■ペルシャ湾岸危機
平和安全法制等の整備がようやく実現した我が国ですが、その自衛権の行使が杞憂に終わることを切に願いながらも、ペルシャ湾岸が湾岸危機というべき状況となってきました。

中東情勢が急激に悪化しており、最悪の場合ペルシャ湾岸地域全域を巻き込む大規模武力紛争へ発展する可能性が出てきました。その場合、我が国は石油供給の多くが途絶する状況に陥り、原子力発電を全面的に停止している我が国ではエネルギー危機が国家経済を直撃するとともに、湾岸地位には多くの邦人が居留しているため、大規模な邦人救出任務が必要となります。これは今年に入りサウジアラビアがイランとの外交関係を断絶し、これに続いてバーレーンとスーダンもイランと国交を断絶、アラブ首長国連邦UAEはイラン大使を召還し国交の大半を制限する事となっています。

外交関係の断絶と云えば、国連憲章以前の国際法体系下では宣戦布告を意味します、中東情勢はここまで深刻であるのか、という思いと共に更に状況は悪化し、サウジアラビア政府はイラン発航空便の全面受け入れ停止、イラン出身旅行団の受け入れ拒否、と両国関係が急激に悪化しています。イランとサウジアラビア両国はペルシャ湾を挟み対峙している他、ペルシャ湾岸は世界最大の産油地域であるため、我が国商社やエネルギー企業の社員が多数駐在しています。有事となれば救出へ展開しなければならない。

安全保障法上の重要影響事態となり得る、サウジアラビアとイランの国交断絶、サウジアラビア国内においてアラブの春に常時反政府活動を行ったとして逮捕拘留中であったイスラム教シーア派指導者ニムル師の死刑が執行され、このシーア派指導者死刑執行に対し、世界唯一のシーア派が多数を占める隣国イランではサウジアラビア大使館前において暴動が発生、一部の暴徒がサウジアラビア大使館内に侵入し、施設を破壊するなどしたことを受け、サウジアラビア政府がイランとの国交断絶を発表したものでした。

サウジアラビア政府はアラブの春に伴う騒擾事態をテロ行動と位置づけ逮捕した形ですが、二ムル師はサウジアラビア人で、サウジアラビアでは少数派となるシーア派イスラム教徒が多く所在する東部出身、イランへの留学経験もあります。しかし、サウジアラビアが死刑を執行し、イランが反発し、サウジアラビアがイランと国交を断絶、という事実関係だけでは、そもそも関係が逆ではないのか、という話など分かりにくい部分があるやもしれません。

ここで、サウジアラビアとイランを取り巻く幾つかの情勢を並行して俯瞰する事が、この国交断絶問題に至る一つの理解に繋がるでしょう。2015年よりイエメンにおいて内戦が勃発しました、イエメンはサウジアラビアと国境を接しており内戦はサウジアラビアへも大きな影響を及ぼします。イエメン内戦はフーシ派武装勢力がアブドハーディー大統領へ反乱を開始し、勃発したものです。イエメン内戦では日本人観光客が巻き込まれかけ、中国海軍により救出されたことは記憶に新しいところです。

フーシ師派閥であるためフーシ派と呼ばれるこの勢力はイスラム教シーア派を信仰しイランからの武器援助等を受けているものですが、この反乱事案に対しハーディー大統領は隣国サウジアラビア政府へ援助を要請します。フーシ派は既にフーシ師が死亡していますが、実はこの内戦に先んじて発生したアラブの春イエメン騒乱において襲撃事件により現職を退いたサーレハ前大統領と前大統領が掌握するイエメン軍がハーディー大統領へ反旗を翻したことで状況が悪化しました。

フーシ派武装勢力はイエメン国内を拠点としていますが、反米主義を掲げ幾度か親米国であるサウジアラビアへ越境攻撃を加えています。しかしサウジアラビアは原油価格高騰の恩恵として得た大量の外貨を以てきわめて膨大な数の最新装備を揃えており、シーア派武装勢力の侵攻を難なく撃破、ここで武装勢力は大量の戦闘員を喪失した事により行動が大幅に制限される事となっています。宗派間対立がこうした言いがかり的に波及する事もあるのか、と考えさせられたものです。

