■旅客機内で神経剤中毒症状
ロシア野党指導者襲撃事件は、検証の結果、旅客機内で神経剤ノビチョクによる昏倒という前代未聞の事態へ発展しました。ノビチョク、新参者という意味です。

旅客機に神経ガスを持ち込み使用する。カート-ラッセルとスティーヴン-セガール主演で1996年公開の映画エグゼクティブ-デシジョンにおいて描かれた内容でした。映画ではアテネ発ワシントンDC行のジャンボ旅客機が化学兵器を抱えたテロリストにハイジャックされ、アメリカ上空で散布しようとする。これをNBC専門家と特殊部隊が阻止する内容です。

神経剤ノビチョクが旅客機内で政治家暗殺に使用された。こちらは映画の話ではありません、先週8月20日、ロシアの野党指導者で弁護士のアレクセイ-ナワリヌイ氏が西シベリアからモスクワへ向かう旅客機の機内で突然苦しみを訴え、オムスク空港に緊急着陸しました。毒物の投与が疑われ、ロシア国内では治療不可能である事から外国へ支援を求めた。

ドイツ政府がこの求めに応じ、オムスク医療当局は毒物投与の疑いはないとして当初外国移送に難色を示していましたが、21日に一変して容体が安定したとしてドイツ政府が派遣した医療用特別機の医療団へナワリヌイ氏を引渡し改めて精密検査を行いました。そして25日、ドイツ公共放送ZDFは、今回、ノビチョクが使用された可能性を報道したのです。

ノビチョクが使われたのか。驚きました、が、ナワリヌイ氏が旅客機内で毒物により倒れたという20日の第一報は、ロシアに常識は通じない、と嘆息する一方、青酸や砒素毒等を想像していたのですが、体内から毒物は検出されなかった、という続報を聞きまして、そういえば2018年にイギリスでも正体不明の毒物が暗殺未遂に用いられた事を思い出します。

日本では1995年3月20日にオウム真理教地下鉄サリン事件が発生し、カルト教団のテロリストにより神経ガスが朝の東京、その地下鉄網で散布され大量の死傷者が出ています。警察捜査の結果、サリンは軍用とは精製度合いが非常に低い粗悪なものであったもののそれでも死者14名負傷者6300名という被害でした、ノビチョクはサリンと同じ神経剤だ。

ノビチョク、当方はノビチョックと発音しているのですが、ロシア製の新型神経剤です、神経ガスと表現しないのはガスではなく粒状かエアゾル物質であると考えられているもので、無害な二種類程度の物質を混合して精製するバイナリー剤であるとされ、情報は少ないのですが化学兵器禁止条約に抵触しない物質を用い、また威力はきわめて強力という。

ノビチョクはロシアがソ連時代末期に、NATOの一般的化学防護装備を透過する破壊力を持ち、各国が1980年代までに開発した化学剤検知装置では検知不可能であり、バイナリー剤の触媒は化学兵器禁止条約の枠外の物質、そして混合前の触媒は高い安全性を持つ事、という要件で開発された化学剤です。2018年までは実在を疑問視する声もありました、が。

イギリスイングランドのソールズベリー、ショッピングセンター前にて2018年3月4日、ズイズイ酒場を出て買い物に向かう途中の二人の男女が昏倒し白目で泡を吹いており病院に搬送される事件がありました。そのうち一人はセルゲイ-スクリパリ氏、実業家ですがロシア連邦軍参謀本部情報総局大佐を務めた人物で2010年にイギリスへ亡命していました。

ソールズベリーNHS医療当局はその日の内に二人の容体が尋常ではない毒物によるものとして緊急事態を宣言、保健当局は二人の昏倒現場付近の通行人と救急搬送に従事した救急要員や警察関係者に緊急診断を実施した結果、現場付近で交通整理に当った警察官二人が軽度の中毒症状を訴え、その後一時重篤化しますが幸いにして治療が早く回復できました。

王立CBRN防衛センターはソールズベリーでの神経剤襲撃事件を受け陸軍第8工兵旅団CBRN防護部隊と共に事件現場付近を徹底捜索し、幾つかの残留物を発見しますが即座にノビチョク使用を結論付けませんでした。こういうのもノビチョクはその存在こそ知られていますが精製と保管はロシアのみで行われており、実戦使用された事は過去ありません。

イギリス政府が慎重であったのは、使用された神経剤がノビチョクであると公表する事は、ロシアのみが保有する神経剤がイギリス国内に持ち込まれ、そして使用された事に他なりません、事件から8日を経て、イギリスのテリーザ-メイ首相が記者会見において、使用されたのはノビチョクであり、何らかの手段によりロシアから持ち込まれたと発表しました。

