北大路機関

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【防衛情報】スタンダードSM-3block2A実験成功とアキテーヌ級駆逐艦ロレーヌ就役,オランダ海軍次期潜水艦計画

2023-03-20 20:22:33 | インポート
週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は海軍に関するちょっと古くなりましたが比較的新しい話題です。

 防衛省は11月21日、ミサイル防衛用に開発を進めていたスタンダードSM-3block2Aミサイルの自衛隊イージス艦まや艦上からの発射実験に成功したと発表しました。スタンダードSM-3block2Aは日米共同開発が行われてきました新型ミサイルで、我が国も開発費用として1100億円、いずも型護衛艦の新造費以上の費用を負担しているミサイルです。

 まや艦上において実施されたミサイル迎撃実験は11月16日にハワイ周辺海域で実施、まや艦上から発射されたSM-3block2Aは上空100km以上の高高度において迎撃に成功したとのこと。迎撃したのは中距離弾道ミサイルを擬した目標で、この種の弾道ミサイルを保有していない自衛隊はミサイル迎撃訓練をおこなうさいにアメリカの支援が要る状況です。

 SM-3block2Aの技術的な特徴はミサイル攻撃の中でも敢えて高高度を飛翔するロフテッド軌道による攻撃に対応するべく迎撃可能高度の冗長性が従来のミサイルよりも拡大しているという点です。まや艦上での迎撃実験は第一回で成功しましたが、これまでアメリカ海軍イージス艦において6回試験が行われていて、このうち4回が迎撃に成功しています。
■マーガレットブルックの竣工
 北極圏安全保障へのあたらしい一歩です。

 カナダ海軍は砕氷哨戒艦マーガレットブルックの竣工式を実施しました。マーガレットブルックはハリーデルフ級哨戒艦の二番艦です。哨戒艦ではありますが北極地域での哨戒任務を想定しており砕氷哨戒艦という特殊な構造を採用しており、これは近年ロシアなどによる北極圏海上航路整備などを受け、この地域のプレゼンスを意識したものといえます。

 マーガレットブルックはカナダの著名な探検家の名で、その名を冠した哨戒艦は全長103m、満載排水量6511tとなっています。武装は25mm機関砲と12.7mm機銃と限られていますが、コンテナ輸送能力や20tクレーンによる全地形車両の輸送能力、また四輪駆動車やスノーモービルを搭載する車両区画が配置され艦載機にCH-148ヘリコプターも搭載します。
■レズキイ太平洋艦隊へ
 ロシア海軍の新造艦が太平洋艦隊へ配備されるもよう。

 ロシア海軍は新造のシュテグレチ級コルベットレズキイを太平洋艦隊へ配備する方針です。この配備計画は12月にも実施されることとなり、太平洋艦隊シュテグレチ級コルベットはこれで4隻体制となります。シュテグレチ級コルベットはロシア軍の従来のコルベットが水上打撃に特化したのにたいし、対潜対空など多機能性能を有する設計が特色です。

 シュテグレチ級は満載排水量2200t、コルベットですがS-400地対空ミサイル系統の射程の大きな9M96E艦対空ミサイルを搭載し、また射程2700kmのSS-N-25巡航ミサイルの運用能力もあります。ロシア海軍ではコルベットに射程の大きな巡航ミサイル搭載を重視しています。他方2200tはコルベットとしてはやや大型の船体ともいえるかもしれません。
■ロレーヌ竣工
 日本の新型護衛艦をおもわせるがそれよりも先行して建造されているフランスの駆逐艦の話題です。

 フランス海軍は11月16日、アキテーヌ級駆逐艦ロレーヌを就役させました。アキテーヌ級は防空型と多目的型が建造され、防空型は広域防空能力を付与、多目的型は防空能力を僚艦防空能力程度にとどめているものの高い対水上及び対潜戦闘能力を有しています。このロレーヌは2隻が計画されている防空型の2番艦であり最終艦となっています。

 ロレーヌ建造までフランスでは艦艇建造に紆余曲折がありました、もともとはホライゾン計画として欧州共通防空艦計画が進められていましたが満載排水量7163tのフォルバン級はコスト増大に見舞われたことで大量建造計画が見直し旧型のカサール級2隻の代替として2008年の決定でフォルバンとシュヴァリエポールの2隻のみの建造に留められました。

 FREMM計画としてフォルバン級に続く計画が立案されたのは2014年、ほぼ10年間の空白がありました。当初は11隻が計画されましたが、8隻に縮小され、すべて防空型とする計画は断念され、8隻を導入し内2隻を防空型とすることで対応しています、アキテーヌ級は満載排水量6100t、防空型は射程の長いアスター30ミサイルをVLSに搭載しています。
■オランダ海軍将来潜水艦
 次期潜水艦と書こうとすると磁気潜水艦と誤変換される。