そのフーシ派がイエメン国内においてイエメン軍と呼号し内戦を引き起こしており、政党大統領と認めるイエメンのハーディー大統領がサウジアラビア政府へ支援を要請している事から、サウジアラビア軍はUAE軍やバーレーン軍と有志連合を組み、ハーディー大統領の政権復帰へ首都奪還を期して軍事介入を開始しました。イスラム教は世界三大宗教に数えられますが、宗派はスンニ派とシーア派に分けられ、スンニ派が全体の九割を占めています、このため数的優勢はスンニ派にあるわけなのですが、イエメン内戦はイラン政府が支援を行っている為、長期化しサウジアラビア軍などの有志連合にも無視できない人的損害が生じています。邦人が巻き込まれたのもこの際でした。

イランは1979年のイラン革命と同時にアメリカとの国交を断絶しており、この認識だけを見たならばイランと国交を断絶した国が増えただけ、という印象を受けるやもしれませんが、イエメン内戦一つとってももともとサウジアラビアとイランは険悪な関係にあった訳なのです。サウジアラビア政府はシーア派がアラブの春に乗じてサウジアラビア国内において騒乱事態を引き起こしています、更にイラン政府がサウジアラビアの隣国イラクに対しシーア派武装勢力の浸透を支援しているとの分析があるのでしょう。

シリア内戦へのイラン軍介入がシリア領内へのイラン勢力拡大に移っており、このまま看過すればドミノ倒し的に中東全域でのイラン勢力拡大という状況に発展する危惧があるのでしょう。こうした流れの中で、イランとサウジアラビアの国交断絶を見ますと、宗教指導者死刑執行は一つの引き金に過ぎず、元々のイランによる中東地域全域へのシーア派武装勢力支援を停止させるとの目的があり、その一環として対立が表面化したため、国交断絶に至った、という状況が見え、イエメン内戦へ有志連合として参加する諸国がサウジアラビアにあわせて国交を断絶しているとの現状は、国交断絶の次の段階まで発展する可能性を内包していると考えざるを得ません。日本から見れば石油、という印象があります中等ですが当事国としての視点はこうしたところ。

サウジアラビア軍の戦力は膨大です、陸軍は7万5000名でM-1A2戦車315両とM-60A3戦車450両を装備し、M-2装甲戦闘車400両とAMX-10P装甲戦闘車380両にM-113装甲車1650両など機械化部隊を重視しているほか、特筆すべきは空軍力でF-15C戦闘機80機、タイフーン戦闘機40機、F-15E戦闘爆撃機150機、トーネード攻撃機75機、そして防空能力に革新的な能力を発揮するE-3早期警戒管制機5機を装備しています。また、サウジアラビアと呼号する有志連合の空軍力も産油国であるため、比較的最新鋭の戦闘機を導入しやすく、整備面などで民間軍事会社の支援を受け、また、近代化改修などの度合いにも理解の差異があるようですが、規模では非常に大きなものがあります。また、中国製中距離弾道ミサイルCSS-3を装備している為、サウジアラビア軍はイランの首都テヘランを直接攻撃が可能です。

対するイランは陸軍大国で陸軍兵力は35万に達します、しかしイラン革命後経済制裁を受け兵器調達が頓挫しているため、T-72戦車480両を有しますが革命前に導入したM-60A1やセンチュリオンとイランイラク戦争で鹵獲したT-62戦車や中国製59式戦車とM-47戦車など多数を装備するも電子装備が民生品や国産品により可動車両がある程度で、空軍はイラン革命前に導入したF-14戦闘機やF-4戦闘機程度、アメリカ政府はF-14予備部品がイランに渡らぬよう徹底した輸出管理を行ったため、F-14を戦闘機ではなく早期警戒機として運用しているほか、飛行困難となったF-5軽戦闘機を改造し運用する、湾岸戦争期にイラクより退避したMiG-21/F-7等イラク空軍機を接収し運用しているなどの状況である。

とてもではありませんが空では勝負になりません。しかし、人的規模は膨大であるため、長期戦となる可能性があり、万一の全面衝突の際には邦人御語が最大の課題となります。また、首都テヘランが内陸部にあるため、例えばアメリカがイラク戦争において実施したような縦深打撃を行われない限り、首都は安泰といえるでしょう。ただ、イランは北朝鮮より技術導入した弾道ミサイルを装備している為、弾道ミサイルにより反撃する事も可能である為、1988年のイランイラク戦争のように弾道ミサイル攻撃に空路が途絶し邦人が空港に取り残される、という状況も思い出されるでしょう。

