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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦改修と空母プリンスオブウェールズF-35B着艦

2021-08-30 20:20:56 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今回は海軍関係の話題を12論点紹介します。最初はキーロフ級、前にスラヴァ級巡洋艦の迫力に驚かされましたがキーロフ級は更に巨大だ。

 ロシア海軍は近代化改修を実施しているキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦について改修作業の一年程度の遅延の報告を受けた事を発表しました。キーロフ級巡洋艦の近代化改修はセブマシュ社が担当しています。今回の遅延は関連部品供給の遅れが原因であり、当初は2022年内に完工の予定でしたが早くとも完工は2023年まで遅れる見通しとのことです。

 キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦は1980年代に現代の巡洋戦艦として西側各国に重大な脅威とみなされた水上打撃力でしたが、2010年代にはイージス艦等新世代の艦艇に対し見劣りが指摘されていましたが二万トンを超える巨大な巡洋艦はロシア海軍の象徴とみなされてきました。今回の近代化改修では巡航ミサイル強化と多機能レーダー搭載が主眼という。

 キーロフ級の近代化改修はレーダーを超長距離用MR600と戦域用のMR700やミサイル火器管制用の数種類のレーダーを多機能レーダーに置換えるとともに、垂直発射機VLSに搭載されるミサイルを強化し、また航空機用エレベータ付近や前甲板へのVLS強化等が執り行われ、シリア内戦介入等で威力を発揮した巡航ミサイル搭載数が大幅に増大させます。
■プリンスオブウェールズF-35
 プリンスオブウェールズも一歩前進しました、本邦の護衛艦へのF-35B搭載もこのように順調に往く事を願いたい。

 イギリス海軍は空母プリンスオブウェールズ艦上に初のF-35Bライトニング戦闘機発着試験を成功させたと発表しました。これは6月6日にかけて空母プリンスオブウェールズがポーツマス軍港を出航した際に実施され、艦上にはF-35B戦闘機の他、WAH-64アパッチロングボウも3機が発着試験を実施しており、F-35B発着試験は成功裏に終了しました。

 プリンスオブウェールズ艦上でのF-35B試験には第207飛行隊のF-35Bが参加、着艦に続いてスキージャンプ台からの発艦も連続して実施しています。空母プリンスオブウェールズはクイーンエリザベス級航空母艦の2番艦で、今回の発着成功はローテーションを組むうえで必要な空母二隻体制へ目処が就いた、イギリス海軍史上で重要な一日となりました。
■イタリアが韓国空母建造支援
 韓国はGDP比率で3.5%を国防費につぎ込んでおり様々な装備品の国産化を進めています。

 韓国海軍が計画する四万t級航空母艦建造計画をイタリアのフィンカンティエリ社が支援する、MADEX海軍兵器見本市に向けてフィンカンティエリ社が発表しました。これは実際の建造を担当するDSME大宇造船海洋のMADEX海軍兵器見本市における展示にフィンカンティエリ社が支援するという方式で、同社はトリエステ級強襲揚陸艦を建造中です。

 フィンカンティエリ社の支援は、しかし展示内容の支援に留まらず契約には在韓イタリア大使館のフレデリコファリッラ全権委任大使とイタリア海軍参謀本部よりアントニオナターレ少将が立ち会い、韓国海軍の期待の大きさを示しています。韓国海軍航空母艦はF-35B戦闘機を艦載機として運用する、韓国建国史上初めての航空母艦を目指しているとのこと。
■CVX韓国海軍空母模型
 日米間と台湾の連携を考えてゆかなければ北東アジア地域の海洋自由原則にひびが入る時代も遠くありません。

 韓国軍はMADEX2021兵器見本市に計画中のCVX韓国海軍空母模型を出展する、CVX韓国海軍空母は韓国が導入予定のF-35B戦闘機を運用する航空母艦で、満載排水量は40000t前後、全長265m、F-35B戦闘機16機とヘリコプター8機の搭載を見込んでいる。韓国海軍が構想する建造費は20億ドル、航空母艦の他に強襲揚陸艦としての運用を見込む。

 CVX韓国海軍空母計画には韓国国内報道でクイーンエリザベス級航空母艦を建造したイギリスの技術協力が報道されているが、イギリス側により否定されている。ただ、韓国でのCVX韓国海軍空母イメージ図にはクイーンエリザベス級空母を思い浮かばせる二つの艦橋を有するものが提示されている。想定する排水量はクイーンエリザベス級の六割強程度だ。
■独ザクセン級がESSM初発射
 ESSMは日本では護衛艦へ搭載してかなり経ちますがドイツはRAMを初期に実用化している為にESSMに遅れが在る模様です。