 オランダ海軍は次期潜水艦計画をRFQ見積段階まで前進させました。これは現在運用している潜水艦の老朽化を受け、新たに4隻の通常動力方式潜水艦を取得する計画であり、2023年までに入札を行う方針でRFQはフランスのナーバルグループとスウェーデンのサーブコックムス社、ドイツのティッセンクルップマリンディフェンス社に出されています。

 ワルラス級潜水艦が現在オランダ海軍で運用されている潜水艦で、これはディーゼルエレクトリック方式の通常動力潜水艦ですがX字舵を早い時期に採用するなどの先進的な設計で、基準排水量1900tと満載排水量は2650tとなっています、そして2008年に4隻すべてが1億ドルを投じ延命改修が行われています、しかし2025年に耐用年数となるもよう。

 ワルラス竣工は1992年となっていまして、一番艦は今年で竣工30年を迎えました、問題は建造です。ワルラス級はオランダのRDM社において建造された国産潜水艦ですが、1902年創業と潜水艦建造では世界的に見て老舗であったものの、冷戦後に潜水艦需要低下をうけ1994年に廃業しており、外国製潜水艦導入躊躇に後継艦問題が遅延した背景があります。
■ウィチタの機関部故障
 先進的過ぎたのだろうかアメリカ海軍には中国海軍水上戦闘艦の増強を前にとんでもない遠回りを強いられた印象です。

 アメリカ海軍は就役から4年の沿岸海域戦闘艦ウィチタが重大な機関部故障に見舞われいると発表しました、これは10月19日、航行中に突如急制動がかかるという事案が発生しています。ウィチタを含むフリーダム級沿海域戦闘艦は機関部のギア部分に深刻な欠陥を有しているとされ、順次既存艦の改修が行われていますがウィチタは未着手でした。

 ウィチタはアメリカ海軍は2023会計年度に早期退役を予定している9隻のフリーダム級沿海域戦闘艦の一隻で、これはガスタービンエンジンとディーゼルエンジンの動力結合をおこなう変速機の欠陥が大規模修理をおこなうよりも退役させた方が費用対効果が高いと判断されたためです。ただわずか4年で深刻な欠陥が顕在化し運用制限というのは問題です。

 海軍ではフリーダム級は最高速度を発揮しなければギア部分の問題は顕在化しないと説明してきましたが、今回のウィチタの急制動事案はギア部分が最高速力を発揮しない場合でも欠陥を発生させる可能性を示した形です。なお急制動は第四艦隊訓練からの帰投途上で発生したもので、衝突事故やけが人などは発生しなかったのは幸いなのでしょうか、ね。
■サール6型防空試験
 あぶくま型よりも小型の防空艦という。

 イスラエル海軍はサール6型防空コルベットのCドームミサイル防衛システム海上試験完了を発表しました。サール6型はドイツ国内で建造されたコルベットですが武器システムなどの多くはイスラエル到着後に艤装工事が行われることとなっていました、そしてこの防空コルベットの任務は戦術的な海上ミサイル防衛という特殊なものとなっている。

 Cドームミサイル防衛システムはアイアンドームミサイル防衛システムの海上版で、隣国レバノンとの合意の下で地中海に設置されたイスラエル企業の天然ガスプラントを過激は武装勢力によるカッサムロケットの波状攻撃から防衛することにあります、サール6型コルベットは2021年後半までに4隻を取得しておりシステムの実用化をすすめていました。
■26型フリゲイト情報
 インド太平洋方面へも充分展開できる大きさです。

 イギリス海軍が導入する26型フリゲイトについてBAEシステムズ社は5隻のグラスゴーでの建造を決定しました、この決定に伴いイギリスのBAEシステムズ社は42億ポンドを支出することとなります。イギリス海軍は8隻の26型フリゲイトを導入する計画であり、現在3隻がグラスゴーのBAE造船施設において建造中、残る5隻の建造所が決まった。

 26型フリゲイトはイギリス海軍の23型フリゲイト後継艦として建造が進められています。ただ、汎用フリゲイトとしての能力が重視された23型フリゲイトに対して、2030年代以降のイギリス海軍が想定する海上戦闘の条件は厳しく、各種装備を搭載することで満載排水量は8000tと23型フリゲイトと比較し、倍ちかくの大きさに拡大した背景があります。
■HAAWC高高度投射装置
 P-1哨戒機の様に低空に降りる必要が無いというのは凄い事ですが、実質15年間魚雷を投下する手段が無かったというのは問題ではないか。