懸念事項は二つ、ホルムズ海峡へ影響が生じる点と邦人救出の規模が極めて遠いと共に膨大な数となる点です。サウジアラビアとイランは両国の陸上国境には中間にイラクがありますが、海上ではペルシャ湾を隔てて対峙しています。ペルシャ湾は世界最大の産油地域で、湾岸にはサウジアラビア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、などが沿岸国として並びます。そしてペルシャ湾北部沿岸はイランであり、仮にイランとサウジアラビアの政治対立が武力衝突に至った場合、産油国の生命線である石油輸出のシーレーンを機雷敷設により妨害する可能性が出てくるわけです。逆に考えるならば、ペルシャ湾を挟んでの軍事衝突が発生した際に、相手国の港湾から外貨を稼ぐタンカーの出港を無視して上空で航空戦闘が繰り広げられ海上戦闘が展開される、という状況は考えにくいものがあります。

重要影響事態というべきペルシャ湾岸危機は、中東からの石油輸入が完全停止すれば、我が国化石燃料依存度は、特に中東に対して高く、大きな打撃となる可能性が挙げられるほか、我が国と同じように中東への石油に依存する隣国中国経済へも大打撃を与える可能性があり、中国政府は周辺地域での資源採掘への依存度をまし、例えばヴェトナムなどとの南沙諸島問題の激化に波及するというような新しい危機に繋がる可能性もあります。

例えばタンカー護衛任務として海上自衛隊の艦艇をアラビア海へ派遣する必要性、万一のペルシャ湾機雷敷設に備え機雷戦艦艇及び掃海航空機の中東方面への派遣、邦人救出任務として現在自衛隊はソマリア沖海賊対処任務としてジブチなどに拠点を有している為、ここを基点として輸送機や輸送防護車、規模からは現在の少数のみが配備された輸送防護車では不足する可能性もありますが、また輸送艦による邦人の安全地域となる第三国への救出任務、などへ発展する可能性を有しています。

この危機の回避手段としては、イエメン内戦の早期妥結に向けた外交支援、イラン政府による域外での戦闘部隊活動や宗派間対立増幅への抑制要請、シリア内戦早期終結への施策等が挙げられますが、既に内戦状態に展開している状況下では我が国が執り得る予防外交策は効果が考えにくく、アメリカも懸念を表明する以外の施策を採りません。2016年は始まったばかりであり、北朝鮮核実験という危機が突き付けられた状況下ではありますが、併せて遠い中東ペルシャ湾岸地域でも危機が進行中ということを認識しておく必要があるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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平和安全法制等の整備がようやく実現した我が国ですが、その自衛権の行使が杞憂に終わることを切に願いながらも、ペルシャ湾岸が湾岸危機というべき状況となってきました。

中東情勢が急激に悪化しており、最悪の場合ペルシャ湾岸地域全域を巻き込む大規模武力紛争へ発展する可能性が出てきました。その場合、我が国は石油供給の多くが途絶する状況に陥り、原子力発電を全面的に停止している我が国ではエネルギー危機が国家経済を直撃するとともに、湾岸地位には多くの邦人が居留しているため、大規模な邦人救出任務が必要となります。これは今年に入りサウジアラビアがイランとの外交関係を断絶し、これに続いてバーレーンとスーダンもイランと国交を断絶、アラブ首長国連邦UAEはイラン大使を召還し国交の大半を制限する事となっています。

外交関係の断絶と云えば、国連憲章以前の国際法体系下では宣戦布告を意味します、中東情勢はここまで深刻であるのか、という思いと共に更に状況は悪化し、サウジアラビア政府はイラン発航空便の全面受け入れ停止、イラン出身旅行団の受け入れ拒否、と両国関係が急激に悪化しています。イランとサウジアラビア両国はペルシャ湾を挟み対峙している他、ペルシャ湾岸は世界最大の産油地域であるため、我が国商社やエネルギー企業の社員が多数駐在しています。有事となれば救出へ展開しなければならない。

安全保障法上の重要影響事態となり得る、サウジアラビアとイランの国交断絶、サウジアラビア国内においてアラブの春に常時反政府活動を行ったとして逮捕拘留中であったイスラム教シーア派指導者ニムル師の死刑が執行され、このシーア派指導者死刑執行に対し、世界唯一のシーア派が多数を占める隣国イランではサウジアラビア大使館前において暴動が発生、一部の暴徒がサウジアラビア大使館内に侵入し、施設を破壊するなどしたことを受け、サウジアラビア政府がイランとの国交断絶を発表したものでした。

