北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

八月八日は八八艦隊の日!戦後七十五年目の我が国周辺情勢,中国海洋進出で高まる軍事圧力

2020-08-08 20:20:40 | 北大路機関特別企画
■戦後七十五年目の防衛論争
 本年は戦後75年という一つの節目ではあるのですが、我が国取り巻く情勢も大きな転換期を迎えています。

 八月八日は八八艦隊の日。海上自衛隊の護衛艦隊にヘリコプター搭載護衛艦8隻とミサイル護衛艦8隻を揃え、護衛艦隊隷下の護衛隊群、その基幹部隊である護衛隊の編成をヘリコプター搭載護衛艦、イージス艦、そして2隻の汎用護衛艦、と編成を共通化させるべきだ、との提案です。SH-60KにMCH-101、間もなくMV-22と将来的にはF-35Bも積める。

 中国の海洋進出が南西海域は勿論、南方海域へも広がると共に建造されたばかりの国産空母を東南アジア諸国への軍事恫喝に投入し、また平和目的として周辺国から武力奪取した環礁を埋立て学術調査目的に限るとした埋立地にミサイル部隊を展開、飛行場を増設した上で周辺国への恫喝に用いている現状、我が国も平和を再構築する必要に迫られています。

 F-35Bを搭載したヘリコプター搭載護衛艦、搭載数は必要に応じ増強できるのが航空機の強みですが、その存在こそが、中国海軍による空母による周辺地域恫喝、特に第二次世界大戦後の国際公序となった“海洋自由原則”への挑戦を阻止できる装備と云えます。しかし問題は数、ヘリコプター搭載護衛艦は充分なのか。その為の新しい八八艦隊の提案です。

 八八艦隊とは、旧海軍が構想した最新鋭の高速戦艦八隻と巡洋戦艦八隻を基幹とし、各種補助艦艇などからなる一大建艦計画です。ただ、当時の日本の国力からは余りに巨大過ぎ、ワシントン海軍軍縮条約を契機として中止されています。今に喩えれば自衛隊が毎年ニミッツ級原子力空母を2隻建造するような規模と云えましょう。昔の日本は大胆でしたね。

 大日本帝国、その海軍力は強大でしたが、最新鋭の高速戦艦と巡洋戦艦を16隻、最新鋭の戦艦の定義が竣工から8年未満というものでしたので、毎年長門型戦艦と加賀型戦艦とを合計2隻建造するのです、つまり艦齢いっぱいを運用するのですから48隻の巨大戦艦を維持し且つ造船所では6隻が建造を行う状況、これでは当時の国力では到底実現できません。

 しかし、長門型戦艦ではなくイージス艦こんごう型程度の、加賀型戦艦ではなくヘリコプター搭載護衛艦かが程度の、こうした護衛艦を48隻とまでは行かずとも、8隻と8隻、整備するのでしたらば、日本の経済力や造船能力、此処が重要なのですが、建造できない訳ではありません。即ちこうした、新しい八八艦隊という規模なら現実的にば実現可能だ。

 八八艦隊、偶然といえるのかもしれませんが、“8”の数字が現在の4個護衛隊群編成と合致していまして、そして4個護衛隊群という数字は、景気後退や低成長期においても日本が維持し得る数字でもあるのです、何故ならば4個護衛隊群体制が完結した第4護衛隊群の新編は1974年、石油危機により日本が高度経済成長の終焉を迎えた翌年であるため。

 7個護衛隊群体制への移行が必要だ、とは1980年代に防衛力整備に関する政府諮問会議が提示した意見にも盛り込まれていました、しかし現実問題として4個護衛隊群体制を維持したことで、1990年代からのバブル崩壊に伴う経済低成長期においても護衛艦隊の水準は維持し得ています。そして付け加えれば増勢すべきとする護衛艦は、決して高価ではない。

 経済力の規模から考えますと、1915年国家予算は6億0200万円となっていましたが、同年建造が開始された最新鋭の戦艦伊勢ではその建造費は4000万円となっています。そして、今年度予算は102兆6580億円となっていますが、護衛艦かが建造費は1170億円です。大正時代に毎年二隻の主力艦の負担、対して現代であれば二年に一隻、負担の度合いが違う。

