北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊強襲揚陸艦計画は初めてではない、未成のポスト冷戦期15000t型輸送艦

2014-02-08 23:20:16 | 防衛・安全保障

◆建造されたのは8900tおおすみ型輸送艦

 海上自衛隊へ強襲揚陸艦の建造計画が報じられましたが、実はこの計画は初めてのものではありません。

Img_7507  強襲揚陸艦は削り過ぎた陸上自衛隊の動的運用に不可欠な装備で、統合輸送力として新防衛大綱でも求められたものですが、過去にも検討はされていました。現在、おおすみ型輸送艦3隻が第一輸送隊に装備され、運用されていますが、この輸送艦は基準排水量8900t、現在の海上自衛隊からすれば、満載排水量13500t補給艦ましゅう型2隻、ひゅうが型の基準排水量13500tが就役し、更に基準排水量19500t型護衛艦として、いずも型護衛艦の建造が始まっていますので、そこまで取り立てて大きくは感じませんが、8900t型輸送艦計画当時に最大の自衛艦は基準排水量11500tの砕氷艦しらせ、最大の護衛艦は基準排水量7200tこんごう型でしたので、8900tとは、非常に大きな一隻といえました。

Simg_1978 しかし、この8900tの輸送艦は元々、もう少し大きな輸送艦として検討していた、と伝えられています。それは、15000t型輸送艦として計画されたもので、もう少し大型となり、航空機運用能力にも余裕を持たせていたもので、現在はエアクッション揚陸艇LCAC二隻を収容するドック型揚陸艦として完成しており、暫定的に全通飛行甲板となっている上甲板に三機程度の輸送ヘリコプターを搭載し、艦内の車両甲板に多用途ヘリコプターを搭載する程度ではありますが、15000t型輸送艦が実現していれば、艦内に格納庫を設置出来た、とのこと。

Img_7007 この構想が実現しなかったのは、政治的なものではなく海上自衛隊内部からの時期尚早ではないかとの意見が反映されたもののようです。そういいますのも、海上自衛隊が新輸送艦を計画した当時は、基準排水量1500tの輸送艦あつみ型3隻と基準排水量2000tの輸送艦みうら型が運用されており、あつみ型は地方隊配備となっていましたので、新輸送艦は三隻の輸送艦みうら型を置き換える構想となっており、2000t級の後継に過剰なものを導入するのは、という意見が大勢を占めた、と伝えられます。

Himg_0998 基準排水量3000t、みうら型輸送艦は基準排水量2000t、この為海上自衛隊が最初に新輸送艦を計画した当時は、基準排水量3000t程度の輸送艦を検討していました。3000t輸送艦として建造し、満載排水量は4000tをやや上回る程度、艦内にドックを配置するのではなく、艦首に揚陸ハッチを設置し船体側面にはデリックで運用する数隻の揚陸艇を搭載、船体後部には飛行甲板を配置し、揚陸時は揚陸艇と共に前進、海岸線に直接接岸し導板を海岸に設置、戦車などを揚陸させる、というものでした。

Img_4136  しかし、5500t型輸送艦の建造が妥当ではないか、という方針転換が、ほどなくして為されました。この5500t型輸送艦と修正された背景には、当時開始された国際平和維持活動への自衛隊派遣があり、海上自衛隊の装備する輸送艦では東南アジア地域などへの展開には特に航行能力で不十分なものがあったため、基準排水量5500t、満載排水量で7000t程度の輸送艦でなければ任務範囲が広く海外まで広がった新しい輸送能力の要求に耐えられなくなった、ということ。

Gimg_2725 輸送艦の任務とは。海上自衛隊の輸送艦の任務は冷戦時代、日本本土有事として最も大きく想定されたソ連軍の北海道侵攻事案に際し、北海道を防衛する北部方面隊道北第2師団・道東第5師団・道南第11師団・機動打撃第7師団と、青函地区を防衛する青森第9師団に加え、本州より中部第10師団・山陽山陰第13師団・南九州第8師団を北海道へ輸送支援することにありました。この中で、カーフェリーや青函連絡船を動員する一方、海上自衛隊として一個連隊戦闘団を同時輸送する能力が求められていたわけです。

Img_7523  おおすみ型輸送艦の建造に際しても、概ね三隻で一個連隊戦闘団を輸送する、という能力は念頭に置かれてはいるようです。みうら型輸送艦はそこまで速力は大きくありませんが、戦車10両と各種車両を輸送できますので、概ね青森から函館までの青函連絡船航路に加え、航空攻撃により港湾が使用不能となった際には八戸港等を基点として北海道南部の海岸に輸送することを企図していました。情勢悪化以前の輸送と輸送艦の何往復かを経て、北海道へ三個師団の輸送を目指していた、ということ。