サウジアラビア政府はアラブの春に伴う騒擾事態をテロ行動と位置づけ逮捕した形ですが、二ムル師はサウジアラビア人で、サウジアラビアでは少数派となるシーア派イスラム教徒が多く所在する東部出身、イランへの留学経験もあります。しかし、サウジアラビアが死刑を執行し、イランが反発し、サウジアラビアがイランと国交を断絶、という事実関係だけでは、そもそも関係が逆ではないのか、という話など分かりにくい部分があるやもしれません。

ここで、サウジアラビアとイランを取り巻く幾つかの情勢を並行して俯瞰する事が、この国交断絶問題に至る一つの理解に繋がるでしょう。2015年よりイエメンにおいて内戦が勃発しました、イエメンはサウジアラビアと国境を接しており内戦はサウジアラビアへも大きな影響を及ぼします。イエメン内戦はフーシ派武装勢力がアブドハーディー大統領へ反乱を開始し、勃発したものです。イエメン内戦では日本人観光客が巻き込まれかけ、中国海軍により救出されたことは記憶に新しいところです。

フーシ師派閥であるためフーシ派と呼ばれるこの勢力はイスラム教シーア派を信仰しイランからの武器援助等を受けているものですが、この反乱事案に対しハーディー大統領は隣国サウジアラビア政府へ援助を要請します。フーシ派は既にフーシ師が死亡していますが、実はこの内戦に先んじて発生したアラブの春イエメン騒乱において襲撃事件により現職を退いたサーレハ前大統領と前大統領が掌握するイエメン軍がハーディー大統領へ反旗を翻したことで状況が悪化しました。

フーシ派武装勢力はイエメン国内を拠点としていますが、反米主義を掲げ幾度か親米国であるサウジアラビアへ越境攻撃を加えています。しかしサウジアラビアは原油価格高騰の恩恵として得た大量の外貨を以てきわめて膨大な数の最新装備を揃えており、シーア派武装勢力の侵攻を難なく撃破、ここで武装勢力は大量の戦闘員を喪失した事により行動が大幅に制限される事となっています。宗派間対立がこうした言いがかり的に波及する事もあるのか、と考えさせられたものです。

そのフーシ派がイエメン国内においてイエメン軍と呼号し内戦を引き起こしており、政党大統領と認めるイエメンのハーディー大統領がサウジアラビア政府へ支援を要請している事から、サウジアラビア軍はUAE軍やバーレーン軍と有志連合を組み、ハーディー大統領の政権復帰へ首都奪還を期して軍事介入を開始しました。イスラム教は世界三大宗教に数えられますが、宗派はスンニ派とシーア派に分けられ、スンニ派が全体の九割を占めています、このため数的優勢はスンニ派にあるわけなのですが、イエメン内戦はイラン政府が支援を行っている為、長期化しサウジアラビア軍などの有志連合にも無視できない人的損害が生じています。邦人が巻き込まれたのもこの際でした。

イランは1979年のイラン革命と同時にアメリカとの国交を断絶しており、この認識だけを見たならばイランと国交を断絶した国が増えただけ、という印象を受けるやもしれませんが、イエメン内戦一つとってももともとサウジアラビアとイランは険悪な関係にあった訳なのです。サウジアラビア政府はシーア派がアラブの春に乗じてサウジアラビア国内において騒乱事態を引き起こしています、更にイラン政府がサウジアラビアの隣国イラクに対しシーア派武装勢力の浸透を支援しているとの分析があるのでしょう。

シリア内戦へのイラン軍介入がシリア領内へのイラン勢力拡大に移っており、このまま看過すればドミノ倒し的に中東全域でのイラン勢力拡大という状況に発展する危惧があるのでしょう。こうした流れの中で、イランとサウジアラビアの国交断絶を見ますと、宗教指導者死刑執行は一つの引き金に過ぎず、元々のイランによる中東地域全域へのシーア派武装勢力支援を停止させるとの目的があり、その一環として対立が表面化したため、国交断絶に至った、という状況が見え、イエメン内戦へ有志連合として参加する諸国がサウジアラビアにあわせて国交を断絶しているとの現状は、国交断絶の次の段階まで発展する可能性を内包していると考えざるを得ません。日本から見れば石油、という印象があります中等ですが当事国としての視点はこうしたところ。