イギリス政府はロシア政府へ釈明を求めました、ノビチョクはロシアのみが保有しておりロシア政府が関与しているかロシア政府が管理出来ずテロリストに横流しさせた以外、ノビチョクは入手できない為なのですが、ロシア政府からは確たる回答は無く、イギリス政府は報復としてロシア外交官大量国外追放を実施し、各国にも協調を呼びかけたのです。なお、これを契機にノビチョクは現在、化学兵器禁止条約の禁止対象に加えられました。

ペルソナノングラータ、好ましからざる人物として追放されたロシア外交官はイギリスから3月14日の23名を皮切りに世界で150名の外交官が追放され、これは平時における外交官追放としては異例の規模となっています。この頃から日本へもロシア艦の親善訪問がなくなり始め、NATOはクリミア危機以来硬化させていた態度を一層硬化させています。

ロシア国内の旅客機で発生した-ナワリヌイ氏襲撃事件。-ナワリヌイ氏に同行する側近によれば、-ナワリヌイ氏は症状を訴えるまでの間、空港でお茶を購入して飲用しただけ、という事からノビチョク混入は空港で購入されたお茶に含まれていた、と考えられています。ただ、ソールズベリーでの2018年テロ事件と違い、空港での捜査はロシアの管轄権にある。

また、旅客機もロシア国内線であり執行管轄権はロシア当局にあり、ノビチョクが何処で混入されたのか、お茶から飲用したのか、粒子状ノビチョクを日用品に付着させ中毒症状を引き起こしたのか、現在のところ確たることは分かっていません。ただ分っているのは事態が発生されたのは旅客機内であり、神経剤は付着するなどして持ち込まれたのです。

内政干渉すべきではない、ロシア国内線なのだから爆破しようと神経ガスを撒こうと勝手ではないか、中国のような国であればこう反応する事もあるかもしれません、しかし、政治指導者を神経剤で襲撃する事一つとっても異常事態ですし、神経剤が旅客機か、確実に空港に持ち込まれ使用されている、この一点を取っても非常事態と云わざるを得ません。

勿論、単にノビチョクをロシア当局が管理できていない可能性もありますし、ロシア政府から距離を置く過激分子が軍の一部と結託し化学兵器貯蔵施設を勝手に使用している可能性も否定できません。しかし、空港や旅客機で神経剤使用、一歩間違えば数万の死者が出かねない事案であり、こうした事を行う国が日本の隣国に在る、こう認識すべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ロシア野党指導者襲撃事件は、検証の結果、旅客機内で神経剤ノビチョクによる昏倒という前代未聞の事態へ発展しました。ノビチョク、新参者という意味です。

旅客機に神経ガスを持ち込み使用する。カート-ラッセルとスティーヴン-セガール主演で1996年公開の映画エグゼクティブ-デシジョンにおいて描かれた内容でした。映画ではアテネ発ワシントンDC行のジャンボ旅客機が化学兵器を抱えたテロリストにハイジャックされ、アメリカ上空で散布しようとする。これをNBC専門家と特殊部隊が阻止する内容です。

神経剤ノビチョクが旅客機内で政治家暗殺に使用された。こちらは映画の話ではありません、先週8月20日、ロシアの野党指導者で弁護士のアレクセイ-ナワリヌイ氏が西シベリアからモスクワへ向かう旅客機の機内で突然苦しみを訴え、オムスク空港に緊急着陸しました。毒物の投与が疑われ、ロシア国内では治療不可能である事から外国へ支援を求めた。

ドイツ政府がこの求めに応じ、オムスク医療当局は毒物投与の疑いはないとして当初外国移送に難色を示していましたが、21日に一変して容体が安定したとしてドイツ政府が派遣した医療用特別機の医療団へナワリヌイ氏を引渡し改めて精密検査を行いました。そして25日、ドイツ公共放送ZDFは、今回、ノビチョクが使用された可能性を報道したのです。

ノビチョクが使われたのか。驚きました、が、ナワリヌイ氏が旅客機内で毒物により倒れたという20日の第一報は、ロシアに常識は通じない、と嘆息する一方、青酸や砒素毒等を想像していたのですが、体内から毒物は検出されなかった、という続報を聞きまして、そういえば2018年にイギリスでも正体不明の毒物が暗殺未遂に用いられた事を思い出します。

日本では1995年3月20日にオウム真理教地下鉄サリン事件が発生し、カルト教団のテロリストにより神経ガスが朝の東京、その地下鉄網で散布され大量の死傷者が出ています。警察捜査の結果、サリンは軍用とは精製度合いが非常に低い粗悪なものであったもののそれでも死者14名負傷者6300名という被害でした、ノビチョクはサリンと同じ神経剤だ。

