◆指揮車・装甲施設車・自走迫撃砲・装甲救急車
四輪駆動機動装甲車、VABのような、と書いてきましたが、VABが様々な任務車両に用いられているように、四輪駆動機動装甲車も普通科中隊の機動用以外にも用途は広いと考えられます。
軽装甲機動車がフランスの小型装甲車VBLと似ているという指摘は、色々あり、実際軽装甲機動車の方は4ドア車で大型なのですが、四輪駆動機動装甲車の一例として出しているVAB,こうした装甲車とは相性がいいかもしれません。ちなみにVAB,車幅は2.49mですので日本の道路運送車両法に合致しますが、最高速度が92km/hですので高速道路での運用に限界があり、あと8km/h最高速度を大きくしなければ日本では運用できないものの、かなり完成している車両です。フランスでは八輪方式で機関砲と高度な火器管制装置を搭載するVBCI装輪装甲戦闘車の開発でVABは置き換えられる予定でしたが、VBCIの取得費用が大き過ぎたため、まだ当面現役に残るとのこと。
四輪駆動機動装甲車ですが、とにかく安価にまとめるとしていますので、これまで装甲車に相違日したくともよ参上できなかったものを装甲化でき、結果、いろいろな用途の基本車両となり得ます。装甲施設車・自走軽迫撃砲・重迫撃砲装甲牽引車・装甲救急車・装甲近距離地対空誘導弾発射車両・装甲多目的誘導弾発射車両・装甲レッカー車、施設科部隊の第一線障害除去用に迫撃砲部隊の敵砲迫脅威状況下での運用、第一線の戦闘状況を想定した救急車両、それに第一線近くで運用される対航空機用誘導弾や対戦車誘導弾の装甲防御用なと、元々安価な装甲車両として提示したものですから、車両をどのように使用するのかという視点から見た場合には汎用性はそれだけ高いわけです。
中隊指揮通信車。普通科連隊には現在の音声通信を主体とした通信機材を搭載する82式指揮通信車では、その運用と指揮統制能力は既に限界が来ています。特科大隊の指揮車両としても、特科火砲の長射程化と対砲兵戦闘の技術的進歩を背景に、従来の音声通信を元とし、地図に情報を表示する方策は時代遅れと言えるやもしれません。ただ、大規模部隊への指揮統制を念頭に置いた場合、NBC偵察車程度の大型車体でなければ、十分な指揮通信機材と情報伝送装置を搭載できなくなりましたし、幕僚が乗車する容積も不足しています。四両を十字型に停車させ運用する米陸軍M-577方式を採るにしても、一両ごとの電装品が異なっていては車両が欠けるだけで指揮統制が不可能となってしまいますので、ここは大型車両を使うべきです。
指揮通信車として四輪駆動機動装甲車が能力を発揮するのは、むしろ、中隊規模の戦闘展開時で、普通科中隊の中隊本部車両として、一個中隊、四輪駆動機動装甲車を基幹とする場合は小銃小隊と中隊本部で四輪駆動機動装甲車が14両と迫撃砲小隊に対戦車小隊で8両の装甲車が隷下に付きます。更に普通科中隊に軽装甲機動車小隊を配属し運用の柔軟性を高める臨時編成の中隊戦闘団を構築する際にはここに更に7両の軽装甲機動車が配置されます、これらが機動運用を行うのですから、中隊長の指揮能力も音声通信やタブレット端末だけで為し得るものではありませんので、四輪駆動機動装甲車程度の指揮車両が最適ではないのか、と考えました。
特科情報車両。特科部隊の前進観測班に配置し、もしくは小型の対砲・対迫レーダ装置と小型無人機を搭載し、特科連隊情報中隊の標定小隊が運用する対砲レーダ装置の支援が受けられない状況、例えば全般火力支援任務ではなく普通科連隊戦闘団へ配属された特科大隊乃至特科中隊の支援車両、必要であれば着弾観測に前方展開し、余裕が無ければ携帯飛翔体等の無人機を投射し索敵と着弾修正を実施、電子標定装置を搭載させ敵指揮所の通信小隊と連携し電子捜索と位置把握を実施、少ない火力を最大限効率的に運用させるでしょう。理想としては、四輪駆動機動装甲車を基本とし、車体後部の兵員室中央に小型対砲レーダ装置を搭載、必要に応じて降車運用できる体制を採り、更に車内の端側に自衛隊製装備化が進められている携帯型飛翔体か米陸軍から福島第一原発事故を契機として一部が導入されたRQ-16等を搭載、操縦席と各種装備の連絡通路付近に操作要員を配置する、という構図になるでしょうか。