サウジアラビア軍の戦力は膨大です、陸軍は7万5000名でM-1A2戦車315両とM-60A3戦車450両を装備し、M-2装甲戦闘車400両とAMX-10P装甲戦闘車380両にM-113装甲車1650両など機械化部隊を重視しているほか、特筆すべきは空軍力でF-15C戦闘機80機、タイフーン戦闘機40機、F-15E戦闘爆撃機150機、トーネード攻撃機75機、そして防空能力に革新的な能力を発揮するE-3早期警戒管制機5機を装備しています。また、サウジアラビアと呼号する有志連合の空軍力も産油国であるため、比較的最新鋭の戦闘機を導入しやすく、整備面などで民間軍事会社の支援を受け、また、近代化改修などの度合いにも理解の差異があるようですが、規模では非常に大きなものがあります。また、中国製中距離弾道ミサイルCSS-3を装備している為、サウジアラビア軍はイランの首都テヘランを直接攻撃が可能です。

対するイランは陸軍大国で陸軍兵力は35万に達します、しかしイラン革命後経済制裁を受け兵器調達が頓挫しているため、T-72戦車480両を有しますが革命前に導入したM-60A1やセンチュリオンとイランイラク戦争で鹵獲したT-62戦車や中国製59式戦車とM-47戦車など多数を装備するも電子装備が民生品や国産品により可動車両がある程度で、空軍はイラン革命前に導入したF-14戦闘機やF-4戦闘機程度、アメリカ政府はF-14予備部品がイランに渡らぬよう徹底した輸出管理を行ったため、F-14を戦闘機ではなく早期警戒機として運用しているほか、飛行困難となったF-5軽戦闘機を改造し運用する、湾岸戦争期にイラクより退避したMiG-21/F-7等イラク空軍機を接収し運用しているなどの状況である。

とてもではありませんが空では勝負になりません。しかし、人的規模は膨大であるため、長期戦となる可能性があり、万一の全面衝突の際には邦人御語が最大の課題となります。また、首都テヘランが内陸部にあるため、例えばアメリカがイラク戦争において実施したような縦深打撃を行われない限り、首都は安泰といえるでしょう。ただ、イランは北朝鮮より技術導入した弾道ミサイルを装備している為、弾道ミサイルにより反撃する事も可能である為、1988年のイランイラク戦争のように弾道ミサイル攻撃に空路が途絶し邦人が空港に取り残される、という状況も思い出されるでしょう。

懸念事項は二つ、ホルムズ海峡へ影響が生じる点と邦人救出の規模が極めて遠いと共に膨大な数となる点です。サウジアラビアとイランは両国の陸上国境には中間にイラクがありますが、海上ではペルシャ湾を隔てて対峙しています。ペルシャ湾は世界最大の産油地域で、湾岸にはサウジアラビア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、などが沿岸国として並びます。そしてペルシャ湾北部沿岸はイランであり、仮にイランとサウジアラビアの政治対立が武力衝突に至った場合、産油国の生命線である石油輸出のシーレーンを機雷敷設により妨害する可能性が出てくるわけです。逆に考えるならば、ペルシャ湾を挟んでの軍事衝突が発生した際に、相手国の港湾から外貨を稼ぐタンカーの出港を無視して上空で航空戦闘が繰り広げられ海上戦闘が展開される、という状況は考えにくいものがあります。

重要影響事態というべきペルシャ湾岸危機は、中東からの石油輸入が完全停止すれば、我が国化石燃料依存度は、特に中東に対して高く、大きな打撃となる可能性が挙げられるほか、我が国と同じように中東への石油に依存する隣国中国経済へも大打撃を与える可能性があり、中国政府は周辺地域での資源採掘への依存度をまし、例えばヴェトナムなどとの南沙諸島問題の激化に波及するというような新しい危機に繋がる可能性もあります。

例えばタンカー護衛任務として海上自衛隊の艦艇をアラビア海へ派遣する必要性、万一のペルシャ湾機雷敷設に備え機雷戦艦艇及び掃海航空機の中東方面への派遣、邦人救出任務として現在自衛隊はソマリア沖海賊対処任務としてジブチなどに拠点を有している為、ここを基点として輸送機や輸送防護車、規模からは現在の少数のみが配備された輸送防護車では不足する可能性もありますが、また輸送艦による邦人の安全地域となる第三国への救出任務、などへ発展する可能性を有しています。

この危機の回避手段としては、イエメン内戦の早期妥結に向けた外交支援、イラン政府による域外での戦闘部隊活動や宗派間対立増幅への抑制要請、シリア内戦早期終結への施策等が挙げられますが、既に内戦状態に展開している状況下では我が国が執り得る予防外交策は効果が考えにくく、アメリカも懸念を表明する以外の施策を採りません。2016年は始まったばかりであり、北朝鮮核実験という危機が突き付けられた状況下ではありますが、併せて遠い中東ペルシャ湾岸地域でも危機が進行中ということを認識しておく必要があるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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