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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

トランプ大統領就任一周年:日米新時代,アメリカ孤立主義回帰の杞憂とポピュリズムの憂鬱

2018-01-20 20:00:53 | 北大路機関特別企画
■日米関係とアメリカ第一主義
 菅官房長官は今週の記者会見で一周年を迎えるトランプ政権について、両首脳の揺るぎない信頼関係のもと新次元の日米同盟の時代を築きあげていきたい、と述べました。

 アメリカにトランプ政権が誕生し、本日20日で一年となりました。大統領選当時は民主党クリントン候補に対し、大衆迎合主義的な所謂ポピュリズム政策を中心とした政策を展開し、アメリカを支えた中間層の後退がこのポピュリズムの根底に流れていることを痛感させられました。そして同時に、選挙戦当時に公約が曖昧であった事が不確定要素でした。

 F-35戦闘機の話題から始まった初の日米首脳会談、トランプ政権はアメリカ第一主義を掲げ、実質国家は自国を第一としなければ他国第一主義では主権者の義務に国家が答えられない為にある種当然なのですが、あの安倍総理のF-35の話題から始まる初会談を経て、アメリカ第一主義でありながら、アメリカは孤立主義に至らない事を明確と出来た訳です。

 現在でこそ、トランプ政権はアメリカを中心とした国際公序の維持に努めると共に、様々な施策を展開し、中にはラジカルな、メキシコとの国境に壁を建設、イスラエル首都にエルサレムを認定、イスラム教徒入国禁止、オバマケア国民皆保険制度廃止、という施策が並んでいますが、安全保障上及び外交政策上は従来の伝統的な国際関係を維持しています。

 偉大なアメリカを復活させるのか、孤立主義に回帰するのか、環太平洋包括協力協定TPPからの離脱、北米自由貿易協定NAFTAからの脱退、在欧米軍や在日米軍と在韓米軍の抜本的縮小、これらはアメリカが世界唯一の超大国から退き、欧州はロシアの影響力を、朝鮮半島では北朝鮮、北東アジア地域では中国、西太平洋は日本に押し出される構図を示す。

 現在の国際公序は自由と公正を基調とした規範が普遍化し、国連憲章や多くの国際法上の強行規範がその機能を有しています。ただ、自由と公正を世界に広めたのはアメリカが欧州と共に第二次世界大戦を勝利し、得られたものであり、自由と公正は人間の安全保障や自己実現の権利へ直結する人権基盤と不可分です。しかし、世界の価値観は単一ではない。

 アメリカが、かつて第二次世界大戦参戦まで堅持していた孤立主義に回帰、NAFTA脱退とTPP離脱はその端的な施策ですが、世界に関与しない施策へ戻ったならば、第二次世界大戦当時の大国関係とは比較にならぬ程アメリカへ単極化している現状、その地位からアメリカが退く事は、自由と公正以上に領土拡張や海洋閉塞を企図する諸国の急拡大に繋がる。

 トランプ政権は、TPPからの離脱、NAFTAからの脱退を掲げましたが、当初挙げていた防衛面での後退には踏み切りませんでした。当初は北朝鮮の核開発と長距離ミサイル開発を日本北朝鮮間係争と見なし、北朝鮮がアメリカ本土を射程に収める長距離弾道ミサイル開発を1990年代より一貫し継続する実情を当初は無視していましたが、現在は転換した。

 北朝鮮の非核化と長距離弾道段開発に際し、最も声高に経済制裁を世界へ呼びかけているのは日米であり、ここにはトランプ大統領が大統領選時代、日本に核武装を認める姿勢を示したうえで、日本の核兵器によりアメリカが関与せずともアジア地域の安定化を図らせるとの消極的、しかしラジカルな施策はリアリズムに基づく政策へ置き換えられています。