JTPS-P16は40km圏内の複数大隊程度の部隊より投射される同時多数の砲弾を同時に補足追尾し射撃位置を評定することが可能ですが、高価であり、NATO等諸外国よりも装備密度は高い方なのですが、各特科連隊と特科隊の情報中隊に一基、対迫レーダーも一基装備されているのみで、連隊戦闘団を師団や旅団が編制した際、師団特科連隊情報中隊よりも40km以上の地域に展開した場合、その支援を受けることが出来ません。これは火力戦闘部隊が広く分散しつつある現在の各国陸軍共通の課題でもあり、現在、米軍ではハンヴィーに車載し機動、人力で展開可能な小型の対砲対迫レーダ装置AN/TPQ-48を開発しており、探知距離は10.2kmから14kmと限られますが、広く配置し戦域情報管理の対象に敵砲兵部隊の位置標定を含めようとしています。単に前進観測だけならば観測班が軽装甲機動車で展開するだけで良いのですが、光学観測以上の任務を遂行する際には、四輪駆動機動装甲車程度の車体が必要です。
装甲施設車、排土板と発煙弾発射装置に地雷除去装置と重機関銃を装備する、というものが想定されます。施設科部隊は第一線で作業を行いますが、装甲車両に乗車していなければ余りに無防備で、装甲ドーザーや施設作業車が装備されてきましたが、75式装甲ドーザは車両の不足から方面隊直轄となっており、施設作業車は費用のおおき差からやはり十分な数が揃ってきません。装甲車の排土板では通常のドーザーに比べれば除去能力は不十分ですが、通常のドーザーで展開して撃破されては話になりません、ストライカー工兵戦闘車の作業等を視ましたらやはり地形で動けなくなっていましたがHMEEのような専用車両を待っていられないときには絶対必要な装備とされ、第一線の障害除去の装甲車の必要性はこうしたものでしょう。
施設作業は第一線で実施されるもの、というものは当然です、何故ならば普通科部隊が前進する際に障害となる陣地や障害を破砕し、戦車よりも前に立つことも当然あり得るのですから。配備部隊は師団施設大隊や旅団施設隊に施設中隊、連隊戦闘団編成時に普通科連隊に置く、ということが考えられますが、併せて普通科連隊本部管理中隊施設作業小隊にも、小隊長直轄の車両として装備されてよいかもしれません。また、四輪駆動機動装甲車に浮航能力が、例えばフランスのVAB等はスクリューが搭載されていて水陸両用能力がありますし、米軍のV-150コマンドーなどは車輪駆動動力方式の浮航能力があり、こうしたものが備えることが出来たならば、架橋や敵前渡河任務に際して、対岸の確保に投入できるでしょう。もっとも、四輪駆動機動装甲車に浮航能力が供えられていて、これだけで普通科中隊を充足出きるならば、架橋は後方の補給線構築を除いて不要になりますが、ね。
自走軽迫撃砲、車内に81mm迫撃砲を搭載します。展開が早いし狙撃に曝されることもない。小型装甲車をそのまま自走迫撃砲としている事例は多く、VABなどもそのように行っています。コリメーターなど精密な射撃を行う際には時間を要しますが、即座に射撃を実施しなければならない状況では装甲車が停車すると共に射撃を開始でき、更に周辺から狙撃等の脅威があった場合でも射撃を継続できます。機動打撃を行う機動戦では迫撃砲の射程は即座に車両が突破してしまうため自走化の意義はある訳です。コリメーターを持ち手射撃する際には降車し展開すれば、射撃時に衝撃時に車体が動揺して制度に影響が生じる事もありません。