Himg_2731  8900tに計画が拡大されたのは、5500t型輸送艦として検討してゆく中で、将来戦闘においては揚陸艦が海岸線に近づけない状況が想定され、この中でエアクッション揚陸艇を装備した場合、揚陸は最大96浬の沖合から運用できることとなり、その能力が大きく拡大される、と考えられたためでした。5500t型ではエアクッション揚陸艇を搭載する事は出来ず、5500t型輸送艦では搭載できる輸送艇は従来型の低速な輸送艇以外考えられず、この結果エアクッション揚陸艇を搭載する最小限の大きさとして8900tという数字が産出されました。

Gimg_3586 15000t型輸送艦という検討が為された、こう伝えられるのはエアクッション揚陸艇を搭載する輸送艦は必然的に洋上のかなりの沖合よりエアクッション揚陸艇を進出させるわけですので、従来の輸送艦に装備されていたような低速の揚陸艇を補助とする事は出来ず、エアクッション揚陸艇だけでは不十分な揚陸能力を補完する装備を運用できない、ということにあり、結果、エアクッション揚陸艇の補完にヘリコプターを搭載し、運用できないか、という検討が為されるに至ります。

Img_0608  この施策が未成となったのは、ひとえに2000tの輸送艦の後継に15000tの輸送艦を充てることは当時の大蔵省が認め得るのか、最大の護衛案でも7200tという中で15000tの輸送艦を要求するのは装備運用の面からも時期尚早ではないか、というものでした。加えて、8900t型輸送艦であっても、全通飛行甲板構造を採用し後部飛行甲板に甲板係留方式でヘリコプターを搭載することは可能とされていました、即ち結論とは以下の通りです、必ずしも航空機格納庫を配置せずとも、限定的に8900tの輸送艦でも対応できる。

Himg_4551_1 こうして海上自衛隊は8900t型輸送艦、おおすみ、しもきた、くにさき、を建造します。海上自衛隊として輸送艦おおすみ型は二代目となりますが、先代おおすみ型二番艦は、しもきた、でしたが三番艦は、しれとこ、でした、そこが、くにさき、になりました。いつか、しれとこ、という艦名は復活するのでしょうが、海上自衛隊にはその後の輸送艦建造計画は立てられず、しかし、排水量だけは基準排水量13500t、満載排水量19000tの護衛艦ひゅうが型、が建造、続いて19500tの護衛艦いずも型の建造が始まっています。

Img_7751_2  さて、先日報じられた海上自衛隊の強襲揚陸艦建造計画ですが、どういったものとなるのでしょうか、飛行甲板を有し、航空輸送能力を重視したものとはなるのでしょうが、エアクッション揚陸艇による重装備運用能力をどの程度必要とするのか、これにより新型艦の船体規模とドックの有無が大きく変わってきます。当方は全く想像も出来ない分野ではありますが、理想的な面としては、15000t型輸送艦、おおすみ型輸送艦の15000t型構想を再度再開し3隻建造、おおすみ型と新輸送艦各1隻で輸送隊を三個編成し、一個輸送隊を即応体制とするもの。

Img_88_45  理想論を言い始めますときりがありませんが、おおすみ型では限られている航空機運用能力を補完する位置を目指して、基準排水量15000t、満載排水量22000t、全通飛行甲板とドックを有し、新輸送艦とおおすみ型との輸送隊二隻で甲板係留を含めCH-47輸送ヘリコプターとMV-22可動翼機を各8機、AH-64D戦闘ヘリコプター3機を搭載し、エアクッション揚陸艇4隻を運用、三個中隊編制の一個普通科連隊か新編される水陸両用連隊一個と機動戦闘車等を緊急展開させる、という能力が理想的なもの、というところでしょうか。

Dimg_6724  ただ、陸上自衛隊は水陸両用強襲車AAV-7を導入開始します、これでは沿岸部に揚陸艦を展開させねばなりませんし、エアクッション揚陸艇により沖合で展開させることも難しい、それよりもヘリコプターで空輸可能で25mm機関砲を搭載するLAV-25軽装甲車をライセンス生産し150両程度導入したほうが、エアクッション揚陸艇にも搭載できますし、道路交通法上も車幅の問題は無い、これが不満であればいっそのこと、数十kmの沖合から展開可能であるアメリカが開発中止したEFV海兵遠征車の開発に参加し、日米共同開発とした方が、とも。これはさておき、このように過去に計画されていた大型輸送艦計画があり、一度は断念されましたが、今回、再度日の目を見る事となりそうです。

北大路機関:はるな

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