 アメリカのボーイング社はこれまでP-8哨戒機どうしていたか不安であったHAAWC高高度対潜兵器投射装置の完成を発表しました。P-8哨戒機はボーイング737を原型とした哨戒機です。ただボーイング737はジェット旅客機であるために従来のP-3C哨戒機や日本のP-1哨戒機のような対潜哨戒での海面近くの低空飛行能力を有していませんでした。

 HAAWC高高度対潜兵器投射装置はMk54対潜魚雷に搭載するALA空中投下装置です。もともとP-8A哨戒機は旅客機の巡航高度に近い高度からソノブイ情報などを収集し対潜戦闘に当たっていましたが、この高度から魚雷を投下した場合に魚雷が高度数千mから着水地点まで風の影響で大きく外れる問題がありました。魚雷は敵潜水艦の真上に落とします。

 P-8A哨戒機は、これまで多目的哨戒機として、海洋監視能力の高さなどが指摘されていましたが、Mk54魚雷を投下するためには機体が多少低空に不向きでも低空に降りる必要がありました。HAAWCは魚雷に装着すると投下とともに主翼を展開し滑空、目標潜水艦付近で魚雷を切り離し、後は落下傘により極めて高い精度で目標潜水艦直上に着水可能です。
■新造艦ウファ
 キロ級潜水艦の増強です。

 ロシア海軍はキロ級潜水艦636.3型の新造艦ウファを11月16日に竣工させました。ウファはサンクトベルク造船所において建造され太平洋艦隊へ配備される予定です。キロ級潜水艦はソ連時代から建造が継続されるディーゼルエレクトリック推進方式の通常動力潜水艦ですが、ウファはソ連崩壊後その改良型636型を更に性能向上させた636.3型です。

 ウファは636.3型の四番艦にあたり2019年に起工しました。636.3型の従来のキロ級潜水艦との差大の相違点はカリブル巡航ミサイルの運用能力となっています。配備されるのは太平洋艦隊ですが、建造されたのはバルト海沿岸のサンクトペテルブルク、母港への移動には大西洋と地中海とインド洋を経て太平洋へ回航する必要があり関心を集めるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ポーランドとスロバキアはMiG-29戦闘機ウクライナ供与を決定-旧ソ連製多機能戦闘機

2023-03-20 07:00:54 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 NATOの戦闘機供与は特に東欧諸国がウクライナと同型機を運用機に残していた関係上で供与に前むきでしたが、いよいよ実現するか。

 ポーランド政府は保有するMiG-29戦闘機について、ウクライナへの譲渡を決定しました、ポーランド空軍はMiG-29戦闘機を14機保有していますが、アメリカ製F-35戦闘機の導入が決定しており、また韓国からのFA-50軽戦闘機の受領を開始する為、比較的ではあるものの旧式となった旧ソ連製戦闘機をウクライナへ譲渡する余裕が生まれた事となります。

 MiG-29戦闘機はウクライナ空軍でも運用される旧ソ連製の多機能戦闘機であり、双発双尾翼の、設計では冷戦時代にアメリカ製F-16戦闘機やF/A-18戦闘機へ対抗を念頭に開発された戦闘機です。ポーランドにとっては貴重な戦闘機ではありますが、それ以上にウクライナを支えることへのポーランド決意の証明、という視点で供与されることとなりました。

 ポーランドのウクライナへのMiG-29戦闘機供与は早ければ今週中に行われるとのことです。ウクライナ派強大なロシア空軍へ対抗する為に、アメリカ製やイスラエル製などの各種ミサイルを運用可能であるF-16戦闘機を希望してきましたが、実現していません、その背景にはF-16戦闘機の運用の難しさとともに東側戦闘機との運用思想の違いがあります。

 F-16戦闘機は、ポーランド空軍も導入した当時はソ連製戦闘機とはけた違いの費用、という状況に悩まされていますが、最高稼働率の高さや各種ミサイルの運用能力が評価され今に至ります、このMiG-29戦闘機は性能の高さもさることながら、ウクライナ空軍においてもMiG-29は運用されており、運用相互互換性などの利点が大きいのが特色といえます。

 スロバキア政府は保有する14機全てのMiG-29戦闘機をウクライナへ供与する方針を明らかにしました。これは先行して供与を発表したポーランド政府に続くもので、東欧NATO加盟国は冷戦時代のソ連製戦闘機を一定数保有したままNATOに加盟していますが、ロシアからの整備支援の中断などを背景に一挙に動かしにくい不良資産化した印象があります。

 MiG-29戦闘機ですが、ウクライナは独自のプログラム改修により、アメリカ製HARM対レーダーミサイル運用能力を付与しており、今後はハープーンミサイルの運用能力付与などが行われる可能性もあります。NATOは昨年二月以来、ウクライナへの戦闘機供与を模索してきましたが、漸く政治的圧力を克服し、戦闘機供与へ大転換を果たしつつあります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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