81mm迫撃砲は、射程が5.6kmで、射程が8kmともいわれる中距離多目的誘導弾と比較し、射程で劣勢となりつつあります。もちろん、面制圧の迫撃砲と対装甲車両用の誘導弾は完全に別物ではあり、防御拠点や拠点建築物などの点目標制圧には中距離多目的誘導弾のレーザー誘導方式による視程外射撃は有用な対処方法となるのでしょうが、迫撃砲は文字通り面制圧、散兵線の制圧と補給などの策源地制圧には欠かせません。そして射程が限られており、現代の陸上戦闘が遠距離化していることを考えれば、迫撃砲小隊が敵第一線部隊と接触する可能性もありますので、その場合には防御力の重要性を痛感することとなるのではないでしょうか。
重迫撃砲装甲牽引車、120mm重迫撃砲を牽引します。VABも重迫撃砲の牽引に用いられていますが、オランダ軍も冷戦時代は装輪装甲車で120mm重迫撃砲を牽引していました。車載してもいいのですが車体が大型化し、射撃時の振動が大きいため構造が複雑化し、四輪駆動装甲車の手におえないものがありますし、車載化してしまうと空中機動を行うことが事実上不可能となります。ただ、装甲車両に搭載すれば、重迫撃砲は射程が大きいため砲兵に探知された場合でも生存性が高まります、陣地を構築し掩砲所に退避すれば何も問題は無いのですが、機動運用を行うことを考えればこの選択肢は難しく、牽引車としての運用は選択肢の一つ。
120mm重迫撃砲は、特科部隊の縮小に伴い普通科部隊の直掩火力に重要な地位を占める事となりました。連隊戦闘団編成時には特科大隊か特科中隊の榴弾砲が配置されますが、こちらは連隊規模の全般支援火力や対砲兵戦での火力という運用が為されることとなり、重迫撃砲は、かつての107mm重迫撃砲のように機銃陣地制圧等の火力投射に限られるものではありません。他方、蛇足ながら現在120mm重迫撃砲を牽引している高機動車は重迫撃砲牽引時に重迫撃砲の備品扱いとなります、そして更に、高機動車は主として重迫撃砲の牽引を念頭に開発され、加えて普通科中隊に広範に配備された、という経緯がありますので、四輪駆動機動装甲車は重迫撃砲と、こそ組み合わせの本領発揮となるのかもしれませんね。
装甲救急車、現在は救急車に1t半トラックが用いられています、ジュネーヴ条約により救急車は攻撃されない事となっていますが、火砲の砲弾などはこれを区別して破片を散布するわけではありません。機関銃の搭載などは行えませんが装甲車を救急車として用いることは国際法上問題ありません。装甲救急車である以上、現状の搬送に重点を置いた救急車以上の応急治療などの設備が欲しいところですが、こちらは医師法の問題があります、これは改善されるべきものですが、別の話題ですので、これは敢えてここでは取り扱いません。なお、救急車はジュネーヴ条約で保護されていますが非正規戦闘では標的とされるため、ストライカー装甲救急車は側面の赤十字表示が秘匿できるようになっていました。
救急車両は、応急的に73式装甲車に赤十字表示を施して訓練検閲に供される事例は過去にありましたし、軽装甲機動車を後方の救急車待機位置までの負傷者輸送に用いる事例はあります。もちろん、装甲救急車とて装甲防御力を有しているとは言っても普通科部隊の攻撃前進の第一梯団に加わり、負傷者が発生したならば即ざに収容して後方に、という運用はもちろんできないのですから、軽装甲機動車による搬送を行う、という選択肢はもちろんあるのですが、競合地域まで装甲車ならば進出できるものの通常の1t半救急車では不安があります。それでは軽装甲機動車を転用すれば、と思われるかもしれませんが、担架収容能力に軽装甲機動車では不安が残ります。四輪駆動機動装甲車の出番と考えるところ。
