◆先ず重迫撃砲牽引車として導入する案
四輪駆動機動装甲車、軽装甲車両の汎用車両化として掲載した提案の中に重迫撃砲牽引車を提案していますが、この点をもう少し。
陸上自衛隊は2000年代に入り軽装甲機動車の大量配備を開始、実に約2000両を調達し、北部方面隊を除くほぼすべての普通科連隊に一個中隊を装甲化させるとともに、本部管理中隊や偵察隊へ装備、普通科以外の職種へも中隊本部車両などとして装備が進められています。軽装甲機動車は近接戦闘における最小部隊単位である小銃班を機銃組と対戦車組の二両に分乗させ、乗車戦闘を主眼とした火力の分散と集約を迅速化を計りました。しかし、それ以前、高機動車が大量配備されたことで自動車化が進んだという近代化を忘れてはなりません。
自動車化は1990年代初頭より普通科部隊へ大量の高機動車が配備開始となり、事実上普通科部隊は軽装甲機動車等の装甲車両に乗車していなければ、高機動車に乗車し、戦線近くまで進出、降車戦闘と地形防御を主体とした機動力主体の編成に以降し、機動力と一定の防御力を良質した機動運用が可能な軽装甲機動車との連携を実現しています。四輪駆動機動装甲車の提案は、この高機動車による普通科部隊の緊急展開に装甲防御力を付与し、特に機動力について降車戦闘の展開位置を戦線に近い地域において実施可能な体制を築き、部隊としての機動力を更に高めよう、というものです。
さて、四輪駆動機動装甲車、現在運用している96式装輪装甲車は高価すぎ、必要な整備支援が大きく、全普通科部隊へ普及させる安価な装甲車を志向しています。四輪駆動で一個小銃班が乗車可能であり且つ安価な装甲車両という提案で、仮に軽装甲機動車をキャブオーバー型、エンジン区画を車体前部ではなく操縦区画に隣接し配置し、車体を延長することで、現在の軽装甲機動車の乗員数を4名から操縦手を含め11名の乗車を可能とする、少々無理があれば、フランス軍が1970年代半ばから大量配備を開始したVAB軽装甲車のような車両を国産で開発するか、海外製車両を自衛隊の補給体系に合致したエンジンなどに置き換えライセンス生産かノックダウン生産を行う、という提案を行っています。
その四輪駆動機動装甲車を重迫撃砲の牽引車両として応用できないか、と。重迫撃砲は高機動車を重迫牽引車として運用しています。元々高機動車は以前の107mm重迫撃砲に代えて新しく1990年代より導入する120mm重迫撃砲の牽引が主たる用途として考えられており、汎用車体として開発された高機動車がそのまま普通科部隊へ広く配備され、様々な装備品の運用車両へ汎用性を活かす事となり、広く配備されたものです。重迫撃砲ですが、現在陸上自衛隊では近接戦闘への重視へ、特科火砲の縮小を続けています。今回の新防衛大綱では特科火砲は400門から300門へ縮小されました。単に多連装ロケットシステムを特科火砲の定数から除いただけとも取れる数ですが、既に重迫撃砲は陸上自衛隊が火砲を特に直掩火力としての105mm榴弾砲を全般火力支援用の155mm榴弾砲に統合した時点で、単なる第一線火力支援用としての能力がさらに求められることとなりました。
他方で自衛隊が装備する120mm重迫撃砲RTは通常弾射程8100m、射程延伸弾射程13000mと、以前に装備していた107mm重迫撃砲M-2の4000mを遙かに凌駕していますので、それだけに期待も大きかったことでしょう。そして今日に特科火砲が縮小傾向から脱することが出来ない現在、不可欠な支援火力である重迫撃砲は一門たりとも敵の攻撃により失うことが出来ないという傾向が強くなっているという事も出来、そのために装甲車両で牽引し、脆弱性を払拭する必要があるように考えるところ。
高機動車はトラック以外の車両としては非常に大型であり、普通科部隊は近代化とともに対戦車装備の弾頭大型化や戦闘防弾チョッキの装備と暗視装置や通信機器など重量化し多種多様化する各種装備品を携行する上で余裕があり、意外な不整地突破能力を有するこの装備を大量配備した事は正解でした。しかし、重迫撃砲は直掩火力として非常に大きな能力を持つ装備ですから、機動力を支え、且つ攻撃にも曝される牽引車両についても装甲防御能力は不可欠ではないにしても望ましいことには変わりません。
陸上自衛隊は96式自走迫撃砲として第七師団の第11普通科連隊重迫撃砲中隊に装甲化した自走迫撃砲を集中配備しています。これは89式装甲戦闘車と73式装甲車により完全装甲化されている機甲師団の普通科連隊へ適宜必要な火力支援を行う装備として開発されました。しかし、この96式自走迫撃砲を除けば自衛隊は高機動車により重迫撃砲を牽引しているのです。ちなみに96式自走迫撃砲は120mm重迫撃砲の牽引用車輪を除き車載用とした砲機構を搭載しています、ですから車両から降ろして掩砲所に配置する事は出来ません、即ち機動力に特化した装備、ということ。
