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【検証:JR北海道危機10】北海道の鉄路維持,観光需要で存続する大井川鐵道の成功例

2018-01-08 20:10:11 | コラム
■大井川鐵道方式の提案
 北海道の鉄路維持,観光需要で存続する大井川鉄道の成功例を見てみましょう。

 観光需要だけで鉄路を維持する事は出来るのでしょうか。JR北海道への鉄路維持について、沿線自治体からは鉄路維持を求める声は大きいのですが、人口減少により自治体からの補助金や上下分離方式として路線の自治体維持負担という声は聞かれず、道庁から補助金や国の支援を求め、若しくはクルーズトレイン等観光需要掘り起こしを求める声が多い。

 大井川鐵道、JR北海道の沿線住民が求める観光需要による線路維持に成功している事例は無いではありません、歴史ドラマ等で蒸気機関車が疾走する描写で御馴染みの静岡県島田市にある大井川鐵道は、島田市と榛原郡川根本町を経て静岡市を観光需要のみで維持する。榛原郡川根本町人口は6500名、島田市は人口97000名と北海道の室蘭市と同程度です。

 静岡市といえば政令指定都市ですが大井川鐵道が結んでいるのは静岡市葵区の山間部で、南アルプスの山々が連なり標高3189mの間ノ岳 を冠する過疎地域です。特に大井川鐵道井川線はダム建設のためのアプト式山岳線の専用鉄道として建設された経緯があり、沿線自治体との経済的関係は旅客需要ではなく観光需要により維持されているというものです。

 SL急行が運行される大井川鐵道ですが、ここ数年間の赤字に対し徹底した合理化による列車本数の縮小と運賃値上げにより乗り切ってきました。この一点だけを見ますとJR北海道にも観光地を結ぶ観光需要さえを掘り起こす事が出来たならば、線路全般を維持する事が出来るかもしれませんが、問題は本数が非常に少なく運賃が高いという厳しい実情がある。

 大井川鐵道大井川本線は東海道本線と連絡する金谷駅から千頭駅まで39.5kmで運賃は1810円です、比較しますと京阪電鉄の三条駅から天満橋駅まで48kmの運賃が410円でして、大井川鐵道は京阪電鉄から譲渡された3000系電車テレビカーを運用した歴史があるのですが、運賃ではかなり高く、京都駅から東舞鶴駅や姫路駅に岐阜駅の運賃とほぼ等しい。

 大井川鐵道終点の井川駅までは金谷駅から65kmです。山岳路線なので割高ではあるのですが所要時間三時間以上、そして運賃は3130円です。阪急電鉄の河原町から三ノ宮までは75kmなのですが運賃は620円です。JR西日本ですと京都駅から220km先の岡山駅までは3670円です。札幌旭川間は136kmで運賃2490円ですが、大井川鐵道の三分の一です。

 本線の経営合理化へ列車本数削減も激甚で、赤字決算が二年連続した際に大井川本線では経営合理化策としてダイヤ改正を実施、改正前は一日14往復していた列車を8往復まで削減しています。新金谷駅では二時間に一本ほぼ偶数時に列車が運行され、急行が一本、終電は20時台です。本線の急行停車駅でこの規模ですが、なんとか観光需要で守っている。

 地域経済活性化支援機構の支援を受け、その上で銀行からの債務放棄などを行い、沿線自治体経営支援策検討協議会設置という協力関係を受け、何とか維持できている状況です。こうしてみますと、物凄い運賃値上げを行えば、線路が維持できています。JR北海道の場合は高速道路という競合先がありますが、投機などの定時性では鉄道が優位にあります。

 観光需要だけで線路を維持する事は観光資源などがあれば不可能ではない、しかしJR北海道に当てはめれば全ての路線が該当するかは大いに疑問で、そして沿線住民が許容できないほどの運賃値上げが不可避です。しかし、大井川鐵道並の運賃は北海道では劇薬で、観光需要よりも沿線旅客需要の喚起と住民の保存への参画こそが非常に重要となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (3)
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