装甲近距離地対空誘導弾発射車両、93式近距離地対空誘導弾近SAMを装甲車に搭載する案です。可能ならば低空レーダ装置なども装甲車に搭載し、情報伝送装置以外を装甲化したいところではありますが。SAMを装甲車へ搭載する、これは各国でかなり実施されている方法で、日本も高機動車に搭載するよりは予算に余裕があれば装甲車に搭載するべきものです。ただ、車体が大柄となりますので敵航空偵察などから発見される可能性も一応あります、また、装甲により乗員は守られますが、ミサイル発射装置は暴露していますので砲撃などにより破壊される可能性は残ります。その一方で、地対空誘導弾は敵勢力にとり優先目標となり得るため、装甲車両により乗員を防護できる体制は必要でしょう。
93式近距離地対空誘導弾は、搭載する誘導弾原型である91式携帯地対空誘導弾の改良型が開発されており、かなりの期間運用が続きます。発射装置と伝送装置搭載車両を共に装甲化し、射撃展開時に際しては伝送装置搭載車両に重機関銃を搭載することで遊撃隊からの攻撃を警戒、こうした運用が考えられます。他方、低空レーダ装置等を装甲化する、という選択肢もあるやもしれませんが、低空レーダ装置はより後方で運用するもので、現状では高機動車に搭載され運用されていますが、レーダーに限っては装甲車に搭載する必要性、そこまで高くは無いのかもしれません。
装甲多目的誘導弾発射車両、中距離多目的誘導弾発射装置を装甲車により自走化するものです、利点については装甲近距離地対空誘導弾発射車両と同じで欠点についても装甲近距離地対空誘導弾発射車両と同じです。中距離多目的誘導弾は間接照準射撃が可能であるため掩砲所から射撃することも出来るのですが、熱線暗視装置とミリ波レーダーを搭載し同時多目標対処能力があります、装甲車に搭載したとしても戦車砲などで攻撃されれば軽装甲車の防御力では先に戦車を撃破する以外に打つ手なしですが、それ以外の機動時に攻撃を受けた際に生存性を高める事が可能です。車内に予備弾を搭載、データリンク器材なども搭載できますので、車両としての能力は上がります。
中距離多目的誘導弾、射程が迫撃砲よりも長いという装備で、各国の自走対戦車ミサイルのような直接照準ではなく、レーザー照射機を人力携行し間接照準射撃のような運用を行えますので、必ずしも装甲車両に搭載し、最前線で敵機関銃弾などの弾幕に包まれながらミサイルを発射、という状況に陥るものではありません、むしろ搭載するミリ波レーダーを活用し直接照準時は伏撃戦闘に特化し、それ以外の状況下において間接照準射撃を行う、という運用ならば現状の高機動車でも対応できるでしょう。しかし、中距離多目的誘導弾は基本的に一両の車両から運用でき、複数の車両が連携する必要がある96式多目的誘導弾とは、その点で違いがあります。すると、装甲化の適性はあるともいえるところ。
装甲レッカー車、要するに回収車です。重装輪回収車ほどの牽引と回収能力はありませんが、仮に軽装甲車両を中心とした普通科連隊を編成するのならば、軽装甲車両だけを回収できる能力で事足ります、装甲回収車として運用する選択肢はありますし、後方支援連隊の機動用に用いる事も出来るでしょう。このほかに、指揮通信車両や通信中継車両と特科弾薬輸送車両、航空自衛隊の基地警備車両や携帯地対空誘導弾発射自走車両など、色々な用途が考えられます。軽量で安価な汎用装甲車両があれば、様々な用途がる、こういった視点から提示してみました。
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