北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ボノムリシャール火災は対岸の火事か?造船所入渠乗員不在はダメージコントロールの盲点

2020-08-03 20:14:32 | 防衛・安全保障
■全通飛行甲板構造の課題
 強襲揚陸艦ボノムリシャール火災鎮火後の艦内を見ますとどうしても心が痛みます。保管中のペリリュー復帰か電装品移植での修理は不可能でしょうか。

 日本の造船所での整備では大丈夫なのか。ボノムリシャール、火災はウェルデッキではなくその真下の艦艇燃料区画から発したようで、サンディエゴ消防へ第一報が届いた頃には燃料区画に火が回っていたとの報道がありました。造船所での火災、しかし、全通飛行甲板構造の艦艇を複数装備する海上自衛隊にとり、これはしかし対岸の火事ではありません。

 ボノムリシャール。火災延焼により上部構造物が大きく崩れ落ち、熱せられたマストがSPGレーダーの重量に耐えられなくなったことから崩落し、艦橋に大穴、075型強襲揚陸艦、コロナ禍に世界が揺れる昨今は整備場隊や造船所での大型艦艇火災事故が相次いでいます。米中ともに全通飛行甲板型艦艇の大きな火災事故に見舞われているのですが、事故は続く。

 ペルル。このほかにもフランス海軍リュビ級攻撃型原潜ペルルが造船所にて火災に見舞われ、潜水艦の中枢とさえいえる船体外殻が熱により溶け落ち、全損状態となったほどです。幸い原子炉区画からの放射性物質大量流出という事態は避けられたようですが、米中仏、今年発生した三件の艦艇火災事故、共通点は造船所や整備中、というところにあります。

 陸奥、三笠、日向。日本海軍史を紐解けば艦艇での火災事故は多数あります、もっとも有名なものは1943年6月8日の戦艦陸奥爆発事故で、当時は大和型戦艦に次ぐ強力な戦艦であった長門型戦艦、もともとの高速性能とあわせ近代化改修により1940年代に建造された所謂"新戦艦"に対抗しうる強力な戦艦が爆発事故で喪失しています。確かに過去火災は多い。

 日向、戦艦日向も砲塔爆発事故が発生していますし、爆発事故の深刻な損傷としては戦艦三笠、戦艦安芸など。戦後最大の艦艇火災としては、護衛艦しらね火災事故でCICが全焼、いや火災区画がCICだけにとどまったもののシステム艦の中枢である戦闘情報処理装置が全損、除籍艦はるな搭載の情報処理装置移植により修理し辛うじて現役にとどまりました。

 しかし、今年発生した米中仏の火災事故はこれらとは異なり、整備状態もしくは造船所にて火災が発生している点です。造船所では、海上自衛隊などは何故か当直を組みますが、世界をみれば基本的に乗員は長期休暇となっていまして、当然ですがほぼ無人の艦艇には万一の損耗に備えるダメージコントロール、ダメコン要員もこの場合は乗艦していません。

 造船所でのダメコン不備、もちろん、十分な保険が掛けられているのであれば火災事故であっても、理論上補填は就くでしょう、ペルル代替にシュフフラン級攻撃型原潜を前倒し建造する保険金があれば問題ありませんし、ボノムリシャールの場合でも海軍引き渡し後でも運用前であり、アメリカ級の建造費半額でも保険金がでればよい。ただ制度上難しい。

 075型とボノムリシャールにはもう一つ共通点があります、それは全通飛行甲板型艦艇という点で、この全通飛行甲板は航空機用であるために艦内に航空機格納庫という巨大な空間があるのですね、そしてこの二隻にはウェルデッキが備わり、全て通路で結ばれるとともに航空機格納庫と飛行甲板はエレベータでも結ばれています、まさにこれは火の通り道だ。

 もちろん、軍艦ですので火災対策は万全です、航空機格納庫は複数の防火シャッターで一区画が爆発的火災を引き起こした場合でも全体に類焼を防ぐ構造で、艦内にはスプリンクラーと泡沫消火装置が配置され、火災発生とともにダメコン操作を行うことで航空機格納庫を全て泡沫が覆い、火の通り道は即座に塞がれます、しかし操作が行われなければ、と。

 造船所での火災は、工員に火災対策訓練は当然行われているのですが、それは消火訓練よりも避難訓練に重点が置かれています、工員とは別の自衛消防隊、自衛隊の消防部隊ではなく造船所が自衛する消防隊、この要員が火災対策にあたります。また造船所では戦闘は目的ではなく整備が目的ですので、防火シャッターや消防装置は完全ではないのですね。

 ボノムリシャールでは乗員はドックから引き出され埠頭での整備中という状態であり、定員の16%しか乗艦していません、もちろん戦闘配置についているわけではありませんのでダメコン部署も機能していなかった可能性があります、航海中であれば艦長の下の副長がダメコン現場指揮を取り、防火シャッター閉鎖と消火装置作動も即座にできたでしょう。

 日本でも全通飛行甲板型艦艇は定期整備中にこうした事故はあり得ます、ただ当直が乗艦しているのが幸いです。その上で、造船所陸上にハロンガスタンクを増設し火災に備える、遠隔式火災感知装置の整備時における増設での火災検知能力の強化、造船所自衛消防隊と当直要員のダメコン対策強化、こうしたものがたとえ人手不足であっても重要と考えます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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