隊に特科連隊を基幹とします。機動戦闘車により対機甲戦闘能力を最小限維持し、それ以前に進出速力の大きさを維持し有事の際に機動打撃力による反撃を方面直轄の機械化大隊二個に依存しつつ緊要地形の先制確保に重点を置き、普通科部隊に軽装甲車両を充実させ、守勢を重視した運用体系に転換します。従来師団戦車大隊と特科全般支援大隊が運用していた機動打撃力を方面隊に依存する、という方式に転換しますが、基盤的防衛力が維持されますので戦車部隊を中隊規模の部隊として運用しなければならないような状況を除き、対空挺対処や小規模着上陸に対しては機動戦闘車と軽装甲機動車に少数の火力戦闘車と中距離多目的誘導弾を基幹とする部隊により対応することは可能です。
Mimg_1407 従来師団と従来旅団についてですが、別の記事において機動装甲車/装甲高機動車、として四輪駆動の、フランス軍が運用するVAB軽装甲車のような乗車戦闘能力ではなく降車戦闘能力を重視し、不整地突破能力よりは路上での進出速度に重点を置いた装甲車を大量配備してはどうか、という視点を提示しました。従来師団と従来旅団について、隷下の普通科連隊を構成する中隊では軽装甲機動車を装備していない中隊にこうした四輪駆動の軽装甲車を配備することが出来れば、敵砲兵火力や遊撃部隊による競合地域においても緊要地形までの進出能力を維持できますので、全て方面直轄部隊へ依存する、という運用体系にもならず独力での運用が可能となるでしょう。
Gimg_2585 方面隊直轄部隊として二個機械化大隊を置く、という提案ですが、装甲戦闘車所要四個中隊をそのまま中央即応集団の緊急展開部隊として装甲化普通科連隊として充足している中央即応連隊のように方面即応連隊のような扱いとして、方面戦車大隊と共に運用しても良いかもしれません。もしくは、二個機械化大隊と一個混成特科大隊を基幹として通信部隊や支援部隊を併せ、方面装甲混成団、という編制を撮って方面隊直轄の機動運用部隊としても良いかもしれません。しかし、方面装甲混成団、という提案を示しますと、併せて北大路機関が方面航空部隊を機動運用する過去の提案と共により強力な機動運用部隊を整備することが出来るかもしれません。
Img_0092 方面航空混成団。前に提示しました案です。方面隊には方面航空隊が置かれています。方面航空隊は対戦車ヘリコプター隊と多用途ヘリコプター隊を基幹として北部と西部方面隊には輸送ヘリコプターを若干数装備した部隊で、対戦車ヘリコプターAH-1Sが16機とUH-1H/J多用途ヘリコプター20機、OH-6D観測ヘリコプター10機、CH-47J/JA輸送ヘリコプター4機、約50機のヘリコプターを運用しています。そこで方面航空隊に西部方面普通科連隊型の縮小編制の普通科連隊を同時運用すれば、空中機動旅団に当たる部隊を北部、東北、東部、中部、西部、各方面隊に置くことが出来るのではないか、としまして、併せて輸送ヘリコプターにより機動運用を念頭とし、普通科部隊の支援に充てることも出来る96式多目的誘導弾を装備する方面対舟艇対戦車隊を編成に盛り込めば、独立運用能力が高くなります。
Oimg_2664 方面装甲混成団、方面装甲旅団としてもいいのでしょうが、この機械化大隊を実際に直轄部隊とすれば、装甲部隊を主力とした部隊に、方面航空混成団、方面空中機動旅団としてもいいのでしょうが、この部隊に後方支援部隊と通信中隊に施設中隊を合わせた方面戦闘支援群を二つの方面混成団/方面旅団に含める事で、方面隊隷下に即応集団を置くことが出来ます、そして方面即応集団は既存の師団や旅団のように既存警備管区を持ちませんので、警備管区に縛られない機動運用部隊として運用することが可能でしょう。装甲旅団と空中機動旅団を基幹とする即応部隊、なかなかの打撃力と機動力を有し、理想的な編成といえるやもしれません。
Img_1049 北部方面即応集団が司令部札幌、東北方面即応集団が司令部仙台、東部方面即応集団が司令部朝霞、中部方面即応集団が司令部伊丹、西部方面即応集団が司令部健軍、機動運用部隊として必要ならば方面隊の運用を離れ陸上総隊の指揮を受け、統合運用が必要な場合には統合任務部隊司令部の指揮下に即座に展開できる部隊が、これだけ整備できるわけです。戦車の削減は、戦車単体ではなく普通科部隊への装甲戦闘車配備や自走榴弾砲との機動運用能力の追及を行う方向へ転換する機会にすることが出来たならば、本来、機甲部隊とは戦車部隊のみを示すのではなく装甲機動部隊の略称であった原点に立ち返ることが出来、そもそも普通科と特科を充分に装甲化できなかったために機甲部隊が戦車を示す用語となったことを漸く改めることが出来ます。無論、装甲戦闘車を如何に調達するかという難題は残りますが、戦車300両体制も、展開によっては本当の意味での機動運用部隊整備への転換点とすることが、出来るでしょう。

北大路機関:はるな

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