◆新時代の基盤的防衛力として
今回は、“榛名防衛備忘録:国際貢献任務、軽装甲機動車中隊と四輪駆動機動装甲車中隊の協同”で提案しました“臨時中隊戦闘隊”について。
普通科連隊へ軽量で安価な四輪駆動機動装甲車中隊を高機動車化中隊に代えて配備し、普通科連隊の装甲化を一挙に推し進めよう、という提案を行いました。三個中隊が四輪駆動機動装甲車中隊となり、一個中隊が軽装甲機動車により充足され、普通科連隊は本部管理中隊と重迫撃砲中隊を以て、戦車や火砲の配属を受けられない状況でも即応する防衛力を構築できます。軽装甲機動車は小銃班が二両に分乗し乗車戦闘を基本とした機動力を発揮できます。そこにこれまで降車戦闘を基本とした高機動車を第一線までの防御力を普通科隊員へ供することが出来るわけです。
軽装甲機動車中隊は機動力を活かして火力を分散集中を繰り返し、敵脅威の側面や後方に常に回り込む機動戦を展開、四輪駆動機動装甲車中隊は緊要地形確保と攻撃前進を繰り返し、軽装甲機動車中隊は常に敵情を把握し共同交戦能力による部隊間情報共有を実施、各中隊の対戦車小隊は固定目標や装甲目標を無力化し前進を続けます。軽装甲車両では対応できない勢力に遭遇した際には四輪駆動機動装甲車中隊が有利な地形を確保し、機動打撃部隊の支援を待つ、という構図となるでしょう。
臨時中隊戦闘隊は、広い地域を防衛する広域防衛に際し必要に応じて四輪駆動機動装甲車中隊を中心として編成する提案を行いました。四輪駆動機動装甲車中隊に軽装甲機動車中隊を小隊ごとに配置し、軽装甲機動車中隊の本部機能を連隊本部と重迫撃砲中隊の支援に充て、小隊が四輪駆動機動装甲車中隊を支援する、というもの。軽装甲機動車は小柄で小回りが利きますので、四輪駆動機動装甲車の降車戦闘主体の戦闘を機動力で支援することが出来ます。四輪駆動機動装甲車中隊は三個ありますので、この臨時中隊戦闘隊を三個編成することが出来ます。この提案について、四輪駆動機動装甲車中隊を平時から三時間待機と十二時間待機に分ける准即応体制を採ることで、基盤的防衛力の強化に充てる事は出来ないでしょうか。
基盤的防衛力、この概念は我が国防衛力について普通科部隊等を日本全土に地域ごとに配置し、管区連隊として全国に防衛基盤を近郊に配置する、というものです。これに対する概念としては機動運用部隊を管区もたずに配置し、有事や災害の際には機動力を持って対応するというものです。双方ともに一長一短あるのですが、長所は少数部隊でも装甲化と空中機動力さえ十分整備すれば対応できるというところです。対して、特に短所としては地域研究と戦術への応用や自衛隊と地域自治体住民との協力関係を平時から維持することが難しい、ということ。
しかし、機動力を持てば管区部隊も増援に展開することが出来ますので、基盤的防衛力と動的防衛力は両立することが出来ます。その提案として、これまでに、機動力を特に重視した部隊、機動打撃能力と特に重視した部隊、軽装甲化し汎用性を高めた部隊、というものを提案しています。機動力重視部隊、方面空中機動混成団案がこれに当たり方面航空隊に普通科連隊と対舟艇対戦車隊を配置し空中機動部隊としたもの。機動打撃部隊、方面装甲混成団案がこれにあたり、戦車中隊に二個装甲戦闘車中隊と特科火砲に自走高射機関砲を併せた特科混成中隊を加えた機械化大隊二個を方面隊毎に方面装甲混成団として配備し、装甲部隊の集中をおこなうというもの。そして、軽装甲化し汎用性を高める部隊が四輪駆動機動装甲車中隊となります。
基盤的防衛力は、出動命令一下概ね一時間以内に初動部隊を、三時間以内に一定規模の作戦部隊を、出動させ、第一線に少なくとも六時間以内に防衛線を構築できる態勢を、概ね必要と考えています。その根拠は、この時間内であれば着上陸や空挺強襲といった事態においても敵海岸堡や空挺堡を確立させる前に制圧することが可能です。例えば航空優勢を絶対に維持できる防衛力と地対空ミサイル網を維持し、悪天候でも飛行可能な大量のヘリコプターを導入し、戦車も潤沢に装備できれば、その中間を担う四輪駆動機動装甲車による部隊は必要ないと考えるのですが、日本列島は余りに長大で、海岸線に面していると共に大規模災害の可能性が全土で高く、少数の精鋭部隊だけで防衛できるものではありません。