 ドイツ海軍は初のESSM発展型シースパローミサイルの発射試験に成功しました。試験はノルウェー北方の訓練海域を航行するザクセン級ミサイルフリゲイト二番艦ハンブルクにて実施されました。ドイツ海軍ではザクセン級が艦隊防空用にスタンダードSM-2ミサイルを運用していますが、個艦防空用にはMk.49RAM簡易防空ミサイル発射機を搭載します。

 ハンブルクでのRIM-162-ESSM発射試験の意義はAPAR多機能レーダーとSMART-L長距離レーダーを搭載する防空艦であるザクセン級にあってVLSは32セルのみであり、スタンダードミサイルを32発しか搭載出来ない点です。しかし1セル4発搭載できるESSMと混載する事でスタンダードミサイル24発とESSM24発を搭載する事が可能となります。
■MQ-8用VLWT超軽量魚雷
 海上自衛隊もSH-60Kを補完する将来装備としてMQ-8導入を防衛大綱に記していますが、なかなか具体的な導入計画が進まないなかMQ-8は進歩を続けている。

 アメリカのノースロップグラマン社はVLWT超軽量魚雷の試験を本格化させています。これは一人で携行できる程に軽量をめざし、この試験ではジェットレンジャー規模の小型ヘリコプターに複数の魚雷とセンサー及びソノブイを搭載する事を目指しており、具体的にはMQ-8C無人ヘリコプターを自己完結の哨戒ヘリコプターとして運用するのが狙い。

 VLWT魚雷はアメリカ海軍のCRAW軽量即応攻撃兵器計画に基づき開発された装備で、Mk48魚雷もMD-500規模の機体に搭載はできますが、それ以上は積めません。無人機に対潜哨戒能力を持たせると共に、潜在的に潜水艦に長魚雷一発分の区画に複数魚雷を搭載するCAT対抗魚雷システムとして運用も見込んでいます。量産は2024年に開始を目指す。
■機動揚陸用ミゲルキース就役
 機動揚陸プラットフォームは前に観艦式の際に停泊する様子を間近で見る機会がありましたが日本にとっても将来の両用作戦を考える際の一つの選択肢ですね。

 アメリカ海軍は5月8日、機動揚陸プラットフォームミゲルキースを竣工させました。ミゲルキースはモントフォードポイント級の5番艦でジェネラルダイナミクス社によりサンディエゴにて建造されています。機動揚陸プラットフォームとは、洋上のLCACエアクッション揚陸艇基地であり、事前配備船からLCACに積み替える洋上での拠点となります。

 ミゲルキースは満載排水量34500t、全長233m、LCACを3隻搭載するとともに船体は前部と中央部を飛行甲板としています。用途は揚陸艦と似ていますが、作戦輸送に当る揚陸艦は艦内で車両はほぼ導線以外動く事が出来ません。そこで事前集積船の車両を載替える車両ターミナルとして設計されたのが本型です。ミゲルキースはサイパンへ配備されます。
■フィリピンが初の対潜航空機
 AW-159ワイルドキャットは日本のSH-60Kよりも小型ですが韓国海軍での運用実績があり、整備支援などの協力もあり得るのでしょうか。

 フィリピン海軍は同国初の対潜ヘリコプターAW-159ワイルドキャットを作戦運用状態に昇格させました。導入したAW-159ワイルドキャットは2機で初の対潜哨戒航空機であり、韓国から導入するフリゲイト、ホセリサールとアントニオルナの艦載機として運用される。ホセリサール級は韓国のインチョン級輸出型でフィリピン初の本格的水上戦闘艦だ。

 フィリピン海軍はその能力増強を進めているが、冷戦時代全般に渡り国軍の任務は国内の武装勢力掃討に従事する事であり周辺情勢への対応は在比米軍に依存、1992年のピナトゥボ火山噴火に伴う追い出しに近いアメリカ軍撤収ののちには北東アジア地域の防衛空白地帯が深刻となり、近年周辺で行動する中国軍や中国海上民兵への対応を迫られている。
■フィリピン潜水艦計画韓国支援
 フィリピン海軍の近代化への試みは今も続きます。造船大国の末席を担う造船力はありますが近代的な軍艦や潜水艦の建造能力はありません。

