◆胴体後部部分、採算性見合えば各国へ供給
ロイター通信などによれば三菱重工はイギリスBAE社との間で、F-35戦闘機国際共同生産への参画についての協議を開始している、とのこと。
F-35は国際共同開発が行われるとともに国際共同生産を行うべく多国間国際分業体制の下で生産が行われます。こうした中、我が国では戦後一貫して戦闘機はライセンス生産として生産軒を購入し日本国内において供給することで予備部品や整備性の高度化を維持してきていまして、これがF-35ではどうなるのかが大きな課題でした。
今回、三菱重工がイギリスBAE社との間で協議しているのは機体の後部胴体を日本国内で生産するというもの、これまで、三菱重工は機体の最終組み立てを行う方向で調整しており、レーダー関連部品に三菱電機、エンジン部分の部品と一部組み立てを石川島播磨重工が担当することとなっています。
今回の報道は、実現すれば世界中に配備されるF-35の後部胴体は日本製、ということとなります。これは一点、日本の防衛産業は最新鋭航空機の部分生産を担うことが出来るという技術が世界に評価されている、もう一点、武器輸出三原則の態勢が本格的に転換、完成品ではないという部分と場合によっては三原則が示す紛争当事国への供給が行われる、と課題になるのでしょう。
印象的な点は、日本はF-35が事実上完成した時点で正式採用を決定したわけですから、いうまでもなくF-35の開発計画にはほぼ参加せず、優先顧客でもない、という立場でありながら、機体の部分生産い関与するだけの交渉をよくぞ達成できた、という部分でしょうか。
F-35の国際分業生産は、諸外国で言うところの公共事業に匹敵するものとなりますので、元来、開発費の分担金に応じた生産分担が為されることとなっていました、日本は此処に割り込めたわけです。仮に実現したならば千機単位での生産が見込まれる航空機でありますので、航空防衛産業の規模維持には大きな好影響があることは間違いありません。
ただ、ここまで利点ばかりを強調してまいりましたが、課題は無い訳もありません。後部胴体の生産に関して、現時点で三菱重工の見積もりは設備投資に数百億円を要するものであり、現在の試算では初期納入分の生産費用が想定されている納入価格を上回る可能性が示唆されているのです、どこからか補填されなければならない。
これまでのライセンス生産の歴史において盗られたような手法、つまり生産ラインの整備費用を、航空自衛隊納入分のF-35に上乗せすることは、実質的に初期の機体を有償軍事供与という形をとり輸入する観点から、選択肢とすることはできません。すると、生産ライン整備費用を国から補填されなければ実現は難しいでしょう。
防衛費は限られており、この中で必要な装備品や部隊等は多くあります、反面、既存の装備品の稼働率などは防衛産業の協力により維持されているものが多く、国はこの部分を国策として防衛産業保護の姿勢を示すことが出来るのか、それとも、国際分業参加機会提示という重要な部分に短絡的な決断を示す事となるのか、関心を持ってみてゆきたいと思います。
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