ノビチョク、当方はノビチョックと発音しているのですが、ロシア製の新型神経剤です、神経ガスと表現しないのはガスではなく粒状かエアゾル物質であると考えられているもので、無害な二種類程度の物質を混合して精製するバイナリー剤であるとされ、情報は少ないのですが化学兵器禁止条約に抵触しない物質を用い、また威力はきわめて強力という。

ノビチョクはロシアがソ連時代末期に、NATOの一般的化学防護装備を透過する破壊力を持ち、各国が1980年代までに開発した化学剤検知装置では検知不可能であり、バイナリー剤の触媒は化学兵器禁止条約の枠外の物質、そして混合前の触媒は高い安全性を持つ事、という要件で開発された化学剤です。2018年までは実在を疑問視する声もありました、が。

イギリスイングランドのソールズベリー、ショッピングセンター前にて2018年3月4日、ズイズイ酒場を出て買い物に向かう途中の二人の男女が昏倒し白目で泡を吹いており病院に搬送される事件がありました。そのうち一人はセルゲイ-スクリパリ氏、実業家ですがロシア連邦軍参謀本部情報総局大佐を務めた人物で2010年にイギリスへ亡命していました。

ソールズベリーNHS医療当局はその日の内に二人の容体が尋常ではない毒物によるものとして緊急事態を宣言、保健当局は二人の昏倒現場付近の通行人と救急搬送に従事した救急要員や警察関係者に緊急診断を実施した結果、現場付近で交通整理に当った警察官二人が軽度の中毒症状を訴え、その後一時重篤化しますが幸いにして治療が早く回復できました。

王立CBRN防衛センターはソールズベリーでの神経剤襲撃事件を受け陸軍第8工兵旅団CBRN防護部隊と共に事件現場付近を徹底捜索し、幾つかの残留物を発見しますが即座にノビチョク使用を結論付けませんでした。こういうのもノビチョクはその存在こそ知られていますが精製と保管はロシアのみで行われており、実戦使用された事は過去ありません。

イギリス政府が慎重であったのは、使用された神経剤がノビチョクであると公表する事は、ロシアのみが保有する神経剤がイギリス国内に持ち込まれ、そして使用された事に他なりません、事件から8日を経て、イギリスのテリーザ-メイ首相が記者会見において、使用されたのはノビチョクであり、何らかの手段によりロシアから持ち込まれたと発表しました。

イギリス政府はロシア政府へ釈明を求めました、ノビチョクはロシアのみが保有しておりロシア政府が関与しているかロシア政府が管理出来ずテロリストに横流しさせた以外、ノビチョクは入手できない為なのですが、ロシア政府からは確たる回答は無く、イギリス政府は報復としてロシア外交官大量国外追放を実施し、各国にも協調を呼びかけたのです。なお、これを契機にノビチョクは現在、化学兵器禁止条約の禁止対象に加えられました。

ペルソナノングラータ、好ましからざる人物として追放されたロシア外交官はイギリスから3月14日の23名を皮切りに世界で150名の外交官が追放され、これは平時における外交官追放としては異例の規模となっています。この頃から日本へもロシア艦の親善訪問がなくなり始め、NATOはクリミア危機以来硬化させていた態度を一層硬化させています。

ロシア国内の旅客機で発生した-ナワリヌイ氏襲撃事件。-ナワリヌイ氏に同行する側近によれば、-ナワリヌイ氏は症状を訴えるまでの間、空港でお茶を購入して飲用しただけ、という事からノビチョク混入は空港で購入されたお茶に含まれていた、と考えられています。ただ、ソールズベリーでの2018年テロ事件と違い、空港での捜査はロシアの管轄権にある。

また、旅客機もロシア国内線であり執行管轄権はロシア当局にあり、ノビチョクが何処で混入されたのか、お茶から飲用したのか、粒子状ノビチョクを日用品に付着させ中毒症状を引き起こしたのか、現在のところ確たることは分かっていません。ただ分っているのは事態が発生されたのは旅客機内であり、神経剤は付着するなどして持ち込まれたのです。

内政干渉すべきではない、ロシア国内線なのだから爆破しようと神経ガスを撒こうと勝手ではないか、中国のような国であればこう反応する事もあるかもしれません、しかし、政治指導者を神経剤で襲撃する事一つとっても異常事態ですし、神経剤が旅客機か、確実に空港に持ち込まれ使用されている、この一点を取っても非常事態と云わざるを得ません。

勿論、単にノビチョクをロシア当局が管理できていない可能性もありますし、ロシア政府から距離を置く過激分子が軍の一部と結託し化学兵器貯蔵施設を勝手に使用している可能性も否定できません。しかし、空港や旅客機で神経剤使用、一歩間違えば数万の死者が出かねない事案であり、こうした事を行う国が日本の隣国に在る、こう認識すべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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