 フィリピン国防省は韓国造船大手デーウー造船との間でフィリピン海軍潜水艦調達に関する協力関係を協議しました。これはフィリピン国防省のジーザスレイ調達局次官補の5月27日の訪韓に際し協議されたものです。フィリピン海軍では中国による自国領域不法占拠や排他的経済水域内での海上民兵疑惑中国船長期泊地占領を受け海軍力を強化中です。

 デーウー造船はトータルソリューションパッケージとして韓国海軍などにも配備しているチャンボゴ級潜水艦と同程度の1400t級潜水艦そのものと装備運用に関する技術者派遣や予備部品の輸出、及び重整備や韓国国内での整備と、更に韓国海軍潜水艦部隊がフィリピン海軍要員の潜水艦運用教育支援を行うなど、潜水艦戦力化へ包括輸出を提案しています。

 チャンボゴ級潜水艦は韓国海軍の他にインドネシア海軍へも輸出されており、その輸出費用についてインドネシアは2011年12月にチャンボゴ級3隻を10億7000万ドルで導入しています。これに先立つ5月12日にはフィリピン国防省の視察団が韓国海軍潜水艦部隊を視察しており、フィリピン海軍は当面計画として潜水艦2隻を検討していると伝わります。
■パキスタンのアダ級コルベット
 あぶくま型護衛艦が満載排水量で2800tとなっていますので参考までに。

 パキスタンのカラチシップヤードは6月15日、トルコ設計のパキスタン海軍向けアダ級コルベット四番艦の建造を開始しました。アダ級コルベットは満載排水量2300tの水上戦闘艦で小型艦ではあるもののS-70ヘリコプターの運用能力を有し、76mm艦砲1基とハープーン対艦ミサイル8発、RAM近接防空ミサイルや324mm短魚雷発射管を搭載している。

 アダ級コルベットはトルコ海軍が1996年に初の水上戦闘艦国産を目指すミルゲム計画として設計、エーゲ海等での近海運用を主眼とするもののシーステート6の海象でも航行可能とされています。トルコではイスタンブール海軍工廠にて建造されていますが、パキスタンでは2018年に4隻の導入を決定、2隻はトルコ建造、2隻はライセンス生産します。
■CB-90強襲艇最新型HSM
 CB-90強襲艇は自衛隊も導入を検討すべきです、現在の地方隊警備隊の特別機動艇よりも運用の幅は広くなり敬意にも両用作戦にも不審船対処にも強い。

 スウェーデンのサーブ社はCB-90強襲艇最新型のCB-90HSMを発表した。CB-90HSMはサーブ社のドックスタバーベット造船所が動画配信サービス上で発表したもので、CB-90強襲艇は艇首部分に乗降扉を配置し、沿岸部や港湾施設へ40ノットの高速で接近し20名の完全武装兵を揚陸可能、スウェーデン水陸両用軍団を筆頭に世界中で250隻配備される。

 CB-90HSM強襲艇はトラックファイア戦闘情報管理システムと12.7mm重機関銃のRWS遠隔操作銃搭を搭載し、従来の操砲作業を大幅に効率且つ安定化させている。また艇内はポリエチレンによりNBC防護能力が追加されるともに、従来脆弱とされた操舵室は防弾ガラスにより防御力が強化された。ドックスタバーベット造船所は直ぐにも建造可能とした。
■イギリスがSLBM近代化
 核兵器の時代は当面続くという端的な事例といえるもの。

 イギリス海軍はロッキードマーティン社やミッチェルフィールド社との間でトライデントSLBM潜水艦発射弾道弾に関する1億9100万ドルの契約を結んだとのこと。この契約にはミサイル本体の慣性航法システムや多核弾頭再突入システムのアップデートとともにイギリス海軍の戦略ミサイル潜水艦に搭載する戦闘情報システムの更新も含めたものとなっている。

 イギリス海軍は1962年の米英ポラリス交換協定に基づき潜水艦発射弾道弾を半世紀以上に渡りアメリカから供給を受ける体制を維持している。イギリス海軍ではヴァンガード級戦略ミサイル原潜にトライデントミサイルを搭載、アメリカ海軍でもオハイオ級戦略ミサイル原潜に搭載するが、開発中のコロンビア級戦略ミサイル原潜は新型ミサイルを搭載する。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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