 NATOとの関係についても当初は見直す姿勢を示しており、特にNATOは1991年のソ連崩壊以降、戦車や水上戦闘艦に戦闘攻撃機等の正面戦力を欧州周辺事態へ対応する安定化戦力へ転換し、装甲戦闘車や耐爆車両と戦力投射艦の整備に転換しており、ロシアの2014年クリミア併合以降、従来型大規模武力紛争の脅威に直面し、大わらわで戦力再編を行う。

 欧州諸国の戦力再編はまだまだ時間を要しており、また、冷戦後にNATOへ加入した中東欧諸国は冷戦型装備の多くを廃止し、地域安定化装備へ限られた予算体系下で移行する過渡期にある為、突如ロシアの圧力を突きつけられた瞬間には、アメリカの重戦力が不可欠、在欧米軍に派遣される重旅団戦闘団とストライカー旅団のポテンシャルは欠かせません。

 その上で、トランプ政権を評価する視点ですが、アメリカにおけるポピュリズム政治へ止めを刺したことでしょう。ポピュリズム政策は朝三暮四に基づく政策が多く、討議に調整や妥協という政治システムを通さない表面的な政策は、表面的な数字上での成果にしか収斂せず、結果的に問題が期待される形での解決する事は非常に難しいと言わざるを得ない。

 ポピュリズムは世界を見通せば直近の事例が日本の民主党政権時代に示された施策、埋蔵金財源に子供手当制度、後期高齢者医療制度廃止と最低補償年金制度、ガソリン暫定税率廃止や高速道路完全無料化、企業団体献金禁止と事業仕分け、普天間飛行場沖縄県外移設と防衛費5000億円削減、が省庁間調整や予算検証抜きに提示され全て実現しませんでした。

 政策決定者にポピュリストが就任した場合は確実に失敗するか、強行したならば膨大な財政赤字が発生します。しかしだからこそ、ポピュリストは自らこそこの難局を克服しうる簡単な仕組みがあるとして、最大野党や次席議会勢力に位置し、大きな発言を発します。論理が単純であり時間の無い主権者でも政権公約を読みやすい、という形ではありますが。

 政権政党や首班指名に及ばなかった場合にこそ、与党や首班を次席からその成果を批判し、あの時に我々を選んでおけば、との批判が可能となるのですが、この発言を広く示すことでポピュリズムは一定以上支持を得続けます。しかし、憲法制定権力を持つ独裁者でもない限り討議や調整を考慮せず施策を決定する事は出来ず、だからこそ第一位となりえない。

 ポピュリストが政権を担った場合はどうなるのか、この難しい状況を具現化したものがトランプ政権です。様々な問題が噴出していますが、現在の国際情勢は不安定といわれつつもまだ最後の安定は破綻していない。この状況下でポピュリズム政権が誕生したならば、主権者がポピュリズム政策の実現性を直視し、次は無いでしょう。戦時には破局に繋がる。

 戦時にポピュリズム政策を政策決定者が始めるならば、一つの問題領域を解決する事が別の問題領域を著しく悪化させる朝三暮四の状況に陥り、破局的な結果に終わるでしょう。現在のアメリカだからこそ、失敗した場合にもまだ戻る道が残されている。そして日本の民主党がポピュリズム政治に失敗した後の様に、主権者は政権選択の失敗を繰り返さない。

 アメリカがTPPからの離脱を主張し実際に離脱しましたが、TPP離脱論は相応の支持があっての施策でした。しかし、TPP枠組みそのものは日豪が中心となり維持されており、将来アメリカに引き返す道は残される。NAFTAについてもカナダとメキシコが中心となり維持されます。メキシコの壁建設ですが既にフェンスがあるのですから費用以外は戻り得る。

 しかし、全く不確定要素が無いとは言い切れません。それは朝三暮四の施策が地域ごとの分離に繋がらないか、南北戦争当時の経済関係に共通する部分が無しといい得ません、勿論内戦は全くあり得ませんが、合衆国の州ごとの団結に分離が生じかねない。そして、アメリカの二大政党制に基づく長期的な安定が不安定化しないか、これは大きな懸念です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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