北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

自衛隊国際貢献任務・海外派遣の展望① PKOは平和に対する脅威と侵略行為に関する行動

2014-01-14 23:46:20 | 国際・政治
◆国連軍派遣と同じ憲章七章措置時代のPKO
 新特集発動。防衛産業特集記事に続く防衛政策に関する新特集は、自衛隊の国際貢献任務に就いて考えてみましょう。南スーダンPKOが同国の事実上の内戦勃発により非常に困難な状態となっています。
Img_6964 国際貢献任務、自衛隊がカンボジアへ施設科部隊を派遣するか否か、という真剣な議論が行われてより既に二十年以上が経ちましたが、その間国際平和維持活動のほか国際緊急援助隊や復興人道支援任務等で、自衛隊はアフリカ地域はもちろん、イラクへも派遣されています。そして僥倖というべきでしょうか、幸いにして自衛官の戦闘における犠牲の記録はいまに至るもなく、そのまま推移しています。しかし、この状況が永続的に続くのか、継続的に任務は拡大されてゆくのか、こうした視点から物事を見てみる必要があるでしょう。
Img_6894 第一回の掲載ですが、まず、現在の国連PKOが派遣されている決議が国連憲章第七章“平和に対する脅威平和の破壊及び侵略行為に関する行動”に基づき為された決議として派遣されている、という事実を如何に認識するか、という視点を考えてみましょう。元々、国連創設間もないころのPKOは国連憲章六章“紛争の平和的解決”の延長線上で編成し派遣されていたもので、紛争の平和的解決という項目に対し一応は軍事機構を編成し派遣するわけですから六章半措置、と言われていました。しかし現在のPKOは2002年の東チモールPKOより国連が平和に対する脅威平和の破壊及び侵略行為に関する行動の一一環としてPKOを編成し派遣しているのです。
Pkoimg_1155 アメリカ軍やNATO加盟国の参加していない南スーダンPKOは内戦状態へ進む状況下で対応できず、国連は急遽6000名の戦闘部隊増強を求めましたが、残念ながら南スーダンPKO派遣国は充分な空輸能力を持たない国が中心であり、増援部隊の派遣が実行できない状況にあります。この空輸能力について、我が国は集団的自衛権行使と憲法上の観点から戦闘部隊の輸送が出来ない、という状況となっていますが、それ以前に国際平和維持活動が平和執行へ簡単に転換した状況について、深刻に考える必要があります。
Pkoimg_1275 現在の国連PKOは、国連憲章七章措置に基づき派遣されているものですから、平和に対する脅威平和の破壊及び侵略行為に関する行動であり、それを阻害するものは制度上実力で排除することとなるか放棄するかです。つまり、PKO任務が実施され、これが平和裏に実行できない場合には国連が主体となり戦闘部隊を派遣、平和執行に移す事が制度上可能となっており、場合によっては日本は充分な機械化部隊と空中機動部隊を保有していることから、PKOに参加する限り、勿論拒否することも可能でありその根拠となる我が国の憲法九条は国連にも認知度の高さを有しているのですが、それとは別問題で要請されることは忘れてはならないでしょう。
Pkoimg_1901 勿論今回の南スーダンPKOは民主党時代に安全性は確保されているとして政治主導で参加が模索され、自民党側はスーダン情勢と兵器蓄積に民族分布などから非常に危険性が高く万一の際には大規模紛争に展開しかねないとして反対していたところを、民主党が強行採決したことで派遣されたPKOであり、民主党は小沢氏在籍時代にアフガニスタンへ自衛隊衛生部隊の派遣を検討するなど、戦闘地域に不十分な装備で自衛隊を派遣しようと躍起ではありましたが、あれは異常状態であり、同様の地域への派遣は踏襲されない可能性は高い。
Pkoimg_1343 ただし、前述の通り自衛隊には比較的規模の大きな機械化部隊は整備されており、空中機動能力についてはNATO加盟国と比較しても屈指の水準の部隊を維持していることは確かであり、他方で、欧州NATO諸国の欧州通貨危機後における致命的ともいえる国防力削減を背景として案が得た場合、自衛隊の戦闘部隊、具体的には装甲戦闘車や戦車、対戦車ヘリコプターの派遣を求められる可能性は当然あるだけではなく、徐々に外圧、国際世論の要求が大きくなる可能性、同時に国際公序へ則る限り、派遣を具体的に案が得なければならない可能性は捨てきれません。
Pkoimg_2455 自衛隊の重装備部隊派遣ですが、まず、フランス軍の中央アフリカ派遣などを見ますと、自衛隊の部隊規模で十分できるものです。従って、海外派遣の増大に対応するべく戦車部隊等を増強する必要は、実のところ国土防衛に充分なのか、という視点は残るのかもしれませんが、少なくとも派遣が求められる部隊規模とは中隊規模のものであり、普通科部隊向けの装甲車や、元々致命的に不足している装甲戦闘車などは国際貢献関係なく増強する必要はあるのですが、反面、派遣するからと言って機甲師団を増勢するなのど必要性は無い、という認識は持つべきでしょうか。
Pkoimg_2627 即ち、戦闘部隊派遣は特に軍事的に不可能、というものでは必ずしもなく、政治的要請に基づくものとして判断されるものとなりますので、国民的な議論を経て、重装備部隊を派遣するべきか否か、という政治的命題に支持不支持という決断を下すべきこととなります。こうしたうえで、例えば自衛隊の戦車や装甲部隊は能力的には想定される最大規模の戦闘部隊と遭遇した場合でも十分な任務を遂行できる装備品と訓練水準に依拠した部隊能力を有しています。要は、政治的に出すか出さないか、ということ。
