北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

国連が日本へ支援要請,マリMINUSMA/南スーダンUNMISS/コンゴMONUSCO情勢悪化

2018-01-25 20:08:05 | 国際・政治
■PKOはこのままでよいのか?
 PKO,地域安定化と文民保護へ任務拡大の国連PKOですが、トランプ政権との対立により予算が払底し日本へ異例の支援要請が行われました。

 国連平和維持活動PKOが危機的状況にあるとして国連政治局のラクロワPKO局長は日本に対してPKO要員の訓練費用負担などを国連分担金以外に要請したい異例の会見を行いました。アメリカのトランプ政権が国連PKOを非効率で問題山積だ、としてPKO関連の予算削減を行った為、現在も世界15カ国において実施しているPKO要員の訓練が課題です。

 日本のような国からの支援が必要だ。24日に日本政府の高官と会談したが支援を得られることを期待している。ラクロワPKO局長はこう述べています。日本は1992年のカンボジアPKO任務UNTACから永らく自衛隊をPKO部隊として派遣しており、2002年の東ティモールPKO以降の国連軍としての性格を有するPKOへも派遣を継続してきました。

 しかし、2017年に南スーダンUNMISS派遣に際し、南スーダン国内が事実上の内戦状態となり、国連がUNMISS任務を当初の新国家南スーダン建国支援という任務に加え、地域安定化と文民保護という、南スーダンにおける非戦闘員への戦闘員からの被害をPKO部隊が実力で阻止するとの新任務へ対応する事が憲法上難しく、自衛隊を撤収させています。

 国連PKO報告書が22日に発表され、これによれば国連PKO任務にとり、昨年2017は実に56名ものPKO要員が戦死する、極めて過酷な年となりました。特にPKO部隊任務を平和維持とした2002年以前のPKOと異なり、現在のPKO任務は平和執行として平和創造を任務としている為、PKO部隊そのものが攻撃目標となる事例が増大しているとのこと。

 南スーダン合同監視評価委員会のモゲ委員長によれば、自衛隊PKO撤収後の南スーダンでは、内戦状態に停戦合意が締約され一応の停戦は構築されているものの、PKO地域安定部隊の増援展開後にも戦闘が散発的に発生しているほか、国連人道援助費用が現地勢力により正しく用いられず、人道危機に拍車を掛けているという厳しい状況が報告されました。

 国連マリ多次元統合安定化派遣団MINUSMA任務では、2013年にフランス軍サーバル作戦による地域安定化作戦完了後最大の危機が発生し、昨年11月にはマリ北東部メナカにてPKO部隊の車列が襲撃されPKO要員など死傷者21名が発生、同日に中部ドゥエンツァでもPKO部隊車列が襲撃され死傷者4名、この日だけでPKOは4名の戦死者を出した。

 国連コンゴ民主共和国安定化任務MONUSCOでも昨年12月、北キブ州においてPKO部隊への武装勢力民主勢力同盟ADFによる大規模な襲撃事案が発生、戦闘は三時間に及び14名のPKO要員が戦死しました。MONUSCOはコンゴ政府が2010年に国内の無政府状態安定化へ国連の関与を求めたもので、2万2000名の地域安定化部隊が派遣されています。

 訓練費用などの日本への支援を求める背景にはPKO部隊への訓練不足が露呈している為と考えられます。国連報告書は2017年の多数のPKO戦死者の背景に、必要な状況での適切な反撃を行わなかった事での損害増大や、IED簡易爆発物等による待伏せ攻撃等への適切な回避訓練を欠いた部隊が損害を受けた等、訓練強化への切迫し切実な実情を記しました。

 自衛隊は国際活動教育隊を有し、高度なPKO要員教育能力が整備されています。ただ、自衛隊の国際活動教育は国家再建などの支援を念頭としたもので、戦闘は基本的に回避が前提です。現在のPKOは戦闘地域へ地域安定化を目的として介入する地域安定化と平和創造が任務に加わり、戦闘回避前提の日本へは資金支援以外求められぬ事情があるのでしょう。

 ただ、現在のPKO訓練予算払底は喫緊の課題ではありますが、仮に日本が費用面での緊急支援を行う場合には、PKOの在り方についてもう少し踏み込んだ発言と関与が求められます。現在、自衛隊が平和主義の観点から参加出来ない国連による平和創造、平和執行のPKO任務には人道危機への国連の一歩踏み込んだ積極関与の姿勢が明確に反映されたものです。

 国連が冷戦時代に超大国間にあって調整を念頭に本来の任務である“国際の平和と安全”へ寄与しようとした中での限界を反省しての施策が、平和維持から平和創造平和執行への転換ですが、これは手段としての平和から目的としての平和へ実力行使を伴うものです。無論人道危機放置は忌避したいところでしょうが、その中で敢えて、従来型のPKOへの回帰、停戦監視と報告によりPKO要員の安全を考えた施策への転換を促す必要はないか、と考えます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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