 日本造船業。実のところこのヘリコプター搭載護衛艦を比較的低い費用で量産出来ている背景には、民間船舶を中心とした日本の巨大な造船業の影響が大きいのです。如何な先端技術を有していても、これを具現化し製品として量産させる工業力に余裕が無ければ意味がありません、欧州や北米は造船業の多くをアジアとの競争で喪失しましたが、日本は。

 日本造船業は、この中でも建造費を安い人件費により抑えている中国と、官民加え必要ならば補助金をも投じる韓国の造船業に、現実問題として後塵を拝している事は事実です。世界最大の建造大手は韓国の現代大宇造船海洋が世界シェア21%、中国国営CSS-CSICが17%、そして日本勢は世界第三位に漸く今治造船が8%、JMUと川重も各4%でしかない。

 ただ、言い換えれば伝統的な寡占防止と企業文化から、統廃合こそ遅れているが日本では主要三社が世界シェアの16%は維持している構図で、この技術と規模が有する造船能力を駆使するならば、ヘリコプター搭載護衛艦の増勢というものはそれほど難しくありません。もっとも、官需による産業規模維持、という程の政策とはなりえないのですけれども、ね。

 日本の造船産業は高性能艦艇を現実的な建造費用により調達する事が出来る、これは一つの重要な防衛力だ、と考えるべき、上記視点から導き出される持論はここです。高性能艦艇を安価に量産できる点“日本の強み”なのですから、この能力を最大限活かすことで、表現の妥当性に議論があるでしょうが、限られた予算で費用対効果を大きくできましょう。

 新しい八八艦隊が必要だ。海上自衛隊は1980年代から護衛艦隊隷下の護衛隊群を8隻8機体制という、護衛艦8隻と哨戒ヘリコプター8機からなる作戦単位への防衛力整備を進め、この護衛隊群はヘリコプター搭載護衛艦を直轄艦とし、ミサイル護衛艦2隻と汎用護衛艦5隻を基幹とする建造計画を推進、1995年の護衛艦みょうこう就役を以て完成しました。

 88艦隊、旧海軍の八八艦隊と区別しつつ、だが着実に防衛力として整備された海上自衛隊の88艦隊は、冷戦時代やポスト冷戦において同盟国アメリカの航空母艦を協力に援護し、または一方面の巨大な船団護衛を行うには十分な能力を有していたといえます。しかしポスト冷戦の国際公序維持は必ずしも安定化に進んでいないことは、自明といえましょう。

 全通飛行甲板型護衛艦8隻と広域防空艦8隻から成る新しい八八艦隊が必要だ。毎年八月八日に示しています視点は、ひゅうが型、いずも型といった強力な全通飛行甲板型のヘリコプター搭載護衛艦を増強し、現在の四個護衛隊群を構成する八個の護衛隊すべてに全通飛行甲板型護衛艦を配備し各護衛隊の能力を共通化する必要がある、という視点です。

 横須賀の第1護衛隊群に第1護衛隊と第5護衛隊、佐世保の第2護衛隊群に第2護衛隊と第6護衛隊、舞鶴の第3護衛隊群に第3護衛隊と第7護衛隊、呉の第4護衛隊群に第4護衛隊と第8護衛隊、これらが一桁護衛隊ともよばれる第一線の部隊で、加えて旧型汎用護衛艦や古い沿岸用小型護衛艦からなる近海用の二桁護衛隊が自衛艦隊には配備されている。

 護衛隊群を構成する護衛隊、全ての護衛隊にヘリコプター搭載護衛艦を配備するとともに、編成を共通化するという運用は幾つかの大きな意味があります。そして十年前、護衛艦ひゅうが竣工の頃から比較すると、行う意義について、またその実現のための能力は大きく高まっているのです。そのためには更に4隻のヘリコプター搭載護衛艦は必要ということです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (11)
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