Pkoimg_2662 さて。それならば危険なところに行かなければいい、という折衷案的な案が世論として出されるかもしれないのですが、日本がPKOに参加を始めたことの方式と現在のPKOは様式が変化しており、この視点は今や持てない、という知識は必要となります。国際平和維持活動は自衛隊もカンボジア派遣以来既に二〇年間の派遣を継続してきておりますが、日本がカンボジア派遣任務へ自衛隊を派遣した同時に、国連PKOはソマリアにおけるPKOにおいて武装勢力に対し、それまでの派遣国の受け入れを前提としたPKO派遣から、平和執行という形での平和の強制を行い安定を構築する方式を試み、武装勢力の大反撃により多数の犠牲者を出したこともあり散々な結果に終わったことがありました。
Pkoimg_2659 なお、我が国の国際貢献が大きく求められた宮沢内閣時代ですが、これは湾岸戦争に伴うアメリカからの国力に見合た国際貢献という要請を断念したことによる国際世論からの批判に対応するものではあるのですが、仮に派遣時期が二年程度早く検討されていたならばソマリアPKOに自衛隊派遣が求められた可能性があります。その場合、73式装甲車や60式自走無反動砲等の派遣を決断していなければ我が国派遣部隊の損害も相当大きく想定されますので、その後の派遣方式に栄養を及ぼした可能性はありますが、これはまた別のはなし。
Pkoimg_4898 実は日本が参加したカンボジアPKOは第三世代PKOとされており、ソマリアでのPKOの失敗を受けたため強制力を持っての派遣という形を改め、一方でPKO草創期の派遣方式、監視と報告に特化し関与せずを基本としたPKO方式を改め、国家再構築などの国連関係機関の任務をPKO派遣部隊が軍事力の非軍事任務により支援する、という方式に転換した最初の派遣事例でした。ただ、カンボジアPKOでは武装勢力の挑発に対し武器使用を試みた、実際には装填しただけですが、ドイツ兵が射殺される事例もあり、安全とは言い切れるものではありません。
Pkoimg_2929 この第三世代PKOの権限を強化するべく、様式を第三世代PKOの派遣様式を維持しつつ、派遣する根拠を国連憲章における七章、平和に対する脅威平和の破壊及び侵略行為に関する行動に見出したものが第四世代型PKOと呼ばれるものです。しかし、注意しなければならないのは、派遣部隊こそ第三世代型PKOのような軽装備を主体としたものではあるのですが、同時にその軽装備主体である状況は、PKO部隊がその行動を阻害されるような状況に直面していないための帰結である、結果論だ、ということ。
Pkoimg_5191 言い換えれば、現在のところ派遣する必要が無いため重装備部隊による平和執行の行動が行われていないだけであり、平和に対する脅威平和の破壊及び侵略行為に関する行動として派遣されている以上、今後も第四世代型PKOが軽装備のまま、という方式で維持されるとは限られないという認識は必要でしょう。PKOは国連憲章七章措置、紛争へ国連が関与するという姿勢を維持したままの派遣が継続される限り、軽武装で展開はするのですが平和構築の疎外者が出れば増援を出し重武装へ転換、この傾向は維持されてゆきます。
Pkoimg_6186 もちろん、我が国の国連に対し有する影響力を行使し、紛争への国連の関与度合いを引き下げ、国連平和維持活動を再度六章措置と七章措置の中間に引き戻し、自衛隊PKO部隊が危険な状況下に陥らないよう規範を構築することは可能です。そもそも現在の七章措置に基づくPKO様式は、国連御紛争への第三者の立場を維持しつつ解決を図るという様式では紛争が長期化し、犠牲者が増大するという反省の下実施されました。しかし、国連が紛争当事者になる、という方式は一考の余地が無い訳ではありません。ですから、我が国が国連の中立性を提唱したとして、受け入れる諸国は多いでしょう。
Pkoimg_6693 その背景には、国連が当事者の地位を確保することで、国連の紛争解決への権限は増大するのですが、それだけPKO三ヶ国への負担は大きくなります、当事者となるわけですから当事者間を調停できるだけの重装備が必要となるわけですし、国家再構築などの事業を行う上での調整と支援を行う責任も生じます。ただ、此処から脱却を提唱することは我が国にも可能ではあるのですが、一方でこの方式が確定した背景として前述の紛争における迅速な解決と犠牲者の極限化、という目的は他性が困難となります。
Pkoimg_6858 更に国連が当事者として調停できないのであれば、バルカン半島におけるNATOやイラクにおける有志連合等のように国連決議を履行する上での強制措置の執行当事者を授権決議により委託しなければならず、国際紛争への対処を主任務とする国連という機構そのものの正統性に疑問符を打ち込むものとなりかねないものでもあります。そういった国際公序の根幹を担う重要部分を、一国の憲法、憲法九条は重要ではありますが、安易に世界と秤に掛けても良いのか、という疑問符もあり、こればかりは我が国主権者の合意に基づかねば到底結論を出せるものではありません 。
Gimg_5503 こうした状況は存在するのですが、その上で現在のまま自衛隊をPKOに派遣するのならば、残寝ながら自衛隊が参加を始めたころのPKOとは様式が変容しているため必然的に重装備部隊を派遣するよう求められるものであり、更に第三の道としては現行憲法のまま平然と世界への平和に関する責任を負うべく重装備部隊を派遣し国際平和の構築に実力を行使する、ということもかのうではあるのですが、法治国家として在るべき姿としては、国内政治力による国家の基本法規を改正するか、国際政治力における国際公序の根幹を改める努力を行うか、主権者として選択をせねばならないでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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