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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

商級原子力潜水艦と識別,防衛省が沖縄尖閣諸島接続水域潜航の中国潜水艦艦型識別結果を公表

2018-01-18 20:14:39 | 防衛・安全保障
■おおなみ,最新中国原潜探知
 護衛艦おおなみ、おおよど、が中国の最新鋭攻撃型原潜の探知追跡に成功しました。これは逆に中国が最新型原潜を沖縄近海の接続水域へ進出させた事も意味する。

 沖縄県尖閣諸島接続水域に潜航侵入した中国原潜は、商級攻撃型原潜と共通する形状と紹介しましたが、防衛省の分析により最新型の商級攻撃型原潜だと正式に発表されました。作戦行動中の商級攻撃型原潜が捕捉されるのは初の事例で、これは2004年に沖縄宮古島沖へ領海侵犯し海上警備行動により追跡された漢級攻撃型原潜の後継艦にあたるものです。

 商級攻撃型原潜は2007年ごろに衛星写真により建造されている様子が確認され、また航行中の様子も衛星写真により確認されました。この情報に合わせるように2007年夏に中国海軍機関誌へ商級攻撃型原潜の写真が掲載され、その存在が公式に認められることとなりました。諸元は未発表ですが水中排水量は7000tから8000t、建造数等は不明のままです。

 漢級攻撃型原潜は海上自衛隊により簡単に捕捉され、当初から指摘された水中放音の大きさが、海中で銅鑼を叩くが如く、と表現される程に巨大な騒音を放つ事が実証され、海上自衛隊は第二次大戦中の反省から潜水艦への対処能力を常に重視してきた事もあり、延々海上自衛隊護衛艦と哨戒ヘリコプターに追尾され続け、国内テレビ報道で中継、居場所を隠せることが戦力の潜水艦、世界で初めて作戦中の原潜位置がテレビ中継されるという大変な不名誉を被ったのはご承知の通り。

 ヴィクターⅢ型攻撃型原潜、中国はロシア政府へ潜水艦の静粛化技術の提供を要望し、ロシア海軍からは冷戦末期にソ連海軍が26隻を量産、比較的静粛化が達成でき、日米貿易摩擦に乗じ東芝ココム違反不正精機輸出事件へと繋がった事で有名な潜水艦の情報を提供したとされます。このヴィクターⅢ型技術提供を受け、商級攻撃型原潜は建造されたという。

 商級攻撃型原潜は上記の通り、衛星写真により上空からの形状が判明しているほか、中国海軍機関誌にその写真が公表している為、防衛省が東シナ海において潜航を続けた潜水艦が浮上、その写真を撮影し発表した時点で商級攻撃型原潜である可能性が高いと考えましたが、一点、中国海軍公表写真と比し防衛省発表写真は艦橋基部に盛り上りがありました。潜水艦は水上戦闘艦よりも特に航行中は識別できる点が少ない為、一枚だけの写真ではここの判別が難しい。

 商級攻撃型原潜改型、中国海軍では商級攻撃型原潜093型原潜を拡大し、巡航ミサイル原潜として095型攻撃型原潜を建造中という識者の推測、093型原潜後期型が順光見合いる運用の力を強化し、船体形状に若干の変化があるとの識者の推測がありますが、今回防衛省は商級攻撃型原潜に巡航ミサイル運用能力を特筆しており、後者の可能性を示しました。

 中国軍は早い時期から長距離巡航ミサイルの開発整備を進めています。例えば、昨年紀伊半島沖に進出したH-6爆撃機では機体設計は1950年代の、アメリカのB-52爆撃機も設計は1950年代ですが、手堅い、古い航空機でした。しかしH-6は射程2500kmの長剣07巡航ミサイル六発を搭載する巡航ミサイル爆撃機で、航空機は古いものの長距離巡航ミサイルを搭載した場合、この脅威度は決して低くはありません。

 商級攻撃型原潜後期型であった場合、商級攻撃型原潜中国海軍公表写真になかった艦橋基部の形状変更が巡航ミサイル搭載能力へ充てられた可能性が高く、少なくとも尖閣諸島周辺から九州や本州西部を攻撃可能であると考えられます。こうした意味から、中国海軍が日本の接続水域へこうした最新鋭艦を展開させた行動の意味は決して小さくはなく、自衛隊としては必要な監視体制をこの海域へ広げざるを得ない。

 しかし、商級攻撃型原潜について海上自衛隊は初めて明確な音響データを収集する機会に恵まれました。また、汎用護衛艦や小型護衛艦でも中国の最新鋭攻撃型原潜を充分識別追尾できることを示す。中国海軍は潜水艦音響情報秘匿に熱心であり、アメリカの音響測定艦を警戒し、例えば就役前の洋上公試では騒音を発する特務艦数隻を周辺展開させ、音響情報を秘匿するほか、アメリカ音響測定艦の進路妨害を行った事さえあり、今回の情報は大きい。

 護衛艦おおなみ、おおよど、は商級攻撃型原潜に随伴していた江凱Ⅱ型フリゲイトを一定以上離隔させていた事が、少なくとも潜水艦単体が写った海上自衛隊の写真から推測できます。最新鋭攻撃型原潜を容易に捕捉できたことは、漢級攻撃型原潜領海侵犯海上警備行動以来の音響情報収集の成果であり、同盟国や友好国とこれらは共有される事となります。

 中国海軍も過去の教訓から学ぶようで、過去発生した漢級攻撃型原潜領海侵犯の際には継続追跡権を行使され延々と追尾されました。今回は新型の商級攻撃型原潜であり、護衛艦を振り切る事が理想ではあったのでしょうが、数日間追尾を続けられたことで逃げ切れない事を認識すると、あっさり東シナ海の公海上に浮上し中国国旗を掲揚、という構図が読み取れる。逃げる事を諦めた事は一つの進歩といえるかもしれません。

 一方、繰り返しになりますが問題の大きさは、中国が海上保安庁巡視船で捕捉できない潜水艦をこの海域へ進出させたという事実です。海洋法執行機関の公船である巡視船にはソナーはありません。従って、尖閣諸島周辺海域の警戒には護衛艦を常時展開させる必要があり、中国海軍の軽率な行動が原因とはいえ、結果的に一段階緊張度が大きくなりました。こうした行動を一つ一つ抗議し、中国側の恫喝を抑えねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (4)
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