自衛隊が96式自走迫撃砲を開発した際、120mm重迫撃砲を開発したフランスでは自走迫撃砲を有していませんでしたが、海外への輸出需要を見込み装輪装甲車へ120mm重迫撃砲を搭載したものを市場に供しました。もちろん、自走迫撃砲というものは珍しいものではありません、米軍では107mm重迫撃砲M-30をM-113装甲車の改造車両に搭載しM106自走迫撃砲として広く配備しましたし、後継として米軍が採用した120mm重迫撃砲をM120も-113装甲車に搭載されM1064とし、ストライカー装甲車にも搭載されM-1129として制式化されました。
それでは自衛隊が採用した120mm重迫撃砲を開発した開発国であるフランス軍ではなぜこうした自走迫撃砲が開発されなかったか、と問われれば、フランス軍ではアクマット社製VLRA汎用車両が120mm重迫撃砲の牽引用に使用されているのですが、このほかに機械化部隊の軽装甲部隊等ではVAB軽装甲車が120mm重迫撃砲の牽引車両として採用されているのです。VABは10名の歩兵を輸送でき、車載能力は少なくとも乗員数で高機動車と同等です、VABは120mm重迫撃砲を牽引し、射撃位置に展開すると120mm重迫撃砲を切り離し、射撃地に展開します。重迫撃砲は大きな火力である分大きな目標となりますので、敵砲兵の反撃から装甲車隊が操作要員を防護しますし、遊撃隊と遭遇した際には重機関銃で制圧することも出来るでしょう。
オランダ軍もかつて、120mm重迫撃砲をYP-408装甲車により牽引していました。YP-408装甲車はオランダ軍が自国向けに開発した8輪式装甲車で、1960年代に開発した装備です。YP-408装甲車の重迫撃砲牽引仕様はPW-MTとされていましたが、迫撃砲操作要員7名と50発の砲弾を搭載し運用していました。もちろん、射撃時は操作要員が車外に展開しますので、この瞬間に砲兵攻撃を受ければ車内に急ぎ退避しなければ多大な損害が、自己鍛造弾などの対装甲砲弾で攻撃されたならば被害は免れませんが、機動運用時ならば多少の攻撃からは乗員を防護できます。
車載式の重迫撃砲であれば、乗員は射撃時にも狙撃などの脅威にさらされず射撃が可能です。特に市街地戦闘などでは直掩火力である重迫撃砲の重要性が高いという部分、アメリカ軍がイラク戦争において証明していますし、イスラエル軍もその重要性を市街地戦闘において認識し実践しています。しかし、M-120と比べ自衛隊が運用する120mm重迫撃砲RTは大型であり、更に車載しますと、降車展開できる構造ではありません。これは、車体の動揺等で汎用車体を用いた自走迫撃砲には命中精度に影響しますし、装甲車は大型ですので暴露しやすいという欠点から逃れられません。
高機動車による120mm重迫撃砲の牽引時は、射撃位置に展開しますと、要員と砲弾にコリメーター等を射撃位置に残し、高機動車は待機位置に避退します、これは敵に高機動車の車体が発見され、重迫撃砲の展開位置を暴露しないようにするものです。装甲車に車載してしまいますと車載運用に固定されてしまうため、こうした運用が出来なくなりますし、車両から射撃する際には懸架装置の強化かジャッキの追加などを行わなければ命中精度に影響が出てしまいます。この点で、装甲車に牽引する、という選択肢はある意味非常に合理的と言えるでしょう。
ただ、かならずしも利点だけではありません。四輪駆動機動装甲車はヘリコプターで空輸が難しく、例えばフランスのVAB軽装甲車であれば全備重量は13t、軽装甲機動車の4.5t、4.5tは自重のような気もするのですが、CH-47輸送ヘリコプターは11.3tまでしか吊下輸送できませんので、高機動車を重迫牽引車として使用した際のように、空中機動させることが出来ないのです。7.5t以内で四輪駆動機動装甲車を設計することが出来、VABは全高2.06mですが、これをCH-47の機内に収容できる高機動車と同程度の1.85m以内に収められれば別なのですが、まあ、国産するのであれば要求仕様にCH-47機内に収容できるよう要求すればいいのですけれども。
四輪駆動機動装甲車の重迫撃砲牽引車両という提案は、重迫撃砲の牽引用として最適な選択肢といえるかもしれません。また、逆に重迫撃砲牽引車両として四輪駆動機動装甲車を整備し、しかる後に普通科部隊へ配備するという選択肢もあり得るのかもしれません。既に見積りで、普通科連隊の軽装甲機動車を装備していない三個普通科中隊に四輪駆動機動装甲車を装備し、本部管理中隊などの所要を含めた場合は50両の四輪駆動機動装甲車が必要となる試算を行いました。しかし、装甲化を暫定的に一個普通科中隊所要と重迫撃砲中隊のみ、とするならば、一個普通科連隊所要は30両となり、施設大隊への配備等を加えても一個師団所要100両で対応できます。
重迫撃砲中隊から四輪駆動機動装甲車を装備し、高機動車が重迫撃砲牽引車として普通科部隊へ提示されるとともに大量配備へ進んだ道を再度踏襲する方策で一挙に自衛隊の装甲化を推し進める、重迫撃砲牽引車は四輪駆動機動装甲車の派生型一案として提示したものなのですけれども、逆転の発想でこうした方策を行えば、かつてなかなかトラック軌道から離れる事が出来ず自動車化の端緒を探していたところを高機動車が果たしたような、そうした用途が、期待できるかもしれません。
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