そこで、管区連隊が少なくとも一個の臨時中隊戦闘隊を三時間以内に編成し、燃料と弾薬等を受領、出動させるという体制を確立できれば、その任務に対応できるでしょう。三時間待機では遅い印象を持たれるかもしれませんが、各駐屯地には災害派遣事案に備え初動部隊を即応待機させるFAST-Forceが置かれています。車両数両で情報収集と初動に当たる部隊ですが、このFAST-Forceを元として迅速に小銃や分隊機銃などの限られた装備と弾薬を迅速に配備し出動できる態勢を構築できれば、三時間待機の臨時中隊戦闘隊を初動の主力としても、少なくとも情報収集等で後れを取ることは無いと考えます。
臨時中隊戦闘隊、四輪駆動機動装甲車中隊:本部班・三個小銃小隊・対戦車小隊・迫撃砲小隊、軽装甲機動車小隊、編成は以上の通り。四輪駆動機動装甲車は本部班に2両と各小銃小隊に四輪駆動機動装甲車は4両が配備され、四輪駆動機動装甲車の総数は14両、中距離多目的誘導弾は対戦車小隊に4両と支援の高機動車4両、81mm迫撃砲が迫撃砲小隊に4門と高機動車が4両に観測班などの車両。軽装甲機動車小隊は軽装甲機動車が小隊長車1両と三個小銃班が機銃組と対戦車組に分乗し6両の合計7両、支援車両として平時の係幹部の指揮する高機動車が4両程度付くという想定で、全体の編成はこうした戦闘序列となるでしょうか。
人員230名、四輪駆動機動装甲車14両、軽装甲機動車7両、高機動車12両、81mm迫撃砲4門、中距離多目的誘導弾4両、89式小銃220丁、5.56mm分隊機銃16丁、01式軽対戦車誘導弾15基、12.7mm重機関銃14丁、臨時中隊戦闘隊の装備は一例ではありますが、こうした通りとなります。観ての通り弾薬種類と誘導弾や迫撃砲弾の数も一定以上となりますので、初動三時間でこれだけの部隊を出動させるには、応急弾薬などの受領手続きを如何に有事の際における実情に合致した体制を構築しなければなりませんが、この課題さえ解決できるならば、我が国は奇襲対処に非常に強力な部隊を持つこととなります。
着上陸事案とともに管区連隊はFAST-Forceを元とした初動部隊を展開させますが、併せて緊急展開部隊として提案している方面空中機動混成団が対戦車ヘリコプター数機と多用途ヘリコプター数機を以て空中機動を行い、小隊規模の部隊を第一線に展開させ、特に情報収集と対戦車火器を駆使した前進妨害を行います。その部隊が展開した数時間のうちに臨時中隊戦闘隊が編成され、軽装甲部隊ながら侮りがたい火力と装輪装甲車ならではの路上機動力を以て押し進み、我が国土への侵攻を着手の時点で無力化します。この部隊に抵抗できる水準の部隊を上陸もしくは空輸させた場合でも、十時間程度を以て管区連隊の本隊が進出出来るでしょう。
管区連隊の本隊行動と共に隣接する管区連隊も臨時中隊戦闘隊を編成し、応援に駆け付け、二十四時間以内に状況が収束できない事態であっても、その頃には管区師団乃至旅団が機動戦闘車と火力戦闘車を以て制圧に掛かり、方面装甲混成団が戦車部隊を展開しますので、我が国土へ軍事的侵攻を策謀する勢力は、少なくとも着上陸と同時に臨時中隊戦闘隊及び空中機動部隊に対処できる第一陣を輸送できなければ、その目的を達せられない事となり、結果、我が国への着上陸は事実上不可能とすることが出来るわけです。
基盤的防衛力、特に戦車が縮小され、空中機動部隊は現状維持も課題となる状況下、我が国防衛が採るべき選択肢の一つに、普通科中隊を安価な装甲車、周辺国からは安普請や時代遅れと嘲笑される性能であっても、兎に角数を揃え、基盤的防衛力を動的に運用できる体制を構築し対処する必要があると考えます。中隊を基幹とする割には、特に車両数と火力の区分が多層ではありますが、我が国は諸外国の歩兵中隊よりも大型の普通科中隊を編成し、普通科連隊の下に普通科大隊を置いた編成ではなく、中隊を戦闘基幹部隊としてきました、その特性を活かす方策として、小型の軽装甲機動車を臨時配備し、安価な四輪駆動機動装甲車特異あわせる方策を提案してみました次第です。
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